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<インタビュー>NAQT VANE(澤野弘之×Harukaze)、1st EP『NAQT』完成──「本当の意味でスタートに立ったな」という感覚
様々な映像作品の音楽を手掛け、ボーカル楽曲に重点を置いたプロジェクト・SawanoHiroyuki[nZk](サワノヒロユキ ヌジーク)でも注目を集め続けている澤野弘之。そんな彼が「常に夢中にさせてくれるボーカリスト」と絶賛する新人シンガー・Harukaze。さらに独創的なアートワークを手掛けるクリエイティブコレクティブ・Classic 6と、多種多様な才能の重なりによって発足した音楽プロジェクト・NAQT VANE(ナクトベイン)が、初の6曲入りEP『NAQT』をリリースする。今回のインタビューでは、おそらく名盤として今後評価され続けるであろう本作について澤野弘之×Harukazeにガッツリ語ってもらったので、ぜひご覧頂きたい。
Interviewer:平賀哲雄
「本当の意味でスタートに立ったな」という感覚
--前回のNAQT VANEデビュー直前インタビューから約半年。配信シングルを4曲リリースし、いろんなリアクションもあったと思うのですが、どんなことを感じながら活動されていましたか?
澤野弘之:自分的にはこの半年はまだスタートラインで、ここからどう広げていくかだと思っているんですけど、楽曲や歌声だけじゃなくアートワークも含めて「格好良いですよね」と言ってもらえる機会が多かったので、やっぱりこの形を突き詰めていったら良いんだなと思いましたし、それがこのチームでやっている面白さなんだろうなと思いましたね。 Harukaze:去年は私にとって大きな変化の年だったので、毎日のように初めての挑戦があって、とにかく目の前のことでいっぱいいっぱいだったんですけど、ラジオやイベントに出させて頂く中で徐々に経験を積んできて、最近やっとレイドバックして「NAQT VANEを良く見せるにはどうしよう。この曲のメッセージをちゃんと伝えるにはどうしよう」みたいなことを考えられるようになってきました。チーム内の仲も深まりましたし、その中で自分がNAQT VANEであることの誇りをしっかり持って活動できるようになったかもしれません。--そんなNAQT VANE初のEP『NAQT』がリリースされます。澤野さんが前回のインタビューで「常に夢中にさせてくれるボーカリスト」とHarukazeさんのことを絶賛されていたのですが、その理由がよく分かる楽曲群になっているなと感じました。
--今回のEP『NAQT』全体の仕上がりには、どんな印象や感想を?
澤野弘之:「EPつくるぞー!」みたいな感覚で取り掛かっていたわけじゃなくて、単純にシングル曲が4曲まで増えて「ここでEPという形にまとめたい」という話になったんで、そこに新曲を2曲追加したものが『NAQT』なんですよね。ただ、今作がリリースされるまでは皆さん、僕らの曲を自分のプレイリストに入れたりして聴いてくれていたと思うんですけど、こちらが公式的に曲を並べるというのは今回が初だったので、それをマスタリングしているときに「本当の意味でスタートに立ったな」という感覚になりました。ここでちゃんと昔から馴染みのある形の“作品”に落とし込めた気がします。 Harukaze:私はまず「デビューして半年ぐらいでEPって出るんだっけ?」と思いました。その前にもう4曲もシングルリリースしている時点で超ハイペースだと思うんですけど(笑)。でも、本当に素晴らしい作品に仕上がったなと思うので、すでにNAQT VANEを知ってくれているファンの方々はもちろんですが、まだ知らない人たちに聴いてほしいですね。このEPさえ聴いたらNAQT VANEのありのままの姿が分かると思うので。--では、まだNAQT VANEを知らない人たちにも届けるべく、既存曲も含めた全収録曲について触れていきたいのですが、1曲目「CHRONIC」はどんなイメージを膨らませながら制作したナンバーなんでしょう?
--ちなみに「こうなったら自分の音楽になる、NAQT VANEの音楽になる」みたいなボーダーってあったりするんですか?
