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<インタビュー>ロサンゼルスのシンガー レディ・ブラックバードが語る――すべてを削ぎ落とすことで人々が私の声に注目し、耳を傾けてくれるようになる

インタビューバナー

 ジャイルス・ピーターソンが〝ジャズ界のグレイス・ジョーンズ〟と称し、昨年に発表された初のアルバム『ブラック・アシッド・ソウル』が各方面で高い評価を集めたレディ・ブラックバード。まるでニーナ・シモンがやや耽美性を強めて現代に甦ったかのような、ジャズ、ヴィンテージ・ソウル、ゴスペルなどを境目なく情感豊かに歌いこなすその歌声は、豊かなキャリアに裏打ちされたものでありながら一度聴いたら忘れられないインパクトと深みを孕んだもの。アデル、エイミー・ワインハウス、セレステらの系譜に連なる歌声は、すでに大物の風格すら漂わせている。10月末にはシングル曲やリミックスを多数追加したデラックス・エディションが発表され、来年1月には貴重な初来日公演(1月26日 ビルボードライブ大阪、1月27日 渋谷WWW)を行う彼女に、音楽的なバックボーンやデビュー作の境地に至るまで、そして初となるジャパン・ツアーについてメール取材に答えてもらった。(Interview:吉本秀純 / 訳:落合麻美子 )

ターニングポイントは、クリス・シーフリードとの出会い

――あなたはレディ・ブラックバード名義でデビューする以前から、かなり長くシンガーとして活動されてきたようです。キャリアの出発点はゴスペルで、その後は、現在のスタイルとは異なるヒップホップやR&B色の強い曲も歌ってこられたと思いますが、レディ・ブラックバード以前の活動はどのようなものでしたか?

レディ・ブラックバード:子供の頃からずっと歌ったり、パフォーマンスすることはしてきていて、母に連れられて、教会で歌うようになったのが始まり。12歳の時に、最初のレコード契約を交わしたけれど、クリスチャンミュージックや宗教というものに自分が向いていないことに気づいて、(クリスチャンミュージックレーベルだった為)契約から抜けたの。それから、今でも自分のホームだと思っているニューヨークに行って、その後、ロサンゼルスに移ったんだけど、その頃はいろんなプロデューサーと曲作りやレコーディングをしていて、そして生活するため、注目されるため、とにかく私を使ってくれるあらゆる場所で歌って、それが今の自分につながっているわ。


――アンドラ・デイなどを手掛けてきたクリス・シーフリードとの出会いが、あなたにとって大きな転機になったと思います。彼との出会いから、レディ・ブラックバードとしてどのような歌を唄い、どのようなスタイルを築いていこうと考えたのかを改めて聞かせてください。

レディ・ブラックバード:私のターニングポイントは、紛れもなく、クリス・シーフリードとの出会いから。彼とは一緒にいろんなジャンルの曲を本当にたくさん作ったわ。自分達のサウンドを懸命に探していたの。彼が、音を削ぎ落とすことで私の声が引き立ち、聞く人がより私の声に耳を傾けるんじゃないかと考えて、そこからBlack Acid Soulが始まったの。


――ブラックバードという名前がニーナ・シモンの楽曲から取られているように、あなたの歌や音楽性にはニーナ・シモンからの影響を強く感じさせます。ニーナ・シモンはジャズだけに留まらず、ゴスペル、フォーク、ソウル、ロック、ラテン、アフリカ音楽など…あらゆるジャンルの楽曲を奔放に歌いこなした歌い手でしたが、あなたが彼女から受けた影響について聞かせてもらえますか?

レディ・ブラックバード:ニーナは女王。彼女の音楽から、そして、彼女の強さからも影響を受けているわ。私は偉大なシンガー達、そして数多くの強い女性達、私がやりたい事をできるようにしてくれた、その道を切り開いてきてくれた女性達からインスピレーションを受けているの。彼女達の存在には本当に感謝しているわ。



▲ Nina Simone - Blackbird

ただ、素直に感じたものを届けたい

――また、他にあなたが影響を受けてきたシンガーや音楽家をいくつか教えてください。

レディ・ブラックバード:よく聞いていた好きなシンガーは、グラディス・ナイトやビリー・ホリデイ、チャカ・カーン、ダニー・ハザウェイ、スティーヴィー・ワンダー。他にもたくさんいるわ。


――白髪のウィッグを付けて歌うことには、何らかの意味が込められているのですか? バレリーナのようでもあり、ドラァグ・クイーンのようでもあり、あなたの深みのある歌声と相まって、年齢/人種/ジェンダー不詳の他にないイメージを喚起させます。

レディ・ブラックバード:多くのバレリーナが髪を後ろに綺麗にまとめたスタイルをするし、ドラッグクイーンはまた全く違うスタイル。私がこのヘアスタイルをしているのは、今、私の気分がそういう気分だから。この気分がいつ変わるのかはわからないから、明日にはもしかして髪を剃っているかもね。


――ちなみに、何の予備知識もなくあなたの歌を聴いた時には、例えばアデルやアリス・ラッセル、あるいはサラ・ジェーン・モリスあたりの流れに近いような、古い時代の米国のソウルやジャズへの敬愛に満ちた英国のシンガーなのかな?と感じました。現在の米国の(特にメジャーな)ソウル~R&Bシーンにおいて、あなたのようなスタイルはかなり孤高のものではないでしょうか?

