Interview：永堀アツオ
Photo：Shintaro Oki(fort)

　竹内アンナが、2月22日に自身5枚目のEP『at FIVE』をリリースする。

　いつも「実験的に制作をしている」と本人も語るEPシリーズの最新作であるが、今作は特にあらゆるジャンルを飲み込み昇華させる彼女ならではの、自由でフレッシュな5曲が楽しめるEPに仕上がっている。この作品に込めた思いと、今年デビュー5年目の節目を迎え、この先への決意を訊いた。

最新の竹内アンナが思う“自己肯定感”

――5枚目のEPが完成した感想から聞かせてください。

竹内アンナ：EPシリーズは毎回、カバー曲やリミックスを収録したり、あんまりジャンル感に縛られたりせずに実験的に作っているんですけど、今作に関しては更に好き放題に遊び散らかしたなという印象です。やりたいこと全部詰めたって感じですね。

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――やりたいことというのは？

竹内：その都度、私がこんなサウンド感にトライしてみたいなと思うことをいろいろ詰めてはいるんですけど、今回は5曲とも、あんまりやったことがなかったものにチャレンジしていて。正直、5曲とも違うアーティストなんじゃないか？っていうぐらいの振り幅ではあるんですけど、歌詞の面で言うと“日常の一瞬を切り取る”ことをテーマに、いろんなサウンド感で表現できたかなと思っています。

――前回のインタビューで3か月連続配信リリースの「あいたいわ」「made my day feat. Takuya Kuroda / Marcus D」についてはお伺いしていますが、第3弾「サヨナラ」はどんなところから作った曲でしたか。

竹内：「サヨナラ」は歌詞先行で書きました。結構前から書き溜めていたものなんですけど、私のお友達の話をもとに書いています。その友達が当時付き合っていた人と、たぶん別れることになるって言っていて。彼女はすごく落ち込んでいて、ご飯も喉を通らない状態になってたんですね。「私はすごく苦しいし、もう終わりがそこまで見えている。でも、その終わりを考えるとなぜか、その人と過ごした楽しかった日々とか、くれた言葉とか、連れてってくれた景色とか。そういう綺麗なものばっかりを思い出しちゃう。でも、向こうはそんなことを思ってなくて。私ばっかりこんな思いをして、とっても悔しいし、切ない」って言ってて。その言葉を聞いて、私も胸がきゅってなって。

――それは共感でしたか？

竹内：私はその経験がなかったんだけど、よく知ってる子なので、その子の気持ちがすごく伝わってきて。大事な友達だから、何とか前を向いてほしいなっていう思いで、その時に思ったことを書き留めていて。当時はギター一本のバラードだったんですね。でも、『at FIVE』に収録しましょうってなったときに、悲しい曲をただ切なく歌ってもしょうがないというか。私がこの曲で伝えたかったのは、その子が前を向いていけますようにっていう思いだったので、バラードじゃなくて、疾走感のある楽曲にして。歌詞も最後、主人公の女の子が前を向いていけるように〈ありがとうと一緒に置いてくよ〉っていうものにできたらなと思って作っていきましたね。

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――楽曲の主人公は自分で辛い経験を乗り越えて前を向いてますよね。1番では〈ああ明けないで夜〉と歌ってるけど、最後に〈ああ明けてしまえ夜〉と過去を振り切って、自分からさよならを決めているように聞こえます。

竹内：歌詞の最後の2行はもともとなかったんですよ。最初にデモを作った時は自分で聞いててもなんか悲しくなってきちゃって、辛いなと思っていたので、今の私だからこそ伝えたいことを考えた結果、この一文を足しました。その子にもちゃんと朝が来てほしいし、たとえ朝が来て、終わりが来たとしても、あなたはちゃんと幸せになれるよっていうメッセージが届けられたらいいなと思って。

――その2行に行く直前にエレキギターを弾きまくってますね。

竹内：主人公の心境に重ねるように弾き散らかしました（笑）。そして、何事もなかったようにスンッて終わるのが面白いなと思って。すごく（レコーディング中）みんなで笑ってましたし、めっちゃ楽しかったですね。

――このエレキギターが、前回のインタビューでお話しされていた「夏に買った赤い335」ですよね。

竹内：そうです！　家ではエレキを弾くこともあるし、レコーディングやライブでもちょこちょこは弾いてはいたんですけど、ここまでエレキをフィーチャーした楽曲はなくて。でも、新しくギターを買ったタイミングだったので、どうしても使いたくて。買いたて直後のレコーディングだったっていう個人的な思いもあるんですけど、トライできてよかったです。

