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<インタビュー>終電間際≦オンライン。、歌声×イラスト×楽曲から生まれる化学反応を紐解く

インタビューバナー

 カバー動画で注目を浴び、米津玄師の『Lemon』のカバーはなんと一億回再生を果たした大人気のシンガー・春茶。ストリート系ファッションに鮮やかな色彩の世界観を描き出すイラストレーター・ナナカワ。詳細不明のクリエイター・sakuma.。それぞれに才能を持つ3人によるユニット・終電間際≦オンライン。(しゅうまぎ)。2019年の1stライブを皮切りに、楽曲制作やライブ、小説の刊行など、様々な形でのリリースが続いている。今年6月には、シンガー水槽と10人のイラストレーターとの大型コラボによって生み出された『バッデイ、グッバイ。feat.水槽』をリリースするなど、さらに挑戦的な活動で、感度の高いリスナーから注目を集めている。まだ謎多き終電間際≦オンライン。のこれまでとこれからについて、メンバー3人に話を聞いた。(Interview & Text: 満島エリオ)

終電間際≦オンライン。を結成してからの気付き

――春茶さん、ナナカワさん、sakuma.さん全員個人でも活躍されています。それぞれどのような経緯で活動を始められたのでしょうか?

春茶:私はもともと音楽が好きだったんですが、ある時好きな曲をネットで検索したらカバーしている動画がたくさん出てきて。同じ曲でも歌う人によって違う雰囲気になること、それがカラオケなどではなく、形に残る動画としてネットにたくさん並んでいることがすごく新鮮で、自分もやってみたいと思って投稿しはじめました。

ナナカワ:私は7、8年くらい前からフリーランスで活動していて、アルバイトをしながらイベントに出ているうちに、少しずつイラストのお仕事が増えてきました。

sakuma.:sakuma.としての活動自体は終電間際≦オンライン。が始まった時に始まりました。今はしゅうまぎ以外にも楽曲提供をさせていただいたり、少しずつ活動の幅が広がっています。


――春茶さんは、楽曲カバーや「歌ってみた」の主流がボカロ曲だった当時から、積極的にJ-POPのカバーをされていたのが印象的です。

春茶:私はテレビっ子でドラマが大好きだったのもあって、J-POPが好きだったんです。でも、色んなジャンルの曲を聴いていたので、ボカロ曲も聴いていましたし、歌ってみたも投稿していました。ボーカロイドは機械で、J-POPは人が歌っているので、どっちも良さがあると思いますね。



フラレガイガール / さユり full covered by 春茶

――弾き語りをされていたという面では、ライブ中心のアーティストになっていく可能性もあったのかなと思うのですが、いかがですか?

春茶:そういう道ももしかするとあったのかもしれないけど、意識して考えたことはないです。もともと勉強ばっかりしていたので、ネットでカバー動画を見つけていなかったら、普通に会社に就職していた可能性が高いと思います。そういう意味で、ネットで出会った音楽というのは自分にとっては特別なものではありますね。


――ナナカワさんはストリート系で、ファッション性も高いイラストを描かれています。影響を受けたものなどはありますか?

ナナカワ:もともとスケートボードなどのストリート系のカルチャーが好きだったので、自然とそういうもの描いていました。自分が欲しいと思った服の絵を描いたりもしていましたね。 あとは、ちょうどフリーランスで活動し始めた時に『スプラトゥーン』が発売されて、デフォルメされたキャラクターとストリートファッションの組み合わせがすごくかわいくて、影響を受けましたね。その他にも、海外の壁にスプレーで描くストリートアートみたいなものも見ていました。



ナナカワ

――sakuma.さんはもともとどういった音楽を聴かれていましたか?

sakuma.:特定の音楽を聴いているというよりも、YouTube上のいいなと思ったものを聴くパターンが多く、ボカロもJPOPもまんべんなく聴いています。作る側の人間として、どういうものが流行っているかというのは随時チェックするようにしています。


――sakuma.さんは活動を終電間際≦オンライン。が始まったタイミングでTwitterも始められていますね。投稿されている写真は、sakuma.さんの人物部分だけイラストになっていてすごく凝っています。

sakuma.:他のお二方が基本的に顔を出していなかったので、終電間際≦オンライン。としては全員顔を出さないという方針になりまして。でも何もないのも味気ないなと思って、SNSの面白い活用方法を考えた時に、ナナカワさんに描いてもらうのはどうかと思ってお願いしました。なので、ナナカワさんにはご迷惑おかけしています(笑)。

ナナカワ:楽しく描かせていただいています(笑)。

sakuma.:最近は写真を撮っていないので、またお願いしないとなと……(笑)。



sakuma.