澤野弘之:そんなに強く「こうなったら俺の音楽だ!」みたいなことを思いながら制作しているわけではないんですけど、その中でも自分が選びがちな和音とか「この音が好きなんだよな」と思うものを取り入れていくと、自然とオリジナリティが生まれていく。あと、リズムの取り方ですよね。例えば、今年の1月にリリースしたSawanoHiroyuki[nZk]のアルバム『V』で、自分の音楽的ルーツでもあるASKAさんをゲストボーカルに迎えた「地球という名の都」。あの曲に対して「ASKAさんっぽく作ったんでしょ」とよく言われるんですけど、そんなつもりは全然なかったんですよ。ただ、ASKAさんのリズムの取り方というものがあって、それに合わせて僕が元々用意していたリズムを変えたんですよね。それだけでASKAさんらしい印象になったように、僕にも僕らしいリズムがあって、それによって「澤野弘之らしい、NAQT VANEらしい」と思われるものになったりするのかなって。- ……これ、ライブで歌ったら絶対泣いちゃうな
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……これ、ライブで歌ったら絶対泣いちゃうな
--Harukazeさんは「CHRONIC」という楽曲に対して、どんなイメージを膨らませながら歌われたんでしょう?
Harukaze:「CHRONIC」と「TOUCH」に関しては、BenjaminさんとcAnON.さんが手掛けた歌詞のビハインドストーリーも伺いつつ、その物語の主人公だと思いながらレコーディングに臨んでいるんですけど、まず「CHRONIC」は「あなたは絶対に私のものなのに、どうして行ってしまうの?」という執着心が強い人のお話で。なので、強い心を持った女性になりきって歌ったんですけど、そういう自分にはないところを引き出してくれる楽曲だなと思いましたね。他の曲に比べて高い声で張らない歌なので、そこで如何に張らなくても力強さと格好良さを出せるか、いろいろ研究したりもしました。あと、この曲のイングリッシュバージョンを配信リリースしているんですけど、そちらの歌詞は私も共作していて。直訳というよりかは、澤野さんの音に如何に上手く乗せられるかも考えながら制作したので、そちらもぜひ聴いてほしいです。--「CHRONIC」が執着心の強い女性であれば、続く「TOUCH」はどんな女性が主人公なんでしょう?
--澤野さんの音楽の特徴かもしれないんですけど、どちらの曲も「思い通りにならないものに対してどう立ち向かっていくか」がテーマになっていて、そういうストーリーを想起しやすいサウンドやメロディーなんだろうなと感じました。
Harukaze:そうですね。思い通りにならないことって本当にたくさんあると思っていて、今日も思い通りに起きられなかったりしたんですけど……--それはただの寝坊ですよね(笑)。
Harukaze:8時ぐらいに起きようと思ったら9時だった……そういう話がしたかったわけじゃないんですけど(笑)、とにかく思い通りにならないことってたくさんあって。ゆえに葛藤もたくさん生まれるじゃないですか。今の時代はSNSでそういうメッセージもたくさん目にするし、そういう面でもNAQT VANEの楽曲は共感しやすいと思うんですよね。その共感の先に解放や希望がある音楽でもあるので、思い通りにいかず悩んでいる人にも「CHRONIC」や「TOUCH」のような曲が届いてほしい。--「Odd One Out」「Reminiscing」これらの新曲の仕上がりにはどんな印象や感想を持たれていますか?
澤野弘之:この2曲に関しては、いわゆるアルバムの中の曲というか「他の曲とのバランスが取れたらいいな」と思いながらサウンドを構築していったんですけど、バランスという意味では、NAQT VANEの曲ってどれもライブで歌うのは大変だと思うんですよ。なので、ちょっと落ち着いて歌える曲も用意してあげたいなと(笑)。張り上げて歌うような曲だけじゃなくて、ちょっとクールな印象の曲も創りたいと思っていたので。 Harukaze:実際、ちょっと落ち着いているというか、キーも他の曲に比べると低めだったから「やった!」と思いました(笑)。この2曲は「こういう内容にしたい」とBenjaminさんとcAnON.さんにお話して作詞して頂いたんですけど、まず「Odd One Out」は、この何十億人も住んでいる広い世界の中で“自分は何者になればいいんだろう?”と悩みながら戦っている人って多いと思うんですよね。私も今はNAQT VANEという肩書きがありますけど、元々はその中のひとりで。それで「自分探しの旅に出て、自分を見つけてみない?」というメッセージを込めているんです。--「Reminiscing」の歌詞にはどんな想いを込めているんでしょう?
