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<コラム>星街すいせい&TAKU INOUEによるMidnight Grand Orchestra、ストリングスをフィーチャーした華麗なサウンドに注目
VTuberであり、シンガーとしても根強い人気を誇る星街すいせいと、ダンスミュージックを主軸に幅広い音楽性で支持を得るサウンドプロデューサー/コンポーザーのTAKU INOUEが、音楽ユニットMidnight Grand Orchestra(以下、ミドグラ)を結成。TAKU INOUEのメジャーデビュー楽曲「3時12分」や、星街すいせいのファーストアルバム『Still Still Stellar』のリード曲「Stellar Stellar」でコラボレーションを重ねてきたタッグによる、注目のプロジェクトだ。『Overture』はそんなミドグラのお披露目となるデビューミニアルバム。サイバーパンク的な意匠にいろどられたヴィジュアルや、歌詞にほのめかされるストーリーなども含めて語りどころの多い本作だが、ここでは主にサウンドの面から『Overture』の魅力に迫ってみたい。(Text:imdkm)
「グランド・オーケストラ」をかかげるにふさわしい壮大で華麗な楽曲
『Overture』はインタールードも含めた全7曲、バラードからエレクトロな四つ打ち、ドラムンベース、ポスト・ロックまで、バラエティに富んだスタイルをミクスチャーした盛りだくさんなミニアルバムだ。特に、ローファイなバラード「流星群」は「3時12分」を思い起こさせる1曲。「3時12分」がリリースされた当時は、TAKU INOUE印のアッパーなダンスサウンドではなく、あえてジャジーなテイストを散りばめたミドルテンポのナンバーがデビュー曲に選ばれたことは意外でもあったが、いまでは「待ってました!」と思わず声が出るようなベストマッチとして定着したように思う。
しかしなによりの魅力は、まさに「グランド・オーケストラ」をかかげるにふさわしいストリングスがつくりだす壮大で華麗なサウンドだ。1曲目の「Never Ending Midnights」は、その名刺代わりとも言えそうな楽曲。星街すいせいのヴォーカルに耳をひきつけるイントロから、TAKU INOUEファンにはおなじみのジャズドラムサンプルや、ミドグラの目玉となるストリングスのきらびやかなサウンドが劇的に登場。続いてこれもまたTAKU INOUEのシグネチャー的な厚みあるエレクトロニックサウンドに突入。静と動の対比が詰まった展開に、このプロジェクトを特徴づける要素――星街すいせいの声、TAKU INOUEの折衷的なサウンドメイク、そしてストリングスの華やかな響き――が凝縮されている。
また、単にストリングスが加わっているだけではなく、アレンジの細部までが有機的に機能するようにつくりこまれている。たとえば、ストリングスの躍動感をうまくビートと調和させている「SOS」に耳を傾けてみよう。楽曲にあふれるメロディを追っていくと、同じフレーズをユニゾンしたり、音色が入れ替わったりすることで、さまざまなサウンドがとけあうような妙味がたっぷりあることに気づく。ベースラインとシンクロしたシンセのフレーズが、サビ後のブレイクを経てピアノにうつりかわって、さらにリズムのパターンを維持しながら、その上にストリングスが重なる(1:51~)。そのまま主役がストリングスにうつりかわって、ビートがドロップ! スタイル自体はダンスミュージックだけれども、まるでオーケストラのような構成の妙がある。
もうひとつ、本作を聴いて耳を惹かれたのがソロだ。TAKU INOUEはこれまでも数々の楽曲で印象的なソロを楽曲に刻んできたが、その魅力は本作でも健在だ。たとえば「Allegro」は、音楽用語で「速く」という意味のタイトルが示すとおりの、アップテンポなドラムンベース。この曲で聴けるのは、ビートへ流れるように寄り添うメロディアスなギターソロだ。BPMの速さが浮遊感と疾走感に直結したドラムンベースのサウンドを背景にたゆたうメロディが心地よい。
「流星群」は、ローファイなくぐもったビートが特徴的なバラード。シンプルでノスタルジックな質感のヴァースがコーラスにうつり、きらびやかなシンセやストリングスが一気に風景を鮮やかに染めるのが印象的だ。この曲のギターソロも素晴らしく、かつ「Allegro」のそれとはまた性格が異なる。ゆったりとしたビートに、シンコペーションして裏に食い込む細かいリズムの刻みも用いながら緩急を演出するパーカッシブな響きからはじまって、歌心を感じるメロディアスなフレーズに着地する。
「Highway」は、淡々としたエイトビートを基調とし、これまでもエモ/ポスト・ロックからの影響をたびたび楽曲に反映してきたTAKU INOUEのカラーが強く出た楽曲だ。他の収録曲とは一味違うエネルギッシュな星街のヴォーカルが耳に残る。この曲も、間奏で主役となるストリングスが印象的だ。エイトビートの抑制したニュアンスから一気に躍動感あふれるメロディラインでダイナミックなリズムの抑揚を生み出している。
どれも、「単体として良いフレーズ」であるにとどまらず、全体の構成の中でそれぞれ役割を担っている。「Allegro」なら続くリズムの力強いキメとの対比が、「流星群」なら星街のヴォーカルへとゆるやかにつながるようなフレーズの締め方が、「Highway」なら地となるエイトビートに浮かび上がる刻みの細かな躍動感が、「この曲になくてはならない!」と感じさせる説得力を生み出している。
と、このEPの特徴をまとめてみると、遅めの4つ打ちでじわじわと展開する「Rat A Tat」はやや異色かもしれない。しかし、ビートと同じく反復の多い歌メロを抑制を効かせながら表現する星街のヴォーカルは、もしかすると一番の聴きどころかもしれない。やわらかく陰りのあるヴァースから、少し声を張って緊張感があふれるコーラスまで、たしかな存在感を放っている。
期待を裏切らないベストタッグぶりを聴かせてくれる『Overture』。本作を序曲として、ミドグラの物語がどう展開するか、注目していきたい。手始めに、8月20日にはファースト・ライブ【Overture】の開催が予定されている。ヴィジュアル面の演出までを含めたその内容に期待だ。
リリース情報
ミニアルバム『Overture』
- 2022/07/27 RELEASE
『Overture』特設サイト:
https://midnight-grand-orchestra.com/
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