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BABYMETAL復活インタビュー 初のコンセプトアルバム『THE OTHER ONE』と「新人バンドみたいな気持ち」を語る
こんなBABYMETALは見たことない。
先日「封印」以来約2年ぶりの復活を果たしたBABYMETALが、2023年3月24日に待望の新作をリリースする。「我々の知らなかったBABYMETALの楽曲を復元させた」という意味深なコンセプトを掲げたこのアルバム『THE OTHER ONE』は、ひたすらダーク&シリアスであり、BABYMETALの歴史上最も異端かつ謎めいた作品として記憶されることになるかもしれない。
しかし、このBABYMETALへのインタビューは、そんな見立てに対して同意すると同時に、また違った視点をも提示する。SU-METALの共感覚的な感性を含んだ深い考察、MOAMETALの身体性と優しさに満ちた解釈は、きっと本作に戸惑うあなたにとって、いくつものヒントとなり、また話し相手にもなってくれることだろう。
そして本インタビューの終盤。彼女たちの“決断”と、それを乗り越えて未来へ向かおうとする姿からは、BABYMETALが真のカムバックを果たさんとしていることが感じられるはずだ。(Interview & Text:照沼健太 / Photo:宮脇進)
BABYMETALの復活と、初のコンセプトアルバムが提示する「復元」について
――復活ライブ【BABYMETAL RETURNS - THE OTHER ONE -】では、ライブ1日前にお客さんの声出しがOKとなりました。振り返ってみて、いかがでしたか?
SU-METAL:ライブ自体が【10 BABYMETAL BUDOKAN】から2年ぶりでしたし、オールスタンディングで声出しOKのライブという点では3年ぶりのライブだったので、ライブ前も全然緊張しなかったし、むしろライブが始まってから「今、ライブ中なんだ」って気づくような感じだったんです。でも「Road of Resistance」でのお客さんの掛け声の迫力が本当にすごくて、それに刺激をもらったし「みんなでBABYMETALのライブを取り戻したな」という感じがありましたね。
MOAMETAL:私もヨーロッパツアーぶりにお客さんの声を聞けて「これがBABYMETALのライブだな」ってすごく思いました。そしてお客さんが楽しんでくれてる姿がめちゃめちゃ見えたので、それが嬉しかったですね。今までのライブって結構制限されることも多くて、お客さんの中でも悲しい気持ちとか不安な気持ちとかを抱えていた部分があったと思うんですけど、あの場ではみんなが全力で楽しんでいるのを感じられて、すごくいい時間でした。
――お客さんが声が出せない環境でのライブだった【10 BABYMETAL BUDOKAN】と勝手は違いましたか?
SU-METAL:武道館の時は、お客さんに私たちのライブを見せるって感じだったんですけど、今回は一緒に空間を作っていく感じがありましたね。ギリギリまで声出しOKになるかはわからなかったですし、どういう状況でも私たちがやることは「BABYMETALのライブを見せる」だと思っていますけど、それでもお客さんの声が聞けたことによって、私たちも「純粋に音楽を楽しもう」という気持ちになれた気がします。
――先日のライブと今回のアルバム『THE OTHER ONE』には、「METALVERSE」や「我々の知らなかったBABYMETAL」という2つの大きなキーワードがあると思います。お二人はこの言葉をどのように捉えていますか?
SU-METAL:BABYMETALってフィクションであり、同時に現実で起こっていることなんですよ。BABYMETALという世界観の中で私たち二人は成長していって、それをお客さんが楽しんでくれているという構図ですね。でも、時代が変化して色々な情報をゲットできるようになったからこそ、今ってみんながそれぞれの現実というか世界の見方を持っていると思うんです。だから「我々の知らなかったBABYMETAL」という言葉には「皆さんが知ってるBABYMETALって、本当にBABYMETALなんでしょうか?」という、ある種の問題提起が込められている気がします。
そして、私たちは2019年の前作『METAL GALAXY』あたりから、BABYMETALとして新しい挑戦をし続けるために「BABYMETALという固定観念」をぶち壊す活動をしてきたと思っているんです。だから、それが『THE OTHER ONE』という“別の世界線”にも繋がっていくのかなという感じもしています。
MOAMETAL:「METALVERSE」とか「我々の知らなかったBABYMETAL」という言葉をはじめて聞いた時、「マジで何のことなんだろう?」って感じてました(笑)。でも、私はディズニーがすごい好きなんですけど、『ドクター・ストレンジ』という映画に通じるものを感じてからは、制作を進めながらどんどん興奮していきました。だから、みんなにもいろんな芸術とか作品から得たものをBABYMETALにつなげて考えてみてほしいです。
――『THE OTHER ONE』には「我々の知らなかったBABYMETALの楽曲を復元させた」というコンセプトがある一方、全曲が新録・新曲という情報も出ています。この「復元」とはどういうことなのでしょう?
