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<コラム>結成15周年迎えたTRI4THからの“贈り物”、豪華ゲスト陣と作り上げた極上のニュー・アルバム
15周年に贈るニュー・アルバム『GIFT』
まずはとにかく、1曲目の「LET JERRY ROLL feat.チバユウスケ」(作詞・武藤昭平/作曲・伊藤隆郎、織田祐亮/編曲・シライシ紗トリ、TRI4TH)を聴いてみてほしい。ハードボイルドな雰囲気を湛えたホーンの響き、軽快にステップを踏むようなピアノのフレーズ、そして、ジャズとロックンロールがせめぎ合うビート。そのなかでチバユウスケが<怯えるなら/笑い飛ばせ/止めるなコメディー>というフレーズを響かせるのだから、もうたまらない。ルーツに根差しつつ、貪欲に新たな表現を求めながら、ダンディズムとしか言いようがない世界観を強く打ち出す。幅広いジャンルの才能がぶつかり合うこの楽曲には、TRI4THのアティチュードが端的に示されている。
TRI4TH - LET JERRY ROLL feat. チバユウスケ
TRI4THがニュー・アルバム『GIFT』をリリースした。結成15周年のタイミングで制作された本作には、サウンド・プロデューサーとしてシライシ紗トリ、Kan Sano、Shingo Suzuki らが参加。チバユウスケ、岩間俊樹(SANABAGUN.)、ASOBOiSM、MPC GIRL USAGIらの客演も実現した豪華な内容となっている。ジャズだけに収まることなく、ロック、R&B、スカ、ヒップホップなどにも食指を伸ばし、ジャンルを超えた……というのはこれまで通りだが、すべての枠を取っ払いながら、このバンドにしか体現できないハイブリッドな音楽に結びつけるセンスは、ここにきてさらに鋭さを増している。それを裏付けているのはもちろん、個々のメンバーの優れたプレイアビリティ、そして、“どこにもない音楽で、すべての人を踊らせてやる”と言わんばかりの欲望だ。
まずは簡単にバンドの遍歴を紹介しておこう。メンバーは伊藤隆郎(Dr)、織田祐亮(Tp)、藤田淳之介(Sax)、竹内大輔(Pf)、関谷友貴(Ba)。2006年の結成以降、“踊れるジャズ”を掲げて活動を繰り広げてきた。ただ、メンバーのなかで生粋のジャズマンといえるのはベースの関谷のみ。伊藤、織田、藤田、竹内はもともとクラシックを学んでいて、演奏技術や音楽理論を学んできたという。高いスキルと音楽的な素養を背景にしながら、“ジャンルに捉われないジャズ”の可能性を押し広げてきたというわけだ。TRI4THと並行して、メンバー全員が他のアーティストの録音やライブ、舞台やテレビなどの音楽制作、さらには個々のバンドやプロジェクトとしても活動するなど、精力的なアクションを続けている。個々のメンバーがそれぞれの才能を活かし、幅広いジャンルから吸収した刺激をバンドに持ち帰っているのも、TRI4THの武器だろう。
実際、TRI4THの音楽性は驚くほど広い。“踊れるジャズ”というワードから想起されるハード・バップ、アシッド・ジャズ、(主に90年代あたりの)クラブジャズはもちろん、前述した通り、ロックやヒップホップなども自在に取り入れ、唯一無二としか言いようがない音楽世界を描き続けている。歴史を紐解けば、ジャズという音楽は常にダンス・ミュージックとしての機能を求められてきた。そこに立ち返るとTRI4THのスタンスは、きわめて真っ当でオーセンティックであると言えるだろう。
コロナ禍に襲われた2020年も彼らは活動を止めることなく、果敢にアクションを続けた。10月にアルバム『Turn On The Light』を発表。“動き続けるんだ”というメッセージを掲げた「Move On」から始まる本作には、「For The Loser feat.KEMURI HORNS」「The Light feat.岩間俊樹(SANABAGUN.)」などのコラボ曲を収録。彼らのルーツと直結したカバー曲(The Pogues「Fiesta」、Art Blakey and the Jazz Messengers「Moanin’)も絶品だった。さらに、年末にはアルバムを引っ提げた東名阪ツアーを敢行。12月17日のファイナルは恵比寿リキッドルームで行われ、有観客とオンライン配信でオーディエンスを熱狂させた。
Turn On The Light Tour Live Digest (2020.12.17 Tokyo LIQUIDROOM ) for J-LODlive
