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<インタビュー>大原櫻子の日常のあふれる“笑顔の種”とは――最新シングル『それだけでいい』



大原櫻子インタビュー

 映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』でスクリーン&CDデビューをしてから、もうすぐで10年――大原櫻子は、シンガー、作詞・作曲家、女優と、活動の場を広げながら、ノンストップで走り続けてきた。今回のニュー・シングル『それだけでいい』は、ずっと彼女を支えてくれたファンへの愛と感謝がカタチになった。

 5都市をまわる全国ツアーを終えたばかりの大原に、これまでと違う編成で行った最新ツアーや新曲に込めた思い、そして日常で感じる幸せについて話を聞いた。

――ファンからのリクエストを募った全国ツアー【Premium Concert 2022『For You〜あなたが作る櫻子Live〜』】を終えた感想から聞かせてください。

大原櫻子:ピアノとバイオリンだけというすごく繊細な編成だったので、いつものライブよりも心のエネルギーを使いました。緊張感はグッと高まっていたんですけど、終始、ピアノとバイオリンの音色に酔いしれることもできて。私自身が癒されもしたライブだったと思います。

――神奈川、福岡、大阪、名古屋、札幌、東京と回りました。

大原:すごく楽しかったですね! 各地で美味しいものを食べることもできて、食の旅も満足にできたツアーでもあったんですけど(笑)。これまでにないくらい、場所によってお客さんの反応が違って。初日は私の緊張感がお客さんにも伝わってしまったんですけど、大阪では初めて始まる前に拍手が起きて、「なんかリラックスしてきたんだな」という感じもありました。

――ファイナルはどうでしたか?

大原:いちばん楽しめました。こういうご時世になって、毎回毎回、いつ最後になるかわからないと思っていて。いつも「一回一回が勝負だな」とは思っていたんですけど、やっぱり最後だからという思いが大きかったと思います。あと、コロナではないんですけど、ファイナルの日にすごく体調が悪くなってしまって。喉に違和感もあったんですけど、それが功を奏すると言いますか(笑)、私のやる気に火がついた感じがして、伝えたい思いも倍増して伝えられたと思います。

――特に印象に残ってる曲はありますか?

大原:アカペラで「Close to you」から始めたいって、自分から発案したんですけど、初日の最初は痺れましたね。去年の4~6月にかけて全国13か所を回ったダブルコンセプトツアー【Which?】以来、久しぶりのライブでもあったので。

――<元気だったかな?>という歌い出しでしたね。

大原:お客さんに対して、本当に「元気だった?」って思う気持ちでスタートするっていう。現実と歌詞が重なる感じがありましたね。

――ファンの方からのリクエストに関してはどう感じましたか?

大原:今までやってきたライブの思い出が詰まっているというか、過去のライブで特に印象に残ってる楽曲のリクエストが多かったなと思いましたね。例えば、2016年10月の武道館公演の本編の最後に歌った「Scope」(2ndアルバム『V(ビバ)』収録)が上位だったのは、ライブでの思い出の曲を振り返りたい、という感情を受け取れました。

――リクエスト1位は4thアルバム『Passion』の収録曲「Grape」だったんですよね。これもアルバム曲なので意外でした。

大原:そうなんですよ。びっくりですよね。デビュー曲「サンキュー。」とか、映画(『カノジョは嘘を愛しすぎてる』)の曲「明日も」がくると思ったら、実は前回のツアーでも歌えなかった、まだライブでは一度も歌ったことのないアルバム曲が1位になって。私も(高橋)久美子さんが書いてくれた歌詞が大好きで、まさかの予想外でしたけど、世の中が大変な今の時期だからこそ、皆さんが求めてるメッセージが歌詞に組み込まれているのかなと思いました。

――学校を卒業した“あの頃”を振り返りつつ、未来に一歩を踏み出す曲になってました。そして、アンコールでは新曲「それだけでいい」を各地で披露してきました。歌う前にはコロナや紛争のことに触れながら、「希望の光を信じて欲しい」とおっしゃってましたね。