SU-METAL:今回の新たな取り組みとして、私たちが楽曲制作を行なっている中で、ファンの方が楽曲のパーツを聴くことができるWebサイトがあったんです。例えば、とある曲のAメロのドラムパートだけを聴くことができるみたいな感じですね。BABYMETALは一曲を作るのに本当に何年もかけるし、レコーディングでも何回もテイクを重ねるので、その中で楽曲がどんどん変わっていくのが個人的にすごくおもしろいなと思っていたので、今回お客さんにもそれに近い体験をしてもらえたんじゃないかと思います。
――曲の断片から全体像を想像するのは、確かに「復元」な感じがしますね。
SU-METAL:実際に「Believing」という曲では過去の音源の断片を使っていて、私としては5年前の自分と共演するような感覚がありました。
MOAMETAL:「Believing」では5年前に録ったクワイアの部分が使われてるんですけど、そのときレコーディングした曲とは全然違うというか、めちゃめちゃ進化しててビックリしました。
これまでで最もストレート。だからこそ戸惑う。逆説的にBABYMETALらしいアルバム
――今作はこれまでの3枚と比べても、ダントツにシリアスでダークなアルバムだと感じました。
SU-METAL:これまでのBABYMETALのアルバムにあった、最初に聴いたときの「なんじゃこりゃ?」感はかなり少ないですよね。
――「予想外にストレートな作品が来た」と思って、今までのアルバムで一番戸惑いました。
SU-METAL&MOAMETAL:逆に(笑)。
SU-METAL:私も最初に聴いた時はシリアスでダークで、色彩的にも似たトーンで統一されている作品だと思いました。でも、聴くたびに印象が変わるんですよね。歌詞に注目して聴いた時、歌声に注目した時、ギターに注目した時とで、毎回曲の印象が変わって。そのたびに私の中でどんどん色がついていって、いまだに掴めないアルバムだなと思っています。
MOAMETAL:私も最初に出来上がったアルバムを聴いた時は、結構似てる曲が多いように感じたし、これまでのアルバムと印象が違うから「お客さんが聴いた時にどう思うんだろう?」って思いました。「好きな曲を選べるのかな?」って(笑)。でも、聴けば聴くほど味が出てくるスルメ曲だらけなんですよね。歌詞も考えさせられる内容が多くて、深く聴いていくと、実はどの曲も全然違う曲調を持っていることがわかるんです。その経験自体がおもしろいなと思いました。
――先行リリースされた収録曲「Divine Attack - 神撃 -」ではSU-METALさんが初めて作詞を担当されていますが、これは歌詞を先に書いたのでしょうか? 曲が先にあったのでしょうか?
SU-METAL:曲が先にありました。レコーディングで「ラララ~」って仮メロディーを歌っていた時に、この曲好きだなと思って「歌詞やらせてください」ってお願いして。それで書かせてもらうことになったんです。
――この曲のどういうところが気に入りましたか?
SU-METAL:まさに馬が駆けていくような疾走感やその雰囲気ですね。そして今回のアルバムはそれぞれの曲が10のパラレルワールドに存在する神話をモチーフとしているんですけど、「Divine Attack - 神撃 -」は新たな旅立ちを描いた「ここから始まるぞ」って内容なんですよ。それも含めて、仮メロディーを歌っていると自分がライブのステージ上でお客さんを引っ張っていくイメージが湧いてきて「この曲に言葉をつけてみたいな」と思いました。
――作詞には元から興味があったのでしょうか?
