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<インタビュー>トベタ・バジュンが描く“すばらしい新世界”、多彩なゲスト招いた新作を語る



インタビュー

 サウンド・クリエイター、プロデューサー、ソングライターと様々な顔を持つマルチなアーティスト、トベタ・バジュン。彼の5作目となるアルバム『すばらしい新世界 ~RELAX WORLD~』が発表された。意味深なタイトルだけでなく、世代やジャンルを超えた多彩なアーティストをフィーチャリングし、オリジナル楽曲以外にアントニオ・カルロス・ジョビンと松田聖子の名曲カヴァーが混在、なおかつ80年代風のイラストを使ったアートワークなど、どこから切り取ってもとてもユニークな作品に仕上がっている。彼が今なぜこのような作品を作ったのか、どのようにして作り上げていったのかをじっくりと語ってもらった。

映画を作る感覚に近いかもしれない

――『すばらしい新世界 ~RELAX WORLD~』は、トベタさんにとって5枚目のオリジナル・アルバムとなりますが、本作が生まれたきっかけを教えてもらえますか?

やはり新型コロナウイルスが蔓延したことの影響は大きいですね。コロナウイルスの遠因でもある自然破壊や地球温暖化、自然災害が年々激しくなっていく状況を身をもって感じているなかでコロナ禍となった。それとは別にテクノロジーも進化して、宇宙開発もどんどん進んでいます。地球に住みづらくなって、他の星へ移住する。そんな昔のSF映画みたいな出来事が現実になろうとしていますよね。

――たしかにそうですよね。

イギリスの作家オルダス・ハクスリーが1932年に『すばらしい新世界』というディストピア小説を書いていて、そこからのインスパイアもあって、自分なりの“すばらしい新世界”とはどういうものかということをずっと考えていたことがアルバムのコンセプトになっています。

――ということはポジティブなイメージだけでなく、ネガティブな要素も入っていると。

もちろんネガティブな要素はあるんですが、そこは自分の表現とフィットしないので、悲観的なところは前面に出してはいません。

――その“すばらしい新世界”というイメージが生まれた後、そこからどのようにアルバムができあがっていったのでしょうか。

今回のアルバムに関しては、そのイメージでストーリーを組み立てて、それを軸にサウンドトラックを作るようにしてアルバムも制作していきました。具体的に言えば、同じメロディを複数の楽曲で使っているんです。それは映画音楽でいうテーマみたいなもので、全体的に散りばめられていますね。

――これまでのアルバムもこういったコンセプトありきで制作されていたのでしょうか。

作り方は厳密に言うとどれも違うのですが、基本的にはコンセプトがないと作れないかもしれないですね。僕はヴォーカリストではないし、ピアノやキーボードを弾くプレイヤーなので、楽曲だけが先行してしまうとまとまりにくいんです。自分の色を出すという意味においてもコンセプトを固めるというか、自分なりのストーリーを作るというほうが正確かもしれない。順序としては、ストーリーがあって、曲が生まれて、その曲に合ったヴォーカリストやミュージシャンを迎えるというやり方です。

――ヒップホップのように「まず一緒に曲を作ろうよ」というのではなく、楽曲ありきということですか?

そうですね。楽曲が最初にあって、この曲にふさわしいのは誰かということを考えて、ゲストの方にお願いするという流れです。

――ご自身の世界にいろんな人を引っ張り込んでいくというイメージですね。

今話していて思ったのが、それこそ映画を作る感覚に近いかもしれないですね。脚本があって、そこに合う配役を探し、そこでその人らしさを演じてもらうというのと同じです。

――ただ、これだけ多彩なゲストが入ると、ひとつの作品にまとめて、自分らしさを出すのが難しいのではないですか?

物理的なところで言うと、メロディやコード進行、ピアノの響きなどで自分を出そうというのはあります。ただ、打算的な個性の出し方はしたくないんですね。僕の中では常にポップでキャッチーでありたいというのがあるので、自分の中でのポップやキャッチーは何か、というのを素直に出していくのが自分らしさかなと思っています。


過去と未来を旅する

――今作も多くのゲストを迎えられているので、順番にそのあたりを聞かせてください。まずはRHYMESTERのMummy-Dさんがインパクトのあるラップを披露してくれますね。

この曲のタイトルが「Butterfly Effect」で、文字通りバタフライ効果という言葉をテーマにしています。人間の過去のちょっとした罪が自然破壊や自然災害といった大きなことにつながっていますが、逆に今やっている些細なことも将来大きな問題になっていくかもしれない。そういう力学的なことを描きたいと思ったときに、Mummy-Dさんのリリックと声が合うなと思って声をかけさせていただきました。