――終電間際≦オンライン。はそもそも何をきっかけに生まれたのでしょうか。

sakuma.:そもそもは、春茶さんを中心としたプロジェクトを作ろうという話があって、その時にお声がけいただきました。

春茶:ナナカワさんは、イラストレーターさんを探している時に、私がナナカワさんのイラストが好きだったので、どうですか? と提案しました。

ナナカワ:春茶さんのことは、終電間際≦オンライン。で声をかけていただいた時に知ったのですが、声がめちゃめちゃかわいくて、そこから普段から作業中も聴くようになりました。


――春茶さんは、プロジェクトが立ち上がるとなっていかがでしたか?

春茶:それまではコバソロさんのオリジナルなども歌わせてもらっていたんですが、しゅうまぎだと、歌詞を自分で書いたりもしているので、自分の言葉で伝えることができるし、もっといろんなことが挑戦できるなとワクワクしました。


――作詞活動はいつからされているんですか?

春茶:世には出していないんですが、曲を作ったり歌詞を書いたりは中学生の頃からしていました。終電間際≦オンライン。にはsakuma.さんがいるので、それをちゃんとした音楽の形に仕上げてもらえるのがいいですね。


――作詞は春茶さんとsakuma.さんの連名になっていますが、普段どのように曲作りをされているのでしょう?

sakuma.:場合によりますが、1曲1曲テーマを決めて、毎回一つの小説を作り、それに対してどういう音楽、どういう歌詞、どういうイラストをつけるのかという話し合いながら作っています。例えば、「六畳人間」は「六畳一間の中で閉じこもっている人」がテーマで、それをもとに生まれたストーリーをナナカワさんにマンガ形式にしていただきました。それを見て春茶さんが歌詞にして、さらに僕が「じゃあ音楽はこうですね」みたいな。


――お互いにボールを投げ合いながら作られているんですね。ナナカワさんは、こういったミュージックビデオを作るようなお仕事は今までにもありましたか?

ナナカワ:CDジャケットとかミュージックビデオの静止画などの音楽系の依頼は時々いただいていたんですが、継続的にプロジェクトにがっつり参加させていただくのは初めてだったので、めちゃめちゃ新鮮でした。


――今までのお仕事と違うと感じることはありますか?

ナナカワ:他のお仕事だとだいたい一度のやりとりで終わることが多いので、何年も先を見据えて「次はどういう絵を描くか」という考え方は他の仕事ではできないので、興味深かったです。『六畳人間』の時のようにマンガ形式のものを仕事で描くのも初めてだったので、難しい挑戦でした。でも、一度やらせていただいたことで表現の幅が広がったので、今後にも活かしていきたいです。


――3人でひとつのものを一緒に作ることによる発見はありましたか?

sakuma.:ひとつのコンセプトのものを3人で創ろうとすると、普段だったら出てこない発想を求められる瞬間が多いですね。その中で、春茶さんの歌い方変わったなと思った瞬間もありますし、ナナカワさんのイラストに対してのアプローチも変わったなと感じます。なので、僕はそこに音楽もどう合わせていくかを試行錯誤しています。そういう意味で、この活動をしていなかったらできなかったことがたくさんあるなと感じますね。

ナナカワ:他の依頼だと、プロジェクトの主体が先方なので、「こういうのを描いてください」と言われたものを作ることが多いんですが、終電間際≦オンライン。は「ナナカワさんどうですか?」っていうところから始まるので、考え方自体が違うなと思います。

春茶:ナナカワさんが言葉を目に見えるイラストにしてくださることによって、今まで自分の中になかった言葉が出てきたりすることもあるなと思います。『六畳人間』で<にっちもさっちも ないよ/強がって笑っても 無いよ>という詞を書いたんですが、この言い回しは今までだったら歌詞に入れようと思わなかったと思います。語呂もいいですし、気に入っています。

sakuma.:こういう化学反応をしながら、今後も色んな展開をしていけたらいいなと思います。例えば、曲よりイラストが先にあって、それに対して音楽を作ったり。


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「どんな時でもとどまり続けたくなる」という世界観

――6月24日にリリースされた「バッデイ、グッバイ。feat.水槽」は、ボーカルに水槽さんを迎え、イラストレーター10人を迎えてコラボした大きなプロジェクトですね。このコラボはどう始まったのでしょうか。

春茶:この曲は、もともとは、去年のライブの時に、私一人で歌っていたんです。

sakuma.:それまでは、しゅうまぎはこういう疾走感のある曲はなかったんですが、楽曲のストーリーが尖ったものだったので、ライブで映える、今までになかった曲を作ろうと。どう受け取られるか不安でしたが、ライブでもすごく好評で、こういう楽曲をやっていいんだ! と僕らとしても発見でした。


