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博報堂コンテンツビジネスラボによる『音楽ヒット予測研究 Vol.7』 〜オーディション番組発の音楽ヒットから 国境を超えたファンダムを生み出すヒントを捉える〜



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 消費者動向やメディア動向をもとに、コンテンツの消費動向の調査や新規事業の支援などを行う、博報堂と博報堂DYメディアパートナーズの共同プロジェクト、コンテンツビジネスラボ(※1)。現在、彼らが取り組んでいるのはビルボードの総合チャートを構成する、CD売上枚数やストリーミング、Twitterなどのデータやオープンデータを活用したヒット予測研究だ。

 前回の連載に続き、第7回目では、2021年末の国内での音楽シーンを振り返りつつ、特に、盛り上がりを見せていた“オーディション番組発”での音楽ヒットについてその背景に目を向けていきたい。

 2021年の音楽ヒット動向は、ビルボード・ジャパン2021年年間チャートからもその概況が分かるが、一昨年度と同様、TikTok発でのニューカマーアーティストが目まぐるしくチャートにランクインし、世の中に広がっていった。新たなヒットの仕方としてTikTok発のヒットが定着していった年だったと言えるのではないだろうか。2022年は、どのような音楽ヒットの仕方が生まれうるのか。Billboard JAPAN のチャートデータとアーティスト毎のWikipedia 閲覧数データを活用して、2021年12月末時点での国内の音楽シーンの概況を振り返るところからはじめたい。

TikTok発、タイアップ発、オーディション番組発と
多彩なヒットが見られた2021年末

 図1は、2021年7〜9月と10〜12月比較で、各3か月でのWikipedia 閲覧数とBillboard JAPANによるストリーミングポイントの平均値が、どの程度伸びたのかをプロットした散布図である。Wikipedia 閲覧数の倍率を、分析対象の期間における世の中のアーティストへの興味を示す興味喚起の指標として横軸に置き、ストリーミングポイントの倍率を、興味喚起された結果としての視聴行動を示す音楽視聴喚起の指標として縦軸に置くことで、各アーティストの興味と視聴の状況が俯瞰できる。バブルサイズは10〜12月でのストリーミングポイントの平均値であり、ストリーミングにおいてのアーティストのパワーとして見ていただきたい。

 横軸・縦軸ともに、1倍のラインを境として4象限に分けた際に、③にあたるのが、リスナーの興味、視聴がともに伸長しているアーティストである。アーティストの顔ぶれを見ると、『劇場版 呪術廻戦 0』での「一途 / 逆夢」の King Gnu や『鬼滅の刃「遊郭編」』OP曲「残響散歌」の Aimer など、アニメタイアップで伸長したアーティスト(図2)や、これまでの連載でも触れてきたが、優里や、もさを。といったTikTok発アーティストが継続して伸長している。さらにドラマを中心にタイアップが連続で決定している Saucy Dogは、ストリーミングポイントが急上昇中で、特に「シンデレラボーイ」が好調だ(図3)。



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<図1:Wikipedia 閲覧数-前四半期比 × ストリーミングポイント-前四半期比・散布図>
①リスナーの興味、視聴も落ち着いている ②リスナーの興味が伸長中、視聴は落ち着いている ③リスナーの興味、視聴のどちらも伸長 ④リスナーの興味が落ち着き、視聴が伸長



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<図2:King GnuとAimer のBillboard指標・Wikipedia閲覧数推移>
(2021年7月1日〜2022年1月24日)※ポイント数は非公開のため非表示



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<図3:Saucy Dog のBillboard指標・Wikipedia閲覧数推移とストリーミングランク>
(2021年7月1日〜2022年1月24日)※ポイント数は非公開のため非表示



 2021年下期、特有の動きとして紹介したいのが、“オーディション番組発でブレイク”である。図1について、更に3ヶ月前(4-6月対7-9月との比較)では、③に該当する“オーディション番組発アーティスト”は、 fromis_9のみであった。一方、図1では、BE:FIRST、Stray Kids、JO1、OWV、ENHYPEN、TWICE の6アーティストが見られ、オーディション番組発アーティストの勢いが見て取れる。特に本コラムでは、結成後、半年弱でBillboard JAPAN HOT 100のみならず、Billboard Hot Trending Songsで世界1位にランクインしたBE:FIRST のチャートの動きを見ていきたい。

Billboard Hot Trending Songsで首位を獲得したBE:FIRSTのブレイク

 既にご存知の方も多いと思うが、BE:FIRST は、SKY-HI が主催のボーイズグループ発掘オーディション番組『THE FIRST』で選抜された7名によるグループである。

