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<インタビュー>PYRAMID 鳥山雄司&神保彰、亡きメンバーの遺志も詰め込んだアルバムと音楽的ルーツ
ギタリストの鳥山雄司、ドラマーの神保彰、ピアニストの和泉宏隆。慶應義塾高校時代のバンド仲間が高校以来再集結し、2003年に結成されたユニット、PYRAMID。これまで4枚のアルバムを発表し、5枚目の準備に入っていた2021年、和泉が急逝。継続を決めた鳥山と神保で、アルバム『PYRAMID 5』をクラウドファンディングで完成させた。今作は、インストや歌モノ、カバー曲など、3人が出会った高校時代に影響を受けたAORやクロスオーバーをフィーチャーした作品。今回の『PYRAMID 5』について、そして、4月に行うライブに関しても話を訊いた。(Interview & Text:井桁学/Photo:Yuma Totsuka)
和泉くんの遺志を引き継ぐ意味でも2人でやっていくべきだと
――高校時代のバンド仲間で結成したPYRAMIDですが、5枚目となる新譜の構想はいつごろどのように始まったのでしょうか?
鳥山:クラウドファンディングでアルバムを作ろうと2020年に3人で話をしていたんです。その翌年の4月に和泉くんが亡くなってしまったので、頓挫してしまったんですよ。そこから、かなり葛藤はありましたよね。
神保:しばらくは2人とも呆然とした状態でしたけど、高校時代からの付き合いなので、2人になってもやっていくべきじゃないかって。和泉くんもPYRAMIDというユニットに対してすごい思い入れがありましたし。彼が言っていた印象的な言葉があって。「作品を作っていると何回も聴き返すので、作り終わっちゃうと、あんまり聴き返すことがない。でもPYRAMIDは、出来上がってからも何度も聴きたくなるんだよ」って。彼にとっても特別なユニットだったと思うし、彼の遺志を引き継ぐ意味でも2人でやっていくべきだろうと思いました。
――今回のアルバムのテーマを教えてください。
鳥山:我々が仕事を始めた頃、プロになるかならないかのときに影響の受けた音楽をテーマにしようと。ボズ・スキャッグスのようなAORや、Stuffとかリー・リトナー&ジェントル・ソウツとか。影響を受けていた70年代後半から80年代初頭のアメリカの音楽というベーシックなところに立ち戻った音楽にしようと思いました。
――AORと、いわゆるフュージョンになる前のクロスオーバーですね。
神保:そう、クロスオーバーです。フュージョンって名前がついた頃から流れが少し変わっていくような感じがするんですよね。クロスオーバーと呼ばれていた時代のサウンドには2人とも相当強く影響を受けています。
鳥山:クインシー・ジョーンズの『Sounds & Stuff Like That』(78年)や『The Dude』(81年)からは多大に影響されていますね。その流れもあってマイケル・ジャクソンの『Off The Wall』(79年)の影響も受けています。演奏形態もそうなんですけど、音響も、聴いた音の音像も影響を受けていますね。
――『PYRAMID 5』の先行配信曲のうち1stシングル「ODORO!(feat. MIHO FUKUHARA)」は、過去にライブでも共演している福原みほさんの歌をフィーチャーしたダンス・チューンです。
鳥山:1stシングルは僕が書いた曲なんですけど、アース・ウィンド・アンド・ファイアーとかボズ・スキャッグスとかの曲をイメージして、歌モノを書くつもりもなかったんだけど、作っていたらこれは歌だなと思って。KC&ザ・サンシャイン・バンドみたいな割かしベタなやつを作りたくて。スライ&ザ・ファミリー・ストーンやブラザース・ジョンソンの作品は今回すごく聴き直しましたね。
――メンバークレジットがなかったので分からなかったのですが、ベースはどなたが弾いているのですか?
