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<インタビュー>「機械と人間の違いは何か?」――Aimerがアニメ『NieR:Automata Ver1.1a』に投影した人生観
Interview:森朋之
昨年デビュー10周年を迎えたAimerから、2023年第1弾シングル『escalate』が届けられた。表題曲「escalate」はアニメ『NieR:Automata Ver1.1a』オープニングテーマ。「人間とは何か?」という普遍的なテーマをもとに制作したこの曲は、シリアスで鋭利なサウンド、濃密な感情表現をたたえたボーカルを軸にした壮大な楽曲だ。さらに「命にふさわしい」(NieR:Automata meets amazarashi コラボレーションソング Cover)、「crossovers」(JRAブランドCMソング)を収録。各楽曲の制作プロセス、そして、アリーナツアー【Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-】の展望などについて聞いた。
機械と人間の違いは何か?
――まず『NieR:Automata Ver1.1a』に対する印象を教えていただけますか?
Aimer:『NieR:Automata』は歴史のある作品で、派生の作品もいろいろとあって。それを辿らないと全貌が掴めないので、すべてを理解するまでにかなり時間を費やしました。ストーリーもとても深いので、(オープニングテーマを制作にするにあたって)楽曲のテーマは卑近なところにしようと思って、「人間って何だろう?」というところから膨らませていきました。
――確かに卑近なテーマですが、同時に普遍性もありますね。
Aimer:そうですね。『NieR:Automata』には機械生命体が登場するんですが、激しい戦いのなかで彼らの人間らしい部分を感じられた瞬間に心を動かされることが多くて。人間ではない彼らを通し、「人間って何だろう?」「命とは?」ということを考えさせられるんですよね。オープニングテーマなので疾走感もありながら、そういうテーマに切り込める曲になったらいいな、と。
Aimer 「escalate」 MUSIC VIDEO&CROSSFADE(アニメ「NieR:Automata Ver1.1a」OPテーマ)
――楽曲のなかにはAimerさん自身の価値観、人生観も投影されているんですか?
Aimer:そういう部分もあると思います。今、私たちが生きている世界にも、至るところに機械が溢れていて。それがないと生活できないくらいだと思うんですが、「機械と人間の違いは何か?」と考えたときに、人間はすごく無駄なことをする生き物だなと。日々の生活のなかで「無駄なのに、どうしてこれをやっちゃうんだろう?」と思ったり、頭ではやめたほうがいいとわかっているのに、ついやってしまうことが私にもけっこうあって。そういう人間らしい部分を肯定できる曲にしたいという気持ちもありました。
――エスカレートしてもいいんだ、と。
Aimer:そうですね。デビュー10周年を超えて、「どういうふうに生きていこうか」と改めて考える時間もあって。自分のなかの無駄な部分に対して「めんどくさいな」と億劫に感じることもあるんですが、それさえも肯定したほうがいいというか。かなり激しい曲ですけど、この曲を聴いてくれた方が「エスカレートすることを恐れない」という気持ちになってくれたらいいなと思いますね。
――アーティストは過剰であること、エスカレートすることにも価値があるような気がします。今はコスト・パフォーマンス、タイム・パフォーマンスが重視されがちだけど、そこから零れ落ちるものも大切というか。
Aimer:私もそう思います。どんどん便利になること自体を否定するわけではないし、テクノロジーの進化には夢がありますが、同時に無駄なことを排除しないことも、これからの世界には大切だと思っていて。
――楽曲制作においても同じことがいえるのでは?
