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<インタビュー>葉月、脳裏に浮かぶ情景を歌にしたニューシングル『蓮華鏡』
lynch.のボーカリストである葉月が、ソロとして2020年にリリースした『葬艶-FUNERALー』の続編となる新曲を含むマキシシングル『蓮華鏡』をリリース。lynch.ではボーカリストとして、さらにメインコンポーザーとしてバンドを牽引。それと並行して走らせているソロでは、カバー曲もやりつつ、オリジナルソングは自ら作成。クラシックスタイルを基盤とした“葉月”とバンドスタイルを基盤とした“HAZUKI”、名前の表記を使い分けて展開しているソロワークも含め、葉月の音楽表現の源にあるものを探る。(Interview & Text: 東條祥恵)
「欲望のまま、思いつくままに音楽をやりたくなった」
―――まず基本的なことなのですが、葉月さんがソロをやりだした1番の理由は?
葉月:いまソロは2つのスタイルがあるんですが。最初は“クラシックスタイル”から始まりまして。それはlynch.のイベントの一環から始まったんですよ。lynch.の周年ライブのアンコールで、僕がピアノ1本で歌うというのがあったんですね。そのときはファンクラブ限定だったので、ちょっとレアな姿をお見せしますということで、1〜2曲ピアノをバックに歌ったんですよ。で、その後メンバーがプロデュースする5デイズイベントがありまして。僕の日はピアノだけで歌う状態でワンマンをやりたいので、みなさんお休みしてもらっていいですよという話をメンバーにして。そのとき初めて<奏艶>というタイトルでライブをやったんですが。それがすっごく楽しくて。
――どんなところが楽しいと思えたのですか?
葉月:そのときはピアノだけだったので、lynch.との差がデカかったんですよ。普段は轟音の中でやってますから、歌をあれだけ丸裸にして聴かせるというのはすごく刺激的だしスリリングで。あと自分の好きなアーティストの曲をカバーで歌えるというのも楽しくて。それでハマって、今後もこれはやっていきたいなというので始まったんですよね。
――そこには、ボーカリストとしてlynch.だけでは表現できない歌をさらに追求してみたいという欲求もあったのですか?
葉月:当時はそこまでは考えてなかったですけど、勝手にそういうものも出てたんでしょうね。それで、これを毎年恒例のように1年に1回やるようになったんです。
――それが、いまのクラシックスタイルの葉月さんの活動へとつながっていった
葉月:そうです。そうして、もう1つ。アルファベット表記のHAZUKIのほうが2022年2月からスタートするんですけど。これは【奏艶】をやるにつれて、いろんな楽器に魅力を感じるようになったんですよ。それこそヴァイオリンなんかのクラシカルな楽器から管楽器、和楽器ともコラボしましたし。自分で音楽を生み出すのはバンドスタイルなんですけど、なんか、混ぜたくなっちゃったんですよね。
――いろんな楽器を。
葉月:そうそう。いままでは曲を作ってるときにバンドで再現できる音しか出てこなかったんですけど、そこに「もっとこういう音が欲しいな」とか「この楽器入れたいな」という欲がどんどん出てきて。だけど、lynch.でそれはやりたくなかったんですよ。僕は。
――え、なんでですか?
葉月:lynch.はあそこにいる楽器の人たちが主人公なので、それより目立つ音を僕はあんまり入れたくないんですよね。その人たちの音だけで成立させたいんですよ。
――葉月さんの考えるバンド論、美学として。
葉月:ええ。僕はそういうバンドのほうが好きです。もちろんそうじゃない人もたくさんいらっやいますけど、僕は基本的にその人たちの音だけで作ってて欲しいなという気持ちがあるので、自分もそうでありたいんです。だから、例えば「この曲はドラムはなし。打ち込のほうがいいから」とか「この曲はギターなし」とか。ドラマーもいて2人もギタリストがいるバンドで、僕はそんなことはしたくないんで。だから、出したい音があるなら、それをなんとかギターで近づけるとか。そういうアプローチをするんですね。だけど、そういうことを何も考えず、欲望のまま、思いつくままに音楽をやりたくなったんですよ。
―――制限をとっぱらって。
葉月:そう。lynch.はこうだからというのを全部1回とっぱらって、頭に浮かんだものをそのまま具現化して世に出すというのをしたくなった。それは年齢的なこともあると思うんですよ。そのときは39歳になった年で。果たして、心身ともに健康な状態でいまの歌を50歳、60歳になっても維持できてるんだろうかとか。そういうのを考えたときに、いま僕はまだバリバリ全盛期だと思っているので、その時間内に悔いが残らないようにやりたいことをやってみたいなという欲望がむくむくむくっと表れてですね。それで、メンバーに相談しまして。
――そうして始まったのが“バンドスタイル”のHAZUKI。こちらはやってみたどうでした?
