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<インタビュー>中嶋ユキノが語るミニアルバム『新しい空の下で』の全貌、6人の主人公が赤裸々に紡いだ歌集
Interview:岡本貴之
中嶋ユキノの新作ミニアルバム『新しい空の下で』が3月15日にリリースされた。プロデュースを手掛けたのは、2016年のメジャーデビュー以来、中嶋の音楽制作には欠かせない存在となっている浜田省吾だ。
1年3か月ぶりのCDリリースとなる今作は、浜田と作詞を共作した表題曲をはじめ、ユーモラスに我が身を憂うポップス「なんでなの!?」、部屋でひとりごとを呟くような「誰かにそっと」など、生活に寄り添った人間味溢れる歌声が、様々なアレンジのサウンドと共に届けられる。そのどれもが身近で尚且つ瑞々しく聴こえるのは、音楽への情熱を持ち続けて長く活動してきた中嶋のパーソナリティそのものだからなのだろう。アルバムに収録された6曲がどのように紡がれたのか、じっくり話を訊いた。
本当のことを歌っていいのだろうか
――中嶋さんはコーラスや作詞のお仕事をしつつ、キャリアを重ねてシンガー・ソングライターになる夢を叶えて現在に至ったと思うのですが、今回リリースを迎えるにあたって率直にどんなことを思っていますか?
中嶋:2016年にシンガー・ソングライターとしてデビューしてから今年で丸7年になるんですけど、最初の頃は自分が20代に作りためていた楽曲をリメイクしてリリースしていたんです。その後、3rdアルバムからは新しく書き下ろした曲が増え始めて。近年、『NHK みんなのうた』のために書き下ろした「ギターケースの中の僕」という作品からは、自分がいま本当に歌いたい曲をどんどん作っていくようになって、今回の『新しい空の下で』もそれが反映されている感じですね。
――中嶋さんを知るうえで「わたしのはなし」という曲を聴いてみたんですが、ご自分の内面をさらけ出しつつシンガーである理由を歌っていますよね。そこからだいぶ月日が経って心境の変化はありましたか?
中嶋:あの曲は“ノンフィクション・ソング”なんですけど、書くことになったきっかけがあって。その頃は20代で、ずっと歌詞提供のお仕事をさせていただいてたんですけど、歌詞提供をしているとクライアントさんのご希望通りに書いたり、「この言葉を使ったらちょっと棘がありすぎるかな」とか、そういうことを考えながら書くことが多かったんです。そしたら、とある方に「君は自分自身の本当のことを書いてないよね。自己紹介になる歌詞を書いてみたら?」と言われたことがあって。それがきっかけで「わたしのはなし」というタイトルで曲を書いたんです。デビューをしていろんな作品を書いていくうえで、何か一歩踏み切れていない自分が今までいたんですけど、それから自分自身の内面だったり「この言葉って歌詞に使っていいのかな」という迷いみたいなものを取っ払って歌詞を書けるようになって、今作に至った感じです。
中嶋ユキノ『わたしのはなし』 (Music Video)
――それまでは自分のことを歌うのを躊躇するようなことがあったわけですね。
中嶋:本当のことを歌っていいのだろうか、本当の気持ちをどこまでさらけ出して歌詞を書いたらいいのかというものが自分の中であまり見えてなくて。だけど、自分が共感する歌詞ってやっぱり、その人が体験してきたことだったり、その人が本当に思っていることだなって。私は作詞作曲を始めたきっかけが宇多田ヒカルさんなんですけど、高校生の頃に作品を聴いたときに、すごく赤裸々に歌詞を書かれていて。私は自分の思いをなかなか人に伝えられないタイプだったので、それを綴ってメロディーをつけようと思ったのがきっかけだったんです。宇多田さんの歌詞集を読んだんですけど、「宇多田ヒカルは『個』を歌うアーティスト」という解説されていた方の文章を読んで、本当にその通りだと思ったんです。だったら自分も「これを書いたらみんなに嫌われるのではないか」というような気持ちを取っ払って、自分が思っていることを歌ったときに、そこに共感してくれる方もいらっしゃるんじゃないかなという発見がありました。
