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「グラスパー以外、全員友達」江﨑文武&石若駿が期待を膨らませる【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL】



LOVE SUPREMEインタビュー

 5月14日・15日に埼玉・秩父ミューズパークで開催される日本初上陸のジャズ・フェスティバル【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL】には、久々の共演が話題のDREAMS COME TRUEと上原ひろみ、ブラジルが誇るセルジオ・メンデス、名盤『ブラック・レディオ』のリリースから10年が経ち、その最新作『ブラック・レディオ3』の発表が記憶に新しいロバート・グラスパー、ステージに定評のあるSOIL & “PIMP”SESSIONS、Nulbarich、Vaundyなど、国内外アーティストが一同に会する。WONKと石若駿率いるAnswer to Rememberもその内の2組だ。

 WONKの江﨑文武(Pf)と石若は東京藝術大学時代からの仲で、学友の常田大希(King Gnu、millennium parade)を筆頭とする現在の日本の音楽シーンの背負うミュージシャンたちと音楽の未来を変えるために、ともに切磋琢磨してきた。各方面で引っ張りだこの実力プレイヤーたちが勢ぞろいすることになる【LSJF】の開催を前に、両者に思い出を振り返りながら、楽しみにしているステージを歓談してもらった。

左から:石若駿、江﨑文武

――新世代ジャズ・フェスティバル【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL 2022】の開催がついに決定しました。

石若駿:延期に延期を重ね、やっとやれることになって。海外勢も無事に来れるということも嬉しいですね。(ロバート・)グラスパーとか、海外勢が日本でライブをしなくなってから3年くらい経つ。コロナ前は、海外勢のライブや、アフターのジャムセッションを見ると、安藤康平(MELRAW)とよく「渦巻いてるねー!」って言い合うことがあったけど、今はその感覚を忘れちゃってるので、海外勢の音楽の空気を肌で感じるのが楽しみですね。

江﨑文武:国外のアーティストが来るのも久しぶりだけど、野外でフェスをやること自体もめちゃめちゃ久しぶりだからね。友達と同じステージに立って、「よ、久しぶり」みたいな機会が訪れること自体、幸せなことだと思います。

――お二人は、それぞれWONK、Answer to Rememberとして同じ日に出演されます。

江﨑:15日は「グラスパー以外、全員友達」って僕らは言ってますね。大学生の頃に社長がナビゲーターを担当しているJ-WAVEのジャズバラエティ番組『V.I.P.(ヴイ・アイ・ピー)』に駿が誘ってくれて、SOILの皆さんとはそれ以来フェスなどでもご一緒していて。Nulbarichとは楽屋で喋ったことがあるくらいなんですけど、バンドメンバーは割とジャムシーンにいた人たちだし、Vaundyは最近、僕が彼の作品で鍵盤を弾いたり、アレンジしたりしてるし、アンリメ(Answer to Remember)は言わずもがな友達だらけなので(笑)。

石若:(ラインナップを)改めて見るとすごいよね。Nulbarichの今村慎太郎さん(Dr.)とは、桑原あいちゃん(Pf)のバンドでツインドラムをよくやりました。SOILの秋田ゴールドマンさん(b)とは中村恵介クインテットでよく一緒になったし、丈青(Pf)さんとは、オマさん(鈴木勲)とトリオでよくやりましたし。ほんとに友達ばかりだなと思います。

――お二人は芸大の同級生なんですよね。初めての出会いは覚えてますか?

石若:大学1年生の入学式の日だよね。

江﨑:そう。3.11の直後だったので入学式はなかったんですけど、僕の地元の先輩でコントラバスを弾いてる小野さんという先輩が紹介してくれたんです。駿は中学・高校の頃からジャズシーンでは有名な存在だったので、「わ、石若くんだ! はじめまして。よろしくお願いします」っていう感じで連絡先を交換してから、駿がごはんに誘ってくれるようになって。いつも「文武、今日空いてる?」っていう急な連絡が来るんですけど(笑)、行ってみたら、指揮科の子がいたり、オーボエ科の子がいたりして、駿がいろんな人に出会わせてくれましたね。