葉月:楽しいです。やればやるほど新たな欲もわいてきますし。
―――葉月さんはlynch.でもメインソングライターですよね。創作するとき、ソロとどうやって差別化をしているのですか?
葉月:lynch.は好きに作ってるかというと、まったくそんなことはないんですよ。lynch.ってこうだよね、こういうのが求められてるよねというのを完全に意識して作ってます。だから、好きなエッセンスは入れつつも、気を使う部分は多々あります。
――打ち込みではなく生ドラムでいくとか。
葉月:そう。だから、ここはギター使わないで全部ヴァイオリンとチェロにしようぜ、というのもやらないですし。やりたくもないので。だけど、長くやってるといろんなところに手を出したくなっていく。もっと新しいアレンジ、もっと新しい楽器編成にチャレンジしたいという欲望がどんどん出てくるんです。これを抑えつけたままお爺さんになるのもなぁと思って(笑)。チャレンジしようと思って始まったのがHAZUKIです。
――—1つ確認したいのですが、葉月さんのその欲望はボーカリストして様々な音楽を歌いたいという欲望と、新しい楽器を使って新しいアレンジのサウンドに挑戦したという欲望。どちらが先にあるのでしょうか。
葉月:(即座に)楽器です! 僕、自分の歌ではなくて、全体で見るんですよ。自分の歌は、周りに合わせればいいだけ。僕は元々そうなんですよね。lynch.のときからずっと。
――—ベーシストだったからですかね。
葉月:いや。どの楽器も昔から好きなんですよ。だから、lynch.で曲を持っていくときは、バックをバッチリ決めて作るんですが、歌メロは鍵盤で入れてるだけなんですよ。
――—えっ! 仮歌は入ってないのですか?
葉月:ええ。僕は基本歌わないですね。面倒くさい。
――—ギターリフとかソロは作り込んで入れているのに?
葉月:ええ。歌って録るのが大変なですよ。仮歌とはいえ、それはレコード会社の人にも共有される訳だから「じゃあちゃんとは歌わないと恥ずいじゃん」という気持ちになる。「なんかここ外れてない?」、「下手じゃね?」っていうものをスタッフに共有されたくもないし。だから仮歌でも真剣に録っちゃうんですよね。でも、真剣に録ったとはいえ「これ使わないんでしょ?」、「また本番で歌い直すんでしょ?」ってなるから。タイアップがあるから必要ですとか、よっぽどのことがない限り仮歌は録らないですね。本番の歌入れで、初めてみんなが歌を聴く感じです。
――—lynch.はずっとそのやり方で?
葉月:ずっとそうです。元々歌に関して執着が強い感じではないんですよ。だから「もっといろんな歌を歌えるようになりたい」とかは、そんなには思ってないですね。ただ、どうしても出したい声というのは1つあって。それは長年求めてるんですけど、まだ出せてない。それぐらいですかね。
――—ではソロをやり出して以降のボーカリストとしての自分は、いま葉月さんにはどのように映っているのでしょうか?
葉月:まだまだやれるなと。とくにHAZUKIのほうはまだ“ロックバンド”の域から外れきってないんで、もっとやればいいのになって思いますけど。
――—クラシックスタイルの葉月のほうは?
葉月:ひと通りやっちゃいましたからね。でも、現状、自分の頭のなかに聴こえてないのに無理やり探すのは違うと思うんで、こっちは現状のスタイルがいいのかな。
- 「日本人である我々がやるからできるオリジナリティ、個性がある」
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リリース情報
公演情報
【奏艶】
- 2023年1月27日(金)東京・日本橋三井ホール
2023年1月28日(土)東京・日本橋三井ホール ※2部公演
2023年2月4日(土)愛知・名古屋市公会堂
チケット:
全席指定 8,000円(税込)
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「情景を言葉に起こしてメロディーにはめていく」
――—なるほど。では、その流れでここから新作「蓮華鏡」の話を聞いていきます。「睡蓮」はどんなイメージで作った曲なのですか?
