Special
エフタークラング 『ピラミダ』インタビュー
2000年にデンマークにて結成。2008年にリリースされた2ndアルバム『パレーズ』が、世界的に評価され、2010年に名門インディ・レーベル<4AD>より3rdアルバム『マジック・チェアーズ』を発表。11月3日、4日に開催された【Hostess Club Weekender】出演の為に待望の初来日を果たしたエフタークラングのメンバー、ラスマス・シュトルベルグに、日本では12月に発売される新作『ピラミダ』について訊いた。
前身となったドキュメンタリー作品『An Island』
??まず新作『ピラミダ』の前身とも言えるヴィンセント・ムーン監督とのフィルム・プロジェクト『An Island』について教えてください。彼とは、それ以前にも何度が作品作りを行っていますよね。
ラスマス・シュトルベルグ:そうなんだ。彼とは何度も仕事していて、とてもクリエイティヴな関係を築いてきた。いつか長編作品を一緒に作りたいね、という話は前からしていたけど、彼はあまり長い作品には携わらないし、僕達にとっても初めての経験だった。とてもエキサイティングだったよ。2008年に3rdアルバム『マジック・チェアーズ』をリリースした後に、曲をどのように映像化していくかという話を具体的にし始めた。僕たちが生まれ育ったアルス島を訪ねて、そこからストーリーを描いていったよ。
??ご両親も出演されているんですよね。
ラスマス:笑。そう島に住んでる住人がみんな協力してくれた。最高の出演者、そしてクルーに恵まれて、ある意味、一種の里帰りみたいな感じで、より特別な経験になったね。
??映像を初めて観た時の感想は?
ラスマス:編集された初版の映像を観た時に、とても感動したのを今でも憶えてる。大体の場合、映像で自分の姿を観るのは、妙な気分だけどね。声も自分の想像とは違うし、もう最悪(笑)。でもヴィンセントが撮る映像では、なぜかそれをまったく感じなかった。作品の出来には、とても満足しているし、このようなプロジェクトに携われて誇りに思っているよ。農場で音を集めているシーンは、新作『ピラミダ』の大きなインスピレーションになっていて、ピラミダで実際にどのように音集めを進めていくかというアイディアもここから発端している。
リリース情報
関連リンク
制作にあたっての試行錯誤
??ではピラミダという場所で制作活動をするというのは、どのような経緯で決めたのですか?
ラスマス:どこかに行って作りたいというのは分かっていたけど、具体的な場所は全く決まっていなかった。最初は、漁が盛んなポルトガルのマデイラ諸島でやろうとか、すべて農場でレコーディングしようとか様々なアイディアがあった。そんな時、あるスウェーデン人の監督が、ピラミダの写真を送ってきて、ここでミュージック・ビデオを撮らないかというアイディアを持ちかけてきた。でも写真を見たら、ミュージック・ビデオで使うには、もったいないような場所だった(笑)。ここで新作を作ろうと、全員一致で即決したよ。最初はどうなるかわからなかった。ましては録った音をアルバムに使えるかどうかも分からなかったけど、結果的にはいい作品が作れたと思っている。長い間、ピラミダを勧めてくれた監督も一緒に来て、僕たちのことを撮影することになっていたけれど、残念ながら最終的には来れなくなってしまったから、他の撮影クルーに頼んだよ。
--その映像を使った新たなドキュメンタリーも制作中だそうですね。
ラスマス:実はもう完成していて、まさに明日、デンマークでプレミア上映されるんだ(笑)!タイトルは、『The Ghost Of Piramida』。僕達の島への旅を主体としているけれど、島に住んでいたとあるロシア人の老人の話でもあるんだ。彼は、島での自分の生活を8mmカメラで長い間撮影していて、自身の生い立ちと人生をこのドキュメンタリーの為に語ってくれた。
??音のレコーディングは、どのように行われたのですか?
ラスマス:すべてグループで行われた。各自ヘッドフォンを付けて、マイクを持って。でも本当のことを言うと、自分達でも何をしているのかよくわからなかった(笑)。
--試行錯誤の連続?
