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【北山陽一×村上てつや×田中祐子(指揮)】ゴスペラーズ初のオーケストラツアーに向けたミュージッククロストーク!3人の音楽家によるファーストセッション【特別リハーサル編vol.2】

インタビューバナー

 ゴスペラーズ初のフルオーケストラツアー【billboard classics The Gospellers Premium Symphonic Concert 2022】が、11月15日東京文化会館大ホールを皮切りに北海道、福岡、兵庫、愛知で開催される。このコンサートにかける思いを、ゴスペラーズの村上てつや、北山陽一と、指揮者・田中祐子との座談会が実現。【前編】は「最初のリハーサル」という捉え方で、コンサートの前段部分として音、声を“合わせる”、“重ねる”ということについてそれぞれの考え方を確認でき「リハーサルのリハーサルになった」というほど、充実した座談会になった。【後編】では、公開された演奏プログラムより、演奏する曲に込められた思いや選曲、アレンジの意図などを語ってもらった。どんなコンサートになるか、いよいよその全貌が見えてくる。(Interview & Text:田中久勝)

ゴスペラーズの呼吸

――フルオーケストラ×ソロシンガーとヴォーカルグループの違い、難しさはどういう部分でしょうか?

田中:ゴスペラーズさんのライヴを観させていただいた時「5人がオーケストラそのもの」と思いました。トランペットもいる、北山さんはコントラバスというか弦楽器の音がしますし、木管楽器の感じの音もあって、5人でオーケストラとして完成されているのに、私が入り込む余地あるのかなって、今でも半分ぐらい思っています。そこが一番の難しさであり、面白さでもあると思います。山崎さんと玉置さんのツアーは何人かの指揮者が交代で行なったのですが、今回は全公演やらせていただくので、そこの不安は少しあります。

村上:ソロヴォーカルなら、その人の呼吸をみんながキャッチするということに全集中すると思いますが、我々の場合は5人が一糸乱れぬように、というのが理想ですが、実際はなかなかそうもいかなくて(笑)。特に、さっき北山も言っていましたが、音の始まりについての感覚が、クラシックの方の「ここだよ、頭」という感覚と、僕らの感覚とは違うと思います。それを5人がどうキャッチするか、その感性も若干違うのでそこもポイントになりそうです。でも、田中さんに全公演指揮していただくことで、まさにそこにみんなが集中していくことになると思うし、僕らがオーケストラに“乗っかっている”感じになるのもダメだと思います。

田中:本当にそうだと思います。みなさんにはまさにオケをドライブしていただきたくて。私はちょっと交通違反があったら注意する程度で、ドライブするのはゴスペラーズさんたちです。ゴスペラーズさんの呼吸というものがないと、私は多分(指揮棒を)振れないですし、また、私からもブレスを伝え、そしてもらい、また伝え、もらうというキャッチボールができたらいいですね。

北山:ゴスペラーズがひとつになって作っているものと、オーケストラがまとまって作るものが、重なって鏡餅状態になるのではなくて、それぞれがオープンになって、ひとつになろうという架け橋が、田中さん=指揮者という形がいいなと思っていたので、目指していることはすでに一致していますね。

村上:もうリハのリハは十分できたような気がしているので(笑)、そろそろ曲についての話にしないと終わらなくなりそう(笑)。


歌っている本人ですら気づいてない、忘れていた感情が、そこに出てくると思います

――今回のツアーはいつものゴスペラーズのライブと違って、クラシック公演のスタイルに則って、演奏曲を事前に発表することになっています。

村上:今回は発表することでみなさんにイメージ膨らませてきて欲しいです。


――もうオープニングの「Overture(序曲)」からグッときて、そこからの「ひとり」は早くも号泣ポイントです。

北山:はい、泣きました(笑)。もうオーケストラのアレンジデモが良すぎて。

村上:素晴らしかった。でも「Overture」は何を演奏するかはお楽しみということで(笑)。


――お客さんも初めてのフルオーケストラコンサートということで、緊張感もあると思いますが「Overture」が緊張をほぐしてくれそうです。

北山:そう思います。そうすると、その後の僕らの歌も多分3割増しぐらいに聴いてくれる気がするんですよね(笑)。僕らもリラックスできるというか、いい気分で歌い出せると思います。僕らが歌わない僕らの曲ってここだけだし、ふだん僕らが歌っているフレーズをオーケストラに歌ってもらい、しかも複数のオケに演奏していただけるので違う歌になると思います。すごく楽しみです。

村上:「Overture」を聴いていると、演奏として「こっちが正解!」と思えるんです。北山が言ったように、普段我々歌っているものをアレンジしていただいて聴くと、よりそういう面白さっていうのは「Overture(序曲)」の中にいくつも感じました。非常に楽しみです。


――初めてのフルオーケストラコンサートということで、演奏曲を見ると代表曲が揃っていますが、そこはコンセプトとしてはあったのでしょうか?

