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<インタビュー>tetsuya、L'Arc~en~Ciel結成30周年と最新シングルを語る
L'Arc~en~Ciel、結成30周年。この事実をあなたはどう感じるだろうか?
数々のヒット曲で1990~2000年代の音楽シーンを鮮烈に彩り、それ以降も現在までメンバーのソロ活動を挟みながら断続的にリリースを続ける、紛れもない“日本を代表するロックバンド”であるL'Arc~en~Ciel。メンバー4人全員が作曲者という編成からくるある種の緊張感は、いまだに、いやむしろ2021年現在のほうが高まっているようにすら感じられる。
そんな彼らの最新シングル「FOREVER」、そして30周年を迎えたL'Arc~en~Cielというバンドそのものについて、リーダーのtetsuyaに訊いた。
言葉が人を傷つける時代に放つ、願いのシングル「FOREVER」
――「FOREVER」は“疾走感のある夏らしい爽やかな”をイメージしたとのことですが、いつ頃に作った曲なのでしょうか?
原曲と現在の「FOREVER」ではまったく違うアレンジなのですが、原曲はかなり前の曲ですね。いつ頃だったかも忘れてしまうくらい昔です。
――原曲はどんなアレンジだったのでしょうか?
跳ねたリズムのかわいらしい曲でした。アニメ『EDENS ZERO』とのタイアップのお話をいただいたときに、アニメ側から「もっと疾走感のある感じにしてほしい」とリクエストをいただいたので、テンポはそのままでリズムパターンを変えて疾走感を出しました。その作業は今年に入ってからですが、結果、得意としている王道のキラーチューンなりました。
――tetsuyaさんは「メロディーを大切にしている」と過去のインタビューで語られていますが、作曲時には歌メロを先に作るタイプしょうか?
そうです。歌メロを先に考えて、それにコードをつけていくかたちです。歌詞は最後に書くので「ラララ」で歌っています。
L'Arc~en~Ciel「FOREVER」-Music Clip- (short version)
――L'Arc~en~Cielの楽曲の多くはhydeさんが作詞していますが、今回の「FOREVER」はtetsuyaさんが作詞もされています。バンドとして作詞者を誰にするかはどのように判断しているのでしょうか?
hydeから「歌詞も書いて」というオーダーが来たので。本人に意図を聞いたわけではないので分かりませんが、hydeもソロ活動と並行してL'Arc~en~Cielをやっているので、「ミライ」を作り終わった後に時間的な余裕がなかったんじゃないかなと思います。
――なるほど、現実的な問題があったのですね(笑)。今回はどのようなイメージで歌詞を書かれましたか?
アニメサイドからの要望を取り入れつつ、曲調が可愛くなりすぎないように深めの歌詞にすることでバランスを取ろうと考えて書きました。
――ちなみにアニメ側からのリクエストはどのような内容でしたか?
こちらから歌詞を書くにあたって「イメージやキーワードなどありますか?」と質問しました。「“宇宙”な感じ」「主人公が重力を操る」などキーワードをいくつかいただきました。もちろん、それを全て反映させるわけではないですが、ストーリーと真逆なことを歌ってしまうと作品のファンに申し訳ないので、最初にアニメ側に要望をお聞きしました。
――歌詞の内容についてですが、SNSなどで言葉が人を傷つけることが多い時代に、あえて“言葉が人を癒す”といった内容の歌詞が印象的でした。
まさに、言葉というのは人を傷つけるものですが、助けられることもある。その両方があるじゃないですか。だからこそ「言葉って大事だな」と思いながら歌詞を書きました。そこが一番言いたかったことですね。
――作曲者かつ作詞者として、どのようにヴォーカルディレクションされましたか?
デモでは僕が仮歌を歌っているのですが、hydeはそれを聴き込んでニュアンスを掴んだうえでレコーディングに挑んでくれたので、すんなり進みましたね。僕は滑舌良く言葉を伝えたいほうで、仮歌もそんな内容だったので、いつも以上にはっきりと歌詞が聴こえる曲になっていると思います。逆に「そんなに綺麗に歌わなくていいよ」と、デモから変えたところもありました。やっぱりhydeっぽい歪んだ声のニュアンスが欲しいから「もっとhydeで行っちゃって」とか、そういうディレクションもありましたね。
――仮歌を歌っているからこそhydeさんの歌について感じたことはありましたか?