大原:不安なことだったり、悲しい出来事があったり、日々、いろんなことが絶対あると思うんですね。ほんとに生きてるといろんなことあるなってずっと思ってて。そういう時に、「あぁ、生きるのに疲れたな……」って考えちゃう人もいると思うんですよね。でも、そういう人のためにも……私は人生経験がそんなにあるわけではないし、おばあちゃんでもないんですけど、「嫌なことがあった後には絶対にいいことがあるから」って言いたいなと思って。よく耳にもするし、それを信じてみんな生きてるわけじゃないですか。だから、コンサートに来てくださった方に、私の口からも同じことを言いました。今日、めっちゃ落ち込んだことがあったとしても、きっと明日はいいことがあると思ってもらいたいし、絶対に希望を捨てないでほしいっていう思いで言いましたね。

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一人でも多くの人の心が穏やかになってほしい

――歌詞はご自身で書いてますが、どんなメッセージを込めましたか?

大原:自由に生きられない世の中になっていますよね。何をするにしても、腰を上げるエネルギーが3年前よりも、コロナ前よりも必要となってくるし、みんながホッとできる時間が少なくもなってる。そういう時に、音楽が流れてきて、一人でも多くの人の心が穏やかになってほしいな〜と思って。人に寄り添えなくなった時に、この歌を聴いて、「自分しか見えてなかったな」とか、「最近、人にありがとうって言ってなかったな」に気づいて欲しいと思って作ったんです。

――かつては、例えば、10枚目のシングル「I am I」のように、ありのままの自分でいるためにどうすればいいかという、“私”らしさに焦点が当たってましたよね。でも、この曲は、“僕”が僕らしくいられるようにしてくれた“君”に視点が向かってます。

大原:そうですね。私自身、「I am I」の時は20代前半で、自立がテーマだなと思っていたんですけど、こういう時代になって、人と人とが支え合って自分って成り立ってるんだなって強く感じた時に、人への感謝を伝えたいなと思って。ここに出てくる“僕”は私で、“君”は応援してくださるファンの皆さんなんです。私が今、自分のことを信じて歩き出せるのは、いつも応援してくださる方のおかげだし、そういうメッセージを、歌詞を通して伝えたいなと思ってましたね。

――最初からファンの方に向けた感謝の気持ちを込めた曲にしようと思ってましたか?

大原:ファンの皆さんの存在はすごく大きいですし、いつも傍にいてくれるんですけど、書いていくうちに、この曲はその気持ちがより強まりましたね。最初はプロデューサーの小名川(高弘)さんと「夢を追いかけてる人ってすごく素敵だよね」っていう話をしていて、そこに焦点を当てて書き始めたんですけど、それよりも、 “僕”の“君”への思いを明確にして、二人の関係性をわかりやすく出していったほうがいいんじゃないかって話になって。そういえば、ファンの皆さんはいつも私のことを心配してくれたり、私のことを思ってくれたりしているなと気づいて、これはファンの皆さんと重なると思って、言葉を考えていきましたね。

――<愛してるの言葉だけじゃ伝えきれないことがある>というサビのフレーズが強烈に耳に残ります。

大原:<愛してる>っていうのは、書き言葉じゃなく、喋る言葉としてあるから、ドキッとする言葉だなと思って。なんというか、“君”に対して、ずっとありがとうって言える存在でいたいって思ったんですよね。二人の関係をずっと続けたいという“僕”の思いを込めてます。

――プロポーズソングとしても聴けますよね。タイトルにどんな思いを込めましたか?

