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<インタビュー>ばってん少女隊・希山愛&瀬田さくら × ケンモチヒデフミ、お祭り前夜の“わびさび”描いたダンス・ナンバー「YOIMIYA」を語る
九州を拠点に活動する“ばっしょー”こと、ばってん少女隊がニュー・シングル「YOIMIYA」をリリースした。
2021年春に蒼井りるあと柳美舞が加入し、新たな6人体制で再始動したばってん少女隊。2020年のアルバム『ふぁん』の収録曲で、2021年12月には新体制での再収録ver.がリリースされた「OiSa」は、彼女たちの地元・福岡を代表するお祭り『山笠』をモチーフにした楽曲で、グループがデビュー当初から続けてきたスカ/ロック・サウンドの方向性から大きく舵を切り、日本の伝統文化をシンセ主体のダンス・ミュージックへと昇華、USENランキングで上位に入るなど、不思議な中毒性が話題を集めた。また、2021年10月に発表した「わたし、恋始めたってよ!」も、繊細で複雑な恋心を表現したリリックと無機質で神秘的なサウンド・デザイン、国内屈指のパワー・スポットである長崎県・壱岐島を舞台としたミュージック・ビデオが、ばってん少女隊の最新型クリエイティビティを鮮やかに体現した1曲だ
2022年第1弾リリースとなる今作「YOIMIYA」は、水曜日のカンパネラのメンバーとしても知られる音楽プロデューサー/トラックメーカーのケンモチヒデフミによる楽曲。こちらもお祭りをモチーフとした楽曲だが、前夜のわくわく感や終わってしまったあとの寂寥感など、むしろ喧騒や雑踏の外側にある“わびさび”を描いていて、和楽器の音色と心地よいベース音やユーフォリックなマシン・ビートの融合サウンドも情緒的なナンバーだ。
Billboard JAPANでは、ばってん少女隊の希山愛と瀬田さくら、そしてケンモチヒデフミによる鼎談インタビューを実施。コラボレーションの感想やお互いの印象、「YOIMIYA」の制作経緯など、話を訊いた。
衝撃的過ぎるぐらい、やりたいことをやりきっている感じ
――ケンモチさんは、昨年末のワンマン・ライブでばってん少女隊のみなさんと初めてお会いしたそうですね。今回の楽曲を提供するにあたり、いろいろと情報収集もされたかと思うのですが、ばってん少女隊はどんなグループという印象がありましたか?
ケンモチ:今までの曲も聴かせていただいたんですけど、バンド・サウンドがわりと強めで、明るくて元気のいい、みんなをわあっと盛り上げるような曲が多いイメージでした。なので、たぶんそういう曲を頼まれるのかなと思っていたら、ディレクターの杉本さんから「いや、いまはちょっと違うフェーズに入ってるんですよ」というお話を伺って。それで「OiSa」と「わた恋」(わたし、恋始めたってよ!)を聴いたら「うわ、めっちゃいいな」って。
――デビュー当初からスカやロック系の楽曲が多かったばっしょーですが、その2曲はガラッと雰囲気を変えて、和×ダンス・ミュージックに挑んだ意欲作でした。
ケンモチ:「わた恋」は制作途中にミュージック・ビデオを見せていただいたんですけど、普通、お祭りとか和っぽいテイストを取り入れていたら、みんなで騒がしく盛り上がるような曲を想像すると思うんですけど、この曲の雰囲気はどこか神秘的というか、ばっしょーのみなさんが神社に舞い降りてきた妖精みたいな感じで、すごい世界観だなって。あと、『ふぁん』に収録されている「Just mean it!」もちょっと衝撃的過ぎるぐらい、やりたいことをやりきっている感じがして、すごく素敵だなって思ったんです。そういう一連の流れを踏まえて、自分に何ができるか、みたいなことはいろいろと考えました。
ばってん少女隊『OiSa』 -Music Video-
ばってん少女隊『わたし、恋始めたってよ!』-Music Video-
"Just mean it!" feat. BILLY from BILLY'S BOOTCAMP M/V[ばってん少女隊 / BATTEN GIRLS]
――瀬田さんと希山さんは、ケンモチさんとのコラボレーションが決まったとき、どんなことを思いましたか?
