「もう不幸がりたくないな」と思った──

　不幸やトラウマを原動力にして戦い続けた人生からの脱却＝感傷世界の終焉。これを『センチメンタルワールズエンド』なるアルバムと小説を命懸けで完成させたことによって成し遂げ、その先のフェーズへ向かう前に自らの15年にわたる表現者人生と対峙し、15TH ANNIVERSARY BEST ALBUM『STREET GOTHIC STYLE』を立て続けにリリースしてみせた武瑠。この大きなターニングポイントに彼は何を想い、どんな未来を目指そうとしたのか。SuG時代から今日に至るまで明言されることのなかった核心的なバックグラウンドも含め、今回のインタビューでは赤裸々に語ってくれた。　

Interviewer：平賀哲雄｜Photo：白井絢香

15周年を迎えて「あんまり謙遜とか卑下とかするのはやめよう」

－－デビュー15周年を迎えたわけですが、15年前にこれだけ長く音楽活動を続けていると思っていました？

武瑠：いや、まったく思っていなかったです。ノリで始めたので（笑）。でも、謎に「5年以内に武道館に立つ」みたいなことは言ってました。さっき思い出したんですけど、高校生ぐらいのときに「これ、やる。あれ、やる」と言っていたことはすべて叶えていて。武道館もそうだし、メジャーデビューもそうだし、オリコンTOP3入りもそうだし、小説も出したし、映画監督も出来たし、海外のフェスにも出られたし、ぜんぶ実現できているんですよね。なので、今は『センチメンタルワールズエンド』以降の夢を何か見つけなきゃなと。その為にいったん15周年でこれまでの活動を振り返ろうと思ったんです。

－－武瑠くんはクリエイティヴ至上主義じゃないですか。「どんな形でもいいから売れればいい、武道館に立てればいい」的なマインドで活動してきた人じゃないわけで、ゆえに今挙げた目標をすべて叶えるのは困難だったというか、僕の知る限り、命懸けだったと思うんですよね。

武瑠：たしかに。本当に無理やり叶えてきた感覚はあります。でも、15周年を迎えていろいろ振り返ったときに、もちろんいろんな人の支えがあったからここまで来れたし、感謝もしているんですけど、あんまり謙遜とか卑下とかするのはやめようと思っていて。人を動かす熱量をずっと持ち続けられたことは事実なので、それを冷静に再評価しようと。逆に言えば、そういう熱量を持てないモノだったらやらないほうがいい。それをこれから先も判断基準にするべきだなと思いましたね。振り返ると、やっぱり自らいちばん無茶なことをしてきたし、めちゃくちゃ勉強もしてきたし、その結果としていろんな人を引き寄せることが出来たと思うので、それは自分でちゃんと認めてあげないとダメだなと思っているんですよね。

－－そこは誇るべきですよね。ちなみに、15年にわたって、なんでそこまで無茶し続けられたんだと思います？

武瑠：『センチメンタルワールズエンド』で描いた負のエネルギーみたいなものが凄かったんですよ。15年を振り返っていたら、母親の影響が大きかったことに気付いたんですけど、ウチの母はずっと「世界でいちばん不幸」と思っているような感じの人だったので、そういう人に育てられたらことによって『HUNTER×HUNTER』のキルアみたいにいつも最低のことを想定する人間になっちゃったんですよね。基本として「絶対にしあわせになれない」と5歳ぐらいのときからずっと刷り込まれていたので。なんか「本当に良いことなんてないからね。ツラいよ」みたいな感じで説得されていたんですよ（笑）。でも、その不幸の刷り込みがベースにあったので、逆にそれがバネとなって「無理やり前向き」みたいなコンセプトが生まれたんです。

－－原動力にしてみせたんですね。

武瑠：結果的にそうですね。誰かと一緒にいても全然安心できない。でも、だからこそ「安心を手に入れられたらどうなるんだろう」と気になったりするんですよ。犬とか可愛いし、飼ったら安心できるのかなとか（笑）。海外のプロジェクトがなければペット飼いたいし、そうしたら自分がどうなるのか興味あるし。