Aimer:そうですね。私はずっとagehaspringsのみなさんと制作していて。長年、一緒にやっているので工程もお互いにわかっているし、一番効率のいい作り方になりがちですけど、あえてそうじゃないやり方を選ぶことも大切なときがあると思っています。歌も同じようなところがあって、レコーディングやライブの経験が浅かった頃は稚拙な部分が多かったけど、今振り返ってみると、あのときにしかない輝きがあったんじゃないかなと思うようになって。たとえばピッチにしても、正確さだけを求めたら、人間が歌う必要や意味があるのかな、と思ったりもします。感情の高ぶりによって歌がヨレたり、ちょっとしたところでその人らしい部分が出るし、それは聴いてる側にも伝わると思うんです。その加減が難しいんですけどね。
曲に導かれたテイク
――歌のテイクを選ぶときに、音程や正確さ意外の部分を重視することも?
Aimer:それでいうと、シングルの2曲目に入っている「命にふさわしい」は、ほぼ一発録りだったんですよ。テストで1回歌って、本番で歌って「これでいきましょう」っていう。amazarashiさんの楽曲のカバーですが、そういうアプローチは初めてでしたね。
――「命にふさわしい」のRECは、やり直しの効かない一発勝負がふさわしいと。
Aimer:はい。秋田ひろむさんが選ぶ言葉がとにかく素晴らしくて、それを邪魔したくなかったんです。歌もアレンジも極力、言葉を遮らないようにしたいねという話を玉井健二さん(agehasprings代表・音楽プロデューサー)として。いつもだったら1音1音、ワンフレーズごとにどう表現しようか考えて、緻密に作っていくタイプだと思うんですけど、この曲は自分から無意識に出てくるものでやってみよう、と。それを決めたのは録音ブースに入ったときなんですけどね。いろいろ考えて準備していたんだけど、レコーディングが始まる直前に「1回きりでやってみよう」って。
――その瞬間の記録みたいな歌なんですね。ライブに近いというか……。
Aimer:そうなんですけど、ライブとも違うんですよね。ライブだと目の前にお客さんがいて、その場の空気や独特の高揚感、そのときだけの思いもあるけど、レコーディングでは誰もいないので(笑)。どういう感覚で歌に乗ればいいのか探っていたし、難しかったけど、楽しかったですね。
――これまでの経験があるからこそ、そういう思い切った方法を選べたのかも。
Aimer:それは絶対ありますね。以前の自分だったら(一発録りの録音で)衝動的な部分とテクニカルなところのバランスが取れなかったと思うので。そもそも「命にふさわしい」をカバーすること自体、想像もしていなかったんですよ。amazarashiさんとは2018年に一緒にアジアツアー(※)を回らせていただいたんですが、そのときに「命にふさわしい」を聴いて、本当にすごい曲だなと思って。今回『NieR:Automata Ver1.1a』のエンディングテーマをamazarashiさんが担当されることになって、以前から印象に残っていたこの曲をカバーしようという話になったので。
※上海、台湾、シンガポール、東京で開催されたツーマンツアー【amazarashi × Aimer Asia Tour 2018】
――縁のある曲なんですね。改めて「命にふさわしい」に向き合って、どんなことを感じました?
Aimer:2018年のときに受け取った衝撃がさらに強くなりましたね。カバーするにあたって何度も聴き込みましたけど、「こんなにもすごい曲を歌うのか」と重圧も少しあって。秋田さんの曲はすべてそうなんですけど、一つの文学だし、すごく神聖で、簡単に踏み込んじゃいけないというか。歌詞についても、解釈するのが畏れ多いといいますか。思考よりも先に鳥肌が立つ、体が先に感動するという感じなんですよ。私が好きなのは2番のサビ。<一人になれなかった 寂しがりや共が集まって>というところですね。
NieR: Automata meets amazarashi 『命にふさわしい』Music Video
――歌っているときに、感情の揺れに任せた部分もあったんですか?