神保:須長和広くんという、quasimode(クオシモード)っていうイケメンジャズグループのベーシスト。もう解散しちゃったんですけどね。
鳥山:僕の還暦ライブがありまして。そこでPYRAMIDが1曲、テクニカルな和泉くんの曲「Tornado」(『The Best』収録)を演奏するときに、須長くんがハウスバンドでいてくれて。そこで初めてなのに難解なユニゾンを一発で弾いてくれたんですよ。この人うまいって。それから須長くんがずっとやってくれていますね。ギターが僕で、ドラムが神保くんで、曲によってはフィリップ・セスやKan Sanoくんがピアノ弾いてくれて。和泉くんが生前残したデータを引っ張り込んでやった曲とか、それ以外は僕が弾きました。
別のジャンルや世代の人たちとのハブになるような活動をしたい
――2ndシングルは「Paradise(feat. Kan Sano)」。ハービー・ハンコックのカバーです。
鳥山:高校の時からのバンド仲間なので、当時はコピーが基本でした。そのときにうまくコピーできなかった曲も今だったらできるんじゃないかっていう(笑)。その時代の一番やりたかった曲をカバーしようよ、というPYRAMIDの中のお約束があって。必ずカバーはしているんです。
神保:クラウドファンディングしてくださった方向けのライブ配信をしたときに、こんな曲をカバーしようと思っているんですよって話をしていて。鳥山くんが「Paradise」をオリジナルとは全然違ったリズムでやったら面白いんじゃないかっていうアイデアを出してくれて。
――この曲は、Kan Sanoさんのボーカルやコーラスも含め歌がかなりフィーチャーされています。
鳥山:PYRAMIDの役割をどうするか、どういう立ち位置で活動するのかをもう1回考えてみたんですよ。別のジャンルや別のジェネレーションの人たちとのハブになるような活動をしたいと。実は、ジェネレーションが違うだけでシャットアウトしちゃう人とか、まったくジャンルが違うからなんか違うよねってなることが、こんな狭い業界でもたくさんあって。それがつまんないなってずっと思っているんですね。権利の問題とかいろんなことがあるとは思うんだけど、もっとアメリカやヨーロッパでいうコライト(共同で曲作りを行うこと)が盛んにあったり、開けた感じができればいいのになってずっと思っていたんで、今までの付き合いじゃない人とやってみたくて。Kan Sanoくんは、前からイベントで何回か顔を合わせてたんだけど、なんかいつもニアミスで。彼の声の感じがすごくわかっていたので、声かけて。ハスキーに歌ってくれたら絶対にいいんじゃないかなとは思っていたけど、予想以上に良くて、さすがですっていう感じです。
神保:ピアノも素晴らしかったですね。
――コーラスワークが絶妙で、途中で声がモーフィングしているようにも聞こえて面白かったです。
鳥山:あれは本人がダビングしてきたんですよ。エフェクトじゃなくて、Kanくんがそのまま録って。倍音をミックスのときにちょっといじったりはしましたけどね。例えば昔のマイケル・フランクスとか、ニック・デカロとか、ブレスの成分が多い感じですよね。
――和泉さん作曲の「Reflection Green」はどのようにレコーディングしていったのですか?
鳥山:和泉くんは非常に多作な人で、60曲ぐらい曲が残っていたんです。ICレコーダーをグランドピアノの前に置いて録ったものがたくさんあって。それを2人で聴かせてもらって、今回の「Reflection Green」がいいんじゃないって。ただ、メモ状態なので、テンポも途中で変わっちゃうし、止まっちゃったりとか、先がなくなっちゃったりだとか。それを1回ハードディスクレコーダーに立ち上げて、一定のテンポに切り貼りして、足りないところは僕が作曲して(笑)。米粒に絵を書くような作業をやりました。
――では、ピアノソロはデータがあって、そこから再構築していったのですね。
鳥山:ああ、あのソロは全然別の曲でね(笑)。PYRAMIDの1stか2ndを作っているときにたくさんテイクを重ねた曲の記憶があると思って。和泉くんが弾いたMIDIデータを引っ張り出してきて、それに新たにコードチェンジをつけて。最終的に和泉くんのピアノを聴きながら3人で演奏したんですね。結局、我々の今回目指したものって、一定のテンポでグリッドがあるんだけど、でも揺れるときは揺れちゃってもいいし。多少ずれても聴き心地が良ければOKっていうものなんですよ、80年代の音楽って。ただ、それはコンタクトしてるから多少ずれてもOKなんだけど、和泉くんはそこにいないので、合わせてくれないんですよね。そこが一番難しくて、多少苦労はしましたね。
――今回のアルバムの中で新しいタイプの曲はあるのですか?