葉月:HAZUKIのほうのツアー中に作ったんですよ。このときギター&ボーカルで歌う曲ができたので、ギターを持ってツアーを回ってたら、楽屋でギター弾いてるときに頭にメロディーが降りてきて。そのツアーのファイナルで発表した曲なんです。
――—琴や尺八など和楽器をふんだんに取り入れたアレンジが印象的な楽曲でしたね。
葉月:僕が作った段階ではピアノだけで。ツアーファイナルでも僕の歌とピアノで披露したんですよ。そのときに歌詞も「睡蓮」というタイトルもあって。それがアレンジャーのところに行ったら、ものすごい和になって返ってきた感じです。僕からリクエストはしてないんですが、タイトルや歌詞の響きから和のイメージが湧いたらしく。僕は聴いた瞬間、一発OKでした。
――—イントロは琴とか胡弓も使ってるのですか?
葉月:アレンジ作業には関与してないので分からないですけど、たぶん。もともとあのイントロはなくて「こんなの付けてみました」って返ってきたんで「ああ、いいですね」って(笑)。
――—イントロや間奏の奥の方に“ああっ”、“ああっ”という声が小さく。
葉月:入ってますけど、僕の声ではないです。
――— 歌詞は帰らぬ人に向けて書いているような印象を受けましたが。
葉月:いつも浮かぶ景色があるんです。曲を聴くと頭の中にその世界が浮かんでくるんで、歌詞はその情景を言葉に起こしてメロディーにはめていくという作業なんです。
――—これはどんな情景が浮かんだのですか?
葉月:歌いたい内容が喪失感であったり、孤独感とか、命には限りがあると思ったときの儚さを想像すると絶対に出てくる場所があって。それはこの世に存在するかも分からないんですが、高原みたいなところで、強めに風がばーっと吹いてて。夕焼け、日が落ちる寸前なんですけど。今回もそこがでてきて。だけど、この「睡蓮」に関してはそこに湖があって。風が吹いてなかったんですよ!
――—いつもと少し違っていた。
葉月:そう! 無風だから睡蓮の花が湖の水面に映ってるんですよ。鏡みたいに。その状態をタイトルにしたのが作品タイトルの「蓮華鏡」なんです。
――—ほほぉー。情景のお話、面白いですね。そのなかに葉月さんはいつもいるのですか?
葉月:はい。立ってます。しかも僕、後ろから撮られてます。左斜め後ろの下から煽って撮られてます。常に。
――—そこに歌詞を書くスイッチがあるんですかね。
葉月:うーん。僕の場合、そこばっかり出てくるので、逆に意識的に遠ざけたりしてます。ただ「睡蓮」に関しては、初めてそこに湖が出てきてくれて、しかも風がやんでたんで「あ、いつもと違う。これはいいぞ」と思ったのでそのままGOしました。
――—歌ってみてどうでしたか?
葉月:歌いやすいですね。この曲は。気持ちよく歌えるように自分でキー設定をしっかり考えて作ってるんで。
――—キー設定もlynch.ならこう、みたいなものがあるのですか?
葉月:もちろん。ツアーでライブが連チャンで続いて、喉が傷んでても再現できるキーにしておかなきゃとか。そういうことは常に考えいて。そのなかでもやさしめにしたんです。「睡蓮」は。低目なんですよ。キー設定が。コントロールがききやすいので、その分ゆったりとしたなかでも張りを出さず、しなやかに歌えてる感じがあると思うんですけど。
――—その感じ、すごくわかります。ミュージックビデオはどんなところが見所ですか?
葉月:とにかく寒かったんですよ。すごく立派な古民家で撮ったんですけど。暖房がないんですよ。古いから。寒くてガタガタ震えながらリップシンク撮りましたから。そこが見所です(笑)。
「睡蓮」ミュージックビデオ
――—続けてカップリングについても聞かせてください。「CRYSTALIZE」と「ALLIVE」を入れた理由は?