 4月より定期的に、日本テレビ系『スッキリ』で『THE FIRST』特集が組まれ、デビューメンバー発表時には、番組の約半分を割いて特集がされた。配信プレデビュー曲「Shining One」については、ミュージックビデオ公開後、2週で1千万再生を突破、HOT BUZZ SONG や Spotify バイラルトップ50でも首位を獲得した。メジャーデビュー後には、1ヶ月弱で、デビューシングル「Gifted.」がBillboard JAPAN HOT 100総合首位を獲得、グローバルチャートBillboard Hot Trending Songs では、日本発アーティストとしては初となる世界1位にランクインしている。記事執筆時点でも、「Gifted.」は、10週連続でBillboard Hot Trending Songsでランクインを継続している。この半年弱での飛躍が目覚ましい。

 TwitterでBE:FIRST関連の投稿を見てみると、日本に限らず、世界中のBESTY(BE:FIRSTのファンの呼称)が、チャート上位に入り込むためのSNS攻略法を発信したり、 “推しポイント”を投稿するなどの様子が見られ、国境を超えたファンダムの熱を体感できる。図4のTwitterランクでも複数曲がランクを維持していることからも概況をつかめる、直近では、全国5地区のFMラジオ5局のネットワークJAPAN FM LEAGUE(JFL5局)の共同キャンペーン『JFL presents FOR THE NEXT 2022』のオリジナルテーマソング「Brave Generation」も手がけており、国内においてラジオ接点で、さらにリスナーを広げていくことが予想される。 



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<図4: BE:FIRST のBillboard指標・Wikipedia閲覧数推移とストリーミング、Twitterランク>
(2021年7月1日〜2022年1月24日)※ポイント数は非公開のため非表示



J-POPを超えてグローバルポップが生まれるための土壌とは?

 なぜ、BE:FIRSTのようなオーディション番組発でのアーティストが盛り上がりを見せているのだろうか。古くは、70〜80年代にかけての『スター誕生!』での山口百恵や小泉今日子、ピンク・レディー、90年代には『三宅裕司のいかすバンド天国』からBEGIN、90年代後半『ASAYAN』では、モーニング娘。やCHEMISTRYが大ヒットしたように、オーディション番組発でのヒットそのものは、特段、新しいヒットの仕方とは言い難い。一方、仕掛ける側のファンの巻き込み方の設計や、応援する側の応援するための環境が変わってきている。具体的には、SNSを通じて自分でコメントしたりシェアしやすい環境となったことで、ファンダムが拡大しやすい土壌が生まれている。さらに、そのような土壌があることで、最初から国内のみならず国境を超えたグローバルヒットを視野に入れることが可能になってきている点が異なる。

 では、その土壌とはどのようなものか?“オーディション番組発”に限らず、広く参照できそうなヒントを3つ取り上げてみたい。

【手軽に“推し”を見つけられる入り口と、ファンとの横の関係を築くコンテンツをつくる】

 番組の視聴過程で、練習生の中から、手軽に“推し”に出会え、推しのデビューまでの過程を見守りつつ楽しめるのはオーディション番組の醍醐味と言える。では、どのようなオーディション番組が、番組の過程で視聴者から共感を得られるのか。そして、熱狂的なファンの獲得につなげることができるのか。

 サバイバル系のオーディション番組は、練習生に対して、審査員が、選ぶ、教える、審査するといった「縦」の関係で向き合う様子が、リアリティショーとして描かれている。一方で、この半年で話題になっている『THE FIRST』に目を向けてみると、別の共感の呼び方をしている。『THE FIRST』 では、1次審査から最終審査まで、審査側のSKY-HI と練習生の間には、互いへのリスペクトや信頼が見られ、SKY-HI と練習生は、完全に「横」の関係で描かれている。この描き方が、視聴者と番組や番組発で結成されたグループの間に、まるで身近な存在であるかのような親近感や共感を生み、結果、視聴者とも「横」の関係を築いている。

 ここ最近、投票システムを取り入れたサバイバル系のオーディション番組の透明性や、審査員と練習生の「縦」の関係を中心とした描き方に懸念を示す声が挙がっている中で、審査員と練習生の「横」の関係をコンテンツの中心に置き、さらに、つくり手と視聴者やファンとの間にも「横」の関係を築くという点は、一視聴者をファンに育てる上での1つのポイントと言えよう。