――冒頭からドラマチックでドキドキします。

当初はもっとチェロを取り入れたアレンジを作っていたのですが、Mummy-Dさんの声が乗ったら合わなかったので、かなり引き算して鍵盤を加えたりしながら大幅に変えました。

――ということはセッションのように、アレンジが変わることもあるんですね。

それは常にありますね。いい意味で化学変化を起こしながら楽曲を作っていくんです。

――タイトル曲の「すばらしい新世界」では、ボンジュール鈴木さんの個性的な声が聞こえてきます。

僕はもともとウィスパー・ヴォイスが大好きで、最近の日本人の中ではボンジュール鈴木さんがもっとも好みなんです。甘くて透明感もあって、しかも彼女は自身でも作曲やアレンジもできる方なのでキャッチボールがしやすいというか、こちらが言いたいことをすぐ理解してくれるというような相性の良さもありますね。

――アルバムの重要なキーになる楽曲ですよね。

だからこそネガティブなサウンドにはしたくなかったので、スウィング・ジャズ的なアレンジをしてみようと考えました。そうした際に、普通にジャズ・ヴォーカルをフィーチャーしても自分らしくないなと思って、ウィスパー系の声にしてみました。歌詞もお願いしたのですが、きちんとコンセプトをお伝えして書いていただきました。また、MVでも土海明日香さん率いるアニメ・チームがそのコンセプトをアニメーションで描いてくれています。



トベタ・バジュン:すばらしい新世界 feat.ボンジュール鈴木 [OFFICIAL MUSIC VIDEO]


――単なるフィーチャリングではなく、がっつりとコラボレートしているのがよくわかります。

どの曲も基本的には共同作業という意識はありますね。

――3曲目は、ブラジルのアントニオ・カルロス・ジョビンの渋い名曲「Inutil Paisagem」です。

以前、坂本龍一さんがボサノヴァ・アルバムを作られていて大好きだったのですが、そこで共演していたのがパウラ&ジャキス・モレレンバウム夫妻だったんです。そこで、ぜひ彼らにお願いしたいなと思ってオファーして作りました。「無意味な風景(Inutil Paisagem)」というこの曲の歌詞とアルバムのコンセプトが合うというのが、その曲を選んだというとてもシンプルな理由です。

――一転して、ACOさんのヴォーカルとIGORさんのラップをフィーチャーした「Sonatine」はインパクトのある1曲ですね。

男女が宇宙旅行をしている設定なのですが、この曲は2人の考え方のずれをシニカルにコミカルに描きたいと思ったんですね。だからヴォーカルは普通にラブソングなのですが、フランス語のラップは脳天気なプレイボーイを演出しています。

――そして「水中都市」は、またまたウィスパー・ヴォイスを代表するCHARAさんが登場します。

CHARAさんはキャリアもある方だし、こういう企画に乗っていただくのは難しいのかなと思ったのですが実現できました。最初はわりとストレートな歌い方だったんですが、「もっとスウィートに」とお願いしてウィスパー系に寄っていただきました。

――オールディーズ風のサウンドと近未来的な歌詞の融合もあって、不思議なバランス感覚の1曲だと思います。

大滝詠一さん風のウォール・オブ・サウンドと80年代アイドル歌謡をミックスしたようなイメージなんです。過去と未来を旅するというのもアルバムのコンセプトのひとつなので、80年代風のサウンドに乗せて90年代のポップスターであるCHARAさんが歌うという、時代を飛び越えた音のコラボレーションを意識してみました。この曲あたりからレコードでいうB面みたいな感覚もあります。



トベタ・バジュン:水中都市 feat. CHARA [OFFICIAL MUSIC VIDEO]



描きたいことは一貫している

――さらに80年代のスターである杉山清貴さんが「海辺の楽園」にフィーチャーされていますね。

シティポップ的な楽曲だし、マリンブルーなイメージもあるし(笑)、ここはストレートにレジェンドにお願いしました。どんな未来都市でも能や歌舞伎などの伝統芸能は必ず残っていると思うんです、逆にそれがかっこよかったりするじゃないですか。だから、このアルバムでも未来的な風景の中に80年代的なものをあえて置いているのが、自分にとってはクールでポップな感覚がありますね。それはアルバム・ジャケットの火曜びさんのイラストにも通じるものがあると思います。