――今回、『新しい空の下で』を聴かせていただいたときに、1曲目の「はじまりの鐘」の歌詞<コードから外れた音でもいい>が耳に残ったんですけど、プロのシンガーとして長いキャリアを持つ方の歌詞としてはちょっと意外な言葉に感じられました。
中嶋:あはははは、そうですよね(笑)。この曲はメロディー先行で作詞していったんですけど、働くサラリーマンやOLさんに向けた「夢はいくつからでも始められる」というコンセプトで書いていたんです。でも、これだと自分の歌にならないかもしれないと思ったんですね。<はじまりの鐘 鳴り響け>というフレーズはあったので、自分だったらどういうストーリーにするかと考えたときに、自分がライブをする街に行って歌うまでのストーリーを書こうと思いました。ただ、ステージに出て演奏して歌ったりするときって、やっぱり「間違えちゃいけない」とか「しっかり歌わないといけない」という恐怖と変な緊張が織り混ざっているんですよ。だけど、CDはもちろん完成されたものなんですけど、ライブは生ものだし、お客さんが見たいものはそういう生の姿なのかなって。別にコードを間違えたって、ちょっと音が外れたって、そういうところが人間味溢れるところなんじゃないかと思いました。
――ご自分がメインで歌われてるときの気持ちと、メインのボーカルの方がいてそこにコーラスを重ねてハーモニーをつけるときではきっとまた違いますよね。
中嶋:全然違いますね。コーラスで音を外したら「こら!」と怒られちゃいます(笑)。
――そういう経験をずっとされてきた中嶋さんだからこそ、<コードから外れた音でもいい>という言葉が今の心境をすごく表していますよね。
中嶋:根がめっちゃ真面目なタイプなので、「しっかり歌わないといけない、しっかり歌詞を書かなきゃいけない」じゃなくて、もっと自分ってはっちゃけた部分もあるよねというところを今回ちょっと入れてみたんです。
――そうした気持ちが曲にハッキリ反映されたのはどうしてなんですか?
中嶋:この6曲の歌詞に関して、最初に書いたときは自分じゃなくて誰かを主人公にしていたんです。だけど、浜田(省吾)さんから「中嶋さん自身のことを書いたらどうですか?」とアドバイスをいただいて気付いた部分もあって。「こんな言葉使っていいのかな」とか怖い部分もあったんですけど、自分が思っているほど意外と人ってそんなに気にしていないよなって(笑)。だから、自分も怖がらずに歌詞を書いてみてもいいんじゃないかなと思いました。
夢を諦めるのはまだ早い
――今お名前が出ましたが、今作も浜田省吾さんがプロデュースを手掛けていらっしゃるんですね。どんなお話から制作が始まったのでしょうか?
中嶋:去年の秋、2023年の春にアコースティック・ツアーに出ようというのを決めて、どんなツアーにしようか考えたときに、作品を持ってツアーをしたいねという話になったんです。そのときに作っていた曲のデモをいくつか挙げて、いま自分が表現したい6曲を選んでいきました。
――では、それぞれの曲について訊かせてください。「はじまりの鐘」はノリが良くて力強い曲ですね。かなり大胆なアレンジに聴こえますが、こういう曲はボーカルに力がないと負けてしまうでしょうから力がより入っているのでは?
中嶋:これはもう、まさに。実は今回、6曲を6人違うシンガーが歌っているように歌いたかったんですね。なので、主人公がそれぞれ違うんですけど、自分の声の演出とか歌い方も全部変えて録音したんです。その中で「はじまりの鐘」は一番最初に録音した曲で、自分で作ったのにも関わらず、最初はどういうふうに歌ったらいいかなと思っていたんです。そうしたらボーカルのディレクションをしてくれた浜田さんが、「今のが松田聖子さんだとしたら、中森明菜さんで歌ってみたらどうですか?」と言ってくださったんですよ。それで中森明菜さんがこの曲を歌ったらどうなるかというイメージで歌うことによって、声質や空気の混ざり方がまったく違うものに変わっていって、より力強く、下の音が鳴るような歌い方になったので、自分の中でも発見になった曲でした。
――中森明菜さんの歌い方というと、すごく囁くようなときもあれば、力強い感じもありますよね。そうした他のボーカリストをイメージしたアプローチというのはこれまでなかったことですか?
