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凛として時雨 『just A moment』 インタビュー
凛として時雨 1年9か月ぶりのニューアルバムをリリース!
昨年末、16分を超える1曲のみを収録したシングル『moment A rhythm』をリリースし、シーンをメジャーに移した凛として時雨がhotexpress初登場! 既に各地のライブハウスで軒並みSOLD OUTを記録し、ロックシーンでは絶大な人気を誇っている彼ら。TK(vo,g)、ピエール中野(dr)、345(b,vo)の3人を招き、その新作がどのようにして誕生したのかを尋ねてきました。ハイテンションな轟音と綿密なサウンドプロダクトで音楽マニアからも絶賛を受ける彼らの魅力を、是非感じ取って下さい!
それが無くなったらプレイヤーとして死んでいるのと同じ
--昨年冬、2ndシングル『moment A rhythm』よりメジャーにフィールドを移しましたが、その影響をまったく感じさせない作品だったことに驚きました。
TK:1st『Telecastic fake show』はインディーズで出したんですけど、シングルという形態のものが無かったので、まず出してみたいっていうのがちょっとあったんです。そして『moment A rhythm』は時雨のいわゆる“そういう一面”じゃない所を1曲だけでパッケージングして出してみたいと。今までアルバムの中には入っていたけれども、それだけをパッケージして視覚的なものとリンクさせたいということで写真が付いたんです。
時雨の活動においては“結果的にそうなった”みたいな感じのものが多いので、メジャーになったっていうのもたまたまあのタイミングだったってだけで、今もインディーズの頃と変わらない環境なのでそういうストレスも全然無いです。だから作品は変わってるけど、フィールドの変化に対して気構えしているようには聴こえないんだと思います。
--確かに『moment A rhythm』には48ページものフォトブックも付属されていました。
TK:全てをシーンに分けて撮るようなことはなくて、とりあえずその場で良いなと思ったものを撮っていって、それをメンバーに見て選んでもらったんです。曲を作る時も僕はふたりを最初のリスナーと考えているので、リスナーにとってリンクしている写真を選んでもらいました。
ピエール中野:元々、北嶋くん(=TK)の撮る写真って好きだったんですけど、こういうものを見ていたんだな、っていうのをより濃い状態で見ることができた。あの写真を見てから曲を聴くと、聴こえ方が全然変わってくるんですよね。
345:(選ぶのは)楽しかったです……(笑)。直感的に良いものを選んだんですけど……。
TK:赤ちゃんしか写ってない写真とかもあったんですけど、可愛いからって345が選んできちゃうんですよ(笑)。
--また、ライブの会場もどんどん大きくなっていってますが、たった3人で音を出して何千人ものオーディエンスと対峙する。ひとりひとりにかかるその責任も含め、感じる変化は?
ピエール中野:こちらの変化はあまり無いですけどね、やるべきことをやってるだけです。
TK:曲はいつまでも作り続けられるものではないと僕は思っているので、「曲作りのプレッシャーは無い」とは言いたいですけど絶対にありますし、わざと自分にかけている部分もあります。それは昔から変わってないことですけど、できる中で一番かっこいいものを作らなければいけないと。年々増しているかどうかは分からないですけど、自分にかける負荷というのがもしかすると常に前よりも高く、っていうのはあるかもしれないですね。
--アルバム単位で考えても、テクニックも含めて常に更新されています。演奏者として要求されるものも高まっていると思うのですが?
ピエール中野:このバンドの場合は楽曲に忠実であれば、テクニックとかプレイヤーとしてどうっていうのは無い方が良いですね。曲にはめこんだときに理想とするパターンがあったとして、今の自分ではできないから練習して組み立て直してって作業はします。そういった過程での迷いや悩みは常にありますけど、それが無くなったらプレイヤーとして死んでいるのと同じだと思うんで。
--中野さんはブログなどを読んでいても、サウンドに対するこだわりが半端じゃないですよね。
ピエール中野:やっぱり良い音で聴きたいじゃないですか。キリがない所ではあるんですけど、自分の生活範囲で出せる、聴ける環境を作るのは趣味としてまず面白くて。「どんなことが趣味になるのか」って言ったら、「突き詰めても終わらないもの」だと僕は思っていて ―――それはドラムもそうなんですけど、身近にあるものが音楽だったので、どんどん追求していってます。
Interviewer:杉岡祐樹
歌詞の内容もふたりには殆ど話さない
--曲を作る上で、北嶋さんからの指示というのは何処まであるものなのでしょうか?