ラスマス:むしろ、錯誤の方が多かったと思うね。その結果、莫大な量の数の音を録音した。スタジオに戻って聞いてみるまで、上手くいくのか、どのような作品になるか全くわからなかった。仮に何かあって、アルバムの方向性が全く変わってしまうのを恐れて、長い間、アルバムを『ピラミダ』と呼ぶことも躊躇していた。最終的には、この旅を始め、曲がどの様に纏まっていったかとか、プロジェクトの経過を振り返ってみたら、やはりこのピラミダという場所が、中心にあり、作品にとって大きな役割を果たしていると感じたんだ。
??この場所に行った理由の一つに、とあるピアノがあったというのを訊いたのですが。
ラスマス:そう、世界最北端に位置しているピアノで、島にあるコンサート・ホールに置いてある。
??今は、廃墟となっているコンサート・ホールですよね。
ラスマス:かれこれ13年ぐらいかな。その間チューニングされていなから、弾いてみたら、ある一音を除いて、ヒドイ音だっだね(笑)。でもピアノは弾く以外にも、音を作れる箇所が色々あるから、もちろんそれは録音したよ。新しいアルバムで使ったシンセのサウンドの多くは、このピアノから出た音波を使ったもので、当初予定していなかったけど重要な利用法が生みだせた。
▲Efterklang / Hollow Mountain MV
??録音した音の中で、個人的に気に入っているものは?
ラスマス:アルバム冒頭の曲「Hollow Mountain」の最初の20秒のトゥッタ、トゥッタ…っていう部分。この音は、まったく加工を施してない。僕たちが名付けた"ミス・ピギー"っていう丸いタンクについていたトゲトゲを叩いて、音を出している。デンマーク語で、"ピギー"っていうのは、トゲのことで、面白いことにどのトゲも叩くと全く違うトーンの音がしたんだ。
??莫大な数の音をスタジオに持ち帰り、曲作りを初めて一番困難だったことは?
ラスマス:今回に限らず、いつでも僕達にとっての大きな課題は、曲を完成させること。細部まで、様々なアイディアがありすぎて、音の断片的なスケッチを作り始めると止まらないんだ。どの曲を完成させるか判断するのも難しいね。それを判断してから、実際に完成させることは、より困難かもしれない。特にこのアルバムは、過去に作った作品よりインスパイアされるものが多かったから、今までで一番多くの曲とスケッチを作った。全部で18曲ぐらいあったかな。全部いい曲だったから、決断するのが本当に難しかった。実は、今日の朝ちょうどアルバムに入らなかった曲の話をしたばかりで、それで何かできるか検討しているよ。
??EPとか?
ラスマス:そうだね。作れたらいいなと思っているよ。
??前作に比べ、意図的にレイヤーも少なく、音も広々としているのも興味深いですね。
ラスマス:今回のように旅に出て、手間暇駆けて録音した音を、スタジオに持ち帰り、そこからも時間をかけて処理して、加工したものを色々レイヤーして聴こえなくしてしまったらもったいない。その部分は、特に注意して作品作りを進めていった。音一つ一つの響き、その中から得られる情報をみんなにちゃんと聴いて欲しかった。だから君が言うように、音が広々としていて、生き生きとしているよね。
リリース情報
関連リンク
シドニー・オペラハウスでのライブ・デビュー
▲Efterklang & Sydney Symphony / 『The Ghost』
??アルバムのライブ・デビューは、シドニー・オペラハウスで行われましたよね。あのコンサートは、どのように実現したのですか?
ラスマス:素晴らしい経験だった。まさに感無量だよ。アルバムを作り始めた当初、期限は決めずに、出来上がるまで、実験を繰り返して、とことんやろうと決めていたんだ。人生は不思議なもので、その1か月後ぐらいに、確か2011年9月頃かな…シドニー・オペラハウスから連絡があって、うちのオーケストラと何か企画をやらないかと打診を受けた。会場を手掛けた建築家は、デンマーク人のヨーン・ウツソンという人で、僕たちデンマーク人は、あのオペラハウスのことをとても誇りに思っているんだ(笑)。だからオファーをされた時は、本当に信じられなかったよ。2012年の5月には、アルバム作りに忙しいはずだし、とてもじゃないけどライブをするようなメンタリティーではないと考えて、最初は断ろうと思っていたんだ。でもこんな凄いチャンス、そうないと思って最終的には引き受けた。アルバムも完成させて、同時にオーケストラのアレンジも考えないといけないし、無謀だと言うことはわかっていたけどね。2月の時点では、既にどの曲を演奏するかを決めて、アレンジを始めないといけなかった。最終的にアルバムが完成したのは、コンサートが終わった後の5月半ばだよ。面白いのは『ピラミダ』コンサートで演奏されている曲で、アルバムに入ってない曲があって、アルバムの中にもコンサートでは演奏されていない曲が入っているんだ。
--日本公演の前まで行われていたUKツアーでは、再びオーケストラと共演していましたが、今日のショーは、それに比べるとかなり少ない編成ですね。柔軟性があるところもバンドの魅力の一つだと思うのですが、実際に演奏する身としてはどうですか?