――竹内アンナのディスコグラフィーでは珍しい邦ロックになっていて、泣きながら全力疾走したくなります。

竹内：あははは。この3部作に関しては、色みたいなのを考えてて。「会いたいわ」が真夜中で、「made my day」で夜が明けて、「さよなら」は朝焼けの赤やオレンジ色というイメージだったので、吹っ切れたあと、朝に向かって走り出したくなるような曲になりました。

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――さらに、EPには新曲が2曲入っています。配信3部作のあとの2曲はどう考えていましたか。

竹内：3部作はエレキを弾いたり、フィーチャリングで黒田（卓也）さんやマーカス・Dさんを迎えたりもしていたので、次のリード曲はまたアコギを思いっきり前面に出した曲をまず作りたいなと思って、「WILD & FREE」ができたんです。

――この曲はいろんな要素が混じってますよね。ビートもメロウになったり、アップになったりするし、ラップも入っていて。アコギもパーカッシブなスラップ奏法もあれば、オクターブ奏法で爽やかな風も吹いたりして。

竹内：そうですね。これもやりたい放題やってる感じではあるんですけど、この曲は実は2曲のデモを組み合わせて作っていて。だから、ちょっとカオスな感じになってるんですけど（笑）、短い中にいろんな要素をギュッと詰めていて。あとは、3部作は割と“ラブソング”という視点で書いていたので、デビューの頃から描き続けてきた、自分の曲作りの根幹になっている自己肯定感みたいなものを久しぶりのタイミングで描きたいなと思って。今の私、最新の竹内アンナが思う自己肯定感ですね。今の私だからみんなに届けられる、“私は私。あなたはあなた”って自分を肯定していくアイデアをシェアできたらいいなって。

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――かなり強気な主人公になっています。

竹内：この曲も結構前からアイデアとしてはあって。都度都度、自分のアップデートを重ねてここに至ってるんですけど、この曲のキーになってるのは、〈全て伏線になるmy magic〉っていう一文。嫌なことや挫折すること、うまくいかないことはたくさんあるんだけど、それをただ落ち込むんじゃなくて、私が自分の人生の主人公だって思えば、その失敗や挫折も、私が最終的にハッピーエンドを迎えるための伏線になるって思える。そう考えればそんなに怖くないし、むしろどんどん来いよって思うようになれたんですよね。

――〈たった3ページ　トントン拍子で掴む栄光はso boring〉と歌っていますね。

竹内：アニメや漫画が好きでよく観るんですけど、主人公への絶対的安心感ってすごいなって感じたときに、いや待てよって思って。私も私の人生の主人公だし、だったら、主人公は絶対倒れないし、絶対めげないし、絶対最後に成功する。そう思ったらすごく気持ちが楽になって。こういう考え方もいいかもって思ったんです。この考えを私は押しつけたいわけではなくて、あくまでも聞いてくれた人が、ひとつの選択肢というか、そういう考え方もあるんだっていうアイデアとして受け取ってくれたらいいなと思ったんですね。

――自分の人生を楽しく生き抜くためのアイデアのひとつとして。

竹内：そう。いろんな挫折や経験があるからこそ、成功を掴んだときに、人間としての深さとか面白みが出ると思うんです。私もたまに、自分の人生なのに、自分をどこか外にやってしまうときがある。どうせ私なんかっていう思考になっちゃうときもあるけど、自分の人生に自分がいなかったら成り立たないし、話も進まない。常に自分は中心だと思っていいんだよって。自分が主人公だってことを忘れないでほしいなと思って書きました。

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――コーラスでは何度も〈Girls be WILD & FREE〉と呼びかけています。

竹内：自由っていうのも、私の中でひとつのテーマになっていますね。ライブをするときもそうだし、曲を書くときもそう。自分をどれだけ開放できるか、自由になれるかみたいなのを考えながらやっていて。そこにプラスして、いい意味でのがめつさというか、ワイルドな気持ち、ガツガツ前に行く感じもあっていいと思う。自分の言いたいことややりたいことを、いつでもすぐに発信できる時代だから。自分の意見を言うことや自分をさらけ出すことは難しいけど、大丈夫だよって。だって私たち、自由でワイルドだからねっていうメッセージを受け取ってもらえたらいいなって思いますね。