SU-METAL:いつかできたらおもしろいかなとは思っていたんですけど、まさか本当にやることになるとは考えていませんでした。今回もCDになるまでは実感が湧いてなくて、出来上がったものを見てから急にビビり出すみたいな部分がありました。「BABYMETALの曲になっちゃった!」みたいな感じで(笑)。
――(笑)。歌詞を書いたのはいつ頃でしょうか?
SU-METAL:復元計画をやってる時なので、1年前ぐらいから書いていましたね。歌詞を書くのはすごく難しかったです。最初にとりあえず自分の思っている言葉をバーっと書いてみて、それを曲に乗せた時にどうなるか、自分の声にうまく合うかとか、何度もレコーディングを重ねながら研究させてもらいました。これまで歌ってきた歌詞が本当にたくさんのことを考えて作られていることを知れたのも含めて、すごくおもしろい経験でした
。――MOAMETALさんは「Divine Attack - 神撃 -」を聴いてどう思いましたか?
MOAMETAL:SU-METALが歌詞を作ったって知らなくても、めちゃめちゃBABYMETALの曲として成立しているし、すごい格好いいなって思いました。私、SU-METALから直接聞いてないだけじゃなく、誰からも「この歌詞はSU-METALが書いた」って言われていなくて、なんか風の噂で知ったんですよ。
SU-METAL:そうだったんだ(笑)。
MOAMETAL:だから最初は知らずにレコーディングして「この曲はめちゃめちゃ自分の気持ちにハマるな」と思っていたので、これをSU-METALが作ったと聞いてすごく納得できたし、嬉しかったです。メンバーが作ったからこそ、ライブでも思いが乗るし、踊っていても感情が入りやすい曲なので、作ってくれて良かったなと思ってます。
SU-METAL:曲作ってる最中はあんまりそういう話をしてなかったもんね。
MOAMETAL:レコーディングも結構バラバラにやってるからね。
SU-METAL:自分から「歌詞書いたんだけどどう思う?」って聞くのもなんか違うしね(笑)。だからそういう話をしないままでいたんですけど、こういうインタビューの場でMOAMETALの話を聞いて「こんな風に思ってくれていたんだ」って嬉しいし、恥ずかしいしって感じです(笑)。
『THE OTHER ONE』=BABYMETAL史上最も考察が捗るアルバム?
――二人とも『THE OTHER ONE』を「聴き込むことで印象が変わる作品」だと捉えているとのことですが、とくに印象深い曲はありますか?
SU-METAL:「THE LEGEND」ですね。この曲は歌いながら「掴めない曲だな」ってずっと思っています。歌詞の主人公は神みたいな上位の存在なのか、それとも他の楽曲と同じようなところにいる存在なのか。そして、今を生きているのか、過去を生きているのか、あるいは未来にいるのかも掴むことができなくて。
そして先日のライブでこの曲を披露したときは、棺桶が登場したんですよね。棺桶って、私たちBABYMETALの中では何か大きなことが始まったり、終わったりするタイミングに登場するものなんです。だから、この曲は最後の曲であると同時に始まりの曲でもあって、無限ループするような感覚もあるんですよね。『THE OTHER ONE』というアルバムは、1曲目の「METAL KINGDOM」に始まり10曲目の「THE LEGEND」で終わるわけですけど「果たしてそれが本当の順番なのか?」ってところまでも謎めかせているのがこの曲なんじゃないかと思っています。
――すごい。ファン以上にSU-METALさん本人が深く考察されているのでは?と感じさせられました。
SU-METAL:(笑)。私は歌いながら楽曲からいろんなことを感じてそれについて考えているし、ボーカル目線だけじゃなく、ギター目線になってみたり、いろんな視点で考えるのが結構好きなんですよ。だから、ぜひみんなの意見も聞いてみたいです。
――ギター目線とは?
