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<インタビュー>藤原さくらが原点に戻った最新EP『まばたき』を語る



藤原さくらインタビュー

 ドラマ出演に弾き語りツアー、ラジオ、主題歌起用など、多岐にわたって活動する藤原さくらが新曲に加え、アコースティック・セルフカバーを収録したシングルEP『まばたき』をリリースした。確実にファンを増やしつつある藤原が、本作を制作して気づいたことは「やっぱりアコースティックなサウンドがすごく好き」だということ。ファンから届いていた声、そして新しくファンになった人々を思って完成させた最新作、そして現在放送中のドラマ『束の間の一花』やミュージカル『ジャニス』のことまで、話を聞いた。(Interview: 永堀アツオ)

――最初に近況からお伺いします。ドラマ『束の間の一花』のオンエアがスタートしましたが、どんな日々を過ごしてますか?

藤原さくら:正直、忙しすぎて……(笑)。とんでもないスケジュールのなか、頑張ってます!

――あははは。ヒロイン役というプレッシャーはありますか?

藤原:立ち位置によるプレッシャーというよりは、元々、原作の漫画が好きだったので、一花(いちか)ちゃんを演じることに対してのプレッシャーはありましたね。もうすぐクランクアップなんですけど、最後まで難しい役どころだなと感じてます。余命を抱えてる女の子で、彼女が持つ哲学みたいなものがあったりする。かっこいい女の子だなと思いながら、自分と違う部分も似てる部分もあるので、ちょっとずつ重ね合わせながら頑張っている最中です。

――ご自身と重なった部分というのは?

藤原:話をするのがすごく好きっていう部分ですかね。大学の哲学講師の萬木先生(京本大我)とのやり取りの中でよく会話をするシーンが出てくるんですけど、話すことが大好きで、明るいところは似てるのかなと。

――彼女の哲学と通じる部分もありましたか?

藤原:「本当に余命がある人の気持ちがわかるのか?」って聞かれたら、完全にわかったと言い切ることはできないんですけど、ただ、自分がずっと思っていたことと近いこともあるんです。終わりが来るのがわかっていても楽しもうとする姿勢というんですかね。どんなにつらいことでも、とりあえず楽しむところは自分の考え方とも近いなと思いましたし、それを意識しながら演じています。

――今のお話は、新曲「まばたき」の根底に流れている哲学とも近い気がします。いつか終わりが来ることがわかっているからこそ、刹那の今が輝くという。

藤原:自分としては久しぶりに書いた恋愛の曲なんですけど、確かにそういう歌ではありますね。最後、希望を見出せるわけでもなくて。終わりが来るのはわかってはいるけど、せめてこの瞬間だけは、どうしても瞬きせずに見逃したくない、みたいな。そういう別れの瞬間を切り取れたらなと思って書きました。


――8月に出演したブロードウェイ・ミュージカル『ジャニス』についてもお聞きします。藤原さんにとっては初のミュージカルになりますが、どんな経験になりましたか?

藤原:私だけじゃなくて、共演した皆さんが言えることだと思うんですけど、実在するミュージシャンを演じるのは、とても貴重な経験だったと思います。音楽監督の亀田(誠治)さんは「ものまねをするというよりは、その人たちが持っているスピリットやブルースの根底にあるものを理解した上で歌ってもらうのが一番大事なこと」とおっしゃってて。私はベッシー・スミスとオデッタの二役をやらせてもらったので、どんなふうに演じ分けたらいいのかをいろんな方にご指導いただきました。あの時代の音楽をより深く聞く時期にもなったので、すごくいい経験でした。

――ベッシー・スミスは1920〜30年代に活躍したブルース歌手で、オデッタは50〜60年代を代表するフォークシンガーでした。

藤原:ふたりの音楽をいっぱい聞きましたし、映画やライブ映像を見て、いろんな研究をしました。オデッタのほうが自分の普段のスタイルに近い気がしましたし、自分で曲を書いて、ギターを弾きながら歌うっていう意味では、すごく共感できるところも多かったです。ベッシー・スミスは、建物を揺るがす声量みたいなキャラクターだったので(笑)、すごくプレッシャーに感じました。

――共演者からはどんな刺激を受けましたか?

