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BIGBANGが綴る、目まぐるしく変化し続ける時代のマスターピース「Still Life」<コラム>



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BIGBANGの新曲「Still Life」が、4月5日にリリースされた。2018年3月リリースの「FLOWER ROAD」から約4年ぶりとなる本楽曲は、リリース直後に日本を含む世界33の国と地域でiTunes1位を獲得するなど、そのチャート結果からも多くのファンが彼らのカムバックを待ち望んでいたことがうかがえた。
各チャートで目覚ましい躍進を見せている「Still Life」だが、本楽曲には、数字だけでは語り切れないBIGBANGの“過去/現在/未来”がありありと表現されている。本稿では、ポップカルチャーシーンに造詣の深い菅原史稀氏に、BIGBANG、そして彼らの音楽とともに歩んできたさまざまな人々にとって「Still Life」がいかに特別な楽曲であるのかをひも解いてもらった。

【BIGBANG「Still Life」歌詞・翻訳】
https://ygex.jp/bigbang/discography/lyric/lyric_stilllife.php

Text:菅原史稀

紆余曲折の、しかし確かに刻まれた4年間の機微

 BIGBANGというグループ名は、デビューから16年あまりが経った今になっても(今だからこそと言うべきか)、彼らのアイデンティティーを物語るうえでこれ以上ないネーミングであるように思える。

 その受容が世界規模にまで拡大し、様々な文化的背景、社会的属性をもつ人々によってファンベースが築かれているK-POP。
 そのシーンを構成しているのは、多種多様なジャンルの音楽や身体表現はもちろんのこと、映像、美術、ファッション、言語、食などのあらゆる文化的要素。それらが文化圏や分野、世代の垣根を軽々とこえながら行き交う――BIGBANGは2006年のデビュー以来、そんなエキサイティングな光景をK-POPという名の宇宙に創出してきたグループで、それこそが“レジェンド”と称されるひとつのゆえんだ。

 そんな彼らが約4年ぶりにリリースした新作「Still Life」を、人々はどのように受け取っただろうか。

 流行りのK-POP注目作、かつて青春時代に聴いていた懐かしいグループの最新曲、そうした率直な期待を寄せたリスナーも少なくないように思う。
 一方で、願っていた彼らの帰還を大いに喜びながら、一筋縄ではいかない感情を抱いて公開を待ち受けたファンが多いことも事実だろう。

 この数年間で、私たちの世界は元に戻れないほど激変した。パンデミックとそれに伴う社会情勢、人々の生活と価値観の変容。加えて、先述のとおり“エキサイティングな”その特性ゆえ移ろいの激しいK-POPシーンは、4年前とは大きく異なる様相を呈している。
 そうした普遍的なトピックとともに、ファンの心の大部分を占めていたのはBIGBANGというグループに起こったパーソナルな出来事についてだ。ニュースでは到底伝えられない、紆余曲折の、しかし確かに刻まれた4年間の機微。それが彼ら自身の手でどのように紐解かれ、内省され、表出されるのか。

 「Still Life」、原題「봄여름가을겨울(春夏秋冬)」には、まさにデビュー以来ポップスターとして、レジェンドとして、そしてファンにとっての唯一無二な存在として、多様な視線を引き受けてきたBIGBANGの「過去/現在/未来」が地続きとなって映し出されていた。

▲BIGBANG「Still Life」

 「春夏秋冬」と冠された原題に対応する「ヴィヴァルディ」「チャイコフスキー」といった、同じく“四季”をテーマとする作品を手がけた偉大なる音楽家たちの名が言及される歌詞。またビートルズによる13作目のオリジナル・アルバム『Let It Be』のジャケット写真を彷彿とさせるアートワーク。それらに象徴される、オーセンティックで普遍的なバンドサウンドは、張り詰めたこちらの心をすんなりとほどいていく。

 タイムレスな美しい旋律とあたたかな音色に載せ聴こえる、メンバー各自の個性が際立つボーカル。それはBIGBANGの一員として歩んできた軌跡について、4人がそれぞれに語り継いでいるような親密感と実直さを感じさせる。