SU-METAL:例えば「Monochrome」で色を表現してるのはギターだと思っていて。タータターってメロディーが3回出てくるんですけど、それは3回とも色が違うんですよ。「同じメロディーだよね?」と思って聴き直すと、やっぱり同じメロディーなんですけど、それでも色の感じが違うんですよね。この「色」という表現が合っているのか分からないんですけど、なんかそれがいつも違っていて、そこに気付いてこの曲がもっと好きになりました。
こんなふうに、何を中心に見るかですごく曲の感じ方が変わってくるんですよね。これからライブで披露する中で、ダンスを含めて見ることでお客さんの印象が変わる曲もあると思います。
――なるほど。どこに視点を置くのか、いくつ視点を持つのかはとても重要ですよね。MOAMETALさん的にダンスで印象変わった曲はありますか?
MOAMETAL:私としても「Monochrome」ですね。どっちかというと悲しい曲だと感じていたんですけど、振りが裏のビートをとって踊る感じなので、曲のイメージがちょっと軽くなるんですよ。そこでこの曲の二面性や多様性を感じた気がします。
――おもしろいですね。多様性を感じるのに……。
MOAMETAL:曲名は「Monochrome」っていう。
――歌い出しの歌詞も「空を彩る/ナナイロの夢」ですしね。
SU-METAL:こうしてインタビューを通して、また新しい解釈や情報が出てきたりするのも本当におもしろいですよね。
――BABYMETALは考察のしがいがありますよね。活動や曲を通して、言葉の表面的な意味が裏返る瞬間がたびたび出てきますし。
MOAMETAL:ありますねー。
――だって「Wall Of Death」とか、言葉だけ聞いたら怖いじゃないですか。
SU-METAL&MOAMETAL:確かに(笑)。
これまでで最も「アルバムを作る」という意識が強かった作品
――制作プロセスにおいて『THE OTHER ONE』がこれまでのアルバムと変わったことはありましたか?
MOAMETAL:今まではライブで披露してからアルバムに収録される曲が多かったので、一気にレコーディングするということがあまりなかったんですよね。でも今回のアルバムは全部新録なので、1日で全曲録るということを初めてした気がします。
――1日で!?
MOAMETAL:いやいや、私のパートは全部録ってもそんなに時間かからないので(笑)。だから2時間くらいで終わったんですけど、「SU-METALは大変だっただろうな」と思いました。
SU-METAL:私が今作の特徴だと思うのは、最初は静かな雰囲気で始まってサビにかけて盛り上がっていく曲が多いというところですね。だから、最初の静かな部分をどの程度のバランスで歌うのかは試行錯誤しました。とくに「METAL KINGDOM」は今まで歌ったことがない歌唱方法をいくつか試させてもらったし、また新たな扉を開けさせてもらったなと感じています。
――具体的にはどんなところですか?
SU-METAL:多分、私って高音が得意なボーカリストだと思われていて、実際に張り上げて伸ばして歌うことが多かったんですけど「METAL KINGDOM」に関しては、そうじゃないところでも力強さを表現したくて。だから何度もテイクを重ねて研究していきました。「METAL KINGDOM」はアルバムの1曲目でもあるから、「何か変わった」と思わせたくて、最初の一音にはすごく気を使いました。
――ちなみに前回のインタビューでは「ギミチョコ!!」の「あたたたたーた」の部分をMOAMETALさんは仮歌だと思って歌っていたと伺いました。今回もそういう部分はありましたか?
MOAMETAL:あります。やっぱり気づいたら曲になってます(笑)。1日で10曲レコーディングした時も「METALIZM」の途中の何語かわからないところは「(仮歌を)真似して歌ってみて」と言われて録ったので、まだ歌詞ができていない仮歌なんだと思ってました(笑)。
SU-METAL:「METALIZM」は私が歌ってる冒頭のところもそうだよ。
MOAMETAL:そうなんだ(笑)。
SU-METAL:「とりあえず真似してみて」って言われて、何回か仮歌を聴いてから「こういう感じかな」って歌ってみたら曲になっていた(笑)。
MOAMETAL:びっくりするよね(笑)。
――(笑)。それぞれ別にレコーディングしたとのことですが、アルバム制作時に二人で話すことはありましたか?