石若:僕も、ジャズをやってる高校生のトリオが福岡にいるっていうのは噂で聞いていたんです。だから、今ニューヨークにいる森智大くん(Dr.)と小野さんと文武の存在は知ってました。だから、「あの文武か?」って、最初に思ったのかな。僕は打楽器専攻で、文武は音楽環境創造科だったのでキャンパスが違うんですけど、打楽器専攻がある上野の校舎に文武が来ることがあって、校内ですれ違ったときにワッツアップしたり、学食で文武が一人で食べてるところに割り込んで一緒に食べたりしていくうちにだんだんと仲良くなっていきました。

――最初にセッションしたのは?

石若:芸祭かな?

江﨑:その前にラーメン小屋みたいなところで一緒にやったよね。

石若:小野さんもいたから、1年生か2年生の時か。メインステージの周りにあった出店のラーメン屋にドラムセットがあって、そのすごく小さなところでやったのが最初です。突発的なセッションだったんですけど、1年か2年後に、メインステージで公募があったので、石若駿バンドをやろうと思って、「文武、明日空いてる?」って急に誘って(笑)。常田大希(Guitar)と後藤克臣さん(Ba)、パトリック・ムーディー(Tp)、山田丈造(Tp)……松永遼(Tb)もいた?

江﨑:松永くんもいた! 飛び入りしたんだ。あと、客席にAnswer to Rememberで鍵盤を弾いてる海堀(弘太)くんとか、WONKのドラムの荒田(洸)がいて。

――今の日本の音楽シーンの先頭を走るミュージシャンが勢揃いしてますね。ドキュメント映画を見たいくらい。

江﨑:あの日は面白かったですね。でも、ステージに立つ数時間前まで、なんの曲をやるのかわからなくて。みんながジャズをやり慣れてるメンバーというわけじゃないから、「どうなるんだろ?」って思ってました。

石若:僕としては、普段からみんながジャムセッションをやってるから何でも大丈夫と思っていました。「『アクチュアル・プルーフ』(ハービー・ハンコック)やろう」って言えば、文武は知ってたし。「フット・プリンツ」(マイルス・デイヴィス)もみんな知ってたでしょ?

江﨑:大希は困ってたよ(笑)。「一応コードは追ってたけど、どうすりゃいいんだ?」って。「バタフライ」もやったかな? あれは面白かったな、マジで。どうなるんだろうって思ってたけど、めちゃくちゃ強烈な思い出として残ってますね。

――在学中からたくさん共演してるんですよね。

石若:そうですね。いろんなところで一緒になる機会が多かったですね。在学中に「東京塩麹」というバンドでも一緒にレコーディングもライブもやったし、文武のプロジェクトでも。

江﨑:(江﨑が音楽監督を務めた)映画『なつやすみの巨匠』の音楽に駿にも参加してもらったこともあります。あと、今でいうAIみたいなモノが即興のモチーフを提示して、それに人間が合わせていくような作品を大学の頃に作っていたんですけど、それにも参加してもらったり。

石若:オーネットね。

江﨑:そうそう。オーネット・コールマンが即興演奏について語る音声の一部をループさせて、その言葉をドレミに変換して、それに合わせてみんながインタープレイをしていく作品をやったりしてましたね。

石若:そうこうしているうちに、卒業のシーズンになって。文武はダンモ(早稲田大学モダンジャズ研究会)で出会ったWONKのリーダーの荒田とバンドを始めていて、僕は小西(遼)と小田朋美さんとクラクラ(CRCK/LCKS)をスタートしていました。みんなジャズ周りの人なんだけど、バンドシーンで活動するようになって。それが卒業して1年後くらいかな?

江﨑:そうだね。この前、駿が「6年前」ってインスタのストーリーにあげてたけど、あれはミレパ(millennium parade)のレコーディングの1日目でしょ。大学卒業してるかしてないかくらいの時期で。

石若:在学中だったかな。クラクラのマネージャー、アポロサウンズの阿部さんが『http://』というアルバムを手伝って出してくれた。当時はまだDTMP(Daiki Tsuneta Millennium Parade)という名前でした。

江﨑:溝の口あたりのスタジオで録ったよね。在学中にいろんなプロジェクトで一緒になって、卒業してもそれが続いてる感じでしたね。

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――それぞれのバンド活動をどう見てますか?