Aimer:そうですね。さっきも言ったように「言葉をジャマしない」という気持ちもありながら、できるだけ繕わず、ありのままで歌えたらなと。曲に導かれたテイクだと思うし、言葉に引っ張ってもらう感覚も、秋田さんの楽曲ならではだと思います。
自分の体を使って表現したい
――3曲目の「corssovers」は、切なさと爽やかさが入り混じったミディアム・バラード。
Aimer:CM(JRAブランド)の絵コンテや断片的なムービーを見させていただいてから制作した曲ですね。ドラムが少し跳ねていたり、そこまでジメッとしてないバラードにしたくて。ビートルズっぽいサウンドを意識していたところもありました。
――日本語の美しい響きを感じさせる歌詞も印象的でした。歌詞を書くときに、言葉を音として捉えているところもあるのでは?
Aimer:それはありますね。「このフレーズにはこの母音の言葉が乗ったほうがいい」というところで選んでいくことはあります。
――そのうえで<進め一歩ずつでも 明日へ>というストレートな歌詞もあって。
Aimer:大回りじゃないというか、より率直な言葉を選んでもいいかなと思えるようになったし、そういう歌詞も歌えるようになったのかなと。10周年を迎えたあたりから、それまでとは違う感じの言葉を選んだり、さりげないところでいろいろ試してきたんですよ。もちろん聴いてくれる方の存在も大きいです。
今日、わたしの物語が走ります。 | JRA公式
――オーディエンスの存在を実感できる機会も増えてますよね。
Aimer:やっぱりライブが増えたことが大きいですね。ツアーをたくさんやらせてもらって、各地でリスナーのみなさんにお会いしたり、大きいステージにも立たせてもらって。そのなかで「自分をオープンにしていいんだ」と思えるようになってきたんですよ。それはもちろん、聴いてくれている方、会場に来てくださるみなさんのおかげだなと。
――以前は自分をオープンにできない時期もあった?
Aimer:ありました。最初始めた頃は、音楽をジャマしないように存在しないといけないという意識が強かったんです。もともと人前に出たいタイプではないんですよ。その感じは今も根底にあるんですけど、私という人間を知ってもらうことは、音楽を伝えることにとっても良いんじゃないかなって。
――Aimerさん自身の人となりと一緒に音楽が広がっていく。
Aimer:はい。以前は「曲を作った人、歌っている人がどういう人間なのか知ることで、音楽の受け取り方が変わることなんてあるだろうか?」と思っていたんです。でも、あるんですよね、そういうことが。私がそのことを実感したのは、カート・コバーンさんのドキュメンタリーを見たとき。カートさんがどういう人で、どんな生き方をしたか知ることで、ニルヴァーナの音楽がもっと好きになったんです。なので私のことを知りたいと思ってる方にも、音楽を通して、人間らしい部分に触れてもらえたらなと。そのことで距離が縮まるというか、響き方も変わってくるかもしれないので。
――3月から5月にかけて、名古屋・ガイシホール、神奈川・横浜アリーナ、大阪・大阪城ホールでアリーナツアー【Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive-】が開催されます。心境の変化につれて、ステージへの思いも変わってきているのでは?
Aimer:良くも悪くも音楽を表現することでいっぱいいっぱいなんですが、ツアーを重ねるなかでどんどん表現したいことが膨らんでいる感覚はあります。歌うこともそうだし、自分の体を使って表現したいという気持ちが強くなっているんです。もともと私、ステージで座って歌っていたんですよ。立ち上がるだけで「立った!」という感じだったんですけど(笑)、その頃に比べると体全体を使って音楽を表現することがすごく面白くて。ここ数年はその表現をもっと極めたいと思っていますね。
――身体表現が加わると、ステージングの幅も大きく広がりますね。
Aimer:そうなんです。でも、それってアーティストとしては当たり前じゃないですか。私の場合、10周年を迎えてやっと人並みになれた感じもあって。たくさんの方に支えていただいて、座って歌っていたところから、光のなかで動き回りながら歌えるようにもなった。どれも自分だし、いろんな自分をステージに見せられるようになってきたというのかな。今回のアリーナツアーはストリングスも入るし、音の機微も感じられるようなステージにしたくて。今の自分ができること全部で、みなさんが音楽に没頭入できるようなツアーを目指そうと思っています。
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