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<特集>祝20周年!アヴリル・ラヴィーンの名盤『レット・ゴー』はZ世代も魅了する色褪せないサウンドと等身大の宝庫



コラム

 アヴリル・ラヴィーンがデビュー・アルバム『レット・ゴー』をリリースしてから、今年で20年が経つ。それでいて彼女がまだ37歳だという事実を突きつけられると、いかに若くしてあの完成度を誇る作品を作り上げたのかと、驚きを覚えずにいられない。そう、1984年に生まれたアヴリルはカナダ・オンタリオ州の小さな町、ナパニーで育ち、地元のイベントで歌っていた時に業界関係者と出会い、大手レーベルの<アリスタ・レコード>と契約。クリフ・マグネス(ハンソン、セリーヌ・ディオン)とザ・マトリックス(シンガー・ソングライターのローレン・クリスティを擁するプロダクション・ユニット)をメイン・コラボレーターに迎えて早速アルバムのレコーディングに着手した。

 当時のシーンと言えば、ブリトニー・スピアーズやクリスティーナ・アギレラ、デスティニーズ・チャイルドにアリシア・キーズが牽引するポップとR&Bの全盛期で、アーティストたちは女性の自立をパワフルに訴え、セクシーさを競い合っていたわけだが、17歳の時に『レット・ゴー』を送り出したアヴリルは明らかに異質な存在だった。ファッションは徹底してボーイッシュ、ロックンロールを愛し、ニコニコ媚びを売るようなこともなく、ギターを抱えて自分の言葉で、ナイーヴさが残る伸びやかな声で歌う彼女を、メディアは“アンチ・ブリトニー”などと評したものだ。


 しかしそんなイメージは意図的に作られたわけではなく、ありのままの自分だった。ボーイッシュなファッションは、大好きなポップパンクやスケーター・カルチャーに根差したもの。彼女にしてみればティーンエイジャーの心の中はどうしようもなくこんがらがっていて、悩みはつきない。アヴリルはただ単に、そういう現実を率直に言葉にしたのである。大ヒット・シングル「コンプリケイテッド」で、<転んで、這いつくばって、落ち込んで、でもありったけのものを誠実さに変える――それが人生よ>と、達観した視線で歌っているように。


 そしてポップパンクやヘヴィロックから、アラニス・モリセットらオルタナ系の女性シンガー・ソングライターたちを想起させるスタイルまで、90年代ロックを自分なりに消化した彼女は、「アイム・ウィズ・ユー」や「トゥモロウ」で将来について抱く不安感や孤独感と向き合い、「マイ・ワールド」や「エニシング・バット・オーディナリー」では少女時代を回想。小さな町で感じた息苦しさや逃避願望を吐露し、「モバイル」はアメリカに移り住んでデビューの準備をしていた頃の戸惑いを描き、「ノーバディズ・フール」のアヴリルは、アーティストとして自分の意志を貫くためにレーベルと対峙している。他方で「ネイキッド」のようなハッピーなラヴソングも混じっている『レット・ゴー』は、強さや生意気さ、脆さや弱さ、何も隠さずに等身大のポートレイトを浮き彫りにするアルバムなのだ。


 このような彼女の姿は広く共感を呼び、同作はカナダでナンバーワン、全米チャートでは最高2位を記録。世界合計で2,000万枚を売り上げて、このうち200万枚超が日本でのセールスという、海外アーティストのデビュー作としては異例の成功を収めた。さらに【第45回グラミー賞】では<新人賞>や<年間優秀楽曲賞>(「コンプリケイテッド」)ほか5部門、【第46回】でも<年間優秀楽曲賞>(「アイム・ウィズ・ユー」)を含む3部門で候補に挙がり、カナダの【ジュノー賞】では<最優秀アルバム賞>や<新人賞>など4冠を達成している。