中嶋:そうですね。自分の歌を録音するときは、自分の中で「こう歌ったらいいんじゃないかな」と言葉を紡ぐように歌うことが多いんです。ただ、この曲については「この歌い方はどうも曲調に合わないな」というのがデモを作っているときからずっとあって。アレンジされた状態で歌うとそれをより感じたので、今回の歌い方は本当に新鮮でしたね。
――浜田さんはこれまでの作品でもプロデュースされてるわけですけども、新しい提案をしてくれることはよくあるんですか?
中嶋:浜田さんは、基本的には「最終的には中嶋さんが判断して決めればいいですよ」と常に言ってくださっています。私がこういう作品にしたいと思うことに対して、「もう少しこういうアプローチはどうですか」とひとつひとつすごく丁寧に導いてくださる感じですね。
――中嶋さんが浜田さんと出会ったことで影響を受けたことや、アーティストとして自信をつけたところってどんなことでしょうか?
中嶋:もともと10代からずっと音楽をやってきましたが、30代になってシンガー・ソングライターじゃなくてコーラスや仮歌などのいろんな歌のお仕事を軸として活動していこうと決めたときに、浜田さんと出会ったんです。それで、私が自主で作った『Starting Over』というピアノ弾き語りのCDを浜田さんに聴いていただいたら、「中嶋さん、夢を諦めるのはまだ早いですよ。一緒にCDを作りましょう」と言ってくださって、それがデビューに繋がったんです。自信がない私に対して「大丈夫です」と肯定的な導きをしてくださって。あと、浜田さんのステージで背中を見ながらコーラスをさせていただくなかで、 MCだったり、お客さんとの掛け合いだったり、「互いをリスペクトする」ということを浜田さんから学ばせていただいています。
――その信頼関係が今も続いているんですね。信頼関係という意味では、編曲の宗本康兵さんとは学生時代からの長い関係なんですね。
中嶋:大学時代の同級生なんですけど、もともと宗本くんは札幌から上京してきて、川嶋あいさんの事務所にバイトで入って。川嶋あいさんが渋谷公会堂でライブをするときに「コーラスをやってみないか」と声をかけてくれたんです。二人でユニットを組んだこともあったり、私の曲に伴奏をつけてくれたり、ライブに参加してくれたり、本当にいろんな音楽を一緒にやってきた大切な仲間ですね。
――宗本さんは、今回の作品にはどんな形でアレンジに携わっているのでしょうか?
中嶋:まず私と浜田さんでデモを作って、宗本くんと石成正人さんにデモを送ってイメージを伝えて、アレンジに取り掛かっていただきました。そこから何回かやり取りをして、実際にレコーディングに入るという流れでした。
私が普段書かないような言葉
――2曲目は、その石成正人さんがアレンジを手掛けた「なんでなの!?」ですね。この曲は想像の主人公を立てて書いているのかなと思ったんですが、これも中嶋さんご自身の気持ちが反映されているわけですか。
中嶋:この曲は、ギターで「ラララ~」と歌いながら作っていて、歌詞をつけるときに「天気のいい日でルンルン」みたいな歌詞をつけようとしていたんですけど、なんかつまらないなと。それでサビの最後に何かキャッチーなフレーズが欲しいと思って、冗談で「中嶋、こんなに頑張ってんのに何とかならないの、なんでかな~!?」と歌っていて(笑)。「あ、このフレーズをもとにストーリーを立てていったら面白い曲になるかもしれないな」と思って、“なぜか何もうまくいかないけど愛されキャラの働くOLさん”という主人公を立てて作っていった感じです。
中嶋ユキノ『なんでなの!?』(Music Video)
――ネガティブな歌詞だからこそ、こういうモータウンサウンドっぽい明るいポップスになっているわけですか。
