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<コラム>ONE OK ROCK「Wonder」時代を掴み取る、ベーシックな王道ロックを掲げて
2020年代の最新型ロック・チューン
ONE OK ROCKの最新シングル「Wonder」は、彼らにとって何度目かのターニング・ポイントとなるべき1曲なのではないか――10月22日にリリースされた同ナンバーを繰り返し聴くうちに、そんな予感がどんどん確信へと変わっていくのを感じている。
「Wonder」はONE OK ROCKにとって、映画『るろうに剣心 最終章 The Final / The Beginning』の主題歌としてリリースされた「Renegades」と「Broken Heart of Gold」に続く今年3曲目の新曲だ。同曲は、彼らが昨年10月11日に開催したZOZOマリンスタジアムでのオンライン・ライブ【ONE OK ROCK 2020 “Field of Wonder” at Stadium Live Streaming supported by au 5G LIVE】で初めて披露されたナンバーでもある。2020年、新型コロナウイルスの感染拡大で『Eye of the Storm』ツアーの中止を余儀なくされた彼らが、それでも困難に立ち向かうべく敢行したバンド初の配信ライブは、最終的に11万人ものファンが世界中から見守るビッグ・イベントとなった。無観客の巨大スタジアムの収容人数(約4万人)をはるかに上回る目撃者を得たあの配信ライブが、ONE OK ROCKにとってもファンにとっても一筋の希望の光が差し込むイベントとなったのは間違いないだろうし、「Wonder」はその“希望”を受け取り、未来へと運ぶランナーのような曲だったと思う。
ONE OK ROCK - Live DVD & Blu-ray "Field of Wonder at Stadium" [Teaser #2]
あの配信ライブの日、私も11万人の視聴者の一人だった。ライブの終盤で初披露された「Wonder」を目の当たりにした瞬間、思わず「ONE OK ROCKの新曲、ザ・フーみたいだ」とSNSで呟いたのだが、その第一印象はあながち的外れではなかったんじゃないかと音源を改めて聴いて思った。ザ・フーは60年代から活動を続ける、イギリスを代表する伝説のロック・バンド。「Wonder」から真っ先に連想したのは、特に歴史的名盤『フーズ・ネクスト』(1971)の頃のザ・フーで、当時の彼らはハード・ロックの極点を迎え、スタジアム・バンドとしての地位を確立した時代だ。
ピート・タウンゼントのウィンドミル奏法を彷彿させるような大振りのストロークで打ち鳴らされるギターのカタルシスといい、急カーブのさらに内側を攻めながらドリフトするようなドラムス、さらにはシンフォニックなコーラスといい、「Wonder」もまさにザ・フーの名曲「ババ・オライリィ」や「無法の世界」同様にスタジアムのスケールに最適化されたエピックなロック・チューンだ。ゴールめがけてテンポ・アップするアウトロの疾走感もたまらない。スタジアム・ロックの定型をきっちり押さえているという意味ではオールドスクールだが、同時にギター・ノイズを驚くほどクリアに響かせるサウンド・デザイン、ダイナミクスを意識したプロダクションは極めてモダンで、それは非ロック的アプローチで攻めた『Eye of the Storm』を経たONE OK ROCKだからこそ作りえた曲だと思うし、2020年代らしいモダネスを発揮した最新型のロック・チューンでもある。
現在公開されている「Wonder」のリリック・ビデオも面白い。80年代のレトロ・ゲームの画面を彷彿させるビジュアルや、往年のメタル・バンドのロゴのようなグラフィックで構成された同ビデオは、“ローファイなデジタル感”とでも呼ぶべきテイストで統一されており、ここにもまた彼らの意図的なオールドスクールの打ち出しを感じる。「Wonder」はサウンド&ビデオの両方において、王道ロック・バンドのイメージの再構築を目指した楽曲なのではないかと思うのだ。近年、王道“以外”の道をいくつも切り拓くことで、ポップ全盛のUSビルボード・チャートの世界で闘えるハイブリッドなロック・バンドへと進化したONE OK ROCKが、あえてベーシックなロックへと立ち返った「Wonder」は、彼らのキャリア上でいかに意味づけられるべきものなのだろうか。
ONE OK ROCK - Wonder [Japanese Version LYRIC VIDEO]