－－「安心」を手に入れたくなっているんですね。

武瑠：そういうフェーズに入っていくべきなのかなって。小説『センチメンタルワールズエンド』を書き終わったらそうしようと思っていたんですけど、そんなにすぐ人格って変えられないじゃないですか（笑）。ただ、これまで母親から受けたトラウマみたいなものを燃料にしてきたんですけど、もうさすがに同じ燃料を使うのは飽きたなと。もっとフィジカル的な……先日、THE SPELLBOUNDのライブを観て思ったんですけど、無機質な熱量というか、金属的な音なのにエモーショナルに感じる、理由の分からないエモさを追求したいなと思っていて。シンプルにビートだけでどう感動させるか、みたいな。まさしく音楽。音を楽しむというところに15周年の先は向かいたいんだろうなって。でも、今は逆に抑制しているんですよ。「新曲をつくりたい、リリースしたい」という欲を我慢させているんです。

－－どうして？

武瑠：自分を飢えさせようと思って（笑）。これまで本当に自由にリリースできていたし、今はサブスクだけだったら手軽に出せちゃうじゃないですか。だからこそ「表現したい」という欲求を堪えさせて、作品が創れることは当然じゃない状況に自分を追い込みたいんですよね。今まではひとつ終わったら、すぐ次の作品に取り掛かっていて、ツアーファイナルの次の日にレコーディングみたいな。だから、ツアーファイナルで新曲披露しているんだけど、その翌日には次の新曲を録っているような状態だったので、振り返っている余裕もなかったし、自分を飢えさせる時間もなかったんですよね。sleepyheadの準備をしているときも全然振り返れていなかったし……コロナ禍になってやっとだと思います。そこで振り返り始めて、15周年のタイミングで改めてしっかり振り返った感じ。自分の特性とかもっと知りたかったし、コロナ禍で人と会わなくなって、自分の個性が分からなくなっていたのもあって。

－－比較対象がいなくなると、自分が何者か分からなくなりますもんね。

武瑠：メンバーもいないし、対バンも出来ないし、どのジャンルにも属していないからぶつからないし、自分のカタチが分からなくなってしまって。それもあって今年はフットワークを軽くして、無理やり旅行とか行きまくっているんですよ。そうするといろんな出逢いがあって、沖縄でOZworldというラッパーと仲良くなったり、どこに行っても大抵何か起こるんですよね。8月19日にはGOMESSのフェスに出るんですけど、今は気軽にいろんなところへ行ったり、いろんな人と絡んでいきたいなと思っているんです。

－－そうやってフットワーク軽く動きつつも、制作は我慢すると。

武瑠：いろいろ蓄えつつも、アウトプットは我慢する。その結果として生まれるモノに興味があるし、今は15TH ANNIVERSARY BEST ALBUM『STREET GOTHIC STYLE』を完成させたので、これを時間かけて届けていきたいなって。このアルバムの制作、めちゃくちゃしんどかったんですよ。リアレンジが8曲かな。物凄くイメージする体力を使ったんですよね。どういう曲にすべきかアレンジャーと話し合って、どういう方向に進めていくか考えながら何回もトライして。曲と向き合うことにおける消費が凄かったです。結局、外した曲もあるんですけど、追い込んでいく作業に相当やられました。リアレンジだから余計にツラかったんですよ。オリジナルを超えなきゃいけないし、ガッカリさせたくないし、変えすぎちゃって「だったら、その曲じゃなくていいじゃん」となってもダメだし、なかなか時間はかかりましたね。でも、すごく良い形になったと思います。どの曲もその子らしく伸ばせてあげられたなって。

SuG楽曲との対峙～遺書みたいなつもりで書いた『センチメンタルワールズエンド』

－－SuG時代の楽曲は、改めて対峙してみてどんなことを感じました？

武瑠：今の自分の思想が散りばめられているなと思いました。最新曲の「死んでも良い」や「感傷終末世界」などで書いている要素がいろんなところに散りばめられていたんですよ。「SOS」なんて『センチメンタルワールズエンド』の曲なんじゃないかと思うぐらい、歌詞が「酸欠都市」で書いていることとほとんど一緒だと感じましたし、「不完全Beautyfool Days」も「死んでも良い」みたいな感覚が入っているというか、思想がリンクしているんですよね。「Howling Magic」や「LOVE SCREAM PARTY」は「SuGとしてどうあるべきか」を重要視しているからバンドに合わせて作っているなと感じたんですけど、根源的な自分らしさは「不完全Beautyfool Days」とか「dot.0」とか「SOS」に感じましたね。