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“パジャ海”とのコラボ

――そして、もう1曲の新曲「生活 feat. パジャマで海なんかいかない」は、別所和洋さん率いるネオソウルバンド、パジャマで海なんかいかない（パジャ海）とのコラボになってます。

竹内：別所さんにはバンドのサポートでお世話になっていて。別所さんと私のふたり編成でライブをやったこともあるし、パジャ海のステージにゲストで呼んでいただいて、パジャ海トリオ（同バンドの楽器隊3名）と私で一緒に2曲やったんですね。その時、私の楽曲をパジャ海がアレンジしてくれたんですけど、それがめちゃくちゃよくて。自分の楽曲にこんな一面もあるんだって新しい発見があったし、パジャ海のアレンジがとにかく素晴らしかったので、またやりたいねっていう話をしてて。今回タイミングが合って、すぐにご一緒できたんですけど。

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――どんな作り方をしてるんですか、この曲は？

竹内：まず、別所さんにベーシックなデモをいただいて、それに私がメロディをつけたんです。いただいたデモをパソコン上で好き勝手に切り貼りして、Aメロっぽいところをいちばん最後に移動させたり、テンポもめっちゃいじったりして……。

――これ生じゃないの？

竹内：いや、私がいじり倒したせいで、逆に生じゃないとできなくなってしまって。テンポも変わるから、クリックが聞けなくなっちゃったんです。レコーディングは、トリオと私は一緒に入って「いっせーの」で何回か録って。結局2時間ぐらいでサクッと終わった、本当にライブ感のあるレコーディングでした。落ちサビの前に別所さんのカウントが入るんですけど、あれもそのとき言ってくださったものをそのまま使っていて。歌詞で〈live the live〉って言ってるんですけど、本当に今この瞬間だからこそできた、その瞬間を閉じ込めたサウンドになっています。レコーディングではめちゃくちゃ力が入ったし、最後にいくにつれてどんどん前のめりになっていく感じがあって。めちゃくちゃ楽しくて、たまらないレコーディングでした。で、それだけでもすごいんですけど、コーラスのふたりに入っていただいたおかげで、また更に解像度が上がったというか、曲の深みが増して、めちゃくちゃいい曲になったなって思います。

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――フリージャズに乗せたポエトリーリーディングのようになっています。歌詞のテーマは？

竹内：新しい土地で新しい生活をしていくっていう、日常のワンシーンを描いてますね。EPのリリースが2月末なので、そろそろ春に向けて空気感も変わってくるし、引っ越す人も増えてくると思って。私も上京してから2年ぐらい経つタイミングだったので、そのときの気持ちを忘れないためにも自分が地元から引っ越してきたとき、東京に来たときのことを思い出しながら書きました。

――ご自身が育った京都という街はどんな存在ですか。

竹内：私はいまだに京都が大好きだから、隙があれば帰るんですよ。仕事で大阪に行った時は絶対に帰りますし、帰れなくても、一旦新幹線で降りようと試みてしまうぐらい大好きな街（笑）。だから、自分の好きな街を離れるのはすごく寂しかったし、離れるってわかった瞬間に見えてくるものもたくさんあって。京都にいたときは全然わからなかったんですけど、お仕事を始めて東京への行き来が多くなって、東京から京都に帰ってきたとき、「あれ？　すごくいい街だ」って思って。もちろん東京も好きだけど、東京にはない独特の空気感がいっぱいあるなって感じて。だけど、京都への未練ばかりを残してもしょうがないし、これから新しい場所で頑張っていこうという気持ちもあったから、そうなったときに新しい生活をどうやって楽しくしていけるかなって考えたんです。

――「WILD & FREE」の考え方と同じですね。自分の人生を楽しくするためにどうしたらいいかを前向きに考えるという。

竹内：落ち込んでばかりじゃなくて、やっぱり楽しく生きたいから。そうなったときに、自分の生活を楽しくするためのアイデアのひとつとして、たとえば、季節ごとに果物を味わったりしたら素敵じゃないとか、自転車を借りてふたつ隣の駅まで遊びに行ったら面白いんじゃないとか、カラオケで友達と朝まで歌えばいいじゃんとか。そうやっていろいろ考えてると、新しい生活にも慣れるまでは大変かもしれないけど、楽しいこともいっぱいあるよねって。きっとこれから新しい生活を始める人もたくさんいるはずなので、そういう人が聞いてくれて、「そうだよね。そうしてみよう」って、新しい生活を心待ちにできるひとつの要素としてこの曲があってくれたら嬉しいなと思いました。

