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<コラム>新しい山本彩に話題騒然、予想を裏切り続ける彼女の今後に期待
<間違いでもここじゃない場所へ>
彼女が飛び立つ先は
シンガーソングライターの山本彩が8月25日に配信リリースしたデジタル・シングル「Don’t hold me back」が大きな注目を集めている。作詞作曲を彼女自身が手がけたアグレッシヴなヒップホップ・ソウルとなっており、ラップパートは『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』のシブヤディビジョン<Fling Posse>の楽曲で知られる7人組ヒップホップバンド、AFRO PARKERの弥之助が担当。彼女は、全曲の作詞作曲を手がけた通算3枚目のアルバム『α』に収録された「feel the night」でメロウなグルーヴを歌いこなし、SIRUPやiri、向井太一への楽曲提供で知られるトラックメイカーのMori Zentaroプロデュースの「stay free」ではラップにも挑戦していた。
では、なぜ、ファンがざわついたのかというと、彼女がミュージックビデオで踊っていたからである。しかも、BLACKPINKやSHINeeなどの振り付けでも知られる4人組のダンスパフォーマンスグループ、s**t kingsのshojiがコリオグラファーとして参加した本格的なダンスとなっており、YouTubeのコメント欄には<歌って踊る姿を見られるのが幸せ><ダンスが見れて嬉しい><あいからわずキレキレで最高>といった喜びの声があがっていた。それもそのはず。彼女がダンスを披露するのは、2018年10月にリリースされたNMB48の卒業シングル「僕だって泣いちゃうよ」以来、実に3年ぶりとなるのだ。
▲「Don’t hold me back」
もともとYUIや尾崎豊、アヴリル・ラヴィーンを好んで聴いていたという山本は、高校2年生の時に自身のバンドが解散したことを機に、翌年、NMB48の1期生オーディションに合格。絶対的センターかつ不動のキャプテンとして活躍し、2015年には、朝の連続テレビ小説『あさが来た』の主題歌「365日の紙飛行機」でAKB48のセンターを務め、フォークギターも披露。この頃から、数多いメンバーの中で、歌とダンスだけでなく、ギターも弾けるという特性が際立つようになり、翌年の2016年10月には、亀田誠治をサウンドプロデューサーに迎え、スガシカオやTAKURO(GLAY)が楽曲提供した1stアルバム『Rainbow』で、グループに在籍したままソロ・デビューを果たした。
2017年には、阿久悠や阿部真央、水野良樹(いきものがかり)らが参加した2ndアルバム『identity』をリリースし、翌年11月をもって、約8年間在籍したグループを卒業。2019年にはトレードマークだったロングヘアーをバッサリと切り落とし、ソロ・アーティスト/シンガーシングライターの山本彩として始動した。ここから作詞作曲を全て一人で行うようになり、レコーディングでも本人がギターを担当。全国23都市27公演に及んだ小さなライブハウス・ツアーから歩みを始め、彼女のエレキギターを活かしたバンドサウンドを展開していく。このままロックで邁進するのかと想像していた矢先に飛び込んできたのが、<私を縛り付けないでよ!>とラップし、<今すぐにでも踊れるわ>と歌う前述の「Don’t hold me back」であり、5週連続のリミックス配信である。
彼女は自身のオリジナル楽曲のリミックスの配信を8月20日からスタートした。第1弾はグループ卒業後の第1弾シングルで、亀田誠治が編曲とプロデュースを手がけた「イチリンソウ」。新たな一歩を踏み出す不安や怖さ、期待と覚悟を込めたミディアムナンバーをオーストラリア出身のアーティスト、La Felixが担当した。シティポップ寄りの軽快で爽やかなファンク/ニュー・ディスコとなっている。
翌週の第2弾は、トラックメイカーであるが、彼女と同じくメロコアやパンクロックのルーツも持つMori Zentaroが編曲を手がけたヒップホップビートのミッドグルーヴ「Homeward」をカナダ出身ブリックリン在住のアーティスト、Bit Funkが、DJ/プロデューサー的アプローチでフレンチハウス〜EDMにリミックス。第3弾「君とフィルムカメラ」は、寺岡呼人の編曲によってネオアコ/ギターポップとなっていたが、野崎亮太のソロプロジェクト・Jazztronikがファットなベースとワウペダルを使ったファンキーなギターでブラックミュージックの香りを注入し、現代的なディスコチューンへと大胆にチェンジしている。
続く、第4弾「Larimar」はトオミヨウによるアブストラクトなロックバラードが、韓国出身のDJ/プロデューサーのDaulことキム・ヒョンテによって、ビートの効いたダンスミックスとなった。そして、9月17日にリリースされた第5弾「ゼロ ユニバース」は、2020年10月にリリースされた4枚目のシングルで、ドラマ『あのコの夢を見たんです。』のエンディング・テーマ。夢と現実の狭間で揺れる葛藤から抜け出し、新しい自分を見つける自問自答の過程が描かれており、彼女が弾くアコースティック・ギターを基調に、ストリングスが豊かな色彩を加えたJ-POP然としたミディアム・バラードとなっていたが、英国チェスター出身のシンガーソングライター兼ギタリストのエド・ブラックことedblはアコギをエレキに、ストリングスをオルガンに変え、ハイハットによる16ビートも導入し、UKソウルのムードを纏わせることに成功している。
イントロからワクワクするようなリミックスばかりだったのだが、この5曲に共通しているのは、ベースとドラムが織りなす低音のグルーヴが効いたダンスミュージックに仕上がっていることである。それは、新曲「Don’t hold me back」にも言えること。「作詞作曲をすること」と「音楽を一生続けていく覚悟」という彼女の本質は変わってない。ただ、彼女の身体が踊りたがっているだけであり、今、この時代にダンスミュージックにベクトルを向けたということは、海外の活躍が視野にあるのではないだろうか。イギリス、オーストラリア、アメリカ、韓国、日本の音楽クリエーターが参加したリミックスの展開。そして、「Don’t hold me back」で<間違いでもここじゃない場所へ>と飛び立った彼女が向かう先は、おそらく日本だけでなく、アジアを含めた世界の音楽シーンだろう。
バンドガール、アイドル、フォークシンガー、シンガーシングライター、歌って踊れるアーティスト……山本彩に肩書きやジャンルのラベルは似合わない。おそらく、彼女が望む未来を断言することはできないが、インタビューで常々、「昔からみんなの予想を裏切りたい」「意外性のあるもので驚かせたい」と語っていた彼女が、ギターを置き、英語歌詞でR&Bやヒップホップソウル、ダンスポップを歌い、踊り、世界中から歓声を浴びる彼女を観る日はそう遠くないのではないかと期待している。
配信情報
「Don’t hold me back」
「イチリンソウ (La Felix Remix)」
「Homeward (Bit Funk Remix)」
「君とフィルムカメラ (Jazztronik Remix)」
「Larimar (Daul Remix)」
「ゼロ ユニバース (edbl Remix)」
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