石若:WONKは最初からカッコいい映像を出していたイメージがありますね。「うわ、すげえ!」と感じたし、文武の周りには面白い人が集まってるなと。1枚目のアルバム『Sphere』を作るときに誘ってくれて、「Real Love」という曲でJuaっていうラッパーとフィーチャリングで参加させてもらいました。

江﨑:Juaはアンリメのステージにゲスト出演するよね? 【ラブシュプ】で俺ら共演できるんじゃないかって思ってる。

石若:できるね。やる?

江﨑:ドラム2台並べられたら最高じゃん。一回、北海道でやったよね?

石若:やったやった。札幌のフェスに連れてってくれたことも嬉しかったし、WWW XでやったWONKの周年パーティーに呼んでもらった時も嬉しかった。僕らは同い年なんですけど、映像やバンドの見せ方、レーベルの立ち上げやフェスへの出演を含めて、周りの中で、それら全てを最初にやったのがWONKだっていう印象があります。

江﨑:駿はドラマーとして凄まじいということは、言わずもがななんですけど、僕が駿と出会って感心したことは、ハーモニーの感覚です。アンリメのジャズ的な面白さはもちろん、(石若のプロジェクトである)「SONGBOOK PROJECT」で駿は歌ものを書いてるんですけど、その1曲1曲が全部面白くて。ドラマーの石若駿もすごいけど、ソングライティングの部分でもすごく魅力的だなと思ってます。駿が作曲をしてないプロジェクトでも、駿は作曲者視点で音楽を見つめていると、近くで見ていて感じます。あと……駿はパワースポットですね。

石若:あはははは(笑)!

江﨑:駿の周りには面白い人が集まってくるんですよね。しかも、面白いだけでなく、いい気を持った人達が集まってる。Answer to Rememberは間違いなくパワースポットが形として現れているプロジェクトだと思う。

石若:そうかな? 嬉しいですね(笑)。

江﨑:同世代のミュージシャンが何かしらの仕事で継続的に繋がっているのが、ゆるっと続いてる感覚です。

――それぞれバンドの活動もありながら、ミレパをはじめ、今でも一緒に演奏する機会が多いですよね。

石若:そうですね。大学の時からの付き合いなので、自然と在学中から共有してたものがあって。何も言わずとも、その場にいるだけで強いコネクションを感じられるのは特別だと思いますね。ミレパの現場に行って、例えば、言葉を交わしてないとしても、手綱を握り合ってる感じがある。普通にはしてるんですけど、深いところで繋がりを感じて、音を出してる気がしますね。どう?

江﨑:いつも自然に音楽を作るモードになれるというか。どんな音楽が来ても、お互いに共通の方法があることはわかる感覚がありますね。

石若:文武は演奏以外もすごいよ。子供達のために授業する「GAKU」のディレクターをやってて、僕やermhoi(Vo)を講師として呼んでくれたこともあって、そういう活動も素晴らしいなと思います。どうですか?

江﨑:(笑)。小さい頃から音楽を教わる環境にいた人間として、今の音楽教育を昔ながらのやり方じゃなくて、もう少し自由度のある、開かれたものにしないといけないと思っていて。「教えることは歳をとってからでもできる」って言う方もいらっしゃるんですけど、中高生の子達が親近感を持って話を聞いてくれる20代のうちに取り組んでおきたかったんです。それに、最新のものにアンテナを張れるのはギリギリ20代かなとも思うんですよね。とはいえ既にTikTokとかも見てないんですけど……。そういう感覚があるうちにやっておきたいという希望があったので、「10代の子たちの道が開けるような何かをやってくれない?」って、同世代の友達に無理を言って、スケジュールを空けてもらいました。