TK:凄く細かいのと投げちゃうのと、その時に応じてですね。僕はドラマーじゃないので、僕の欲しいフレーズは変なリズムだったりする場合が殆どなので(笑)、最初は「えぇっ!?」って場合もあると思うんですけど……。作っている人って誰でもあると思うんですけど、思いつきだとかその時にしか聴こえてこないフレーズとか、それを積み重ねていっているから、変な所でフィルが入ったり、おかしいリズムになっていったりっていうのはあると思います。
ピエール中野:だからやりがいがありますし、楽しいですよ。
--そして『just A moment』を5月13日にリリースしますが、アルバムとしては1年9か月ぶりになります。
TK:普通のサイクルが分からないんですけど、今1年に1枚っていうのは多いとも思っていて、普通の流れで作ったらこうなったって感じです。でも制作期間は2か月くらいなんです、実は(笑)。もちろん、昔に作ったけど構成し切れなかったものをやり直した曲だとか、ライブでやっていたのをアレンジした曲もあるので、ゼロからではなかったんですけど。割と短い部類かも分からないですね。普段から曲を作り溜めているタイプではないので、そのスイッチが入った時に3人で集中し始めるって感じです。
--曲が生まれてくる過程というのは?
TK:打ち込んでふたりに渡す時は、何でもいいからリズムを打ち込む所から始めると、普段思いつかないようなフレーズや曲調ができたりするんですよね。例えばそのリズムだけを聴きながら音を構築していくと、スタジオで作ることができない音が作れるというか。今回で言うとM-05『a 7days wonder』とか、なんかちょっと変な感じというか。
あとはスタジオで音を鳴らしながら、フレーズが見つかるまで探して録ってみて、そこからまた変化させてっていう作業を繰り返しますね。歌に関してもキーだったり345が歌ってみたりとか、思いつく限りのトライを全部やってみて、どれが一番良いのかを探る作業をします。
--例えばM-07『Telecastic fake show』では突然、ダンス的なリズムに変化したりしますよね。そうした展開も感覚的な所で構築していくもの?
TK:少しだけエレクトロニカ的な要素もあると思うんですけど、思いつきって凄く大切だと思っていて。でも意外と大変なのが思いつくことよりも、それを時雨の枠に収めることだったりして、部品ができているんだけど1枚の絵にならない、っていう所で苦労するのはありますね。
--また、今作には初めてのインストであるM-06『a over die』も収録しています。
345:スタッフの人に「インストないの?」って北嶋くんが言われて、次の日くらいに作ってきたんです、ツアー中に。
--え、この曲って1日で作ったんですか!?
TK:ベースはそうですね。完成させるまでは長いんですけど、自分の目の前に何かがちゃんと見えている時は早いかもしれないですね。M-02『Hysteric phase show』とかも完成している状態でふたりに聴かせたりしましたし。自分の中に何もない状態から何かを探す作業が一番難しいし、だからといって何かが降ってくるまで待っていたら曲なんてできないというか……。その中から探し出して出来上がったものも時雨っぽくなるんですね。
--セッションから完成した曲もあるんですか?
TK:セッションは殆どないですね。トライはするんですけど、……ちょっと憧れるじゃないですか、「ジャムったらできちゃいました!」みたいな。そういうのは一切無いですね(笑)。僕の中に何かがあって投げるのと、何も無い状態で「とりあえずやろう」っていうのは似て非なるものというか。みんなが探しながらそのまま終わる。そういうことはありますね。
--では歌詞は渡す時点でできているものなのでしょうか?
TK:一部分ができていることはありますけど、全部の歌詞ができていてっていうのは殆どないですし、歌詞の内容もふたりには殆ど話さないですね。
Interviewer:杉岡祐樹
僕のミックスというのはアクが強い
--凛として時雨はプログレッシヴと称されることが多いですが、最終的な詰めはかなり綿密に行うのでしょうか?