藤原:見に来てくれた友達やお客さんからも言われたんですけど、全く違う個性を持ったアーティストが一堂に会していたので、すごくいい刺激を受けましたね。特に、アイナ(ジ・エンド)ちゃんと(緑黄色社会の長屋)晴子ちゃんは同世代で、本当に全然違うスタイルで音楽をやってきてて。あの膨大な量のセリフと歌をやり切ったアイナちゃんは、隣で見てて、ものすごくかっこよかったですし、晴子ちゃんとは今度対バンのライブもありますし。すごく素敵な方たちと共演できて幸せでした。

――よく聞かれる質問だと思うんですが、ドラマや舞台の経験は音楽活動にはどんな影響をもたらしてますか?

藤原:本当に影響が出てくるのは、やっている最中では全然なくて。今は全く音楽活動ができていない状態ではあるんですけど(笑)、これがもうちょっと自分の中で消化できたら曲になっていくのかなっていうのを、今までの経験から思いますね。慌ただしく過ごしていると、なかなか見えづらかったりするんですけど、ちょっと落ち着いてくると、そのときに感じたことが曲になったり、歌詞になったりしていくんです。

――20代は枠を設けずにいろんな挑戦をしてみようと決めているとか?

藤原:いや、そういうのはなくて、ただ本当に楽しいからやっている感覚です。お話をもらった時に「やってみたい!」って思ったことだから続けている感じですね。

――ただ、確実に繋がっている部分はありますよね。「まばたき」では『ジャニス』のバンドに参加していた名越由紀夫さんがギターを弾いてますし。

藤原:そうですね。「まばたき」はデビューの頃からお世話になっていて、私が大好きなアーティストでもあるCurly Giraffeさんと一緒に制作をしています。どういうメンバーでレコーディングをしようかっていう雑談をしているときに、名越さんの名前が上がりました。ちょうど名越さんと『ジャニス』でご一緒していて、稽古中か稽古前のレコーディングだったんですけど、地続きでレコーディングできて嬉しかったです。

――ドラムは『ジャニス』でアレサ・フランクリンを演じていたUAのサポートドラマーとしても知られる、実験音楽家でもある山本達久さんです。

藤原:映画『ドライブ・マイ・カー』の劇伴を手がけた石橋英子さんのライブを見に行ったときに、山本さんがドラムを叩いていて、山本さんのプレイに釘付けになってしまったんですよ。「なんて素敵なドラムを叩くんだ!」と思って。いつかご一緒したいと思ってたので、今回ご一緒できて嬉しかったです。

――アコギ、エレキ、ベース、それにドラムがブラシでリズムを叩いているというシンプルな編成で、音数も少ないラブソングになってます。どんな曲にしたいと考えてましたか?

藤原:ちょっと原点回帰の作品にしたいな、とは思っていました。デビュー当時からやっていたアコースティックなスタイルに戻るような気持ちでできたらいいな、と。

――その理由はありますか? Curly Giraffeがベースで参加していた前作『SUPERMARKET』はローファイ・ヒップホップやファンク、ジプシージャズなど、実験的とも言えるくらい新しくて刺激的なサウンドに挑戦したアルバムになってました。

藤原:そうですね。音数が多かったり、やりたいことを詰め込んだりしたアルバムだったんですけど、今年の5月から初めて弾き語りツアーをはじめて、アコースティックな音楽に触れることが多くなって、音数の少ない編成でやってみたら見えるものがありそうだなと思ったからでしょうかね。

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自分の今の気持ちをよりシンプルな形で届けることができたと思います