ラスマス:かなり混乱するよ(笑)!でもこのバンドをやっていて良かった点でもあるよね。常に変化するラインアップやセッティングに柔軟に対応出来ることは、ミュージシャンとして刺激的で重要なことだ。ライブをすることをルーチン化せず、変化に伴わず自分の役割をちゃんと認識していないといけない。UKツアーで演奏したことは忘れて、今日のショーは全く新しい気持ちで挑むよ。この6人編成では、まだオーストリアで1回演奏したのみだけど、とても楽しかったから個人的に気に入っている。今日はちょっと緊張しているけど(笑)。
??今回は日本での初パフォーマンスなので、観客の期待も高いはずですよ(笑)。
ラスマス:今日はほとんど新曲を演奏するから、みんながそこまでガッカリしないといいな(笑)。『ピラミダ』は、まだ日本では、リリースされていないんだよね?
--来月リリース予定ですよ。
ラスマス:じゃあ新曲ばかり演奏するのは、ちょっと傲慢だけど許してくれるかな。ゴメンね!
??アートワークやヴィジュアル面においては、アルバムごとにその世界観にピッタリな作風が印象的ですが、手掛けている2人組Hvass&Hanibalについて教えてください。
ラスマス:片割れのナンナ・ヴァースは、僕の妻なんだ。彼女に出会ったのは、8年前。エフタークラングを結成して、数年後にリリースした『Under Giant Trees』EPのアートワークを担当してもらったら、凄くいい作品が出来上がったから、その後も彼女達をずっと起用している。彼女は、僕の妻だからもちろん長く一緒に仕事が出来て嬉しい。仮にキャスパーやマッツが違うことをしたくても「ラスマス、君の奥さんはもう使いたくない」って言うのは気が引けるだろうしね(笑)。幸いにも彼女たちが作った作品は、メンバー全員気に入ってくれているから問題ないけどね。僕達が作品にかける情熱と時間を同じように、アートワークの為にかけてくれる。アートワーク以外にも、ライブのプロジェクションやミュージック・ヴィデオなど総合的に手掛けてくれているんだ。
??そう言えば、初期の頃は、よくライブでのプロジェクションを使った演出を行っていましたが、一時期からあまりやっていないですよね。
ラスマス:単に飽きちゃったって言うのもあるし、観客にパフォーマンスに集中してほしかったからね。あの頃のプロジェクションは、音楽にピッタリ合うように緻密に作られていて…。みんなヘッドフォンを付けて映像に合わせて完璧に演奏しないといけなかったから、次第に堅苦しくなってきてね。もっと柔軟に楽しく演奏して、生で演奏する時に生み出されるエネルギーやダイナミズムを感じたかった。今回のアルバムに伴い、再びプロジェクションを使っているけど、以前よりは負担がかからないようになっているね。
??結成から10年以上経ちますが、自分たちのバンドとしてのアイデンティティを確立できたと思いますか?
ラスマス:う?ん、難しい質問だね。
??今回の作品は特にそうですが、一般的な音楽に比べて実験的な要素やあまり人が考えないようなが革新的な部分も多いじゃないですか。
ラスマス:新作をリリースする前やライブ前など、不意に不安になることはある。でも心の奥底から自分たちがやっていることを楽しんでいるし、愛している。それはもちろん始めたばかりの時には、無い気持ちだよね。特に僕たちは、他の国より母国で評価されるまでに、長く時間がかかった。自分たちがやっていることが、ユニークで芯があるものか自信がなかったから、色々悩んだりもした。でも時と共に様々な経験を積んで、徐々にバンドとして自信が持てるようになった。それによって他の人がどう思うと考えなくてよくなったから、作品に集中して、楽しみながら自由に制作出来るようになった。君が言ったように人が考えないような、新しいことをする勇気を与えてくれる。映画を作ったりね。音楽を通じて、他のアートフォームと繋がっていけることは、個人的にとてもやりがいあると感じているんだ。
??そしてメインである音楽にさらに奥深さを与えてくれますしね。
ラスマス:まったくその通りだよ。音楽に限らず、人に聴いてもらったり、観てもらったりするのは難しい。さらに世界中をツアーする為には、自分達の音楽を聴いてくれる人が、ある程度必要だからね。色々なプロジェクトが出来ることを誇りに思っている。それが僕達が他のバンドと違う点でもあるからね。
??では、最後にエフタークラングというバンドのエトスを教えてください。
ラスマス:好奇心を忘れず、音楽の方向性にオープンでいること。常にいい作品を作れるように野心をもつこと、さらにその中でも明るさと遊びの要素を忘れないことかな。あまりうまく答えられなかった(笑)。エトスってもっと短くてダイレクトなものだよね。今度会う時までには、ばっちり答えられるように考えておくね(笑)。
Music Video
リリース情報
関連リンク
関連キーワード
TAG
関連商品