SU-METAL:レコーディング中に話すことはほとんどありませんでしたね。
MOAMETAL:でも、楽曲制作時にはずっと一緒にいたから、今までより一緒に聴く機会はあったかもしれないです。「結構ダークな曲だね」なんて話をしていた記憶があります。
SU-METAL:あとは「Mirror Mirror」の英語のところで「なんて歌ってるんだろう」って二人で一緒に練習したよね。
SU-METAL&MOAMETAL:Double, double, toil and trouble. MIRROR~♪
MOAMETAL:ってところが、歌詞を読む感じだとそのまま歌うのが難しくて、二人で練習してました。他にも歌詞を見て難しいところは二人で練習しましたね。
――本作はBABYMETALの中でも「アルバムとして作った」という意識が強い作品なんじゃないかなと思ったんですけど、いかがですか?
MOAMETAL:あー、確かにそれはあるかも。
SU-METAL:今まではツアーしながら曲を作ってライブで披露して、お客さんの反応を見てまたちょっと変えて、それを最終的にアルバムにまとめていく感じだったので「いろんなところから楽曲を集めてきた」みたいな部分はあったんですよね。でも、今回はアルバムが先にあってこれからライブで披露することになるので、これまでとちょっと違う感じはありますね。
――振り返ると、1stアルバム『BABYMETAL』には初期ベストアルバムという側面があり、2ndアルバム『METAL RESISTANCE』には海外ツアーを含めたライブの反応を得て作られた部分があると思います。
SU-METAL:そうですね。
――その流れでいくと、3rd『METAL GALAXY』はどんなアルバムだったと思いますか?
MOAMETAL:3作目はこれまで出会ってくれた方々とコラボレーションした曲が多いので、アルバムのために曲を作っていったというより、出会った方々との縁を大切にしていく流れでできた作品という印象はある気がしますね。……でも、もう、あんまり記憶がない(笑)。
SU-METAL:5年くらい前の話だもんね(笑)。
――若い頃の数年間は大きいですからね(笑)。でも、それら3枚に対して、今作はライブツアーからのフィードバックも、ゲストミュージシャンの参加もない、外部的な要因がないアルバムですよね。
SU-METAL:なかったですね。今作は一つ一つのパラレルワールドを描いた曲なので、そこにゲストが参加してしまったら、私たちBABYMETAL本人が知らなかったBABYMETALにはならないんじゃないかなと思うんです。だから、今回はあえてこの形になっているんだと解釈しています。
――本作はBABYMETALの別の可能性を描いたコンセプトアルバムという点から、今後のBABYMETALの方向性を含めて考察が深められるアルバムだと思います。お二人はファンの方々にどのように楽しんで欲しいと思いますか?
SU-METAL:今回のアルバムは、BABYMETAL外伝的な作品であると同時に、美術館みたいな作品だと私は思っています。「Mirror Mirror」の歌詞に「リアルな自分なんて/存在してないんだから」というフレーズがあるんですけど、このアルバムに収録された曲たちにもそういう部分があるし、芸術ってそういうものだと思うんです。もちろん「これはこういう曲」と言いたい人もいるだろうし、それはそれでいいと思うけど、実際に正解はないし、ディスカッションするのもまた楽しいと思います。『THE OTHER ONE』にはBABYMETALの中でもメッセージ性が強い曲も多いと思うんですけど、ぜひ自分自身で感じ取って、この曲たちを通して自分を見つめ直すきっかけにしてもらえたら嬉しいです。
MOAMETAL:私は最初に聴いた時に「BABYMETALらしい要素が全然ないな」って思ったので、多くのお客さんも最初はそう感じるんじゃないかと思うんです。でも、ライブでダンスの振り付きの状態で見たりとか、いろんな人と話し合ったりする中で「やっぱりBABYMETALらしいじゃん」って感じられる要素を見つけたり、好きなパートを見つけたりできると思います。だから、好きな曲があったらそこをぜひ聴き込んでもらって、自分の大切にしているものや、何かを大切にしているその気持ち自体について考えてくれたら、私としては幸せです。
「外伝」を挟んだ、BABYMETALの終わりと始まり
――「別のBABYMETAL」というコンセプトのアルバムをリリースする一方、やはり気になるのは「元々のBABYMETALはどこへ?」という点だと思います。
SU-METAL:まず『THE OTHER ONE』はBABYMETALの本ストーリーではないんですよ。というのも、BABYMETALがMETAL RESISTANCEを10年間走り切ってライブ活動を封印し、その封印している時期に作られたアルバムということで、やっぱりそれは「もう一つのBABYMETAL」なんですよね。それと同時に、私たちは「Kawaii Metal」と言われたりもすることに対して「それだけじゃない」とも思っているし、もっと新しい音楽を作っていきたいからこそ、そこに縛られたくはないんです。だから、こういう別の姿も見せたいし、それも楽しんでもらいたいと思っています。その上で、また新たなBABYMETALの本ストーリーが始まっていくので、それも楽しみにしていただきたいですね。
――ライブ活動を封印している時期に作られたアルバムが外伝であるということも含め、やはりBABYMETALの物語の中心はライブだという意識は強いのでしょうか?