葉月:1から曲を作ってアレンジする時間はなかったので、<奏艶>でいままでプレイした曲で、まだ音源化されてないものでいこうと。「睡蓮」が思いっきりバラードだったので、クラシカルだけどアッパーな曲を入れたいなと思ってこの2曲を選んだ感じですね。
――—「CRYSTALIZE」は死んでしまった人へのラブソングという解釈で合ってますか?
葉月:いや。全然違います。これはJ-POPにもなりそうな内容ですね。でもこれ、どうやら男性しか分からないみたいで。昔好きだったりお付き合いしていた人が、いい感じの関係で夢に現れることがまれに僕はあって。目覚めた時、すごく嫌な気持ちになるんですよ。
――—え、いい感じの関係だったら幸せじゃないですか。
葉月:いやいや。なんでいま出てくるの? しかもいい関係でって思うんですよ。引きずってるからそんな夢を見るとか、夢を見たからその人に連絡してみようとかは一切ないんですけど、なんかもやっとした気持ちになる。それがすごく嫌で。嫌だなぁと思って歌詞にしました(笑)。それで、ファンの人に「こういうことあるよね」って問いかけると、全然共感してもらえないんですよ。なんでって聞くと「男性は恋の思い出を保存しておくけども、女性は上書きするから」っていうんですよ。僕としては別に保存してるつもりはないんですけど(笑)。
――「ALLIVE」はクラシカルなのに重厚感と激しさがあって。エモーショナルなサウンドが迫力で迫ってくるアレンジになってました。
葉月:熱くてハードなままクラシックスタイルにアレンジするというものの成功例が「PHOENIX」だったと思うんで、それを今回も同じアプローチでやった感じです。
――—ボーカルはlynch.のときとアプローチを変えているんですか?
葉月:変えてないです。あれだけヘヴィでうるさいアレンジをクラシックアレンジに変えても同じテンション感が出るんですからすごいですよね。テンション感が一緒だから、歌も同じでいいんですよ。
――—初回限定盤には2021年12月12日に東京・中野サンプラザで開催したコンサートのライブ映像とミュージックビデオが見られるそうですが。
葉月:特にライブ映像のほうは、ライブを見たことがない人には全体を見て感じて欲しいです。ライブハウスではなく、中野という会場は、このクラシックスタイルをやるにあたってすごく力を与えてくれるんですよ。そこの雰囲気も含めて、こんなおもろいことやってるんだなこの人というのを知って欲しいです。そして、ライブを見に来て欲しいです。
――—ちょうど1月27日から【奏艶】も始まることですしね。
葉月:いままでは1日で終わりだったんですが、今回初めて複数日やるんですよ。今回、東京は2デイズ、2月にやる名古屋公演は初。公演ごとに曲を入れ替えようかなと思ってますので、1本といわず、いっぱい来て欲しいです。いままで和楽器、ホーンセクションと広げきったので、今回は原点に立ち返ってピアノ1本で歌うパートもやろうと思ってます。
葉月/ALLIVE at 2021.12.12 NAKANO SUNPLAZA HALL
――—そして、このソロの後はすぐにlynch.の活動が始まりますね。
葉月:はい。アルバム『REBORN』を3月1日に出しまして。アルバムは一番バンドらしい作品になると思います。ソロをやったことで、lynch.は5人正式メンバーなので、その意味をより強く出したいなと思って。いままで僕が口を出しすぎて僕の色が強くなっていた部分も多々あったと思うので、今回は僕が引いて、みんなで5等分みたいな感じで作ります。それを掲げてツアーをやります。
――—では【奏艶】に向けて、読者のみなさんにメッセージをお願いします。
葉月:曲がちらほら変わるのでたくさん来て欲しいです。2022年、歌について本当にいろいろ考えて実践して成長できたと思うので、その成果をぜひ確認しに来て頂きたいです。
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リリース情報
公演情報
【奏艶】
- 2023年1月27日(金)東京・日本橋三井ホール
2023年1月28日(土)東京・日本橋三井ホール ※2部公演
2023年2月4日(土)愛知・名古屋市公会堂
チケット:
全席指定 8,000円(税込)
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