大原:どうしようかなって悩んでいて。これは裏話ですけど、最後まで「フレンチネイル」という案が残っていて。“君”という人物像を思い浮かべた時に、笑顔が溢れる清楚な女子が思い浮かんだんです。だから、ナチュラルなネイルという意味で、「フレンチネイル」がいいんじゃないかって言ってたんですけど、ネイルを塗るっていう意味もあるみたいで。そうなると、意味合いも含めて変わってきちゃうので、サビの終わりのインパクトのあるフレーズでもある<僕はそれだけでいい/それだけでいい>から「それだけでいい」にしました。

――そのフレーズの前には<僕は君の幸せ/願えたら>とありますが、櫻子さんにとっての“幸せ”とは?

大原:うーん……永遠のテーマですよね。生きてるだけで幸せだから、逆に幸せじゃない時があまりないかも……いや、そんなこともないな。嘘です。あはははは(笑)。それこそ、この時期にライブができることも幸せですし、今日も目覚めたときから幸せですし。今の時代、コロナだけじゃなくて、戦争も起こってるから、今の私の環境は本当に恵まれているし、感謝しなきゃなっていう思いですね。

――もうひとつ、<僕だけはいつも/笑顔でいられる場所でありたい>という願いというか、覚悟を歌ってます。櫻子さんが笑顔でいられる場所は?

大原:歌詞はライブのイメージで書いてますね。やっぱりファンの皆さんの力ってすごいなって思うんですよ。いろんなことがあっても、ステージに出ると元気をもらえます。ほんとに綺麗事で言ってるわけではなくて、応援してくださってる方たちの前が、私が笑顔でいられる場所だなって思います。だから、ライブで歌ってても、すごく実感を込めて発せられる言葉だなって思いますね。

――笑顔にしてもらってるけど、ファンの方を笑顔にもしてますよね。

大原:はい。だから、人と人とは支え合ってるんだなって。金八先生じゃないけど(笑)、すごく実感しますね。

――実際に各地で歌ってみて感じたことはありますか?

大原:みんなの感想はSNSでしかまだ見れていないんですけど、届けたかった思いがちゃんと届いてる実感はありますね。バイオリンとピアノという編成だったので歌詞の言葉もよく聞こえたと思います。CDの音源もいいけど、この編成の「それだけでいい」もすごく気に入っていて。発売日以降に歌詞にじっくり目を通してもらった時に、どういう感想が来るのか楽しみです。

――すごくシンプルな構成のバラードになってますがレコーディングはどんなアプローチで望みましたか?

大原:冒頭はほぼアカペラなので、すごく緊張しましたけど、自分の心の中にあるいわゆる心地よいものや優しいものを全部思い浮かべたというか。澄んだ空気の場所や夕焼けとか……人がリラックスして温かい心になれる情景をありったけ思い浮かべて歌ってました。

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「幸せ~」とか言っちゃう(笑)

――ミュージックビデオにも夕焼けが登場するんですよね?

大原:そうなんです。二人を包み込む夕日に照らされるふたつの影がキーワードとして上がって。二人が並んで歩いてて、影を見た時に感じる、一緒にいるんだっていう喜び。すっごく何気ないけど、さりげないことに一番幸せを感じるなと思って。本当に日常の小さな幸せがテーマになってます。公園で遊んだり、レジャーシートを敷いてサンドイッチを食べたり。さっきの<僕だけはいつも/笑顔でいられる場所でありたい>というフレーズじゃないけど、何気ないところで、人間はこうやって人といて笑っていると思える映像になったと思います。

――ご自身でも日々、小さな幸せを感じてますか?

大原:はい! 私、感じるタイプだと思います。しかも、言葉にしますね。「幸せ~」とか言っちゃう(笑)。

――今作はカップリング「笑顔の種」でも“笑顔”と“幸せ”がテーマになってます。

大原:そうですね。(作詞家の高橋)久美子さんと打ち合わせした時に、今の時代について、いろいろとお話をして、最初はもっとバラードっぽい感じだったんですけど、小名川さんが手拍子したくなるような楽しいアレンジにしてくださったんです。温かい歌だし、ライブでみんなと歌えるような曲だと思いました。久美子さんから「今の時代、故郷に帰れない人も多いじゃない? 故郷が待ってるんだって思える曲をテーマにするのはどう?」って聞かれて、「大賛成です!」って答えました。私からも「大きなことよりも、日常の小さな幸せを歌いたいです」ってお願いをして、こういう歌詞ができました。

――歌詞を受け取ってどう感じましたか?