SU-METAL:やっぱりBABYMETALはライブで評価されていったグループだと思ってるし、私たちもアルバムをリリースしてからツアーを回りながら曲を育てていく意識があるんですよね。
例えば、海外に行くと、その国の方々独自のリズムや感覚の捉え方があってノリが全然違うんです。だからアメリカやヨーロッパなど各国を回っていくうちに、BABYMETALの曲ってお客さんのノリ方も含めてどんどん変わっていくんですよ。それも含めて、BABYMETALはやっぱりライブがあってこそのグループだと思います。
――ネットを通して自分の国以外のライブリアクションを見て、それが伝達されていくんですね。
SU-METAL:そうなんです。海外ツアーを回って日本に帰ってくると、同じ曲なのにそれまでとノリが全然変わっていることはたくさんありますね。
――復活以降、今後の海外での活動予定についてはいかがですか?
MOAMETAL:今のところは、サバトンというスウェーデンのバンドと4月~5月にかけてヨーロッパツアーを回る予定を発表しています。でも、私たちはまだ2023年は始まったばかりだと思っていて、止まる気はありません。これからヨーロッパだけじゃなくいろんな国に行って、最近会えていなかった人たちに会える機会を作れたらいいなと思っています。だから「待っててね」って言いたいです。
SU-METAL:BABYMETALには10年の歴史があるんですけど、私としては10年間走り切ってゴールテープを一度切ったと思っていて、実際に一度音楽からも離れているんです。でも、それでも「BABYMETALが好きだな」「音楽が好きだな」って純粋な気持ちがあったから、今ここに戻ってきました。今は新人バンドみたいな気分で「音楽を純粋に楽しみたい」ってモードになっています。だから、BABYMETALが今までやってきたライブを海外のファンの方々とも一緒に取り戻すと同時に、BABYMETALの新しいライブを作っていきたいと思っています。
――音楽から離れた……? 10周年を迎えたタイミングでパンデミックが起こってしまったから、仕方なく次のフェーズのスタートを遅らせたのではないかと思っていました。
SU-METAL:実はもう5年ぐらい前に「いったん、10周年をゴールにしよう」というのは決めていたんです。2018年に2人体制になったとき、どうやって前に進んだらいいのか迷ったし、むしろ「このまま進み続けることが正解なのか?」とも悩んだんですけど、10周年までは走り切ろうと決めたんですね。当時はファンの方から愛があるからこその厳しい意見ももらったんですけど、それがあったから強くなれたと思うし、外見が変わっても音楽的に評価してもらえることもわかって、すごく大きな自信を持つことができました。そういう経験も含めて「走りきったよね」と、一回お休みをさせてもらったんです。
――そうだったんですね。
SU-METAL:だから音楽から離れて生活をするにあたって、最初は「いや、もうメタルとか聴かないよ」なんて思ってたんですよ。でも、気付いたらここに戻ってきて、歌っていました(笑)。たぶん学生がギターを触り始めるのと同じような感覚で、私は気づいたら歌っていたし、気づいたらMOAMETALと二人で集まって踊ってたんです(笑)。
――ああ~(笑)。
SU-METAL:だからもう、久しぶりのレッスンが本当に楽しかったです。それまでは歌いながら「ここの音程ちょっとずれちゃったな」とか「ここリズムもっとこうしたら良かったな」とか思っていたし、他のアーティストさんの音楽を聴く時も「この歌い方いいな」とか仕事目線で研究しちゃっていたんですよね。でも、今は本当に音楽が趣味みたいになっているんです。
――まさに学生のように。それが、さっきお話ししていた「新人バンドみたいな気分」なんですね。