Photo：Shintaro Oki(fort)

岡山ライブでの思い出

――故郷と新しい街への思いに加えて、この曲では、竹内さんの音楽やライブが〈帰れる場所でありますように〉という願いが込められてますよね。

竹内：そうですね。この曲の中に出ている〈幼い日のわたしと同じ瞳の色した少女〉っていうパートは、実際にあったことで。最近の話なんですけど、去年の秋に弾き語りツアー（【atELIER -アトリエ-】【atELIER cafe-アトリエ カフェ-】）をして。ツアーファイナルの岡山公演に、小学校高学年くらいのちっちゃい女の子がひとりで来てくれたんです。行きはお母さんが送ってくれて、ライブはひとりで観ていて。どうやらその子は、私が3年ぐらい前に岡山で初めてライブに出演したときのイベントを観て好きになってくれて、ずっと待っててくれたらしいんですね。

――子供の時の3年って長いですよね。

竹内：きっと待てないし、いろいろ興味も移りますよね。久しぶりの岡山でのライブで、しかも初めてのワンマンっていうときにその子が来てくれたんです。ちっちゃい女の子だったから、私のマネージャーさんがその子本人から話を聞いて、私もそれを聞いてすっごい嬉しくて。私もちょうど小学6年生ぐらいのときに、シンガーソングライターになりたいと思って、音楽を始めていて。その子が音楽を始めたいかどうかはわからないけど、ちっちゃい頃に出会う人や音楽や景色って、やっぱりその後の自分に強い影響をくれる存在じゃないですか。小さい頃の私もそうやって何かに憧れて音楽を始めたんだけど、今度は自分がそっち側に立っているっていうことがすごく感慨深かったんです。なんか音楽の大きい輪の中にいる気がして、すごく嬉しかった。

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――ちなみに竹内さんが憧れたのは？

竹内：自分にとっての音楽の入り口になってくれたのはBUMP OF CHICKENですね。今はいろんな音楽を聴いているし、いろんな曲を好きになったけど、やっぱり帰ってくる場所は、私はBUMPだから。

――いいサイクルですね。

竹内：うん。嬉しくて、めちゃくちゃ泣きましたね。その子が私の音楽を待っててくれて、ライブを観に来てくれた。今後、私のライブに来てくれなくなっちゃうかもしれないけど、いろんなものに出会っても、最終的にその子にとって自分が帰ってこれる場所であれたらいいなって思って。音楽一本で東京に出てきてて、いろんな生活を経て、そういうできごとがあって。音楽をやってよかったな、なんか生きてるなってすごい感じて……。そのことがすごく印象的だったんですよね。その子にとって、私がそういう存在であれたらいいなと思うし、ちゃんと帰ってこれるように、私は生活を続けるし、音楽も続けていくねっていう。みんなに向けてのメッセージでもあるし、私にとっての決意の歌でもある。これからも続けていくぞ！ってなりましたね。

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デビュー5年目を迎えて

――いい話ですねぇ。今年でデビュー5年目になりますね。

竹内：もう5年目かっていう感じなんですけど、デビューしたときから毎年、常にアップデートし続けられている自信はあるし、自分自身も毎回フレッシュな気持ちで音楽に向き合えてると思っています。これからも実験的に音楽をやっていくという精神でいたい。世の中にこういうものがあったら面白いよねとか、こういうアイデアをシェアできたらいいな、みたいな発明は今後も続けてきたいなと思っています。

――そして、全国ワンマンツアー【RELEASE TOUR 2023 -at FIVE-】が決定してますが、Spice rhythm改めdawgss（ドーグス）のふたりと3ピースバンドでまわるんですよね。

竹内：おふたりにはバンドの時にサポートでお世話になっていて。同世代だからこそ受ける刺激がたくさんあるんですよね。dawgssの初ライブを見たんですけど、いや、わかってはいたけど、やっぱりすごいふたりだなって感じて。私もまだまだ、いろんなサウンド感やプレイを作っていきたいので、同世代で良い音楽をやってる人たちと、3ピースっていうストイックな編成で回って、また新しいライブパフォーマンスの形を作っていけたらいいなって思ってます。（ツアーの内容は）これから詰めていく段階ではあるんですけど、絶対に面白いものにはなると思うので、私も今からワクワクしてますし、ぜひいっぱい遊びにきてもらいたいですね。