－－ということは、SuGからsleepyhead、そして今に至るまで表現の核になる部分はずっと変わらなかったわけですね。

武瑠：それをすごく感じました。で、ファッション的なところや飛び道具的なところで「白痴美」とか「L.E.D Ghosty」みたいな世界観があるんだろうなって。あと、今、曲の並びを見ていて気付いたんですけど、自分の曲って漢字のタイトルが多いんだな。自分でもなんでか分かんないけど（笑）。改めて見ると「I 狂 U」は発明的に字面がキレイですね。これは凄いなぁ。「ありそうでなかった」の究極系だと思います。響きもそうだし、字のデザインとしてもめっちゃキレイ。

－－先程、リアレンジが大変だったと話していましたが、今の自分のボーカルを吹き込む作業はどうだったんでしょう？

武瑠：歌うときのプレッシャーが凄かったです。「前より絶対に良くなんなきゃいけない」みたいなプレッシャーが強すぎて、ちょっとスランプに入ってしまったりもしましたね。とは言え、〆切までに絶対レコーディングしなきゃいけないから「本当に今日歌って大丈夫かな？」と不安になりながら歌入れしたときもあって……すげぇ怖かったです（笑）！ それでもトライしてゆっくりゆっくりOKラインまで持っていけたから良かったですけど、それぐらいプレッシャーと戦いながらのレコーディングでした。でも、どの曲もオリジナルより圧倒的に良い歌が録れたと思います。当時「こういう風に歌いたかったのに出来なかった」みたいな部分も今回は出来たので、それぞれの曲が持っているポテンシャルをより引き出せたんじゃないかな。特に「不完全Beautyfool Days」の歌は過去イチ感ありますね。エンジニアさんも「めちゃくちゃ良いけど、なんで？」って驚いていたぐらい。

－－それだけの歌を体現できた要因って何だったんですかね？

武瑠：昔、ボイトレの先生に「自分で感動しすぎなんだよ」と言われたことがあるんですけど、そこから抜け出せたからかもしれないです。前は自分で歌って自分で感動しようとしているところがあって。でも、今は「よく見せよう」というよりは「歌詞を表現しよう」という部分に重きを置いている。実際、今回の「不完全Beautyfool Days」は自分で聴いていても「表現しようとして歌っているな」って感じます。それが出来るようになった要因は、シンプルに年齢の気がしますね。雑念や執着心がなくなっていったというか（笑）。

－－かつてはフルスロットルかつ主観全開で歌っていたとして、年齢＝経験を重ねてきたことによって、今は自分の歌を俯瞰でコントロールできるようになっていったのかもしれないですね。

武瑠：本当に歌詞の通りで、SuGの「AGAKU」で書いた「泳ぎ続けてないと息が吸えなかった」状態だったんですよね。一生苦しい。だから、必死すぎて楽しむ余裕がなかったんですよ。とにかく苦しいし、寝てないし、永遠にそれだったんで。一瞬でいつでも寝落ちできる。今、ふと思い出したんですけど、SuGのメンバー5人でインタビューしてもらったとき、まーたん（masato/g）が喋っている隣で実は寝ていたんですよ（笑）。気付いていなかったかもしれないですけど、そこで2分ぐらい寝て自分の番になったら語り出すっていう。ぺーさん（shinpei/dr）に「なんでそんなことできんの？」って驚かれましたけど、それぐらい常にギリギリの状態で活動していたから、その影響は歌にも表れていたんだと思います。でも、今は冷静なゾーンがあって、ライブも時の流れをゆっくり感じられるようになったから苦しくないし、楽しいし、今回の歌入れも昔よりは俯瞰でコントロールできるようになったんだろうなと思いますね。

－－あと、そもそもSuG時代の曲を武瑠ソロで歌うアクション自体、かつては有り得なかったことじゃないですか。そこも大きな変化ですよね。

武瑠：それは小説『センチメンタルワールズエンド』を書けたからだと思います。小説から逃げていたら、この15年を振り返ることも出来なかったし、振り返られなかったら今回のアルバム『STREET GOTHIC STYLE』もなかったと思うし。

－－小説『センチメンタルワールズエンド』を書き上げたことによって、そういう作用が生まれたわけですね。

武瑠：あの小説は遺書みたいなつもりで書いていて、発売された日に死んだら現代アート的に美しいなと思っていたぐらいで。書く直前がどん底に落ちる最悪のフェーズだったんですよね。でも「書き切らないと死んじゃダメ」みたいな（笑）。それで完成させて発売してことによってスッキリしている自分がいて。