――曲自体は既にあって、リリースするとなった際に色々なコラボが生まれた、という順番なんですね。

sakuma.:そうですね。この曲をどうリリースするかとなった時に、人間の二面性を歌った楽曲だったので、それを表現するのに春茶さんと違うテイストのボーカリストさんをフィーチャリングするといいのではと思い、水槽さんにお声がけして快諾いただきました。



「バッデイ、グッバイ。feat.水槽」ミュージックビデオ

――たしかに、かわいらしい歌声の春茶さんとハスキーで落ち着いた声色の水槽さん、声質が全く違うお2人ですね。春茶さんは水槽さんとのコラボはいかがでしたか?

春茶:水槽さんの歌声も元から好きだったので嬉しかったです。自分とはまったく違うので、聴いていてもおもしろかったですし、二面性を表現するにはとてもいい相性だったんじゃないかと思います。

sakuma.:今回ミックスも僕がやらせてもらったんですが、2人の声をどう混ぜたらそれぞれの良さが出るかをすごく悩みましたね。

春茶:しゅうまぎの曲にしては初めての激しめのだったので、大丈夫かなと思ってたんですが、できあがったものを聴いたらいい感じになっていて、こういうのもありだなと思いました。


――イラストレーターさんとのコラボについてはいかがでしょう?

sakuma.:歌う人がコラボすることはよくあるけど、イラストレーターがひとつの作品の中でコラボすることはあまりないなと思っていて。春茶さんと一緒に詞を書いていると、今までにない発想が生まれることがあったので、イラストでもそういうことが起こせるんじゃないかと。それで、せっかくなら何人もとコラボしたいと色々な方にお声がけした結果、こんなたくさんの人が集まったという……。なので、僕からすると、ナナカワさんは描いていてどうだったんだろうと気になっていました。

ナナカワ:作業工程としては、ほかのイラストレーターさんからいただいたイラストの上に、私のキャラクターをのせるという流れでした。描いていただいたものに加筆するのは初めてだったので、すごく緊張しました。でも、フォトショップのデータでレイヤーを見ると、それぞれみんな色味も書き方も全然違うので、「この方はこういう風に描いてるんだ!」という新しい発見があっておもしろかったです。

sakuma.:監督やミュージックビデオのプロデューサーさんと話し合って、リリースしたことで完成した楽曲だと思います。


――終電間際≦オンライン。は「どんな時でもとどまり続けたくなる」という世界観を提示しています。これは具体的にどういうイメージでしょうか?

sakuma.:3人でコンセプトを考えている時に、終電間際の改札の話になったんです。そこには色んな人生が行き来してるから、そこに留まり続けることで色んなストーリーを見ることができるんじゃないかと。それって、僕たちの楽曲を色んな人に聴いてもらいたいということに直結するんじゃないか、というのが始まりです。それもあって、ひとつひとつの楽曲のストーリーを大事にしていますね。

ナナカワ:終電間際なので夜の絵が多いんですが、夜だけど淋しくないというか、色味とか構図で、みんな繋がっていることが感じられるよう意識して描いていますね。

春茶:カバーの時は、その曲の歌詞を一回全部書き出して自分なりに解釈していくので、曲を自分なりにどう伝えるかということを考えていました。終電間際≦オンライン。では、自分の言葉で伝えることを意識しますね。自分は、楽しい時だけじゃなくてしんどい時や辛い時に音楽に助けられることがよくあったので、寄り添える音楽を作りたいなと思います。肯定してあげるっていうことが大事というか、助けになるんじゃないかなと。


――終電間際≦オンライン。として最終的に目指すものはありますか?

春茶:音楽を聴いている時に、「プレイリストの1曲に留まることのない音楽」を目指していますよね。

sakuma.:色んな人の生活の一部になっていけたらと思っています。プレイリストの1曲で流されてしまうものだけではなく、何度も聴きたいと思ってもらえるアーティストや作品になっていきたいですね。


――3人が揃っていることで、色々なアプローチができそうですね。今後挑戦してみたいことはありますか?

春茶:以前しゅうまぎで『終電間際オンライン 小説集』という、私と7人の小説家さんでオムニバス小説の本を出させていただいたんです。私はその時小説を初めて書いたのですが、それがすごく楽しくて。私は喋るのが苦手なんですが、文章を書くのは好きなので、文章での表現をもっと増やして、自分の言葉をもっと出していきたいですね。

sakuma.:まだ不安定な情勢ではありますが、ライブもできるようになってきているので、直接お客さんの反応を見て、そこからインスピレーションを受けてまた新しい曲を作りたいです。


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