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ライブハウスのように「新しい音楽と出会う」 配信ライブプロジェクト『One Night STAND Live』とは



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 『One Night STAND』と『early Reflection』による新たなライブ配信プロジェクト『One Night STAND Live』が、2021年6月よりスタートした。

 『One Night STAND』は、2019年に始動し、これまで数々の新世代アーティストをレコメンドしてきたライブイベント。そして『early Reflection』は、ポニーキャニオンとプレイリスト&カルチャーメディア「DIGLE MAGAZINE」がコラボレーションした、PR型デジタルディストリビューションサービスだ。この2組がタッグを組み、ハイブリッドな展開を繰り広げているライブ配信プロジェクトが『One Night STAND Live』だ。

 『One Night STAND Live』では、この企画のために収録されたライブ映像を高品質で配信。さらにライブ録音も実施し、その音源は『early Reflection』を通し、各主要ストリーミング・サービスへ配信される。本企画では、10月5日現在までに9組のアーティストのパフォーマンス動画&音源が配信されており、多くのリスナーと新世代アーティストの出会いの場を作り出してきた。

 本稿では、そんな『One Night STAND Live』の他にはない特徴と、これまで本企画でフックアップされてきた新進気鋭のアーティスト9組を、ライターのふじもと氏に紐解いてもらった。

◆『One Night STAND Live』Series プレイリスト
https://lnk.to/PlaylistofONSL

ライブハウスの魅力をオンライン上で多面的に実現した
『One Night STAND Live』
 

 2020年2月以降、コロナ禍によってライブハウスシーンは苦境に立たされた。コロナを理由に閉店を余儀なくされたライブハウスは後を絶たず、また東京の老舗大規模ライブハウスであるZepp TokyoやUSEN STUDIO COASTなど、コロナを直接の理由としてはいないものの閉館が決まっている著名ライブハウスも数多く存在する。この2年間はライブハウス文化が否応なく大きな転換期に直面せざるを得なかった2年間だったということは多くの音楽ファンが認めるところだろう。

 ロックバンドの多くは街のライブハウスで下積みを積んで徐々に売れていくものである。現在シーンの最前線で活躍しているバンドもライブハウスでの活動を経て今の立場に落ち着いている。ライブハウスという場所は音楽シーンの言わば基盤となるような場所で、シーンにとっては絶対に欠かせない存在なのだ。

 ライブハウスの魅力とはなんだろう。ギラギラとした照明、アーティストとの距離、臨場感。そのどれもがライブハウスという場所の魅力だ。そしてなによりも見ず知らずのアーティストと出会うというのが最大の魅力だろう。街のライブハウスにフラリと入ってみて、それまで聞いたことのなかったバンドやアーティストの演奏に触れて、それからファンになった、という経験はライブハウスに足繁く通っている音楽ファンであればあるほど経験しているのではないだろうか。

 そんなライブハウスに気軽に足を運ぶが難しくなった2021年。あのライブハウスならではの出会いをライブ映像に加えてライブ音源を通じて疑似体験できるライブプロジェクトが『One Night STAND Live』だ。

▲『One Night STAND Live』ダイジェスト映像

 『One Night STAND Live』は、渋谷のライブハウスを中心にニューカマーアーティストと作り上げてきたライブイベント「One Night STAND」と、音楽配信を通じて新世代アーティストを発掘・サポートする新しいデジタルディストリビューションサービスである「early Reflection」がタッグを組んで開催する新たな形のライブ配信プロジェクト。「One Night STAND」は本来、バーやクラブで出会った見知らぬ相手との一晩限りの関係を持つことを意味する言葉だが、その意とは裏腹にイベントだけで終わらない関係性を築いていけたら、という期待が込められている。ライブハウスの魅力である出会いをオンライン上で多面的に実現しようというコンセプトと言えるだろう。

 「One Night STAND」の公式HPにアクセスすれば、アーティストがプロジェクトのために収録したパフォーマンス動画にそのライブ音源を配信する各種配信サイトへのリンク、さらに音楽ライターによる各アーティスト評が掲載されている。それはまるでサイト全体がライブハウスのような趣きを感じさせる。ひとたび動画を再生すればライブが始まるあの瞬間のワクワクが浮かび上がるし、ストリーミング配信へのリンクはさながら物販で販売しているCDのよう。ライターの評論はさながら知らないアーティストのファンが隣でその魅力を熱弁しているようだ。

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『One Night STAND Live』でフックアップされた
新進気鋭のアーティスト9組

 出演アーティストと楽曲にも注目してみよう。鋭利で歪んだなギターサウンドとまくしたてるようなボーカルが特徴的なアフターアワーズはまさにライブハウス然とした音像とパフォーマンスで、ライブハウスでライブを見ているような気持ちにさせてくれる。

▲アフターアワーズ「16」

 オルタナ・ポップ・バンドの地球から2ミリ浮いてる人たちは「アメリカンドリーム」「ニンゲンムシ」を披露。キラキラとしたポップなのにどこか鬱屈とした雰囲気も醸し出す不思議な演奏で視聴者を魅了する。

▲地球から2ミリ浮いてる人たち「ニンゲンムシ」

 mekakusheは「ばらの花」「ペーパークラフト」と、優美なメロディとしなやかな歌声で言葉を丁寧に紡ぐように歌いきってみせる。mekakusheの頭上から降り注ぐ光が楽曲の美しい世界観をより一層強固なものにしていた。