村上:そうですね。ここに関してはいい意味で、今まであまり興味なかった方とか、観たいと思ってたけど実際に観たことがない、そういう方達にも届けたいという気持があるので、いわゆる代表的な曲は全部入れました。原曲に近いアレンジでやったり、ちょっとテクスチャーがあるというか、ストーリーがあるものとか、普通にフルオーケストラで弾いていただきました、という感じになはならないようにしました。

北山:ファンの皆さんは、もしかしたら元々ストリングスがたくさん入ってる曲とか、オーケストラのイメージがある曲を、フルオーケストラでやるんだ、と思っている方が多いかもしれません。そういう側面もありますが、でもそればかりだと豪華なカラオケ大会のような感じになってしまいます。

村上:そこを考えつつ、でもこちらのそういう想いだけを押し付けるのでもなく、という観点で選曲しました。


――「ひとり」も何度も聴いている曲なのに、今回のアレンジはまた違うところから感情をくすぐってくれる面白さがあります。

村上:本当にそうだと思います。アカペラってどこかで諦めの音楽だと思っていて。この曲はコード進行がシンプルであるがゆえ、本当は色々なことができるスペースがあるのにアカペラでは限度があるというか(笑)。今回のアレンジでは、今まで自分の頭の中で鳴ってなかったのに、「こういう音、確かに鳴るわ」っていうのが、聴いてるとどんどん出てきます。すごく勉強になりました。


ゴスペラーズ「ひとり」 / THE FIRST TAKE


北山:僕らが持っている最大のストロングポイントはアカペラで、アカペラとオーケストラっていうのが聴いている方からすると、一番落差があるわけですよね。その落差をいくつもお届けできるっていう意味で、我々の大きなヒットである「ひとり」から入るのがいいと思っていて。

村上:この曲に限らず、アカペラの曲をオーケストラで歌うというのは、色々な言葉、メロディ、ハーモニーが“音楽”になっていて、そこから色々な感情が外に飛び出てきて、それをオーケストラがさらにくすぐって、纏って、糸にして、違う服を紡いで、アカペラの上から着させてくれる、そういう感じです。歌っている本人ですら気づいてない、忘れていた感情が、そこに出てくると思います。


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予習することで逆に感動が大きくなると思う

田中:「ひとり」に限らず他の楽曲も、とてもその作品をよくご存じの方が、演奏曲の情報を手に会場に来るわけですよね。指揮者としてこんなにプレッシャーのかかることはないんです。何てことをしてくださったんでしょうかっていう感じです(笑)。やっぱりポップスのファンの方って、クラシックの愛好家さんとはある種ちょっと違う耳を持っていらっしゃるというか。その両方ともが大変マニアックではありますが、全公演観てくださっている方もいて、その方達は「うわ、こんなところまで聴いてくださってたんだ」というマニア度合が違うんです。これまで玉置さんや山崎さんとご一緒したときに、「札幌公演では、ここのリタルダンド(だんだん遅く)はこうだったけど、愛知公演ではこのぐらいしていた田中マエストロ」みたいな感想をいただいたり(笑)。クラシックのファンの方もここまでは聴いてくれないと思うので、その方々の期待をいい意味で裏切り、いい意味で裏切りたくないっていう、この二つの感情が入り混じっています。いつもと違うけど、これもすごくいいねって言ってもらえるところまでもっていきたい。演奏曲、先に発表して欲しくなかったな(笑)。

北山:そこは田中さん、我々とファンと、シェアして負担しましょう(笑)。例えば「星屑の街」ではホルストの「金星」のフレーズが使われていたり、「月光」はドビュッシーの「月の光」に繋げたり、そういうクラシック曲とのコラボは、普段あまりクラシックを聴かないという方に、事前に聴いてきていただけると、その曲の世界により深く入っていけるはずです。第2部の「展覧会のゴスペラーズ」(プロムナードメドレー)もそうです。ムソルグスキー作曲の「展覧会の絵」をモチーフにして、我々の曲を絵画に見立ててメドレーを披露します。“ゴスペラーズ美術館”で開催されている絵の展覧会を訪れている気分で、散歩(プロムナード)をしているような雰囲気というものを、まずは原曲を聴いて味わって来て欲しいです。こういう情報がなければ、たぶん美術館にいる感じはしないと思うんですよね。予習することで逆に感動が大きくなると思うし、ハッとしていただけるはずです。「展覧会の絵」の構成、構造は発明だと思うので、それを予習してもらえるというのは、演奏曲を事前に発表するいい面だと思います。