SU-METAL:そうなんです。もちろんBABYMETALとして10年間積み上げてきたものがあるから「そこよりさらに上に行こう」という部分もあるんですけど、それと同時に「また楽しいことしようよ」って気分なんです。「BABYMETALって、みんなが『なんじゃこりゃ?』って思っちゃうような、おもしろいことをやってたグループじゃん?」という、純粋な気持ちを取り戻しているところです。
――そうした気持ちを取り戻すのには、やはりお休みの期間を作るのが大事だったんですね。
MOAMETAL: SU-METALと二人で支え合ってきていたけど、何となく「何かが足りていない」という気はしていて。だから、結構つらい時期もあったし、無理やり「二人で頑張っていこう!」って奮い立たせてた部分もあったんですよね。でも、今は二人でも「大好きだから、これを届けたい」って思っています。その気持ちを再確認するためには、やっぱりお休みが必要な時間だったなって思います。
――お二人で話して戻ってくることを決断したというよりは、自然と戻ってきた感じなのでしょうか?
MOAMETAL:話もしたんですけど、私は「SU-METALがいるなら頑張りたい」って思っていたので、無意識に戻ってきちゃった感じがします。
SU-METAL:「絶対戻って来ようね」みたいな約束をしてバイバイしたわけじゃなく、気づいたら戻っていた感じです。……ね(笑)。
MOAMETAL:うん(笑)。
SU-METAL:自分たちでも不思議なんですけど(笑)。
――10年間突っ走ってきた中でできた絆の強さですね。
SU-METAL:とくに10代という大事な時期を一緒に過ごしてきたので。ツアー中は2~3か月とかずっと一緒にいるから、感覚としては家族なんですよね。いて当たり前っていうか。だから、離れていても「毎日会いたい」ってわけでもないけど、でもどこかでは気にかけてる。そういう不思議な感覚ですね。
――ありがとうございます。では最後に、4月1日と2日に行われるライブ【BABYMETAL BEGINS - THE OTHER ONE -】についての意気込みを教えてください。
SU-METAL:詳しいことは言えないんですけど、4月をもってこの『THE OTHER ONE』の復元計画が終了して、また新たなストーリーが、新たなBABYMETALが始まるんですね。だから私たちの終わりでもあってスタートでもあるその瞬間を見届けてほしいなと思います。後々「あの時はこうだったね」って言えるライブになるんじゃないかと思っているし、その後にすぐ海外ツアーが始まるので、日本のお客さんに「行ってらっしゃい」って言ってもらいたい気持ちもあります。海外でアウェーな状況になったときって、日本のお客さんのことをすごく思い出すんですよ。だから、そういった思い出に残るライブにできたらいいなって思っています。
MOAMETAL:本当に多くは語れないんですけど、2日間来ないと後悔しちゃうと思います。ぴあアリーナMMという初めての会場で、これまでと比べて限られた数の人しか観ることができないのかもしれませんが、絶対応募してほしいです。そして映像化されるようであれば、来られなかったみんなにも絶対に観てほしいです。始まる前からそれぐらい私たちにとって大事なライブになると思ってるので「見逃さないでください」ということを伝えたいです。
THE OTHER ONE
2023/03/24 RELEASE
TFCC-86890 ¥ 3,300(税込)
Disc01
- 01.METAL KINGDOM
- 02.Divine Attack - 神撃 -
- 03.Mirror Mirror
- 04.MAYA
- 05.Time Wave
- 06.Believing
- 07.METALIZM
- 08.Monochrome
- 09.Light and Darkness
- 10.THE LEGEND
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