▲mekakushe「ペーパークラフト」

 (夜と)SAMPOは技巧派なバンドメンバーによる煌めくようなイントロからダイナミックな演奏で見る者の目を一気に引きつける「革命前夜」と、メロウなバラード「惑星」でリスナーに寄り添ってみせる。ギターソロでは躍動感溢れる演奏に一層拍車をかけるようなカメラワークで肉迫した映像を見せる。

▲(夜と)SAMPO「革命前夜」

 ヒューマンビートボクサーのSO-SOはループステーションを用いた人力EDMサウンドを披露。音だけ聞いていればヒューマンビートボックスとは到底思えないような音像はインパクト抜群だ。何台ものカメラによる様々なカメラワークの映像は臨場感抜群だ。

▲SO-SO「This is 8 bit」

 そんなSO-SOを含めたヒューマンビートボクサー4人で結成されたヒューマンビートボックスクルー・SARUKANIは世界にも通用するような圧倒的技術を惜しみなく披露。その圧倒的なテクニックに思わず舌を巻く。

▲SARUKANI「ULTRA POWER to SARUKANI WARS」

 ズカイは「ぽーいっ!」「目鼻口とエアリーショート」を披露。トリプルギターという特異な編成を利用したギターポップサウンドと、哀愁漂う歌詞とグッドメロディがリスナーの胸を締め付ける。

▲ズカイ「目鼻口とエアリーショート」

 DENYEN都市は「Bedroom fiction」「Darling ダリぃよ」と、共にグルーヴィなサウンドがチルで心地よい世界を描き出す。

▲DENYEN都市「Darling ダリぃよ」

 Hammer Head Sharkはシューゲイザーを彷彿とさせるノイジーなギターサウンドと繊細なメロディがメランコリックかつヒリヒリとした刺激的な感覚に誘う。バンドメンバーを敢えて過剰に照らし出さない照明が彼らのミステリアスさをより増幅させる。

▲Hammer Head Shark「Midnight in Naked」

 どのバンド・アーティストもひと癖もふた癖もある新進気鋭ばかり。One Night STANDというポニーキャニオンが主催するニューカマーアーティストをフックアップするブッキングイベントに、ズカイやアフターアワーズをはじめとするearly Reflectionピックアップのアーティストにが加わり、ジャンルも異なるアーティストが揃う『One Night STAND Live』はさしずめ街のライブハウスの主催イベントのようだ。そのコンセプト通り、フラリと入ったライブハウスでジャンルを超えて新しい音楽と出会うあの感覚を至る場面で感じることができるラインナップだ。ニューカマーアーティストをフックアップするというコンセプトにもライブハウスらしさを感じる。この出会いこそ、このプロジェクト最大のコンセプトであり、軸となる部分だ。

画面越しでも「新しい音楽と出会う感覚」を

 この『One Night STAND Live』、ライブハウスらしさを感じるのはラインナップからだけではない。アーティストたちのパフォーマンスを彩り支える空間や照明からもライブハウスらしさを感じるのだ。シンプルながらアーティストのパフォーマンスに寄り添うギラギラとした照明、プロジェクトコンセプトをより強く感じさせるプロジェクトロゴのネオンマークやフロアライトで装飾された舞台。どれもライブハウスを彷彿とさせてワクワクしてしまう。これは元々渋谷のライブハウスで有観客でのイベントを開催していた「One Night STAND」と、空間表現に重きを置き、空間によって楽曲の方向性が左右されるということを理解している「early Reflection」のコラボレーションだからこそこうしたライブハウス然とした形のライブ配信となったのではないだろうか。

 また他の配信ライブとは異なり、映像だけでなくライブ音源の配信もセットで展開しているというのもこの「One Night STAND Live」ならではだろう。見て楽しむだけでなく、音だけでも楽しむことができる。既存の感覚に縛られず、多面的な展開でアーティストや楽曲、ライブの魅力を伝えることで、ファンも新しい発見を得ることができるのだ。

 コロナ禍以降、開催数が圧倒的に増えた配信ライブだが、多くの音楽ファンが指摘する通り有観客ライブの代わりにはならない。目の前でアーティストが歌う感動や、自宅では体感出来ない音圧でバンドの演奏を一身に受けて空気の揺れを感じることは配信ライブでは叶わない。

 しかし一方で、今のままではライブハウスという場所やライブハウスが培ってきた文脈、文化が絶たれてしまう。コロナが終息したその時に、ライブハウスという文化そのものがなくなってしまっていたらあまりにも辛い。そんな中で今回の『One Night STAND Live』はこれまで記してきた通り、ライブハウス特有のムードやライブハウスが培ってきた文化を配信上で可能な限り接近し再現してみせる配信ライブプロジェクトとなっていた。ライブハウスに簡単に行くことが難しい今のご時世に、画面越しでもあの新しい音楽と出会う感覚をハイクオリティな映像と音源によって思い起こさせてくれるこの『One Night STAND Live』は、改めてライブハウスという場所の魅力を再発見させてくれるプロジェクトであると共に、時代性に合わせた新たな新人アーティストとの出会いの場と言えるだろう。次なるライブ収録の開催も企画されており、今後も『One Night STAND Live』の動向に注目してほしい。

TEXT:ふじもと

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