村上:僕はもちろん「展覧会の絵」という曲は知っていますが、今、北山が言った話は知りませんでした(笑)。クラシックって、曲は知っているけど曲名が出てこない作品っていっぱいあるじゃないですか。だから「展覧会のゴスペラーズ」に関しても「みんなで美術館の回廊を回っていくよ」ということは伝えておかなければ、味わいが全然違ってくると思います。

北山:「展覧会の絵」のような名曲の構造を使って、自分たちの曲を絵に見立てるというのもクラシック好きの方からしてみると「ちょっと」って話かもしれませんが、こういうポップスとクラシックのコラボの時は、我々に限らず、そういう企画はありだと思っています。


ポジティブな可能性しか感じていません

田中:最初「月光」をドビュッシーと重ねていくというアイディアを聞いた時は、すごく面白い試みだと思うし、20年前の自分だったら、「ちょっと嫌かも」って思ったかもしれないけど(笑)、どうして今は面白い! って全然受け入れられるんだろうって、自分でも答えが見つからないんです。この2年、ポップスの演奏会をやらせていただいてきて、お客さんたちがクロスオーバーしてくださるんですね。我々が無理に垣根を越えなくても、例えばある演奏会で、前半はミュージカルスターの方とご一緒して、後半は、それこそ「展覧会の絵」をお聴かせしたことがありました。その1週間後、自分のゴリゴリのクラシックの演奏会で、30人くらい出待ちしてくださっている方達がいて、何だろう?と思ったら、前回聴いてくださった方がまた聴きに来てくださって、カラヤン指揮の「展覧会の絵」のCDを手に「これにサインしてください」って(笑)。

北山:(笑)最高です。

田中:こんなに嬉しいことはなくて、その方達は、そのときに初めて「展覧会の絵」、クラシックを聴いて、生のオーケストラも初めてだったそうです。それで私の演奏会を検索して、わざわざ地方まで来てくださって、これってすごく意味のある演奏会だなって思いました。その後も、玉置さん山崎さんとご一緒しても、お客様がクロスしてくださるんです。どちらのお客様も、どちらにも来てくださるようになっていくという意味でも、「月光」で「月の光」を重ねるというのは、ポジティブな可能性しか感じていません。


――ポップスとクラシックの垣根はないということですよね。

田中:でも垣根はないとか、そういうことって簡単にいえないくらい、ゴスペラーズさんはプロフェッショナルであり、私もこちらの世界でプロとしてやっているので、やっぱりお互いのフィールドは大事にしなければいけない部分もあると思います。だけど、結果的にそれを超えることができた瞬間というものが、最近実体験としてあったので、絶対にこれは自信を持ってお届けできると思うし、期待して欲しいと思います。今自分でハードル上げましたけど(笑)。

北山:大事なことだと思うので、思わず突っ込んでしまいますけど、まさに「月光」が一番そうだと思いますが、「月の光」の一番有名なフレーズだけゴスペラーズの楽曲とマッシュアップさせるので、コアなクラシックファンの人が、ドビュッシーだと思って聴いたら、あれはドビュッシーじゃないんですよね。何か「においがする」みたいな感じだと思うし、そこはまさにシャレとして受け取って欲しいです。でも、そのシャレで、「月の光」だと思ってくれた方には「月の光」という言葉から光を感じて、あの曲をもっと深く感じていただけるはずです。その分解する感じが、僕もガチのクラシック好きなので多分、ゴスペラーズじゃなかったら絶対に許せないです(笑)、自分で言うのも変ですが(笑)。


田中:これを最高の名曲として聴かせたいとすごく思っていて。テンポ感や音のバランスの取り方でいかようにも聴こえると思うし、オーケストラによっても違ってきます。これはゴスペラーズさんにも楽しみにしてほしいところで、指揮をする私は一人なのに、出てくるテンポ感とかも全部オケによって違ってきます。だからそこも、めちゃくちゃ楽しみにしていただきたいポイントです。私達は楽譜から捉えたものを表現する人間、逆に言うと楽譜がないと生きていけないジャンルの人間なので、音譜から感じたものを、演奏家一人ひとりが自分で咀嚼して音を出していきます。それぞれのオーケストラが譜面を前にして感じ取ったものを、お客様には楽しんでいただきたいです。


色々なところで“遊ぶ”ゴスペラーズっていうのを感じに来て欲しいです。

村上:個人的には第2部の最初の、オーケストラのみでの演奏のパートは、何を演奏してくださるのか、すごく楽しみです。

北山:僕も楽しみですが、それは楽しみにとっておきたいという気持ちも……。

田中:2部の頭っていうことで、その後にくる「Happy」(ファレル・ウィリアムス)に、いいアトモスフィア(雰囲気)が流れるといいなと思っていて。すごく快活なものから、しっとりしたものまで、色々と提案しています。例えば2公演ずつぐらいで曲が変わるというのはどうですか?