瀬田:最初、どなたが作ったか知らされないまま、まず曲を聴かせていただいたんですよ。わたしは普段から水曜日のカンパネラさんだったり、ケンモチさんが作られる曲を聴くことが多かったので、楽曲提供してくださったことを聞いたときはすごく嬉しかったです。あと、水曜日のカンパネラさんの歌詞もすごく特徴的ですけど、今回はそれとはまた違った感じでびっくりしました。
ケンモチ:たしかに。
希山:スタッフさんに「誰が作ったと思う?」って訊かれたときは、全然わからなくて。水曜日のカンパネラさんはフェスで見させていただいたことがあるんですけど、フェスって「みんなで盛り上がろう!」みたいなイメージがあったので、水曜日のカンパネラさんのライブは「こんな楽しみ方もあるんだ」みたいな、すごく不思議な世界観に入った感じがして。そんな素敵な音楽を作る方に楽曲提供していただけて本当に嬉しかったですし、私たちも曲に恥じないよう頑張らないといけないなって思いました。
――ちょうどライブの世界観のお話もありましたが、自分たちがこの「YOIMIYA」をステージ上で表現することで、また新しい世界が切り開けるという予感もあったんじゃないですか?
瀬田:アイドルのライブって、振りコピして踊ったり、コールで盛り上がったりすることが多いと思うんですけど、コロナ禍ではそれがなかなかできなかったりして。でも、そういう状況でも、こういう楽曲だと世界観に引き込まれてノってくれるファンの方々も多くて、面白いなって思いました。
――ケンモチさんは、ばってん少女隊のライブを見ていかがでしたか?
ケンモチ:曲数もすごかったし、演出も含めてパワフルなライブでした。あれ、1日2ステージあったんですよね。とんでもない体力だなって。ライブは前後半で演出が違って、前半は個々のダンス・パートのパフォーマンス力も含めて、すごい世界観を見せていたなって思ったし、後半はとにかくお客さんを楽しませていて、隣にいたお客さんが「これこれ!」みたいな感じで。その二面性というか、一つのライブでこんなにエンタメできるのっていいなと思いました。
お祭り前夜に感じる和の情緒
――ケンモチさんの提供だと知らずに聴いたときの楽曲の第一印象は?
瀬田:最初のビートから超ノれる曲だと思って、ライブ会場で爆音で流れたら……って、まずライブで披露するのがすごく楽しみになりました。あと、最初は歌詞がつく前に聴いたんですけど、このトラックだけでもずっと聴いていたいと思うぐらい、メロディーが素敵だなって。
――このダンス・トラックと叙情的な歌詞の組み合わせも面白いですよね。
瀬田:すごくイケイケな歌詞がつきそうな曲だなと思っていたら、最近のばってん少女隊がやっている和のコンセプトに寄せてくださっていて、最初は意外な組み合わせだなと思ったんですけど、何度か歌っていくにつれてしっくりきました。お祭りダンス・ミュージックってかっこいいし、和の世界観も日本人に馴染みがあるものなので、歌うのがすごく楽しいです。
希山:もうイントロが始まった瞬間に「あ、好きだな」って思いました。まずイヤホンで聴いたんですよ。そのときにビートが体の中までズシズシくる感じがあって、それがすごく気持ちよくて。そのあと、ヘッドホンでも聴いて、最後はスピーカーに繋げて、家で大音量で流すようになっちゃいました。
――「OiSa」や「わたし、恋始めたってよ!」と比べると、トラックはひと際オーセンティックなクラブ・ミュージック然としている一方、歌詞に関しては、お祭りというモチーフから連想しやすい喧騒や高揚をストレートに描いているわけでもないんですよね。
ケンモチ:お祭り本体よりも、その前にあるわくわく感だったり、終わったあとの物悲しさだったり、周りに付随するエトセトラみたいなもので1曲作ろうというコンセプトでした。そういうところに和の情緒感があるなって思うんです。最初はばっしょーさんのイメージ的にもうちょっと明るい感じというか、“焼きそば”や“金魚すくい”や“わたあめ”みたいな歌詞もあったんですけど、もう少しはんなりした感じでわびさびを出そうってチューニングしたりして。
瀬田:たしかに花火大会とかでも、メインの花火が打ち上がる瞬間より、友達と浴衣を選んだり、一緒にお店を回ったり、そういう時間のほうが思い出に残ったりするので、私もこの歌詞にはすごく共感しました。
――ちなみに、みなさんの中で印象に残っているお祭りの思い出ってありますか?