中嶋:そうなんですよ。この歌詞でバラードだったらちょっと辛いですもんね(笑)。この<ストレス解消のために ハンバーグでも作ろう>という歌詞も、ハンバーグって材料を微塵切りにして、お肉と材料を混ぜてこねて、最後はパンパン叩くじゃないですか。その叩くところがストレス解消になるというのを想像したら「これはいいな」と思って。 餃子だったら、包まなきゃいけないから。それでまた皮がウニャってなっちゃったらムカつくみたいな(笑)。だけどハンバーグも<上手く焼けたな! ガッツポーズきめたのに いざ食べてみたら めちゃくちゃ生焼けだし!>って最悪だなって(笑)。
――最悪ですね(笑)。そういう状態を明るく歌っているのが良いです。
中嶋:きっとみんなあるよねって。そういうことをみんなで叫びながら歌っていただけたら嬉しいなと思います。
――次の曲「誰かにそっと」は、<どうして>と歌っているという意味では「なんでなの!?」に近いようで、曲の印象は正反対に感じます。
中嶋:この曲を作ったときはものすごく落ち込んでいて。一人で部屋に帰って、間接照明に照らされているギターを手にとって、マイナー調のコードをポロンポロンと弾いてたんですよ。それでサビに差しかかる感じのテンションで<誰かに そっと 誰かに そっと>と歌ってたら、いつの間にか自分の中で曲ができ始めていたんです。
――実体験から生まれた曲なんですね。
中嶋:気持ち的な実体験という感じですね。これは歌詞の書き方になるんですが、失恋ソングって最初から“あなた”が登場してきて、“あなた”と別れて離れてしまったという書き方を私もずっとしていたんです。でも、最初から歌詞を見ていると、恋愛のことを歌っているのか、何のことを歌っているのかわからないけど、最後に“誰か”じゃなくて“あなた”を出すことによって、そこでこの曲の主人公が好きな人を追いかけていたことが分かるようなストーリーにしたんです。最初は恋愛の曲じゃなくて、日常に悩んでいる普通の主人公にしようと思っていたんですけど、結果的に“あなた”に辿り着いて、恋愛の曲になりました。
――曲ができるときって、そういうふうになんとなくギターをポロポロ弾きながら自然とできていく感じなんですか? それとも「今日は曲を作るぞ」みたいなときもあるんですか?
中嶋:「曲を作るぞ」というときもありますね。「なにがなんでも今日は曲を作るぞ、ライブで盛り上がれるような曲を作るぞ」って。ただ、「誰かにそっと」はポッとできた曲でしたね。
――曲とか歌詞って日常的にメモしておいたりもするのでしょうか?
中嶋:そうですね。ボイスメモに録音しておくタイプです。実は私、楽器をまったく習ったことがないんですよ。
――そうなんですか? ピアノも弾きますよね?
中嶋:ピアノも弾くんですけど独学なんです。なので、最初はもうメロディーライターというか、自分の歌詞にただアカペラでメロディーをつけるだけというスタイルだったんです。20代半ばぐらいからようやくコードをつけて曲を作るようになった感じです。今回、「はじまりの鐘」は初心に帰って、ボイスレコーダーにアカペラで「ラララ~」とワンコーラス入れたものを後で聴き返したら、「あ、これもう曲になってるな」と思って、コードを後からつけました。だから、いろんな作り方をしています。
――「誰かにそっと」のアレンジは、メロトロンの音も入っていてノスタルジックな印象です。
中嶋:これはもともと、ギターストロークでデモを作っていたんですけど、シンガー・ソングライターがギター弾き語りをしているというイメージで、ループしているリズム、ストリングスやメロトロンで世界観を作っていただきました。
――1曲ずつ違う歌い回しをイメージされたということですが、「誰かにそっと」はどんなニュアンスを出そうと思っていましたか?