そして、2021年は15周年のアニバーサリー・イヤー。この記念すべき年に、これまで築き上げてきた音楽性を軸として、気鋭のプロデューサー陣、魅力的なゲスト・アーティストともに作り上げたのがニュー・アルバム『GIFT』というわけだ。
豪華ゲスト陣とのコラボレーション
「LET JERRY ROLL feat.チバユウスケ」で幕を開ける本作の魅力はやはり、才能と個性を併せ持ったクリエイターとTRI4THのコラボレーションだろう。2曲目の「SENRITSU feat.Kan Sano」(作詞・Kan San/作曲・Kan Sano、TRI4TH/編曲・Kan Sano、TRI4TH)は、Kan Sanoをフィーチャー。Chara、Uru、iriなどの楽曲を手掛けるプロデューサーであり、アーティストとしても才気を発揮している彼とのセッションから生まれたこの曲は、心地よいファンクネスを湛えたリズム、華やかなブラス・セクション、浮遊感のあるオルガンの旋律などが溶け合うポップ・ナンバー。昨今のシティポップの潮流も感じさせる「SENRITSU feat.Kan Sano」は(普段はジャズやインストをあまり聴かないような)J-POPリスナーにも訴求するはずだ。
TRI4TH - SENRITSU feat. Kan Sano
「New days feat.ASOBOiSM」(作詞・ASOBOiSM/作曲・TRI4TH、ASOBOiSM/編曲・Kan Sano、TRI4TH)も強く心に残る。オルタナR&B、ネオソウルの系譜を感じさせるバンド・サウンドは、ロバート・グラスパー以降のジャズをさらに更新。快楽としか言いようがないグルーヴのなかでASOBOiSMが紡ぐのは、変わってゆく街並みと“画面越し”の君、そして、夢と現実の挟間で揺れる感情だ。
TRI4THにとって盟友と呼ぶべき存在である岩間俊樹(SANABAGUN.)が参加した「航跡 feat. 岩間俊樹(SANABAGUN.),MPC GIRL USAGI」(作詞・岩間俊樹/作曲・岩間俊樹、関谷友貴、織田祐亮/編曲・MPC GIRL USAGI)も、この状況下だからこそ生み出された楽曲だ。ブレイクビーツ的な手法を生演奏で再構築したトラック、<いつどんな時も前に進むしかできない航路>に象徴される、切実な決意を込めたリリック。この楽曲がもたらすシリアスにして前向きなムードは、2021年のアンセムとしての風格に繋がっていると思う。
インスト曲も充実。Kan Sanoとの共作による「君想う故に、僕在り」(作曲・TRI4TH、Kan Sano/編曲・Kan Sano、TRI4TH)は、タイトな16ビートを軸に、印象派を想起させるピアノ、解放感に溢れたホーンなどを融合させることで絶妙なアンサンブルを演出。
Shingo Suzukiのプロデュースによる「Just a Drizzle」(作曲・竹内大輔/編曲・Shingo Suzuki、TRI4TH)は、穏やかなメロウネスを湛えたピアノ、豊かな叙情性を含んだグルーヴによって、まさに霧雨のような心地よさを与えてくれる。オーセンティック・スカを全面的に押し出した「Trace」(作曲・織田祐亮/編曲・TRI4TH)も楽しい。
初回生産限定盤にはオリジナル・アルバムに加え、ファン投票によるベスト・アルバム(人気曲「DIRTY BULLET」をTRI4TH REQUEST BEST ver.として新録!)、昨年12月の恵比寿リキッドルームでのライブをフル収録したBlu-rayディスクも付いている。TRI4THのこれまでの軌跡、そして、最新ライブの醍醐味を追体験できるアイテムだ。
TRI4TH - New Album「GIFT」特典BD "Turn On The Light Tour" at TOKYO LIQUIDROOM -Digest-
個性と技術を併せ持ったミュージシャン、クリエイターたちの“才能”が火花を散らしながら生み出した、音楽の“贈り物”と称すべきアルバム『GIFT』。15年のキャリアで積み上げたものを存分に活かしつつ、新たな表現へと挑んだ本作によってTRI4THは、次のフェーズへと突き進むことになるだろう。そう、“この先”の可能性をはっきりと証明したこと自体が、このアルバムの最大の成果なのだと思う。
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