－－太宰治みたいな話ですね。太宰は『人間失格』を書き終えて死んでしまいましたけど、武瑠くんも『センチメンタルワールズエンド』を書き終えたら死んでもいいと思っていて、結果的に生きて次のフェーズに向かうきっかけにしてみせたわけですけど、その結果以外はきっと同じマインドですよね。

▲武瑠15周年フェス開催決定！

武瑠：たしかに、27歳ぐらいだったら俺も死んでいたかもしれない。今も長生きしたい気持ちは全然分からないし、その思想は「白痴美」でガッツリ書いているんですけど、50歳で死ぬぐらいのペースで動いていきたいし、そのときに後悔しないように生きていこうと思っていて。だから、ある意味、採算度外視のフェスを15周年のタイミングで開催しちゃうんですよね。15周年は1回しかないし、このタイミングを逃すと5年後の20周年、10年後の25周年になってしまう。で、30周年はないものだと思っているので、逆算すると今やっておくべきだなって。

－－極論を言うと「明日死んでもいいから、今これをやりたい」みたいなマインドの持ち主ですよね。

武瑠：そこまで言うと本当に極論ですけど、でも「来年死ぬかもしれないから、今年これをやっておこう」ぐらいのことは実際に思っていますね。そう思わないと出来ないことが多かったかもしれない。小説もそういう風に追い込まないと……めっちゃキツかったんで、書くの。めっちゃキツかったんですよ（笑）！

－－2回言った（笑）。

武瑠：近年でいちばんキツかったです。特に『センチメンタルワールズエンド』に関しては「なんでこんなしんどいことやるんだろう？」と自分でも思いました。でも、書かなきゃいけなかったんですよね。ただ、あの小説は人生観が詰まり過ぎていて……もうしばらく書きたくないですね（笑）。中島らもさんみたいな、めちゃくちゃ自由な設定の短編なら書いてみたいなと思いますけど。

これから「不幸な材料を探すんじゃなくて、幸福な材料を集めていく」

－－ちなみに、小説『センチメンタルワールズエンド』の衝撃のエンディング。あれは自分の中では迷わずあのエンディングだったんですか？

▲小説「センチメンタルワールズエンド」発売記念オンライントークイベント

武瑠：ちょっと悩みましたね。ひとりで死ぬパターンか、ふたりで死ぬパターンか。ただ、いずれにしても鋭二は最初からふたりで死ぬ気はなくて、ひとりで死ぬ気だったんですよ。「一緒に死ぬ」と伝えながらもミサキをそこに巻き込まないようにしている。自分と似たようなものを感じたミサキに何かを与えて、自分だけひとりで死のうとしている。だから、ケンカも意図的みたいな。どこかでケンカしようと思っていたから「このタイミングでこうなるんだったら、ここでいいや」っていう。

－－なるほど。そして、実際に鋭二はひとりで死にゆくわけですけど、あの小説の凄さは、その死が遺された者、そして読者に爆発的な生命力を与えるところにあると思うんですよね。

武瑠：映画とかで、運命的な出逢いから恋愛に発展していく描写っていちばんオーソドックスだと思うんですけど、それが叶わなかったストーリーを書きたかったんですよね。大人になった上で知り合ったその変化では、それまで鋭二が生きてきた期間の絶望は拭えなかった。だから、最初から実は閉じっぱなしで、ひとりで死ぬ。最後の新キャラ＝ミサキが出てきたところで、もう無理だよっていう。結果的に遺されたミサキにとってはその絶望、怒り、虚しさ、ぶつけようのない気持ちが生命力になっていくんですけど。

－－そんな音楽でも小説でも『センチメンタルワールズエンド』を完成させた武瑠くん自身は、センチメンタルワールドから完全に卒業できた感覚はあるんですか？

武瑠：うーん……完全にではないかもしれないけど、前よりは祓えてきていますね。自ら悲しみのほうへ向かわなくなった。楽しいことを前よりも不安じゃなく選べるようになっている。それこそ旅行とかムリだったんで、不安すぎて。「自分がこんなに気を抜いているあいだに、誰かは進んでいる」とか。これ、アーティストあるあるだと思うんですけど、本当にくつろげないから行った瞬間に帰りたくなっちゃう。だから、若いときは彼女と旅行する度に別れてましたもん。もうイライラしちゃって「ひとりで帰りたい」と思っちゃうんですよ。