中嶋:次の曲の「虹」も別れた人を思う歌なんですけど、この2曲を並びにしようというのは、デモのときからずっと思っていたんです。ただ、この曲と「虹」を同じ登場人物にはしたくなくて。レコーディングでは普通に歌い上げたんですけど、「本当にこれでいいのだろうか?」と何度も悩んで、「やっぱり録り直させてください」と言って録り直しました。それで椅子に座って、本当にちっちゃな声で最初から最後まで囁くように歌ってみたらすごく良くて、即OKとなりました。
――なるほど、曲ごとに情感の違いが伝わってきます。「虹」はFairlife(浜田省吾、春嵐、水谷公生のプロジェクト)のカバーで、オリジナルは岸谷香さんがボーカルを務めています(「虹 feat. 岸谷香」)。そちらと比べるとだいぶテイストが違いますよね。
中嶋:そうなんです。この曲は浜田さんから、私の声質と歌い方にすごく合うんじゃないかと提案していただいて。ライブでもきっと映える1曲になるんじゃないかということでカバーさせていただきました。岸谷さんの完成された音源を聴かせていただいたんですけど、それに引っ張られないで自分のオリジナル性を出すために、一度メロディーを覚えたら置いて、自分だったらサビの言葉のお尻のほうをどういう節回しにするかなと、一から考えていった感じでした。ただ、作曲が浜田さんなので、作曲者の意図もきっとあるだろうということで、一度録ったものを浜田さんに送って、「ここの部分はもとの節回しにして下さい」など、細かい部分のやり取りをしながら作りました。
――実際に歌ってみていかがでしたか?
中嶋:この曲は私が普段書かない、書けないような言葉がふんだんに使われていて。<あなたの記憶が 碇(いかり)となって 私を とどめている>という歌詞があるんですけど、「誰かにそっと」で私は<どうして 街で似た人を見かけると 気づいたら追いかけてしまうんだろう>という、周りから「......これ、怖くない?」と言われてしまった歌詞を書くぐらい(笑)、リアリティがある歌詞を書くタイプなんです。だから、こういう詩的な曲を歌わせていただくとなると、ストレートじゃない分、自分の中で解釈をするのにけっこう時間がかかりました。最終的に感情を込めて歌うのではなくて、言葉を紡ぐように淡々と歌うのがこの曲に一番合っていることに気づいて録音しました。
常に新しい空の下に自分たちがいる
――それでけっこう抑え気味な歌いまわしになっているんですね。次の「All or Nothing」は、ギターのカッティングから始まりホーンが入る華やかな曲です。これはネットの時代だからこそできた曲なんじゃないかなと思いますが、中嶋さんは普段、SNSとどう付き合っていますか?
中嶋:難しいですよね。私が学生時代のときはなかったものが今は普通にある時代で。傷つくこともあればプラスになることもあると思うんですけど、私自身は“便利なもの”だなと思ってやっています。
――あまり深く考えない?
中嶋:あまり情報収集をしすぎると、自分の色みたいなものがだんだん薄くなっていってしまうのではないかなと思っていて。なので、ものすごくYouTubeを見るというタイプでもないですし、どちらかというとサブスクでいろんなものを聴いたり、聴覚を大事にしたいなと思っています。もちろん視覚も大事だと思うんですけど、やっぱり音楽活動をしているうえで純粋に音楽を大事にしたいなと思っていて。「All or Nothing」は「わたしのはなし」以来のノンフィクション・ソングで、<朝っぱらから YouTube 開いて 今流行りの 動画をひとり見てた>というのは実際にあったお話なんです。そのときに、自分と人をすごく比べてしまうけど、生まれ変わったとしてもこの人にはなれないし、結局自分は違う人間だよなということをすごく思って。じゃあ自分を認めて信じてあげることが一番大事だということに気づいたという経験から書きました。
――以前の中嶋さんだったらこういう曲は書けなかったですか?
中嶋:書けないです。<不安ばかりを いつもかき集めて>はまあ分かるんですけど、<それでも お腹は空いてしまうし 寝たら半分くらい 忘れちゃうけど>なんて「歌詞にしちゃっていいの?」と思いました(笑)。この部分はキーになっている歌詞で、自分の性格が表れているところかなと感じています。
――そういう赤裸々な表現をすることに抵抗がなくなったんですね。
中嶋:なくなった感じです。最初はまったく違うタイプの歌詞が載っていて、それこそ「All or Nothing」という英語もなかったんですけど、この歌詞になってよかったなと思っています。
――ノンフィクション・ソングということですから、「All or Nothing」という言葉には今まで夢を追いかけてきた自分自身の気持ちが込められているのでしょうか?
中嶋:やるかやらないかという選択肢はそのときどきであったんですけど、やらないで後悔をするよりも「やってよかった」と思ったほうが自分らしいなという気持ちがあります。
――曲を書いてレコーディングして作品として出来上がってから、ちょっと距離を置いて聴くことで気づくこともありますか?