 こうして華々しいスタートを切ったアヴリルは、以後その時々の自分の関心事を追求しながら、ひたすら我が道を突き進んできた。04年のセカンド『アンダー・マイ・スキン』(カナダ・チャート最高1位、全米チャート最高1位)では同じカナダ出身のシャンタル・クレヴィアジックと主に共作し、ドン・ギルモア(リンキン・パーク、グッド・シャーロット)やブッチ・ウォーカー(ザ・ストラッツ、フォール・アウト・ボーイ)らロック畑のプロデューサーを起用。サウンドは前作の延長線上にあるが、全体的によりダークで厚みのあるギター・ロックを志向した。続く07年のサード『ベスト・ダム・シング』(共に1位)では一転、ブッチに加えてドクター・ルーク(ケイティ・ペリー、P!NK)を多くの曲で起用することで、アップビートでカラフルなアヴリル流のポップを追求。当時結婚したばかりだったサム41のデリック・ウィブリーの参加も得ており、キャリア初の全米ナンバーワン・シングルが誕生して(「ガールフレンド」)、ようやくスマイルを見せたアルバム、とも言えるのかもしれない。


 しかし、その後デリックとの別れを経て着手した4枚目『グッバイ・ララバイ』(11年/カナダ2位、全米4位)は、構成要素を絞ったギターポップとピアノポップを中心に構成。ホロ苦いハートブレイクを歌ってまたもや新境地を拓くのだが、そこには長く立ち止まらなかった。元エヴァネッセンスのデヴィッド・ホッジズと、再婚相手であるニッケルバックのチャド・クルーガーをコラボレーターに迎えた5枚目『アヴリル・ラヴィーン』(13年/同4位、同5位)では、20代の最後にもう一度ハジける。大人になることを拒絶する「ネヴァー・グローイング・アップ」が好例で、彼女は持ち前の遊び心を全開にして、エレクトロ・ポップにインダストリアル・ロックに壮大なバラード……と、これまでになく多彩なアルバムに辿り着いた。

 そして30代に入って最初のアルバムが、19年発表の『ヘッド・アバーヴ・ウォーター』(同5位、同13位)だったが、アヴリルは難病のライム病に罹って生死の境を彷徨ったのみならず、チャドとも破局。そんな波乱の数年間がインスピレーション源となり、ヘヴィ・ロックあり、ソウルあり、かつてなくドラマティックなスケール感を誇る曲の数々を作り上げることになる。

 それからさらに3年が過ぎた今年2月には、7作目の『ラヴ・サックス』(同3位、同9位)がお目見え。ブリンク 182のドラマーでプロデューサーのトラヴィス・バーカーが主宰する<DTAレコーズ>に移籍した彼女は、そのトラヴィスやフィアンセでもあるモッド・サンと完成させた、ポップパンク1本勝負のアルバムで世界を驚かせたことは記憶に新しい。

 しかも昨今はポップパンク再評価の波が訪れているだけでなく、いわゆるY2K時代のカルチャーやファッションのリバイバルも進行中。『ラヴ・サックス』に続いて、『レット・ゴー』の20周年記念盤『レット・ゴー<Expanded Edition>』(元々本作のために書かれ、ケリー・クラークソンに提供された名曲「ブレイクアウェイ」のセルフ・カヴァーも収録)も登場するとあって、改めてアヴリルの功績や影響力に注目が集まっている。

 実際彼女は、ビーバドゥービーやスネイル・メイルを始めとするインディ系の若手シンガー・ソングライターたち、或いはミート・ミー@ジ・アルターのように女性が率いるポップパンク・バンドにとっては重要なロールモデルであり、4月にはアヴリルを敬愛するオリヴィア・ロドリゴのライヴに飛び入りして「コンプリケイテッド」をデュエットしたというニュースが飛び込んできた。そうかと思えば、5月に入ってTOMORROW X TOGETHERのHUENINGKAIが「スケーター・ボーイ」のカヴァーを公開。やたら旬のアーティストたちに慕われている今日この頃のアヴリル、元祖ポップパンク・クイーンかつティーンの苦悩の語り部として、彼女のポジションとレガシーはこれ以上なく明白だ。

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