－－彼女、めっちゃ不幸じゃん（笑）。

武瑠：普通に不幸だったと思います（笑）。友達と過ごしていても、どこか冷静にその状況を見ている自分がいて、無心になって楽しんだり、くつろいだりできなかったですし。それで病院に行ったら「離人症」って言われたんですけど、ヘンな薬をいっぱい飲まなきゃいけない感じだったので、余計にヤバくなりそうだと思ってスルーしたんですよね。そのおかげで人間観察力が上がって作品づくりに活かせてきたと思っているんですけど、それの弊害で自分が主人公になって感動したりはできない感じだったんです。でも、今はその割合が変わってきていて、友達と過ごしていても「あれ。今、無心でくつろいで話していたよな？」みたいな瞬間が増えていて、もしかしたら意図的に冷静な自分だったり、安心できない自分を鈍くしているのかもしれないんですけど、それは『センチメンタルワールズエンド』を完成させたことで、その先のフェーズに向かおうとしている気持ちの表れだと思うので。

－－新しい世界＝自分に向かおうとしているわけですね。

武瑠：アメリカでもっと楽しい挑戦をしようとか、ちょっと思考が変わっているかもしれない。確実に楽しみを探すようになっていますね。その一方で「マジ仕事したくねぇ」と思ったりするようにもなりました（笑）。以前は完全にワーカホリックみたいな感じだったんですけど、最近は作業の途中で「もう呑みに行きてぇな」と思ったりするんですよ。自分でも不思議なんですけど。

－－ようやく人間になったんだ（笑）。

武瑠：ハハハ！ 人間になっていってんのか（笑）。自分には父性とか母性とか一切なかったんですけど、急に犬とか猫とか飼いたくなってるし。めっちゃ飼いたいですもん。フットワーク軽く海外とか行けなくなっちゃうから、それも今は我慢なんですけど。あと、コロナ禍で仕事が飛んだりしていた中で、本当にファンの有り難みを知ったのも大きかったですね。ファンクラブがなかったら何も出来なかっただろうし、そういう風に支えてもらって作っている舞台の上で「もう不幸がりたくないな」と思ったんです。不幸を知った上で「楽しい」にならなきゃいけないんだなって。そういう意味では、やっと呪縛から解かれようとしている。一生不幸みたいな属性の人でいたくないから。

－－序盤で話していたトラウマからの脱却ですね。

武瑠：俺からすると甥っ子になるんですけど、孫が生まれてから母親も明るくなったんですよ。LINEの内容とかも明るくなっていて（笑）。多分、俺が子供の頃の母親は落ちているフェーズだったんでしょうね。その影響で自分もなんか被害者面したくなるところがあったんですけど、偶然にも親子共々そこから脱却するフェーズに入っていて。だから、今後は自ら不幸の材料を探しに行く必要はないなと思ったし、そうなる為に創った作品が『センチメンタルワールズエンド』だし、あれが完成したからしっかり過去を振り返れて『STREET GOTHIC STYLE』も制作することができた。なので、ここからの曲は明確に新しく変わっていくと思います。

－－この先、どんな表現者人生を歩んでいきたいですか？

武瑠：15周年で振り返って、主催フェスの開催も決まって、それと前後してアメリカのフェスにも挑戦できて、今は夢が叶いまくっているタイミングなんですよ。なので、そこから先は、さっき話したみたいに不幸な材料を探すんじゃなくて、幸福な材料を集めていって、その上で自分にしかできないカルチャーミックス、音楽だけじゃない表現方法をこれまで以上に発信していきたい。あと、9月にテキサスで開催されるフェスに出るんですけど、その主催の人が完全指名で呼んでくれて。知らないうちに俺がヘッドライナーになっていて（笑）。そうやって評価してくれている人が海外にも点在しているから、そこにちゃんとアプローチしないとなって。それこそ50年で人生終わるなら今行くべきじゃないですか。しかも、そのフェスの主催者、日本のコロナ禍のニュースを見て「大丈夫？ もっとギャラ増やそうか」ってわざわざ連絡してきてくれて。

－－めっちゃ良い人じゃん！

武瑠：めっちゃ良い人なんですよ（笑）。そういう人がいろんなところにいるから、15周年以降はどんどん会いに行きたいなって思っています。

Interviewer：平賀哲雄｜Photo：白井絢香