大原:久美子さんの歌詞は、「夏のおいしいところだけ」もそうなんですけど、女性が書くからこそ生まれる可愛らしさがあって。なんて言うんでしょうね……心をくすぐるワードが散りばめられているんです。日常の中で「あ、かわいい」って思わず口に出ちゃうようなものを思い出させてくれるワードがいっぱいあって。例えば<幸せは派手な色じゃなく/そよ風のようにさりげないもの>とか。普段の生活ではいちいちそんなことを思ってないんだけど、歌詞にしてもらうと、本当にそうだよなって思う。それが久美子さんの力だなって感じました。

――故郷というテーマについてはどうですか? 櫻子さんは東京生まれですが。

大原:故郷という場所ではなく、戻ってくるとホッとする感覚は、お仕事でもあるなと思っています。例えば、以前ご一緒した方とまたタッグを組んでやる時とか。走馬灯のように思い出が蘇ってくるし、だからこその安心も感じます。人と人の繋がりでも、その人自体が故郷にもなると思うんですよね。でも、こういう時代になって、なかなか故郷に帰れないもどかしさもすごくわかるんです。(東京生まれだけど)そういうイメージはできるので、そう言った意味では、そのテーマもいいなと思いました。

――櫻子さんにとってホッとできる場所や人は?

大原:いっぱいいますよ。最近、ピアノの先生から連絡が来たんです。5歳から14歳までピアノを習ってた先生なんですけど、久しぶりにメールをいただいて、「あ、自分の故郷、ここにあるな」って思いましたし、ホッとした感じがありましたね。

――おかえり、ただいま、また明日と言える場所を歌ってるんですよね。歌入れはどうでしたか?

大原:すごく楽しかったです。思わずハンドクラップしちゃう感じで、この曲自体が“笑顔の種”だなって思いましたね。久美子さんが書く歌詞って、歌うと不思議と元気が出るんです。深みもあるし、情景も思い浮かぶし、かつ、歌ってて楽しくなる。一昨日ツアーが終わって、昨日、家にいる時にも、自然とこの曲を歌ってる自分がいて。「あぁ、歌う楽しさを持ち合わせている曲なんだな」って思いましたね。

――音楽以外にも笑顔の種は何かありますか?

大原:いっぱいありますけど、友達から一番もらうかな。友達の前ではずっと笑ってます。類は友を呼ぶじゃないですけど、私も楽しいことが好きだし、アウトドアなタイプなので、友達と電話したり、会ったりすると笑顔をもらいますね。

――2曲揃って、14枚目のシングルはご自身にとってどんな1枚になりましたか?

大原:久しぶりに小名川さんにプロデュースしてもらって、やっぱり、絶対なる信頼がありますし、コナさん(小名川の愛称)との曲作りも非常に懐かしかったです。原点に帰るような感覚もあり、コナさんも私も時が経って、26歳の私だからこそ作れた1枚にもなっていて、新鮮なようで、懐かしさも含んだ1枚になったと思いますね。

――デビュー当時から制作やライブに関わってきた小名川さんは、大原櫻子というアーティストにとっての故郷でもありますよね。

大原:そうですね。コナさんとは出会って10年になります。「すごい歴史だな~」って二人でも言ってて。何か意図があってお願いしたわけではなく、自然な流れではあったんですけど、真っ直ぐなJ-POPもやりたいし、「こんな曲にさくちゃんも挑戦するんだ」っていうのもやりたい。新しい一面をいろいろと見せていきつつ、ここからは、大原櫻子の人間性や考え方をもっと出していけたらいいねって話をしてます。

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