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<インタビュー>松尾太陽、楽曲が一つひとつ重なった短編集のようなアルバム『ものがたり』を語る
超特急のタカシこと松尾太陽が、初のフルアルバム『ものがたり』をリリースした。今作は初の全英詞「Magic」、Omoinotakeによる「体温」、セルフプロデュース作「ハルの花」の3ヵ月連続配信リリースした3曲に加え、macicoやTHREE1989、さかいゆうとおかもとえみといった豪華な面々が参加した楽曲がそろい踏みしている。アーティスト達の個性が投影された楽曲たちを松尾自身の世界観に消化し、持ち前の表現力で歌い上げる。まるで“短編集”のような1曲1曲の魅力を松尾本人に解説してもらった。
――アルバムタイトルにもなっている“ものがたり”をテーマとして選んだのはなぜですか?
今年の1月から配信リリースをしていて、そのときから今年はアルバムを作れたらいいなと考えていました。最近はアートワークにこだわったり、フォトブックをつけたり小説をつけたりするアーティストさんも多いし、僕もCD1枚だけで終わらせず、“作品”としてCDを出してみたいなというのがありました。コンセプトという意味では、ストーリー調の楽曲が一つひとつ重なったようなアルバムを作りたかったので、『ものがたり』というタイトルになりました。ジャケット撮影もテーマに沿って、色々な場所を旅しているような姿を見せていたり。1枚によく収まったなと思うくらい、厚みと深みが出たアルバムになったなと思っています。
――そんな『ものがたり』の1ページ目に選んだのは「Magic」。
シングルにもアルバムにも言えることですが、トップバッターでどう色をつけていくかが重要だと思うんです。僕の理想では1曲目は華やかなほうがよくて、「Magic」を聴いたときに感じた高揚感だったり、ベタな表現になってしまいますが、歩いていく道にだんだん花が咲いていくような楽曲だと思っているので、1曲目に選びました。そこに続いていく「Smile Game」は、複雑な現状も軽やかに乗り越えていきたいという気持ちを込めた楽曲です。ゲームという世界観ではあるんですけど、社会性も感じられるような楽曲だと思っていて、場所によってリズムがガラリと変わるトリッキーな楽曲です。歌うときに迫力をつけたり、細かくリズムを刻んでみたり、あるいは滑らかに歌ってみたり、場所によって色んな歌い方やリズムの取り方を意識しました。
松尾太陽 - Magic 【teaser】
――とっても繊細な楽曲ですね。
「Magic」で華やかに歩き始めたけど、歩いているうちに現実を突きつけられることがあると思うんです。そういったものに対して、意思の強さをもって進んでいかないと乗り越えられないこともあると思うので、高揚感に伴う現実味に対して物怖じせず、前に進んでいきたいという気持ちを「Smile Game」には込めています。
――実際にそういったことを感じた出来事はありましたか?
2019年の超特急のツアーラストが沖縄公演だったんですけど、台風の影響で機材が8割くらい届かなくなってしまったことがあったんです。そのときは持ち運べるものは運んで、スピーカーやセットは現地で集められるものを使って、それでも補えない部分はDIYしたりして、どうにかライブを行ったんです。自分たちにとって初めての沖縄で、さらにロングツアーのラストをまさかそんな風に向かえるなんて想像もしていなかったんです。すごく過去の出来事ですけど、「Smile Game」に込めた気持ちとリンクしている部分があるかなと思います。
――そんなことがあったんですね。
3曲目の「橙」は爽やかなイメージで、前作で言うと「Sorrow」みたいな立ち位置なのかな。ただ爽やかというだけで終わる曲ではなくて、歌詞も今の状況を歌っていて、それに対してこれからの自分の道を決めていくというのを主張している曲です。楽しくなるようなメロディーだけれど、ちゃんとメッセージ性もあって、刺さる人には刺さる曲だと思いますね。
――「橙」に限ったことではないですが、歌うのが難しそうな曲を見事に歌いきっていますよね。
難しいなとはもちろん感じていますが、それがこのアルバムにとっては逆に心地良いというか。難しければ難しいほど、楽曲を制作してくださった方が「こんなにも独自の世界観をこの曲に注いでくれてるんだな」と感じるので嬉しいです。特にリズムの作り方という部分では「anemone」と「デジャヴの夜」が一番難しかったですね。音に合わせて歌うのが全てじゃないような、自分で作らないといけない部分もあったので、そこが難しかったです。
――つい先日サンバを歌っていた方とは思えないような(笑)。
ほんとそうです(笑)。自分でもたまにふと感じて笑っちゃいます。
――【BULLET TRAIN TAKE】で歌われていた「Batom De Cereja」もすごい完成度でしたが…。
あれは僕もちょっとよくわからないんですけど、ブラジルで爆発的にヒットしている曲らしいです。松尾太陽から知ってくれた方が検索したら、とんでもなく混乱すると思います(笑)。
「anemone」は浮遊感があるような世界観で、僕が好きなタイプの楽曲です。一つひとつの歌詞に共感を得られるような、「あ~わかる!」となるような楽曲なんじゃないかなと思っています。
――作詞作曲されたmacicoのお二人とは何かお話しされたりしましたか?