僕が歌っていたらあそこまでセクシーに歌えないので「やっぱすごいな」と思いましたね。「さすがだな」と。特にAメロやBメロは、hydeにしかできない歌い方になっていると感じました。
L'Arc~en~Ciel結成30周年は「奇跡」
――バンドサウンドについては、デモの段階からどのように変化しましたか?
それぞれのメンバーの音が入ることによってどんどん良くなっていきましたね。「ここ変えていい?」「あ、そっちのほうがいいね」って、アイデアをもらって、ブラッシュアップしていく感じです。昔はラフな弾き語りで、スタジオに入ってバンドアレンジから仕上げていくという時代もありましたが、最近は曲の設計図としてデモを作り込んでいるので、各パートをメンバーの音に差し替えるという工程になっています。なので、「デモを超えたい」と思って、しっくりくるまでいろいろ試しながら録音していくという感じです。僕も「ミライ」のときは「デモに入っているベースよりかっこいいベースにしたい」と思ってレコーディングに臨みましたし。「FOREVER」も、メンバーの音が入るとやっぱり“L'Arc~en~Ciel”って感じの音になっていきましたね。
――「FOREVER」のリリース発表時、「『ミライ』の次にリリースする楽曲として「未来永劫、続いていく」という思いを込めた楽曲」であるとコメントされていました。ファンは“L'Arc~en~Cielが続いていく”ことを期待するのではないかと思いましたが、tetsuyaさん本人は何が“続いていく”という思いを込めたのでしょうか?
想いや言葉、人の気持ち、といったものですかね。言った本人は忘れているけど「その一言でずっと頑張れる」「生きていける」みたいな言葉ってあるじゃないですか。そういったものですね。なので、バンドが未来永劫続いていくかは僕にもわからないですけど、そう捉えられてもいいとは思います。
L'Arc~en~Ciel「ミライ」-Music Clip- (short version)
――バンドが30周年を迎えたことについて、率直にどう感じていますか?
まあ、“奇跡”ですよね。ミュージシャンやアーティストって個性的でクセの強い人が多いと思うのですが、そういう4人が集まって、メンバーが変わったりはしながらも、バンドとしては30年続いているというのは、率直に「奇跡だな」と思います。そして僕たちが続けたいと思っても、聴いてくれるファンがいないと続けられないので、そういう方々がずっとい続けてくれるということには本当に感謝ですね。
――L'Arc~en~Cielは初期の頃からメンバーそれぞれが曲を作っている、数あるバンドの中でも個性豊かなメンバーが揃ったバンドだと思います。tetsuyaさんはリーダーとして、どのように30年間バンドを束ねて行ったのでしょうか?
まあ、思うようにはいかないことだらけなので……全員が努力した結果だと思います。
――それは何に対しての“努力”でしょうか?
それぞれ4人の別の人間なので、考え方もこだわる部分も違いますよね。あるメンバーからすると「そんなのどうでもいいじゃん。さっさと前に進もうよ」と感じることに対して、あるメンバーは「これだけは譲れない」「これができないならもうやめる」と思っていることもある。でも、誰も「もう無理。やめた」と実行に移さなかった。それはやっぱり、みんな頑張ってきたということだと思います。
――ぶつかるときはあっても「バンドを続ける」「良い作品を作る」という点では共通していたということですか?
いや、違いますね。例えば「やりたい/やりたくない」で意見が分かれたとき、「じゃあ結局どうする?」ってなるじゃないですか。で、結果として“やらない”ってなったとしたら、「やりたかったな…」と思うメンバーはその気持ちを封印するしかない。逆に“やる”となったら、「やりたくないな」と思いながらもやってくれた。そういう意味です。
――なるほど。そうしたバンドの意思決定を行うときは、みんなで話し合って決めるのでしょうか?
みんなでは話さないですね。4人集まると本当に誰も喋らないので、個別で僕が一人ずつと話す感じです。あるタイミングからそうしないと進まないようになってしまったので。僕は4人の中で一番年下なので、リーダーというよりも雑用係としてそういう仕事をしている感じですね。特にkenちゃんは僕の学生時代の先輩なので、先輩にお伺いを立てるのはすごく気を遣いますよ(笑)。
――末っ子的な(笑)。
損な役だなと思いますが、客観的に考えても他にそういうことをやれる人がいないので。
今のL'Arc~en~Cielの原型
――10周年や20周年、25周年のときと、30周年では違う感覚はありますか?