神保:鳥山くんの書いたタイのボーカリストが歌った「Back To You(feat. Millie Snow, Nenashi)」。
――そのシンガー、ミリー・スノウが歌った竹内まりやさんの「Plastic Love」のカバー動画は240万再生を超えたことでも有名です。
鳥山:ブラザース・ジョンソンやアトランティック・スターをイメージして作りました。
神保:今までのPYRAMIDにはなかったタイプですね。昨今の80年代ブームともちょっとリンクする感じですし。
――アルバムリリース後に4thシングル「Sweet Sticky Thing(feat.mabanua、さらさ)」がリリースされました。この曲はオハイオ・プレイヤーズのカバーです。
鳥山:実はコロナ前にPYRAMID DISCOというイベントを1回だけやって。『PYRAMID 4』を出したときに、小さなクラブを借りて、リリースパーティーをやって。DJが30分ターンテーブル回して、最後の曲のBPMで我々が生演奏を始める。当然来てくれるお客さんは50代とか60代、若くて40代後半。250人ぐらいいたのかな。倒れちゃうと心配だから椅子とか壁際に置いとかないと、フロアだけだとかわいそうだよねって言っていたら、全員椅子の上に乗っちゃって踊り出して(笑)、すごく盛り上がったんですよ。これを定期的にやりたいねって言っていて。次の場所も決めて、次にこの「Sweet Sticky Thing」を絶対やりたいねって、温めといた曲だったんです。だから、和泉くんにも報告したいという意味で、この曲をシングルにしました。
PYRAMIDは本当の意味でのライフワーク
――ところで、鳥山さんが一番影響を受けたギタリストは誰なのですか?
鳥山:ハービー・ハンコックのバックバンドでやっていた頃のレイ・パーカー Jr.のカッティング。あとはすごいさかのぼっちゃうとジェフ・ベックなんですけど、クロスオーバーが流行ったときに、デオダートのバンドがジョン・トロペイだったんです。ジョン・トロペイのギターもすごくコピーしたし。あとは基本的にロサンゼルスのセッションミュージシャンではダントツに、今はブルースになっちゃったけどロベン・フォード。
――神保さんが影響を受けたドラマーは?
神保:スティーヴ・ガッド、ハーヴィー・メイソン、デヴィッド・ガリバルディ(タワー・オブ・パワー)の3人の影響が一番ですね。
鳥山:高校時代に最初に一緒にやったのはボブ・ジェームスの「Feel Like Makin’ Love」で。『One/はげ山の一夜』(74年)のアルバムに入っている曲で、アイドリス・ムハマッドというドラマーなんですね。もうそっくりなんですよグルーヴが。17歳ぐらいのときに「なんでこの人こんなそっくりに叩くんだろう」って思うほどそっくりで。名ドラマー、名キーボーディストってたくさんいるんですけど、目つぶっていてもタイミングが合うんですよね。何やってもズレないっていうか。それはもうちょっと代えがたいものですね。
――5thアルバムから4thシングルという早いスパンで制作をしていますが、PYRAMIDとしては今後どのような活動をしていく予定なのですか?
鳥山:10(枚目)までいきますか?
神保:5まできたから、10を目指したいですね。今までのPYRAMIDの活動スタンスは、アルバム作るのに集まって、アルバム出して1回ライブやったら、その後、しばらく沈黙があって(笑)。また何年かしてアルバムという流れだったんですけど、これからは常に動いているような活動にシフトしていきたいなと思っているんですよね。
鳥山:和泉くんが生前のときからこうしましょうよって言っていたので。
――つまり、ライフワークとして続けていくと。
鳥山:そうですね。本当の意味でライフワークだったんですよ。お仕事の延長線じゃなくて、10代から知っている音楽仲間で、音楽を作るっていうのが楽しかったんです。ちゃんとPYRAMIDやっていかないと、もったいないんじゃないかなって思っていますね。
――4月に東京と大阪のBillboard Liveにてライブが開催されます。
鳥山:今回は『PYRAMID 5』のお披露目最終バージョンです。メンバーはベースに須長和広くん、キーボードは松本圭司くん、あとはマニピュレーターの加藤裕一くんですね。ゲストにmabanuaくんを呼んで再現をしたいと思っています。
――どんなライブになりそうですか?
神保:ライブで初めて演奏する曲が半分以上です。ライブをやるたびに曲が練れていくので、今回4ステージありますけど、その間にどういうふうに変わっていくのかが楽しみです。そして、mabanuaくんと前に1回一緒にやったんですけど、今回、彼は楽器を持ち込んでやるので……。
――ドラムをやるのですか?
神保:「ドラムやらない?」って投げたんですけどね、ドラムはやらないって(笑)。
鳥山:神保さんにおまかせしますって(笑)。でもギターは弾くんかいっていうね(笑)。お客さんも立ち上がって踊れるようなライブになるといいなって思いますね。あんまりじっと座って観る感じのライブではないかもしれませんので。ぜひBillboard Live TOKYOとBillboard Live OSAKAの公演を楽しみにしていてください。
PYRAMID Video Message for Billboard Live 2023
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