どういったメッセージが込められているのかなど聞かせてもらいました。そのときにおっしゃっていたんですけど、友達と連絡を取っていて「じゃあまた今度ね」と言って会話を終わらすけど「その今度っていつなんだろう?」って。いつ会えるかという保証がこんな状況だと分からないというのもあって、大切な人たちをないがしろにしてしまっているんじゃないかと不安になることがあるんですよね。そんななかで一番大切なものが何なのか考えたときに、愛だとか人との繋がりだったり、形のないものが一番大切なんだなと気づかされたという曲です。
――なるほど。続く「マンションA棟」はおかもとえみさんが作詞、さかいゆうさんが作曲された楽曲ですね。
そうなんです。これは大変なことですよ。
――今まで女性目線の楽曲ってありました?
あったんですけど、曲の中で女性っぽい語尾だなと感じるくらいだったので「マンションA棟」ほど振り切ってはいなくて。えみさんが書いてくださるというのは聞いてはいたんですけど、できあがったときに「本当にえみさんですか?」と思ったくらいミステリアスな部分があったり、聴けば聴くほど色んな捉え方ができるギミックの濃い楽曲ですよね。
――太陽さんはいつも歌詞に想いを込めて歌うタイプだと思いますが、女性目線の楽曲はどんな風に歌われたんですか?
他の曲は自分らしく歌っているんですけど、「マンションA棟」に関しては歌詞の中の女性がどういう人物なのかというのを考えて、憑依させて歌っている部分もあります。僕のイメージでは“ヒステリックな女性”をイメージしていて、感情的に歌ったり、ぼそぼそ喋るように歌ったり、波があるような感じを表現しました。主人公になりきっているので、レコーディングしている様子はあまり人には見られたくないです(笑)。
――内股でレコーディングしていたかもしれないですね(笑)。
覚えてないですけど、その可能性が高いです(笑)。
――今ちょうどアルバムの半分までお話しを聞きましたが、ここまでの1曲1曲にすごくストーリー性があるというか。
本当にそうですよね。今回のアルバムの楽曲一つひとつが短編集みたいなものですけど、色んな分岐や角度でつながっていくんですよね。
――6曲目は先ほど難しいとおっしゃられていた「デジャヴの夜」。
はい。色んなジャンルをハイブリットしているような楽曲で、ラップのパートもあったりと難しい曲でした。もともとラップをやってみたいとは思っていたんですけど、自信があまりなくて。でも、こうして楽曲提供していただいたので、チャレンジをしてみたいなと思ったんです。この曲の何が難しかったかというと、オートチューンがかかっていることなんです。普通に歌うと味気なくて、ただ声質が変わっただけになってしまうので、わざと印象に残るような語尾の捨て方を研究しました。<上手くいかない、その日ばかりは>とか<散歩でもしてほんの気晴らしさ>の部分とか、音が下降するときに声を少し震わすことによって音が重なっていく感じが出て、オートチューンを活かせている感じがして、すごくおもしろかったです。
――意図的に意識された歌い方だったんですね。トリッキーな「デジャヴの夜」の次に「体温」を選んだことには何か理由はありますか?