中嶋:それはありますね。あと、すごく昔に書いたのに今の自分に当てはまってしまう歌詞とか。これがほんとに面白いですね。未来を見通して書いたのかなって。
――今作も未来を見通しているような出来事がこれからあるかもしれない?
中嶋:そうですね、誰かを追いかけてしまう可能性もあるということですよね。後からノンフィクション・ソングになるかもしれない(笑)。
――なるほど(笑)。最後の「新しい空の下で」は表題曲で、浜田さんと作詞が共作になっていますね。どのようにして生まれた曲でしょうか?
中嶋:もともと自分が作詞作曲をしていたんですけど、歌詞をもう少し磨いていこうと思って、浜田さんとやり取りしながら作っていった曲なんです。<生きるとは なんだろう 愛することとは なんだろう>というひとつひとつのセンテンスは同じなんですけど、最初はもっと<なんだろう>を繰り返していた歌詞だったと思います。そこに<祈るように 問いかけ 掴んでは こぼれ落ちる>という、浜田さんが加えてくださった歌詞のエッセンスによって、この曲が深みを増したんです。
――やっぱり浜田さんと一緒にお仕事をすることでアーティストとして感化される部分は大きいですか?
中嶋:はい、それは本当に大きいですね。
――「新しい空の下で」は、中嶋さんの中でどんな曲になりましたか?
中嶋:この曲の内容としては、生きること、愛すること、守りたいもの、人生の終わりの向こうというのはなんだろうと問いかけているんですけど、みなさんも「明日どうなるんだろう、 来年の今頃どうしているんだろう」ときっと考えると思うんです。だけど、自分の中でこのアルバムで最終的に行き着いたのは、今この瞬間をひとつひとつ積み上げていくことで明日と未来が変わっていくし、繋がっていくんだということなんです。常に新しい空の下に自分たちがいて、アップデートされて暮らしている。だから、本当にひとつひとつのことを大切にして生きていきたいという意味でこういう曲になりました。この曲は共感というか、“共有したい”という1曲ですね。
――今作を引っ提げてのツアー【中嶋ユキノ アコ旅2023 ~新しい空の下で~】が3月19日からスタートしますね。これは以前から行っているアコースティック・ツアーの2023年版ということですか。
中嶋:そうです。アコースティック・ツアーは2017年に始めて、当初は私がピアノ&ボーカルで、加えてギター、パーカッションという3人編成だったんですけど、コロナ禍でベースが入って4人編成に生まれ変わって、より分厚いサウンドになっています。
――アルバムにはホーンやストリングスが入ったりしていますが、ライブではどう再現しますか?
中嶋:CDはCDで楽しんでいただきたくて、ライブはライブアレンジという形で私たち4人で奏でる音楽を聴いていただきたいです。私たち4人で奏でる最大限のアプローチをしていけたらと思っています。このアルバム自体が幅広いジャンルの音楽がある作品なので、このツアーもロックだったりバラード、ポップ、ラテン、本当にいろんなジャンルの曲をセットリストとして考えています。初めての方、久しぶりの方、いつも来て下さっている方でも、みんなに「超楽しかったね! また来ようね」と言っていただけるライブにしたいなと思っています。
――今日お話を伺って、すごくエネルギーに満ちているなと思いました。
中嶋:本当ですか? なんか出てますか、私(笑)。
――音楽へのパッションが伝わってきましたよ。
中嶋:いやあ、私はどちらかというと、隣で信号待ちしている見知らぬおばあちゃんにも自分の生い立ちを一から話せる人なので(笑)。インタビューをしていただいてこちらもすごく嬉しいです。
――今後やりたいことや夢はありますか?
中嶋:曲を作ってそれを届けるということは、誰かの曲にもなるということだし、誰かに歌っていただいたり共有してほしいという気持ちで音楽をやっています。まだまだ私も認知度が少ないので、自分の曲を誰かがカバーしてくださっているのをなかなか見る機会がないんですけど、私が歌うだけじゃなくてみなさんにも歌っていただけたらものすごく嬉しいです。ぜひツアーを観に来てください。
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