村上:大歓迎です(笑)。そこはもう普通にリスナーになってますから(笑)。

田中:それから、プログラムを見て私が感じたのは、スローテンポな楽曲が多くないですか?気のせい?(笑)

北山:確かに多いかもしれませんね。

村上:多いです(笑)。

田中:そうですよね。最初にも言いましたが、この間のライヴでノリノリの曲がすごくよかったので……特に「いろは」。

村上:ということは、今回のプログラムは……やや不満でしたか(笑)。

田中:(笑)ばれました?

北山:「オーケストラだからって、ゆったりしてると思うなよ」みたいなね(笑)。

村上:(笑)そういうことですよね?

田中:もっと、「イェイ!」みたいな曲が振れるのかなって思って(笑)。ライヴを観ながら構想を練っていました(笑)。オケがジャズっぽい感じで鳴らしたとき、ちょっとクラシカルに、後ろでビートを取るみたいな、そういうおしゃれな感じのものをやりたいです。

北山:次、それやりましょう(笑)。


――それでは最後にコンサートを楽しみにしているファンの方に、そして行こうかどうかためらっている方に、ひと言お願いします。

北山:元々オーケストラ大好きで育ったクラシック畑の少年だった僕としては、今回、ただ単に楽しみで嬉しいって思っていました。でも田中さんとじっくりお話ができて世代も近いし、今の音楽の現状に対する認識も、似ていると感じたので、このツアーを通じて、音楽仲間がまた増えそうで、それが嬉しいです。そういう仲間で作っている音楽が好きな人が、やっぱりゴスペラーズのファンには多いので、さらにワクワクが増しました。


――多分誰よりも楽しみにしていらっしゃるのが、北山さんですよね。

北山:そうなんですよ。みんな僕のためにごめんねって思ってます(笑)。

村上:5人の声って、言ってみれば裸みたいなもので、それをほぼ裸で出す時もあれば、いろいろな種類の服=サウンドを纏って、その場、その時その時で一番いいものを出していくのが、ゴスペラーズがずっとやってきたことです。だからファンの方も色々なゴスペラーズを観るのが好きだと思います。頑固一徹の応援をしてくださるタイプの人もいると思いますけど、色々なところで遊ぶゴスペラーズっていうのを、敢えて「遊ぶ」って言ってしまいますが、そういう我々を観るのが好きっていう方も、すごくいらっしゃるので、クラシックっていうことに囚われすぎずに、「このツアーはどんな空気感で楽しんでるの?」っていうのを、感じに来て欲しいです。絶対楽しいはずです。お待ちしてます。

田中:クラシック一本でやってきた自分が、憧れのゴスペラーズさんとご一緒できるなんて夢にも思ってなくて。ですから自分はオーケストラでしっかり勝負したいというか、力を出しきって、遠慮せずに、私からもたくさん提案をさせていただいて、ゴスペラーズさんからもたくさんアイディアをいただいて、一緒に作りあげていきたいです。最初の方にお話しさせていただいた、アンサンブルって、同じに統一することではなく、個々の集まりで、個性が全部集結して、倍音も増えるということを、最近すごく感じていて。そういう音楽の本質について今回村上さんと北山さんとお話できたことが、すごく嬉しかったですし、そういう方達と同じ舞台で一緒にもの作りができるなんて、こんなに幸せなことは音楽家としてなかなかないです。だからこそ“楽しみきりたい”し、最後の最後までブラッシュアップし続けて、お客様に楽しんでいただきたいです。

村上:アップテンポの曲がなかったことだけが不満ですね(笑)。

北山:それはまた次回のお楽しみということで(笑)。



◎【billboard classics The Gospellers Premium Symphonic Concert 2022】演奏プログラム

[第一部]
M1 Overture
M2 ひとり
M3 星屑の街
M4 ミモザ
M5 氷の花
M6 月光
M7 約束の季節


[第二部]
M8 Classic Masterpiece
M9 Happy
M10 明日に架ける橋
M11 展覧会のゴスペラーズ
M12 街角 - on the corner -


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