――「まばたき」は、ABEMAドラマ『恋愛ドラマな恋がしたい in NEW YORK』の主題歌にもなってますよね。

藤原:このドラマは、曲に合わせてドラマを作るという今までにない進み方だったので、制作をする時に「どんなふうにしてもいいよ」とだけ言われて。ドラマの脚本を見ながら書くのではなく、この曲をベースにドラマが作られていくのは私も初めての経験でした。どんなストーリーなのかは、まだ私もわからないんですけど、ニューヨークで撮影してるみたいで、「すごっ!」と思ってます(笑)。

――さくらさんは、2019年に初舞台『偽義経冥界歌』が終わった後に単身ニューヨークとロサンゼルスに行っていたので、それと関係があるかなって思ってました。

藤原:あははは。いや、ドラマの内容には全然関わってないんです。でも、歌詞を書く前から、「久しぶりにがっつり恋愛の曲にしたいな」って話していて。失恋の曲にしようって思ったのは、私です。

――それはどうしてですか?

藤原:それこそ、今やっているドラマにちょっと通ずるところがある曲だと思ってて。以前書いた「mother」は愛について歌った曲でしたが、恋愛に限らず、誰もが“別れ”に直面するじゃないですか。生きていたら誰しもが通るものだと思うんですけど、その別れの瞬間を切り取って歌詞にしてみました。

 遠距離恋愛の曲って言ったら伝わりやすいのかな。恋をしている女の子だったら、誰しもが感じたことのあるような。「大丈夫、大丈夫。私、別にあの人がいなくても生きていけるわ」って、友達と話しているときはそう思っていたのに、夜一人になったら心がまた揺れる。その気持ちを押さえつけてしまえたらいいけど、それができないからこそ、「最後の一瞬を自分の心のシャッターにしまっておこう」みたいな。そういう気持ちを歌っています。

――別れが訪れることがわかってるときの気持ちですよね。目を閉じた瞬間に相手が消えているくらいの切なさを感じます。もう1曲、Curly Giraffeのプロデュースで、2017年にパラスポーツアニメ陸上編テーマソングとして書き下ろした「Just the way we are」も収録されてます。

藤原:ずいぶん昔の曲なんですけど、ずっとリリースができていなくて。ファンの皆さんからも「音源化されないんですか?」っていう声をよくいただいていたので、これはいい機会だと思い、満を辞して、投入しました。

――もう5年前になりますが、当時はどんな思いで書きましたか?

藤原:窪之内英策さんという漫画家さんの絵に載せる曲として作ったんです。「まばたき」とは真逆で、アニメの秒数や尺に合わせて作っていきました。窪之内さんのイラストが本当に大好きだったので、もう光栄の一言というか。「この素敵な絵に合う曲を書きたい」って、すごく頑張って制作した記憶があります。

――応援歌ですよね。

藤原:はい。それこそアニメのストーリーがある程度決まっている状態から書き始めたんです。落ち込んだり、「これで大丈夫かな?」って思ったりすることが多かった時期に、応援してくださる方々の声に本当に励まされることが多くて。励ましてもらったお返しがしたいって思うこともすごく多かったんです。実際の映像も、自分を助けてくれた男の子に恩返しするストーリーで、リンクしたというか。すごく気持ちのこもった曲になりました。

――一緒に走ってる感じがありますよね。

藤原:そう言っていただけて嬉しいです。自分の曲を元の音源のまま歌い直すのを初めてやったんですけど、当時の歌声からちょっと変わっていて、新しい色を付け直せたし、大好きな曲だったので、ようやく音源化できて嬉しいですね。

――少しLAの風も感じます。

藤原:CurlyさんのアレンジにLAを感じますし、ドライブしてる感じもあります。

――さくらさんがLAの海岸沿いを朝ジョギングしていて、その横をサングラスにアロハシャツのCurlyさんがオープンカーで通る、みたいな。

藤原:あははは。Curlyさんのアルバムに「LA」っていう曲があって、一緒に歌ったことがあったので、私達の共通項としてLAがあるのかもしれないです(笑)。

――(笑)。今回はシングルEPという形で、既存曲を弾き語りで新たに歌い直したアコースティック・アレンジが4曲収録されてます。

藤原:弾き語りのツアーをしていて、「まばたき」も自分の原点と言えるアコースティックな作風になったので、「昔の曲を弾き語りで歌い直すのはどうか」と言われて。インディーズの頃のアルバムはサブスク解禁されてないし、「ライブでも歌って欲しい」っていう声をいただくことも多いので、「それを弾き語りで入れたらいいかもね」みたいな話からちょっとずつ選曲していきました。