ロック・バンドとして、世界を掴み取る
ONE OK ROCKは5年、10年と節目ごとに新たなチャレンジを自分たちに課し、その度に飛躍を遂げてきたバンドだ。ターニング・ポイントを自ら設定し、そこに挑み続けてきたバンドだと言い換えてもいいかもしれない。例えば結成5周年の2010年には『Nicheシンドローム』がBillboard JAPANの“Top Albums Sales”でトップ3入りを果たし、初の日本武道館公演を成功させるなど、活動休止からの見事な復活を遂げた。10周年の2015年には全曲USレコーディングに臨んだ『35xxxv』で初のセールス1位を獲得。ONE OK ROCKにとっての最初の10年は、ドメスティックなロック・バンドとして頂点に立つまでの10年間だったと言える。
そして2016年、彼らは米レーベルの<フュエルド・バイ・ラーメン>と新たに契約を締結。同レーベルにはトゥエンティ・ワン・パイロッツやフォール・アウト・ボーイら錚々たるバンドが所属し、エモ/パンク・シーンの一大拠点となっている。2010年代半ばのUSシーンではロックが深刻な不振に喘いでいたわけだが、そんな苦境にあってほぼ唯一健闘していたのがフュエルド・バイ・ラーメンのバンドたちであり、ONE OK ROCKが世界進出のパートナーとして同レーベルを選んだのは必然だったのかもしれない。彼らにとっての新たな10年は、こうしてワールドワイドなロック・バンドとしての冒険の時代として幕開けた。
ワールドワイドなロック・バンドとしての道を切り拓いていくうえで不可欠だったのは、「ロック・バンドはもはや従来型のロックでは勝てない」というパラドキシカルな世界のポップ・シーンの状況を認め、そのうえで新しいロック・バンドのあり方を模索していくスクラップ&ビルドの精神だった。実際、フュエルド・バイ・ラーメン移籍後のアルバム『Ambitions』と『Eye of the Storm』は、ヒップホップやEDM、オルタナR&Bといった同時代のポップの最先端を貪欲に取り入れ、前述のように非ロック的アプローチで時代に相応しいロック・バンドのあり方を追求した作品群だったと言っていい。ONE OK ROCKにとっての2010年代後半とは、サウンド様式にとらわれない大胆な逸脱こそが、自分たちの挑戦し続けるロック・スピリットの結晶なのだということを証明し続けた時期だったのではないか。
ONE OK ROCKが15周年を迎えた2020年は、パンデミックという予想外の事態と共に始まった。彼らは内側と外側から揺さぶられながらその節目の年を過ごし、自分たちの行く末を、音楽シーンやライブ・シーンの活路を、そしてロックの未来を模索して試行錯誤を続けた日々は、【Field of Wonder】までの数か月に密着したNetflixのドキュメンタリー『Flip a Coin -ONE OK ROCK Documentary-』にも克明に記録されている。
Flip a Coin -ONE OK ROCK Documentary- only on Netflix October 21, 2021
そして、そうした経験の全てが「Wonder」には凝縮されていると思うのだ。【Field of Wonder】で「Wonder」を初披露する前に、彼らは視聴者に向けて英語で次のようなメッセージを贈った。「これからは俺たちの時代だ。ロック・バンドとして、ロックで世界を掴み取ってみせる。全く新しい時代を作っていく。だから、見ていてくれ」と。あのとき、彼らが「ロック・バンド」「ロック」と重ねて強調していたのが忘れ難いが、直後にプレイされた「Wonder」にはそのメッセージの真意が詰まっていると感じた。ロック・バンドとして、ロックとして、世界を掴み取る。それが激動の2020年を経て、ONE OK ROCKがたどり着いた答えだったのだろう。
「考えたことはないか? 人生の終わりを」「大事なものを教えてくれ 大変なときは引っ張り上げてやるから」と「Wonder」でTakaは歌う。大事なものが次々に奪われ、世界は不確実性に満ち満ちていると思い知らされたパンデミックの日々。そこで私たちは、だからこそ絶対に失いたくないもの、自分にとっての揺るぎないコアを守り続けることの大切さを知った。大文字で力強く“ROCK”と胸に刻みつけるような「Wonder」は、まさにONE OK ROCKのコアの象徴なのだ。
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