――その流れで言えば、続く「Sweet Memories」は完全に80年代ですね。松田聖子さんの名曲を浅香唯さんが歌うという組み合わせの妙というか。

過去と未来を行き来する宇宙旅行における甘い記憶というイメージで、これもストレートに選曲しました。古い例えですが、アニメ『マクロス』シリーズにおける「愛・おぼえていますか」のような位置付けですね(笑)。聖子さん本人に歌ってもらうのも違うし、でも80年代のアイドルの名曲を別の80年代のアイドルに歌ってもらうというアイデアが出てきて。それで誰がいいかと考えたときに、浅香唯さんしかいないと閃きました。浅香さんとは以前ご一緒したことがあって、とても相性が良くて楽しかったというのもあってお願いしました。

――そして堂珍嘉邦さんが歌う「二つの月」でフィナーレに向かいます。

この曲は少しCHEMISTRYのイメージもあって、堂珍さんの声がしっくり来るんじゃないかと思ってオファーしました。歌の表現にこだわる方なので、アレンジなどもアドバイスいただいたりして、本当に堂珍さんサウンドを築き上げているマネジメントやエンジニアなどから構成されるチーム堂珍と一緒に作ったという感覚がありますね。

――歌モノの合間にインストゥルメンタルが効果的に差し込まれていて、これがコンセプチュアルなアルバムのイメージを作り上げていると思います。このあたりがトベタさんの真骨頂ですね。

こういった構成はやはりストーリーありきだし、アルバムという形式でどう聴いてもらうかという意味もあります。それと今作が5作目というのもあるので、過去のアルバムとの関連性も意識しています。例えば「Clear Water No.2」は1stアルバム『青い蝶』に入っている「Clear Water」の続編でもあるんです。なので『青い蝶』とつながっていることも意味しています。

――『青い蝶』は2008年なのでもう13年前になります。あのときはすごい人が現れたという印象だったのですが、そもそもの音楽活動のいきさつを教えてもらえますか。

もともと3歳からピアノをやっていて音楽が大好きだったのですが、音楽で食べていくって大変じゃないですか。それでいろいろ考えてナムコというゲーム会社に入ったんです。ナムコのサウンド・チームの少し先輩に、砂原良徳さんやKIRINJIの堀込高樹さんなどがいらっしゃいます。ナムコで働きながらデモテープを作ってレコード会社などに送っていたのですが、その中で坂本龍一さんに聴いていただく機会があってご縁ができました。最初はけんもほろろに断られたのですが、ご本人の直メアドをゲットしたので(笑)、気合を入れてデモを送ったんです。それが『青い蝶』の1曲目に入っている「Asian Flower」で、坂本さんからは「これはいい曲だね」と褒めていただき、共演していただきました。それがきっかけで本格的に音楽活動をスタートしたという経緯です。

――これまでのアルバムはすごくヴァラエティに富んでいますね。

ただ、自分の中で分け隔てはないですね。絵画で言うと、描きたいものによって絵筆を変えているという感覚で、あとは描きたいと思う世界を作り上げていきます。コンセプトやストーリーありきで作っていくというのは、過去のどの作品も同じですね。

――その観点で聴くと、一本しっかりと筋が通っていると思います。これだけゲストがいてもそっちに引っ張られている感覚がないですよね。

それは、どのアルバムにも伝えたいことが一貫してあるからだと思います。例えば少し毛色が違うように見える2010年の『African Mode』も、アフリカの人口や環境の問題を意識していたのですが、それも今回のアルバムのテーマとリンクしているし、どの作品も描きたいことは一貫しているつもりなんです。

――ということは今回の『すばらしい新世界 ~RELAX WORLD~』も、ひとつの流れの中で生まれたということですよね。

『青い蝶』からひとつのピリオドというイメージです。ピリオドということは新しいスタートでもありますね。終わりでもあり始まりでもあるというか。

――9月22日には続編『すばらしい新世界~宇宙の旅編~』もリリースされることが決まっています。

『すばらしい新世界 ~RELAX WORLD~』は、自分でストーリーを作って架空の映画に仕上げたというイメージなのですが、続編の『すばらしい新世界~宇宙の旅編~』のほうは、できあがった映画のサウンドトラックを作り上げたという感覚です。ちょっと説明が難しいのですが(笑)。

――かなり壮大な作品ですね。たしかに映画と並べてもおかしくないエンタテインメントに仕上がっているのではないかと感じます。とはいえ、仰々しいわけでもなく肩肘張った感覚もなく、とても癒やされるポップ作品ですね。

副題にもある“RELAX WORLD”がまさにその意味なんですよ。音楽というのはもともと癒されるものだし、自分自身がビジネスとして眠りや癒しのための音楽も作っています。そのあたりも自分の活動の中では地続きなので、『すばらしい新世界 ~RELAX WORLD~』を聴いて心地良く感じてもらえるのならとても嬉しいですね。

Interview by 栗本 斉

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