Harukaze:ちょっとパーソナルな話になるんですけど、今年のお正月に家族で集まったときに久しぶりに祖父母とも会って、そこで家族の大切さをすごく感じたんですよ……泣きそうになっちゃうな……。あたりまえのことなんですけど、祖父母も両親も年齢を重ねていて、結構弱くなってしまっている印象を受けたんですよね。今はみんな健在で幸せな状態なんですけど、久々に愛する人たちと幸せな時間を過ごしたからこそ、それを失う怖さもあって。それを家族の前で想像したら泣いちゃって……「いや、まだまだ死なないよ。勝手に死なせないでよ(笑)」ってツッコまれたんですけど(笑)。そのときに溢れた想いやメッセージを伝えたいと思ったので、それをバラード曲の「Reminiscing」に込めたんです。……これ、ライブで歌ったら絶対泣いちゃうな。少し重めの曲ではあるんですけど、この曲を聴いた人にも「大切な人たちがいるって素晴らしいな」と思って頂けたら嬉しいです。--続いて、5曲目の「VANE」。第37回東日本女子駅伝大会応援ソングとしてもオンエアされていた楽曲ですよね。
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NAQT VANEとしてふたり揃ってMVに出られるのは嬉しかった
--そして、本作の最後を飾るデビューシングル曲「Break Free」。最もステージで歌ってきているナンバーだと思うのですが、今、自分の中でどんな印象の曲に育っていますか?
--澤野さんは、いろいろ模索しながら表現者として成長していくHarukazeさんに対してどんな印象を持たれていますか?
澤野弘之:NAQT VANEの楽曲は、Harukazeの歌声がサウンドに乗っかったとき、例えばエモーショナルに激しめに歌ってもらう瞬間とか、逆にAメロの静かに歌う瞬間とか、どの部分もレコーディングしていてテンションが上がるというか「これはミックスがすごく楽しみだな」と思うんですよ。それでサウンドとかすべて整ったものを聴いて「これが創りたかったんだよ」と思える。その次にテンション上がるタイミングがMVを撮るときなんですよね。MVでHarukazeがパフォーマンスしている姿を見ていると、自分が想像していなかったサウンドの広がりを感じるというか「この曲はこういう伝わり方もするんだな」って感心するんです。例えば「TOUCH」のMVで言えば、Harukazeのアクター的なアプローチを見て「楽曲の魅力をもう一段階引き上げてくれているな」と思ったり。--そんなHarukazeさんの成長の軌跡でもあるEP『NAQT』。自分にとってどんな作品に仕上がったなと感じていますか?
Harukaze:本当に自分の成長が分かるというか、デビュー曲「Break Free」から新曲「Odd One Out」「Reminiscing」まで、どれもフラッシュバックするんですよね。澤野さんからメールが届いてから今日に至るまでの日々が。プロフェッショナルになってから最初のEPなので、この作品をこれから皆さんに聴いてもらえると思うとすごく感慨深いですし、これから私たちが何曲リリースしていっても、このEPを入門編として最初に聴いてほしいと思う作品になっていくんだろうなって。--その1st EP『NAQT』リリースタイミングで、澤野さんが満を持して出演した「CHRONIC」のMVも公開されるんですよね?
澤野弘之:このプロジェクトが始まったときからそういうことも視野に入れて活動していきたいと思っていたので、やっとこのタイミングで一緒に映像の中でパフォーマンスできて良かったです。僕はシンセサイザーを演奏しているんですけど、それは今後のライブも見越してそういう見せ方を伝えたいと思って。SawanoHiroyuki[nZk]としてはいろんなMVを撮ってきたんですけど、NAQT VANEとしてまた新鮮な気持ちで臨むことが出来ましたね。Harukazeに目の前で踊ってもらうことも今までなかったと思うんで。--病院行きましょうよ(笑)。
Harukaze:いや、自然治癒しました! そういう面白いエピソードがMV撮影の度に生まれるので、次回はどこを痛めるのか楽しみにしていて下さい(笑)!--では、最後に、NAQT VANEとこのEP『NAQT』で出逢ってほしい皆さんへメッセージをお願いします。
Harukaze:1st EP完成までの活動を通して私が学んだことは、NAQT VANEの音楽って音だけじゃなくて、Classic 6が手掛けるアートワークなどのクリエイティヴも含めてNAQT VANEの音楽なんですよね。今回のEPのジャケットも、私が私の仮面を持っているという少し変わったアートワークなんですけど、すごく格好良いし。彼らの存在によって自分ではとても想像し得ない表現を追求できるので、そこもすごく注目してほしいなと思っていて。そして、前回のインタビューでも「NAQT VANEに関わった人は全員NAQT VANEです」とお話ししたんですけど、NAQT VANEを脳から爪先まで知れるEPをリリースするので、これを体感して皆さんもNAQT VANEになってほしいです。よくプロモーショントークで「1曲でも良いと思ったら」みたいなことを言ったりすると思うんですけど、今作は1曲好きになったら6曲とも好きになる作品だと思うので、ぜひ聴いてみてください!Interviewer:平賀哲雄
NAQT VANE / CHRONIC (Official Music Video)
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