どうだろう。あるといえばあるのかな…。初めてそういう質問されたので、考えてみたこともなかったですね。でも、違わないってことはないでしょうね。僕はずっと「気持ちよく楽しく音楽を作れる環境が欲しい」と思っていて、でもそういう環境がちゃんとあるわけでもないので、それを整えたいと思いながらずっと活動してきたんです。本当にちょっとずつしか進んでないんですけど、ようやく良い方向に流れがきているんです。あともう少しのところだと思います。
――バンド30年の歴史の中でのターニングポイントを個人的に挙げるとすれば?
どうだろう……。何回かあったんだろうと思うんですけど、「風にきえないで」はそんな感じですかね。
――それはヒット曲を作ったという点で?
いや、ヒットしたとは思ってないんですけど、なんというか「風にきえないで」から、曲の作り方がちょっと変わったかなって感じがするんですよね。「風にきえないで」からアレンジをしっかり決めていくようになりました。それまでよちよち歩きだったバンドが、そこで初めて立ち上がったというか、今のL'Arc~en~Cielの原型が作られた印象ですね、個人的には。
――バンドの歴史と並行して、1991年からの30年間でさまざまな音楽ムーブメントがありましたが、印象的だったものはありますか?
うーん……僕が音楽をすごく聴いていたのは高校生くらいまでで、そこからは本当にあまり音楽を聴いていないので、その質問はちょっと分からないですね。
――どのタイミングから新しい音楽をあまり追わなくなったのか覚えていますか?
僕は22~23歳までレコード屋さんで働いていたんですけど、そのときはもう仕事として聴いていました。そして、プロのミュージシャンになってからは仕事として音楽を作るようになったので、あまり聴かなくなってしまいましたね。
――音楽をやることは好きだけど、音楽を聴くのはあまり好きじゃなくなったということですか?
いや、音楽を聴くのは今も好きですよ。でも、聴く時間がないんです。もう車の中で聴くくらいですね。
――なるほど。それは人気ミュージシャンがぶつかる現実的な壁かもしれないですね。ちなみにL'Arc~en~Cielは2019年にサブスク解禁して、より広い世代や国のリスナーがL'Arc~en~Cielの音楽を聴きましたが、反応は届いていますか?
サブスクを見ていると、リアルに再生回数が見られるじゃないですか。あれで人気がある曲とそうでない曲がわかるのがすごくおもしろいし、怖いですね(笑)。すごい時代だなと思いますね。まあ、ライヴでやる回数を増やせば人気は出ていくだろうなとも思いますけど。
L’Arc~en~Ciel「30th L'Anniversary Starting Live "L'APPY BIRTHDAY!"」Digest (for J-LODlive)
――2021年に行われた30周年記念ライヴ、そして現在開催中のツアーは、パンデミック後の音楽、エンタメシーンにとって明るいニュースだと個人的には思います。開催にあたっての思いを教えてください。
今、行っているツアーというのは本来、今年の1月から行う予定だったんですね。前回のツアーが2020年の2月で中断してしまったのですが、その時点で今年の1月からアニバーサリーツアーをやる予定でした。コロナが収まる気配がなく、秋にずらしたのですが、いまだ収まる気配がない……(苦笑)。正直、開催すべきかどうかは悩んだのですが、我々は感染対策を相当きっちりやっているので、5月の幕張でのライヴでは、千葉県からお褒めの言葉をいただいたほどでした。会場に来てくれた人たちの中にもきっといろんな葛藤があったはずですよね。だからこそ、会場に来てくれたファンに対してはできる限りのことをしたいなと、会場にいるみんなの顔を見て思いましたね。
――最後に、今後31年目を迎えるにあたって、tetsuyaさん視点でのL'Arc~en~Cielの展望を教えてください。
早くアルバム作りたいと思っているのですが、なかなか予定が出てこないんですよね。だから「早くスケジュール切って欲しいな」と思っています(笑)。
Photo by 木村辰郎
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