瀬田:福岡の大濠公園の大きい花火大会は、高校生のときにお友達と一緒に浴衣を着て行くのが定番でした。いまはもうやっていないんですけど、「YOIMIYA」の歌詞を読んで改めて思い出して、「楽しかったな。でも、もうやってないんだな」ってちょっと切ない気持ちになったりして。福岡の人ならみんな知っているようなお祭りだと思うんですけど。
――希山さんも行かれたことがある?
希山:はい。私も行ったことあります。
瀬田:いまもやっているお祭りだと、放生会っていう福岡の三大祭りのひとつがあって、それは本当に「YOIMIYA」の雰囲気に近いと思います。ズラっと出店が並んでいて、よく家族で遊びに行って、お参りもしました。
希山:私も放生会は高校の友達と行ってました。学校が終わったら「何時に集合する?」って。出店の食べ物を買って、食べて、歩いて、お話ししたり。高校を卒業したあとも放生会で久しぶりに会うお友達がいたりして。
瀬田:1週間ぐらい続くので、学校で「放生会に行くときは必ず家に帰ってから行くんですよ。何時までに帰らなきゃいけませんよ」って書かれたプリントが毎年配られるんです。
ケンモチ:学校の制服では行ってはいけません、みたいな?
希山:そうです。
ケンモチ:僕は地元が埼玉なんですけど、桶川の中山道っていう街道があって、そこでお祭りがあったので、毎年夏の楽しみにしてました。僕、型抜きにめっちゃはまっていて。もうちょっとでいけそうなところで失敗したりするので、いつも作戦を練ってましたね。子どもの頃に行っていたお祭りと、大人になってからの行くお祭りって、見え方がまったく変わるのが面白いですよね。「あれ、出店の道ってこんなに短かったっけな」みたいな。そういうところもお祭りの好きなポイントだったりします。
瀬田:これから感じていこうと思います(笑)。
ケンモチ:出店のラインナップも年々変わってるんですよね。僕が子どもの頃はステーキ串なんてなかったですから。二人の好きな出店って何ですか?
瀬田:私はハンバーグ串が一番好きでした。
ケンモチ:早速知らないのが出てきてしまった。
瀬田:クジかピンボールみたいなもので食べられる本数が決まるんですよ。中には20本とかあったりするらしくて。出たことはないんですけど。
ケンモチ:そんなにはいらないでしょ!(笑)
希山:私はお芋が大好きなので、サツマイモスティックを毎回買います。
瀬田:おいしいね、あれ。
ケンモチ:いろんなお店が出てきてるんですね。
神様のパワーを感じたMV撮影
――「YOIMIYA」のレコーディングで特に気をつけたところはありますか?
瀬田:歌詞は切ないけど、感情を出しすぎてもいけないと思ったので、そこのバランスが難しかったです。言葉がスッと耳に入ってくるような歌い方を練習しました。いままでスカとかロックを歌ってきて、元気でフレッシュな感じでやってきたので、こっちの路線はまだまだ難しいなとは思いつつ、私たち自身も年齢が上がっていって、少しずつお姉さんになっていくと思うので、そこも含めていい勉強になりました。
希山:私はけっこう強く歌っちゃう癖があって、この曲はわりと真逆なので、すごく苦戦しました。「ささやくように歌ってみて」って言われたんですけど、自分ではそうしているつもりでも、実際に録音を聴いてみたら全然強いなって思ったり。
――ケンモチさんは歌入りの「YOIMIYA」を聴いていかがでしたか?