TK:僕らは作りながら録っちゃうんで、その作業はひとりでやっていたりするんですけど、その時が一番全神経を集中させるというか。完成したと思っても、時間を置いて聴いてみた時に同じ感覚を得れなければ絶対にやり直しますね。
--今作もレコーディングからミキシングまで、その殆どを北嶋さんが手がけています。
TK:今は曲を作る事だけに集中できているから、大変だなっていうのもないです。曲を作る上でレコーディングしてミックスするのは自然な作業だと思っています、そうじゃないと完成しないものが余りにも多いので。
--しかしM-03『Tremolo+A』と『a over die』に関しては、あえてエンジニアを招いていますよね。
TK:自分には出せない音が欲しい時や、第三者が入った方が良いと思った時は、コラボレートしてやっていて、その時に演奏したものをそのままパッケージしてもらう。楽曲が完成している状態じゃないと他の人にお願いするのは難しいので、どうしても曲数は限られてしまうんです。
僕のミックスというのはアクが強いというか激しいので、比べてしまうと地味に聴こえてしまう所もあるんですけど、それもちゃんとお互いに作用している。それがあるから僕のミックスが映えるし、逆もありますよね。
--特に『Tremolo+A』のように、アコギがここまで全面に出た楽曲は今までにはなかったですよね。
TK:1曲通してっていうのは初めての試みでしたね。元々はアコースティックギターだけで時雨を表現してみたいっていうのがあって、ツアーをやる前の段階で作った曲なんです。初めてステージでやった時も違和感が無く新しい一面が出た感じがしたし、ライブを重ねる毎に演奏も定着していきました。この曲は他のエンジニアさんに来てもらって、僕らの演奏をそのままパックしてもらった感じですね。
345:いつも通り弾いてたら(アコギの音が)聴こえなくなるので、その使い分けはしてます。でもアコギ自体は昔から弾いている所を見ていたので、特に違和感を感じることなく演奏しました。
--そして最後に収録されたM-10『mib126』。この曲はある意味では時雨の魅力が凝縮された楽曲ですよね、最後にツインペダルによる16分のKICK連発が出てきますし……。
ピエール中野:『nakano kill you』と同じ速さですからね(笑)。
TK:実は最後の日に作ったんですよ。上でマスタリングやってるのに下で歌詞書いてる、みたいな(笑)。ベースは元々あったんですけど、何処にでもいけるような楽曲だったんです、歌が入っていない状態で。だから最後の日にみんなに聴かせた時、びっくりしたかもしれないです、歌のフリーキーな感じとか。その時は全てが緻密に見えていなかったので、異常な集中の仕方をしながらやってました(笑)。時雨としての味が新しい一面も含めて出ている、っていうのが面白い楽曲だなって。絶妙な感じですね。
--凛として時雨は常に更新していくバンドってイメージがあって、この曲で終わることで次に広がっていく予感も感じさせます。この曲を最後にっていうのも北嶋さんが決めたことなのでしょうか?
TK:いや、僕は作ることだけに集中したので、みんなに決めてもらいましたね。全曲に対して完結させていくんですけど、アルバムを作る時には10曲が合わさった時の聴こえ方っていうのを考えてるんですね、10曲で聴いた時に一番良い状態になるようにって。
ピエール中野:前日に(345と)ふたりで話してて、決めた曲順で持って帰って聴いた時に感じたことを伝えて、ちょっとだけ入れ替えて今の曲順になったって感じですね。曲順によってシングルの聴こえ方も全然違うんですよ。
--では、アルバム『just A moment』は皆さんにとってどのような1枚になったと思いますか?
ピエール中野:このバンドが出す作品って凄くポテンシャルが高いものだと思っているんですけど、変わらずに高い作品ができて。色んな捉え方をされるようになるじゃないですか、ポテンシャルが高い作品って。そういう作品を作れたことが凄く良かったですね。
Interviewer:杉岡祐樹
just A moment
2009/05/13 RELEASE
AICL-2014 ¥ 2,934(税込)
Disc01
- 01.ハカイヨノユメ
- 02.Hysteric phase show
- 03.Tremolo+A
- 04.JPOP Xfile
- 05.a 7days wonder
- 06.a over die
- 07.Telecastic fake show
- 08.seacret cm
- 09.moment A rhythm (short ver.)
- 10.mib126
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