もちろん聴く方によってそれぞれの楽しみ方で良いのですが、実はこのアルバムは順番によって時間の経過をイメージしているんです。「デジャヴの夜」が大体20時から22時くらいで「体温」は22時以降。「体温」自体に夜のイメージがあって、実は僕、寝る前に「体温」を聴いたりするくらい、夜に聴くのが心地よい曲だと思っているので、「デジャヴの夜」の後に「体温」を選びました。
松尾太陽 「体温」 Music Video
――そうだったんですね。
個人的にここの流れは好きです。ここから「Time Machine」へとタイムリープするように繋がっていくんですけど、「Time Machine」はTHREE1989さんが制作してくださった楽曲です。ボーカルのShoheyさんの実体験が元になっている曲で、今の自分が過去の自分に問いかけるような曲なんですが、僕もボーカルとしてやっていこうと思ったのが15歳のときだったこともあって、自分自身ともリンクする部分がありました。タイムマシーンに乗って色んな次元に行って自分自身を鼓舞する楽曲ですけど、聴いてくださる方のことも鼓舞できるような楽曲になっていると思います。
――人が作った楽曲が自身の体験ともリンクするというのは不思議ですね。
そうですね。Shoheyさんもアーティストを目指した時期が15歳だったみたいで、すごい巡り合わせだなと思いましたね。
――「ハルの花」がリリースされた当時、川崎鷹也さんの「サクラウサギ」にハマってるとおっしゃられていたのですが、作詞作曲にあたって影響を受けたりしましたか?
そうですね。「ハルの花」は少し影響を受けてますね。応援歌として作った楽曲だったんですけど、自分の感じたことや思ったことを素直に書きました。冬から春になっていく姿だったり、時間の経過を表現している部分もあって、曲の中の主人公が成長していく姿を描いています。ただポジティブな言葉を並べるだけでなく、現実味のある人間らしいワードも所々に入れています。
松尾太陽 - ハルの花【teaser】
――『うたうたい』の時にはまだご自身で作られた曲を外に出すのが恥ずかしいとおっしゃっていましたが、今年は満を持して2曲目を。
はい! 色々思うこともあったりして。曲を1曲仕上げることによって一人のアーティストとしての説得力をつけていきたいし、曲を作っていくにあたってだんだん自分の自信にもつながっていると思うんです。
――今後はもっとたくさん作っていく予定ですか?
もちろんです。いま曲を作る勉強をさせていただいているので、いつか自分で作った曲をもっと多く出せるように頑張りたいです。
――それは楽しみですね。そして『ものがたり』の最後は「起承転々」で締めくくっているわけですが、最後にバラードを持ってきたことに何か意味はあったりしますか?
色んな楽曲があったけれど、僕らしさってバラードなのかなと思ったんです。音楽作りのうえで僕が師匠と呼んでいる山口寛雄さんが作曲、言葉をお仕事にしている阿部広太郎さんが作詞を担当してくださっていて、心が動かされるような楽曲なんです。偶然収録したのもこの曲が一番最後だったので、今まで収録した楽曲を思い返してみての感慨深さだったり、これからのツアーに向けての意識だったりを込めて、少しライブのときのように歌いました。アルバムに関係なく「起承転々」は、自分の歌人生の道のりを歌ってくれているような気もしています。躓いたり、転んだり、立ち止まったりすることもあるけど、大きな目標に向かって歩いている、この曲は“起承転結”ではないので、そんな気持ちで歌いました。
――そんな『ものがたり』を携えてのライブも控えていますね。
まだ全てが決まりきっているわけではないんですけど、初めての有感客ライブなのですごく大事にしたいです。個人的には前作の『うたうたい』も直接皆さんの前で披露できていないので、その曲たちも織り交ぜたりしたいなと思います。セットリストも組んでみたいし、ゆっくり考えてライブの構築を慎重にしていきたいです。
――『うたうたい』の初めてのソロ取材のとき、まだ一人に慣れてないとおっしゃっていましたが、今はもう慣れましたか?
はい、もう慣れましたね。今はもう胸を張って、いつもみんなと座っているこのソファに一人で座っています!(笑)
――あとはライブでの立ち回りですかね?
そうなんですよ…。歌だけじゃなくて空間づくりやMCが大きな課題です。徐々に慣れていけたらいいなと思います。一人でやる時にはもっと人間味を出したいというか、見てくれる人にユーモアも感じてもらいたいし、曲の流れやMCで起承転結を組み込みたいのでしっかり考えたいです。
――これからの“松尾太陽”としては、どんな風に活動していきたいですか?
ソロ活動に関してはまだデビューして1年なので、とにかく色んなものを自分に取り込んでみる、ということをどんどんやっていきたいです。それをだんだん自分の中で消化して形にできるように。そしてソロでももっと活躍していけるようになって、ゆくゆくは超特急の活動に良い要素を与えられる存在になれたらなと思います。
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