レディ・ブラックバード:いろんなスタイルの音楽に影響を受けてきているので、その一つ一つが今のアーティストとしての私を作ってくれていて、私の音楽に散りばめられている。だから、私自身は、違うことをやっているといったそういう感覚はなくて、ただ、素直に感じたものを届けたいとしているだけなの。



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歌うこと、それ以外特に明確に何かを表現したいという思いはなかった

――昨年にリリースされた初のアルバム『Black Acid Soul』について聞かせてください。デロン・ジョンソンによるピアノに、本当に必要最小限のドラム、オルガン、ギター、3ヴィブラフォンなどが加わるだけのシンプルな音作りですが、本作によってどのような世界を描こうと考えていたのですか?

レディ・ブラックバード:『Black Acid Soul』は先程も話したように、シンプルにすることが始まりとなっていて、とても繊細なアルバム。自分が一番好きなこと、つまり、歌うこと、それ以外特に明確に何かを表現したいという思いはなかったの。たくさんの人がこのアルバムを聞いて、気に入ってくれていることは、とても光栄で感謝しているわ。



▲ Lady Blackbird - Blackbird

――カバー曲のセレクトも非常に独創的です。ニーナ・シモン、アーマ・トーマス、ルー・ロウルズ(またはサム・クック)から、ルイジアナのルーベン・ベル、シカゴのクリスタル・ジェネレーションに、意外なティム・ハーディン、さらにはビル・エヴァンスの名曲「Peace Piece」を独自にヴォーカル化したものまで。曲によっては原曲からガラッとタッチを変えたものもありますが、これらの曲を選んだ意図や、レコーディングしてみて特に印象深かった楽曲について聞かせてください。

レディ・ブラックバード:このアルバムを作るにあたって、これ!と思う曲を見つけるために、本当にたくさんの曲を聴いたわ。あまり知られていない曲をあえて探そうという思いはあったけれど、それ以外、特にルールは決めていなくて、自分達の心に響くもの、そして私、個人としては、自分ならどういう解釈でどう届けられるかを考えて選んだの。そして、サンセットサウンドスタジオでのレコーディングは、これまでの私のキャリアの中でも、最高のミュージシャンたちと一緒にライブレコーディングすることができて、とても忘れられないものとなったわ。



▲ Lady Blackbird - It'll Never Happen Again

――3曲のオリジナル曲も、それらの古い時代のソウルの名曲群と並んでも聞き分けが付かない雰囲気を持ったものになっています。ソングライティングにおいて意識していることはありますか?

レディ・ブラックバード:曲作りにおいて、特にやり方は決まっていないの。歌詞から始める時もあれば、メロディーから入る時もあるし。ただ、忘れられないメロディーに素敵なストーリー、言葉を乗せることができるようにベストを尽くしているわ。


――『Black Acid Soul』は、ニーナ・シモン、マヘリア・ジャクソン、ビリー・ホリディといった名歌手たちが半世紀以上前に残した名作群を想起させますが、単に古き良き時代への憧憬とノスタルジーにだけに浸ったものではなく、しっかりと現代的な響きを孕んでいるようにも思います。そのあたりの、あなたの歌と音楽が孕む現代性について、思うところがあれば聞かせてください。

レディ・ブラックバード:結局のところ、私はただタイムレスな音楽を作りたいだけなの。名前を挙げてくれたミュージシャンは皆、時代を越えて愛されるタイムレスな音楽を作った人達。クリスと私は自分達のサウンドを見つけたと心から信じてる。私たちはその混じり気のない“Lady Blackbirdsサウンド”で曲を作っていくわ。


――そして、先日にリリースされた『Black Acid Soul』のデラックス・ヴァージョンでは、R&B的なビートの効いた楽曲やリミックスなども聴くことができます。新たに追加された楽曲の聴きどころなどについて、あなたの思うところを聞かせてください。

レディ・ブラックバード:リミックスがいっぱいあって、違った捉え方やアプローチで聞くのは楽しいわ。曲に新鮮さを吹き込むし、新しいオーディエンスにも届くことになると思う。


――来年の1月26日には大阪のビルボードライブ大阪、27日には東京の渋谷WWWで初となる日本ツアーが行われます。どのようなライブにしたいと考えていますか? また、レコーディング作品とは異なったあなたのライブ・アクトの特徴なども聞かせてください。

レディ・ブラックバード:今回、日本に行くのは初めてとなるので、とっても楽しみにしてるの。私のライブは、アコースティック寄りなものだったり、大音量で盛り上がるものだったり、どんな会場かによって変わるんだけど、いずれにせよ、それがショー、ライブよね。私はとにかく、みんなに楽しんでもらおうと思っているわ。


――最後に。レディ・ブラックバードとしては、今後にどのような方向に進んでいきたいと考えていますか? すでに次のアルバムについての着想などもあれば。

レディ・ブラックバード:次のアルバムの曲作りはほぼできているの。とっても素敵な曲が何曲かできたので、レコーディングをして、それを世界中に届けられる時が楽しみ。『Black Acid Soul』の流れもありつつ、且つ、より強くソウルが感じられるものになっているわ。



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