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<コラム>claquepot、Novel Coreとの“溶け合い”で見せる力強いアティチュード 「blue print」楽曲・MVレビュー
Text:蜂須賀ちなみ
2019年2月にデジタル・シングル「むすんで」をリリースするとともに、本格的に活動を開始。以降コンスタントに作品を発表し続け、2021年6~7月に初の単独ライブツアーを成功させて以降はライブ活動も盛んに行うなど、活動を活発化させていたソロアーティスト・claquepotが、1stフルアルバム『the test』を完成させた。
2020年代のアーティストらしく、これまでは配信リリースを通じて楽曲を発表してきたclaquepot。「自分の姿によって楽曲の印象付けをしたくない」という思いから自身の肖像を映像や写真に反映させないスタイルを採っていたため、メディアに出演することもほとんどなく、ベールに包まれた存在だったが(2022年8月に公開された「okashi」のMVでは姿を見せるなど、このスタイルは徐々に変化しつつある)、その楽曲のクオリティによって静かに、しかし着実に支持を広げてきた。12月14日にリリースされる『the test』は、claquepot初のフルアルバムであると同時に初のパッケージ作品でもあり、ファン待望のアイテムと言えるだろう。また、2019年7月に発表された「home sweet home」から2022年10月に発表された「rwy」までを網羅したうえで最新曲も収録した、まるでベスト盤のようなアルバムのため、これからclaquepotの音楽を知っていくリスナーにもうってつけだ。Blu-ray盤を購入すれば2020年に行われたオンラインライブ『claquepot online live 2020』の映像がいつでも観られるのも嬉しい。
『the test』には新曲「blue print feat. Novel Core」が初収録される。2021年6月には“RUNG HYANG × claquepot × 向井太一”としてコラボレーションEP『PARK』をリリース、2022年6月にはBLUE ENCOUNT・田邊駿一との共作曲「silence feat. 田邊駿一 (BLUE ENCOUNT)」を発表したほか、WHITE JAM、SHE IS SUMMER、JUVENILE、GASHIMAの楽曲に客演として参加するなど、他アーティストとのコラボも多いclaquepotだが、今回の楽曲ではラッパーのNovel Coreをフィーチャリングアーティストに迎えた。claquepotとNovel Coreは元々親交が深く、「いつか一緒に曲を作りたいよね」と以前からふたりで話していたそうだ。
澄んだ空気をイメージさせるクールかつダンサブルなトラックは、「flying」のトラックも手掛けたフィンランドのトラックメイカー・Tidoが制作したもので、メロディと歌詞はclaquepotとNovel Coreによるもの。claquepotが言葉を発した時に生じるリズムでもって軽やかに遊ぶシンガー・ソングライターだとしたら、Novel Coreもまたリズム感に長けたラッパーであり、もちろんそれぞれのアプローチには個性が滲んでいるものの、驚くほど自然に溶け合ってもいる。
〈ミステイク隠し/綺麗に整理したシーケンスを只/垂れ流している広告塔/見て見ぬフリをしてる間に/誰も居なくなってく〉、〈猫も杓子も皆 傍観者〉など鋭いリリックが印象的だ。ゴシップをはじめとした“他人の話”で盛り上がることに自分の人生の貴重な時間を費やすことも、広告でレコメンドされたものやネットで面白いと評判の作品にしか触れないという消極的な鑑賞姿勢もそうだが、情報の波に呑み込まれ、自分の目や耳を使うことを忘れてしまってはいないだろうか――。そういった問題提起の根にあるのは“ここにあるのは本物だ”という矜持であり、この曲からは、ソロアーティストとしてシーンの前線で活動するふたりのアティチュードが感じ取れることだろう。また、自分の中にある“設計図”や本能を大事にしていくべきだというメッセージ、そして「本当はあなただって気づいているんでしょう?」という問いかけは、リスナーに向けられたものでもありそうだ。
ミュージックビデオのディレクターを務めたのは、サカナクションのプロモーションムービーや、10-FEET、sumika、ヨルシカらのミュージックビデオなどを手掛けてきた映像作家・市川稜(koe Inc.)。オープニングは歩くclaquepotを背後から捉えたショットで、スーツ姿でパフォーマンスするclaquepotとNovel Coreの姿を収めたスタイリッシュな映像に仕上がっている。最初のシーンでclaquepotが歩いているのは客席のような場所で、Novel Coreと合流するのはステージのような場所、ふたりがいるのはアリーナのような建造物の中だろうか。その空間には日が差しているが、終盤では屋外でのカットが増え、青空の下で歌う姿も。曲が進むとともに映像から受け取ることのできる印象も変化していく。
また、「blue print」というタイトルにちなみ、今回の撮影のために青焼きを模したプロップスが用意された。青焼きとは、製版フィルムを青写真感光紙に焼き付ける印刷法のことで、かつての建設・建築業界ではこの技法で図面を複写していたが、時代の変化とともに感光紙の製造が終了したことで、この技術は今ではほとんど使われていないという。そのため今回は通常の印刷で青焼きを再現。『the test』のアートワークや楽曲の歌詞など、アルバムに因んだグラフィックを印刷したプロップスは、0:50、1:18~、3:34~で確認できるだろう。ご覧の通りプロップスが映るのはほんのわずかな時間のみだが、そういった細部にまでこだわって今回のミュージックビデオは制作されたのだ。実際にその目でプロップスを確認したclaquepotとNovel Coreは「すごい!」「(MVの完成が)楽しみだな」と感動していた。
クールなMVとは裏腹に、撮影は和やかなテンションで行われた。先述の通り、claquepotとNovel Coreは元々親交が深く、気心の知れた仲ということで、撮影の合間には雑談をしながら笑い合っている。声が響く場所だったからか、突然合唱曲を歌い始めたNovel Coreに対し、claquepotは共に歌ったりしつつも、わざとふざけた歌い方をするNovel Coreにツッコミを入れることも忘れない。お笑いコンビで言うところのボケとツッコミを思わせる関係性が窺えるが、claquepotが「(Novel Coreの所属事務所である)BMSGの人たちはボケばっかりだから。社長(SKY-HI)と1時間いたら多分100回はツッコんでる」と笑うと、Novel Coreも「確かに。同じ血筋なんですよ」と応じていた。また、Novel Coreのソロカットの撮影中には、その様子を遠くから眺めていたclaquepotが「(Novel Coreが)アリーナ(でワンマン公演を行っている姿)が想像つくわ」と呟く一幕も。アーティストとして信頼し合っている様子も垣間見えたのだった。
そんな「blue print feat. Novel Core」も収録した『the test』はいよいよ12月14日にリリース。その全貌が明らかになる日が楽しみだ。
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