ケンモチ:すごく世界観を大事にして歌ってくださっているなって。最後の<空気ふるわせた>のところは、そこでふっと消えていくような感じになっていたり。聴いていて嬉しかったです。
――ちなみに制作時にインスパイアされたものとか、リファレンスにした音楽などはありましたか?
ケンモチ:最初に参考にしてたのは、ケミカル・ブラザーズとディスクロージャーでした。すごく踊れるんだけど、音数はあまり足しすぎず、曲全体がバウンスしているような感じを出したくて。そのうえで歌が自然に乗っかって、いい感じの世界観を出せるようにしたかったんです。あと、ゆったりとしたグルーブ感で浸れるベースというか、音のYogiboみたいなものを作ろうって。他の曲にキレや勢いがあるからこそ。
――ミュージック・ビデオも完成したとのことで、ケンモチさんはちょうど先ほどご覧になっていましたね。いかがでしたか?
ケンモチ:本当に素敵でした。映像が白黒から始まるじゃないですか。それがパッとカラーになった瞬間の抜け感というか。最初のビートが鳴り始めたところからゆっくりとダンスが始まっていく感じも、わびさび感があっていいですね。あと、<打ちあがる花火>の花火を表現している振り付けとか、<悪霊退散/無病息災/いいことあるかも>で希山さんがしゃがんで柳さんが出てくるところとか、めっちゃかわいいなって思いました。
ばってん少女隊『YOIMIYA』-Music Video-
――撮影はいかがでしたか?
瀬田:佐賀県の祐徳稲荷神社っていう、すごく大きくて有名な神社で撮影させていただいて。あと、海中鳥居っていう場所でも撮影したんですけど、お参りに来る方々もたくさんいらっしゃる神聖な場所で、そんなところでこの「YOIMIYA」を踊ることができて幸せでした。CGとかドローンも使ったので景色も綺麗だし、振り付けも魅力的に撮っていただいています。
希山:祐徳稲荷神社は初めて行ったんですけど、鮮やかな赤色がすごく綺麗な場所で。あと、神社ってわりと平坦なイメージがあったんですけど、祐徳稲荷神社は見上げるぐらい高い所にまで参拝する場所があったりして。そこでダンスを踊っていたら、上から神様のパワーをいただいているなって感じました。
――ますます楽曲のバラエティが増していくばっしょーですが、みなさんは今後、どんなアーティストになっていきたいと思っていますか?
瀬田:今回の「YOIMIYA」はファンの方にも好評だし、「OiSa」や「わた恋」も含めて、こういう雰囲気の曲を今後もどんどんやっていけたらなって思います。それに、そういう曲があるからこそ、いままでやってきたスカやロックが一味違って聴こえるというか、新しいライブの見せ方ができるようになってきたなと思っていて。
希山:「OiSa」とか「YOIMIYA」は、アイドルを普段聴かない方にも「あ、いいな」と思ってもらえる曲だと思うし、実際にそういうファンの方もたくさんいて。いままでの「一緒に踊ろう!」みたいな曲も「YOIMIYA」のような世界観も、どっちも楽しんでもらえたらなって思います。
――ケンモチさんは、ばっしょーにどんなグルーブになってほしいと期待していますか?
ケンモチ:今までの楽曲の経歴があるからこそ、「OiSa」「わた恋」「YOIMIYA」の一連の流れがめちゃくちゃ新鮮に聴こえるし、僕がこのあいだ見に行ったライブでは、昔の曲で「待ってました!」となっていたファンの方もいらっしゃったので、どんな人が来ても好きになる曲があって、それぞれのライブの楽しみ方があるんですよね。遊園地に行って「僕はこのアトラクションが好き」「私はこの食べ物が好き」って、そういうふうに来た人がそれぞれ、いろんな楽しみ方ができるようなライブ・パフォーマンスや楽曲を揃えているところがすごくいいなと思うので、次はまた違う路線の曲とか、新しいものを見せ続けていくアイドルになってほしいなって思います。
瀬田:ありがとうございます!
希山:頑張ります!
Photo by Shintaro Oki(fort)
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