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<コラム>YOASOBIを中心にした創作の輪 誰もがヒット・ソングの原作者に
「ありがとう」の手紙から生まれた楽曲「ラブレター」
YOASOBIの新曲「ラブレター」がスマッシュ・ヒットを記録している。
8月9日に配信開始した同曲は、8月18日発表のBillboard JAPAN総合ソング・チャート“HOT 100”で4位を記録。ダウンロードでは首位を獲得した。
昨年の「夜に駆ける」での大ブレイクを経て、YOASOBIは今年に入ってからのリリースでも「怪物」(最高2位)、「もう少しだけ」(最高4位)、「三原色」(最高4位)とすでに3曲を“HOT 100”のトップ5圏内に送り込み、それぞれロングヒットを記録している。アーティストとしての人気も大きく広げ、2021年上半期チャートでは“TOP Artists”首位となっている。
こうして考えると、とても興味深いのは、目覚ましい活躍を経て、名実ともに現在のJ-POPシーンを代表する存在になったYOASOBIが、今なお“参加型のクリエイティブ”としてたくさんの人たちに開かれているということだろう。
もともとYOASOBIは、“小説を音楽にするユニット”というコンセプトをもとに結成されたユニットだ。ゆえに全ての楽曲に原作がある。
YOASOBI / ラブレター Official Music Video
<初めまして大好きな音楽へ/ずっと考えてたこと/どうか聞いてほしくって>という一節で始まる「ラブレター」の原作を手掛けたのは、当時小学校6年生の“はつね”さん。曲が生まれたきっかけは、昨年8月にスタートしたTOKYO FM『日本郵便 SUNDAY’S POST』とYOASOBIの共同企画『レターソングプロジェクト』だ。
手紙を原作に楽曲を制作するという『レターソングプロジェクト』では、番組リスナーから「ありがとう」をテーマにした手紙を募集。全国各地から届いたたくさんの手紙の中から選ばれたのが、はつねさんが「音楽さんへ」という宛先で書いた一通だった。音楽への感謝の思いを手書きの文字で真っ直ぐに綴った手紙が、1年越しの時を経てYOASOBIの曲になった。
それゆえ「ラブレター」という曲は、とてもピュアでみずみずしい音楽讃歌になっている。楽曲の“種”になったはつねさんのピュアな思いを汲み取ったAyaseとikuraの、それぞれコンポーザー、ヴォーカリストとしての表現力が活きている。演奏には、先日開催されたユニクロ『UT』とのコラボライブ【SING YOUR WORLD】でも共演した大阪桐蔭高等学校の吹奏楽部が参加。豪華なブラス・アレンジを施した多人数の編成が織りなす壮大なサウンドにも、音楽愛をテーマにした楽曲らしいドラマティックな響きを感じる。歌詞にある<いつもあなたのことを求めちゃうんだ/(踊りだしたくなる時も)/(爆発しちゃいそうな時も)/救われたんだ支えられてきたんだ>というフレーズも、原作の手紙の表現とストレートに結びつくものだ。
誰もが“ヒット・ソングの原作者”に
こうした楽曲制作のスタイルは、もともとYOASOBIが小説&イラスト投稿サイト『monogatary.com』から生まれたユニットだというところに原点がある。
デビュー曲「夜に駆ける」は、『monogatary.com』に投稿された星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』を原作として書かれた曲。その後『monogatary.com』ではYOASOBIの原作小説を募集する『夜遊びコンテスト』が開催され、それをもとにした曲も複数生まれている。「たぶん」は『夜遊びコンテストvol. 1』で大賞に輝いた『たぶん』(しなの・著)が原作。フジテレビ系『めざましテレビ』2021年度テーマソングに起用された「もう少しだけ」は、『夜遊びコンテスト vol.3 with めざましテレビ』の大賞作品である「めぐる。」(千春・著)が原作だ。
もう少しだけ
そして、9月15日にリリース予定の新曲「大正浪漫」は、『夜遊びコンテストvol.2』で大賞を受賞した『大正ロマンス』(NATSUMI・著)を原作にした1曲。この曲のリリースに合わせて、原作に大幅な加筆修正を行い、改題した書籍『大正浪漫』も発売される。
YOASOBIのユニークさは、こうした“参加型のクリエイティブ”で作られた楽曲が実際にヒット・チャートを席巻し、世に広がっていくというところにもある。
YouTubeが幅広い年代に浸透し、TikTokの生み出すバズが大きな影響力を持つようになった昨今、“歌ってみた”や“踊ってみた”などのUGCによって楽曲のヒットが生まれることは最早珍しくない。こうしたネット・カルチャー発のムーブメントも“参加型”であることは間違いないのだが、これらは基本的にあくまで楽曲に対しての“二次創作”という位置づけである。
それに対してYOASOBIの場合は、“一次創作”としてのオリジナル原作を募集しているところに画期的なポイントがある。しかも参加のハードルはとても低い。『夜遊びコンテスト』に応募する方法は『monogatary.com』でオリジナルの小説作品を投稿するだけ。『レターソングプロジェクト』ではラジオ番組に手紙を送るだけ。資格や制限もない。こうした形で作られた楽曲がJ-POPど真ん中のヒット・ソングとして幅広い層に広がっていくという例は、いままでになかったものだ。
さらに、YOASOBIではライブにおいても“参加型のクリエイティブ”の扉が開かれている。2月に行われた初ライブ【KEEP OUT THEATER】では、メディア・プラットフォームの『note』を使って、視聴者からのライブ・レポートを広く募集する企画が行われていた。そこで最も反響が大きいレポートを投稿した“いち亀”さんが、7月に行われたUT×YOASOBI ライブ【SING YOUR WORLD】でオフィシャル・レポートを担当している。オンライン・ライブの現場に密着したいち亀さんのレポート記事は、リハーサルや開演前の模様など視聴者には見えない舞台裏もたっぷり織り込んだスペシャルなものだ。
UT×YOASOBIコラボライブ【SING YOUR WORLD】では、大阪桐蔭高校の吹奏楽部員172人と共にパフォーマンス
また、「群青」が日本テレビ系『スッキリ』による全国高校生ダンス部応援企画『ダンス ONE プロジェクト’21』のテーマ曲に選ばれるなど、メディアを巻き込んだ企画も様々な形で進んでいる。
さらに、YOASOBIは10月に放送がスタートするNHKの子供向け番組『ひろがれ!いろとりどり』の主題歌も担当。こちらは番組の『YOASOBIとつくる 未来のうた』プロジェクトで10代から「ともに生きる」というテーマで物語を募集し、15歳の“乙月なな”さんによる『小さなツバメの大きな夢』がグランプリを獲得。これを原作に楽曲が制作される予定だ。
誰もが“ヒット・ソングの原作者”になれる。ファンとして応援するだけでなく、発信側としてユニットに関わることのできる扉が開かれている。YOASOBIのエポック・メイキングなところは、そういうところにもある。
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