▲千葉・マザー牧場公演より

――選曲について聞かせてください。インディーズの頃の曲は「ラタムニカ」(2014年3月リリースのインディーズ・アルバム『full bloom』収録)ですよね。

藤原:そうですね。「わたしのLife」はわりと最近の曲(2022年3月23日配信)ではあるんですけど、弾き語りツアーを回っていくごとに、全く違うアレンジに変わって。Yaffleさんがトラックを作ってくれて生まれた曲で、ギターで作った曲ではないからこそ、ギターで弾いたら、すごく面白く変化した1曲だったので、「これは入れたら面白いね」って話になりました。「「かわいい」」(2016年2月リリースの1stアルバム『good morning』収録)はドラマ『ファイトソング』に出演した後に、いろんな方から「この曲が好き」って言ってもらえる機会が増えて、ライブでも喜んでもらえることが多いんです。ずいぶん前の曲だけど選びました。元々は華やかでジャジーなアレンジだったので、弾き語りにしたら雰囲気も変わるのでスタッフさんと話して決めました。「ゆめのなか」(2020年10月リリースの3rdアルバム『SUPERMARKET』収録)だけ、ファンの皆さんからの投票で決まった曲ですね。


――ファン投票の1位が「ゆめのなか」という結果はどう感じましたか?

藤原:意外でしたね。「インディーズの頃の曲を歌ってほしい」って言われるのかなって思ってたんです。ここ最近リリースした曲が好反応なのは嬉しい限りですね。

――反抗期の曲ですよね。

藤原:実は10代の頃に書いた曲なんです。距離が近い人に対して素直になれなかったり、どうしても口調が強くなっちゃったりすることがある人は多いと思うんですよ。強い言葉になっちゃったとき、どっちも傷ついているというか。言われた側だけじゃなく、言ってしまった側もすごく傷ついている関係って、いろんな人が抱えてるんだろうなと思って作った曲ですね。だから、自戒の念も感じつつ、今でも歌ってます。

――(笑)。「ラタムニカ」も反抗期といえば反抗期だけど、もっと強い怒りを感じます。

藤原:この曲は友達のことを歌ってます。小学生の時にお父さんのことをすごく好きだった友達が、中学生になって、急にお父さんのことをすごく悪く言うようになって。「あいつは帰ってこなくていい!」みたいな。うまくいかないことに対する悲しみや「本当はもっと愛してほしい」っていう気持ちが根底にないと、そんな気持ちにならないんじゃないかと思って。そこから勢いで書きました。

――最初に原点に立ち返ることで、また見えるものがあるんじゃないかっておっしゃってましたが、作り終えて何か見えたものはありましたか?

藤原:やっぱりアコースティックなサウンドがすごく好きだなって思いました。あとは、弾き語りツアーをやってきて、いろんな人たちとすごく近い距離で会話できたような感覚があったからこそ、こういう形になったんだという実感もあって。ひとまず、自分の今の気持ちをよりシンプルな形で届けることができたと思います。

――弾き語りツアーも再開してます。今後はどうなっていきそうですか?

藤原:(大濠公園)能楽堂から始まり、映画館、天文台、博物館、美術館、寺院、牧場……とやってきて、引き続き、水族館や教会、各地の面白いところで、場所の力を借りながら回っていくツアーになると思います。そして、来年にはその集大成となるような公演ができたらいいなと思ってますね。弾き語りツアーは、度胸試しというか、自分の真価が問われるなって感じていて。少しずつ自分の力になっている実感がありつつ、もっともっと成長していきたいです。

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