【“応援したい”ファン自身を広報プレイヤー化する】

 Billboard Hot Trending SongsやSpotifyバイラルチャートなどの登場により、TwitterなどのオープンSNSでの投稿のみで、気軽に応援ができる環境ができている。オープンSNSで投稿する、応援した結果をチャートのランクとして体感する、さらにランクを上げるためにオープンSNSに投稿するといったサイクルで応援ができ、ファン自身もアーティストの成長をチャートを通じて、実感できるような流れができている。さらに、箱推し系のアカウントがチャートの集計タイミングや、どのようなデータを使ってチャートが作られているのか紐解き、絵や解説とともに発信、拡散していく様子も見られるように、応援サイクルの助けになる情報をファンが自主的に発信し、ファン同士で自然と学び合うのが当たり前になっている。加えて、アーティストが公開した画像や動画から、他のファンに教えたい“推しポイント”を見つけ、オープンSNS上でUGC投稿することで、ファン同士で楽しみを分かち合い、UGCが拡散されていく流れもみられる。

 こういった“応援したい”、“推しポイントを分かち合いたい”という気持ちを起点に、SNSを中心にファン自身が広報プレイヤーとして自主的に発信し、ボトムアップ的に、アーティストが盛り上がるというダイナミズムは、オーディション番組発に限らず、近年の音楽ヒットに共通して見られるようになった。ファン自身に、発信し続けてもらうためには、オーディション番組では当たり前に行っているように、例えば、作品の完成を目指して活動していく過程を積極的に画像や映像で公開、発信し続ける、その内容としては、先に触れたように、「横」の関係を中心とするなど、ファンが推したくなるポイントを多くつくれるかが重要であろう。

【クローズドSNSで、ファンとの親密性を高め、熱狂を加速させる】

 オープンSNSを通じて、アーティストサイドは応援したい多くのリスナーやファンと一度に繋がれるが、一人ひとりのファンの顔は見えにくい。そのため、継続してファンとの関係性を築くための方略を立てにくいといった課題があるのではないだろうか。

 この課題に応えつつあるのが、 BTSやBLACKPINKなどのK-POPアイドルを中心に取り入れているUNIVERSEやWeverseといったクローズドSNSやクローズドファンコミュニティであろう。ここでは、ファンによる投稿にアーティストサイドがレスポンスするなど、オープンSNSでは難しかったリアルタイムで親密なコミュニケーションができる。 UNIVERSEでは、ファンがアーティストのアバターを作成して、着替えさせたり、曲に合わせて踊らせ、オリジナルのMVを制作したり、ここでしか作れない、見られないコンテンツが豊富に供給されており、世界中のファンが熱量をぶつけ、ファン同士の連帯感やアーティストへの愛着が高まる仕組みになっている。これまで、Instagram や TikTok、Twitter などに分散していた機能が一同に集約した、ファンが待ち望んだメディアと言っても良いのではないだろうか。

 国内でも、既存の音楽関連のクローズドSNSの機能を参考にした独自サービスのリリースを目にするようになったが、ファン心理に応えるという点では、まだ課題が多いようだ。仕組みを設計しサービスを提供する側は、既存サービスの機能を模範するだけではなく、定性・定量の両面で、ファンの悩みや求める価値を捉えていく必要がある。この点において、博報堂とBillboard JAPANでは、Artist Watch Plusを提供しており、データを起点にファン心理を捉えるための一助となるはずである。

終わりに

 このように、”オーディション番組発”での音楽ヒットの背景を注意深く見ていくと、アイドルグループに限らずに、アーティスト共通で参照できるファンを巻き込み、ファンダムを生み出すための仕組みやエッセンスが多くみられる。

 2022年、国内に限らず国境を超えたヒットを後押しする方略として、ファン心理を捉えた上で、ファンによる応援活動とファンコミュニティをテクノロジーによりアップデートするためには?という観点は、今一度、目を向けるべきポイントかもしれない。

(※1)コンテンツビジネスラボとは

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独自調査「コンテンツファン消費行動調査」の知見をもとに、近年企業のニーズが高まっているコンテンツを起点とした広告やビジネス設計の支援を行う専門チーム。独自に提唱する「コンテンツファン発火モデル」を用いて、企業やコンテンツホルダーが実施するコンテンツを起点とした広告コミュニケーションの設計支援や、新規事業・サービス展開のマーケティング支援等を行っている。博報堂のマーケティングプラナーとナレッジ開発職員、博報堂DYメディアパートナーズのコンテンツビジネス開発の専門家などで構成されるメンバーは、スポーツ、ドラマ、アニメ、ゲーム、音楽など、さまざまなカテゴリの熱心なファンでもあり、コンテンツに対する豊富な知見と情熱を有している。

(※2) Wikipedia閲覧数は、https://dumps.wikimedia.org/other/analytics/ から取得 (CC-BY-SA 3.0) リスナーのアーティストに対する興味が検索行動として現れるデータと見ている。


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