▲BIGBANG「Still Life」アートワーク

 特筆すべきは、歌詞でさまざまに描写される“変化”についてである。
 ひとつは〈時が経つほどやるせなく流れ〉るような季節により、もたらされる変化。〈去って行った人 また巡り逢えた人〉や〈輝きと愛に満ちていたあの頃〉は、四季が移ろうように美しく形を変えながら、やがて痛いほどかけがえのない人生の一部となっていく。

 “Four seasons with no reason.”
 豊かな叙情性と絶妙なライミングがなんともG-DRAGONらしいこの一節は、たえまなく変容し続ける世界の真ん中で、その無常さを捉えてきたポップスターならではの真摯なまなざしが感じられるようだ。

 しかし、理由なき季節の移ろいの中にも“変わらないもの”があることを示すのも、またG-DRAGONである。
 この曲で彼の紡ぐ〈大人気なく季節が過ぎても分別のない(still)/世間知らずで大人になれないまま〉は、2016年に韓国でリリースされたアルバム『MADE』の収録曲「LAST DANCE」で歌われる〈人々は今日も過去に浸って/僕がいなくても世界は回っている/まだ幼く大人になりきれないようだ〉からの連続性を思わせるフレーズだ。

 だからこそ、その後にT.O.Pが口にするこんなリリックが心を打つ。
〈変わるよ前よりもっと/良い人にもっと/より良い人にもっと〉〈朝露に濡れて/内なる怒りを過去に埋めて/For Life〉
 そこに表れるのは、すべてが勝手に変化していくはずの世界で〈命懸けで進む新しい旅立ちのシャトル船〉に乗り込み自ら変化を起こさんとする、一人の人間としての矜持のように思えた。

 そして本曲の冒頭を〈四季は巡り再び春〉と歌い上げるSOL、〈慣れ親しんだ青春の日々にサヨナラ〉と繋ぐD-LITE――4人の表すそれぞれの“変化”は、4年にわたる空白の時間のなかで自然に遂げていった彼ら自身の変化を真摯に伝えているのかもしれない。
 しかし川のなかを流れる水やそこに浮かぶ泡々が一様に流れ去ってしまっても、川そのものの姿はいつまでもそこに在るように、BIGBANGというグループはいかなる形となっても絶対的な存在であり続けるに違いない。それこそが彼らの四季を映し出す、この「Still Life」で伝えられるメッセージなのだから。

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BIGBANGと共に歩んできたそれぞれの人生

 「Still Life」リリース後、BIGBANGの所属する韓国の芸能事務所YGエンタテインメントの後輩アーティストが、同曲のMVを初めて視聴する場面を捉えた映像が公開された。
 鑑賞にあたり「自分にとってBIGBANGとはどのような存在か」と問われたTREASUREのメンバー、チェ・ヒョンソクが「この場所に連れてきてくださった方々です」と語ったように、その多くがBIGBANGの背中を見て、アーティストの道を志していた。

▲WINNER/iKON/TREASUREによる「Still Life」MVリアクション

 鑑賞中、スクリーンを見つめる彼らの目の輝きからは、自らも表舞台の上に立つ者として、いちファンとして、そして一人の人間として同曲に向き合い、聴き入っている様子がうかがえた。
 TREASUREのメンバー、ヨシは涙ながらに「泣いたときも笑ったときも、いつもBIGBANG先輩の歌とともにいた」と口にしていたが、その想いはファンも同様だっただろう。SNS上には、世界中のファンが歌詞やMVに織り込まれたフレーズや描写を一つひとつ大事にすくい上げ、各自なりの解釈を深めながら、BIGBANGと共に歩んできたそれぞれの人生を照らし合わせる、そんな眩い光景が広がっていた。

 最後に、「Still Life」のクライマックスを飾る一節を紹介して本稿を締めくくりたい。「いつかまた」という希望を胸に抱きながら。

〈いつかまた訪れるその日その時のために(あなたのために)/きっと美しい僕らの春夏秋冬〉

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