――新しいことを始めるときに真っ先に声を掛ける仲間でもあるんですね。

江﨑:そうですね。駿は野生的な部分がありつつも、古典的な美学もちゃんと学んできていて。人にものを教えるときは、受け継がれてきた美を学んでいることも重要だと思ったのと、あとは何より、喋らなくてもドラムを叩けば「すげえ!」ってなるから。

石若:あのとき上手く喋れなくてごめんね。言葉が全然出てこなくて。

江﨑:いや、「バン!」って叩けば言いたいことがわかるから、本当は言葉も要らなかった。あの授業が終わった後、受講生や聴講に来てた大人の方から「道徳の授業だと思った」という感想をもらったんですよ。小さい頃に憧れていたYOSHIKIさんや日野(皓正)さんとの出会いとか、導いてくれる人とどう関係を紡いでいくかを話してくれたから。

石若:ありがたいね。僕は文武を通して、面白い経験をさせてもらってる気がしますね。人の前に立って教鞭をとることはなかなかないので、文武といると定期的に新しい経験ができる気がする。

――同世代の友人たちが今、日本の音楽シーンの中心にいることはどう感じてますか?

江﨑:在学中にそういう話をした時もあったんですよ。

石若:僕らの世代はみんな共通して悶々としたものがあって、それをなんとかしようっていう思いはありました。それこそ、僕らの世代から面白いムーブメントを起こそうと、【JAZZ SUMMIT】という取り組みをジャズの仲間たちとしていました。クラシックサイドの同級生も新しい盛り上げ方をしようとしていたし、そういうことが多発的に起きていた世代だったとは思いますね。

江﨑:みんな、社会と接続しようという気持ちがすごく強かったと思うんです。世の中に対して、どう自分の作品を届けることができるのかを第一に考えていたような気がしてて。作曲家の坂東祐大さんと駿は高校の時からの仲で、大学生になってから、ちょくちょく僕も交流するようになったんですけど、「時代性を大切にしてる」という話をしていました。社会や時代に敏感になろう、そこを無視しちゃいけないっていう気持ちがあった世代だと思いますね。

――ミニマルミュージックやフリージャズをやってた人が、数年後に『紅白歌合戦』に出るとは想像できないですよ。

江﨑:そこは大希が一点突破してくれて。

石若:よかったよね〜。

江﨑:大希も、めちゃくちゃ悶としてたよね。映像を人に頼んでもうまくいかないから、自分で映像のチームを立ち上げて、そのPERIMETRONも「何かを変えてやるぞ」みたいな悶とした人たちが集まってた。

――【ラブシュプ】も、それぞれのフィールドで活躍している仲間が久しぶりに一堂に会する場になりそうですね。

江﨑:そうですね。出演者が前後で重なりまくりそう。せっかくだから「Real Love」が一緒にできたらいいな。Juaくんもいるしね。

石若:こっちには、いつでも入ってきていいからね、海堀と交代して(笑)。

江﨑:いやいや(笑)。連弾するのもいいかもね。

石若:お客さんもきっと、ちょっとそこを楽しみにしてる気がする。

江﨑:そうだね。SOILにはすでに長塚(健斗)さんの参加が発表されてるけど、そういうコラボもいいよね。

石若:うん、楽しみ。

江﨑:中島朱葉ちゃん(Sax)とか海堀くんとかは早稲田のダンモの部室で一緒にいたメンバーだし、思い返せばこのメンバーで同じステージに立つのはダンモの定期演奏会を新宿の「J」でやった以来かな〜。それが秩父のステージに繋がるんだから、びっくりだよね。ほんとに、グラスパー以外、みんな友達。

石若:『ブラック・レディオ』が出てから今年で10年。あれは衝撃だったよね。当時めちゃめちゃ聞いてた。

江﨑:海堀くんとグラスパーごっこやってたわ。グラスパーの得意な和音進行で「ソフトリー」をやるっていう(笑)。そんなことをやってたときに、1学年下の荒田がジャムに入ってきて、“慶応のクリス・ディヴ”っていうあだ名がついたんだよね。今日はほんと、昔話になっちゃいました(笑)。

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