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<インタビュー>竹渕慶×YAMOが語る3年間の歩み、ファンと共に作り上げた1stフルアルバム『OVERTONES』の手応え
東京を拠点に活動するシンガー・ソングライター、竹渕慶が1stフルアルバム『OVERTONES』をリリースした。
幼少期を米ロサンゼルスで過ごし、学生時代から音楽活動を開始、2010年にGoose houseの前身となるPlayYou.Houseに初期メンバーとして参加し、2018年11月にはグループから脱退、現在はクリエイティブ・パートナーのYAMOと共に音楽・動画コンテンツを制作している竹渕。本格的なソロ活動を開始して以降、ツアーやYouTubeチャンネルを通して国内外のリスナーたちと繋がってきた彼女の初めてのフルアルバムは、自身のファンの呼称でもある“OVERTONES”と銘打たれていることからも分かる通り、竹渕がファンとともに歩んできた3年間を飾ることなく、純粋な結晶としてカタチにしたような、親密でノンフィクショナルな1枚だ。そんな本作について、竹渕本人と相棒・YAMOにインタビュー、話を訊いた。
良きクリエイティブ・パートナーとの出会い
――まずはお二人の馴れ初めからお聞かせください。
竹渕:出会いはGoose house時代で、当時はグループの楽曲のアレンジを色んなプロデューサーの方々にお願いしていたんですけど、その中のひとりがYAMOさんだったんです。レコーディングの合間とかに「ソロで活動していこうと思っている」という話を相談させてもらったら、「僕も手伝えることがあると思う」みたいなことを言ってもらえて。最初はそんな感じでフランクに始まりました。
YAMO:僕はずっと海外のアーティストと日本国内でお仕事することが多くて、日本と欧米の音楽業界の違いとかも見てきたんですよね。クリエイティビティも制作サイドも特にアメリカはすごくて、自分としてはけっこう挫折してきたというか、ちょっとついていけなかったんですよ。そんな中、一緒にお仕事させてもらう以前から竹渕慶ちゃんのことは知っていて、日本を飛び出して世界にも音楽を届けられるとしたら慶ちゃんだと思っていたんです。そしたら偶然にもGoose houseのアレンジを頼まれるようになって。いつかこういう人が現れたときに力になりたいと思いながら鍛錬してきたので、本人が「ソロでやりたい」みたいなことを言い出したときは「きたきた」みたいな。
――そういう才能と巡り会えるのをずっと待っていた。
YAMO:待ってました。やっと会えたって感じですね。なんか気持ち悪いですよね(笑)。徐々に忍び寄る魔の手みたいな。でも、僕もずっと準備だけはしていた感じです。
――ちなみにお互いの第一印象は?
YAMO:初対面は12月頃、とある曲のレコーディングをしていたときなんですけど、モコモコした服を着てるなっていう。
竹渕:浅っ!
YAMO:あと「この人と仲良くなるの、難しそう」って思いました。他人に対して良い意味で大人の対応をする人だから。それが人としての印象で、アーティストとしての印象は、口からCDが再生されているなって。
竹渕:YAMOさんの第一印象は、何かに急いでいるなっていう印象。今も変わらないんですけど、常に何かを考えていそう。あと、すごく腰が低い方だと思いました。
YAMO:学生時代は家電量販店でずっと働いていたので。
――音楽プロデューサーとしてのYAMOさんは?
竹渕:あまり他にいないタイプの方ですね。プロデューサーとして竹渕慶を作るという感じではなくて、クリエイティブ・パートナーという言い方がしっくりくるかもしれないです。私が苦手な戦略、どうしたら作品が良くなるか、広がっていくかということを考えつつ、アレンジも撮影も映像制作もデータの納品も全部やってくれるので、こういう形のプロデュースをしている人はあまりいないだろうなって思います。まだ世界に存在しない肩書を作ろうとしている人というか。
YAMO:良いものをより多くの人に届けたいと思っていたら、結果的にこうなった感じですけどね。今はテクノロジーの進化でひとつの分野を鍛錬するのにかかる時間が短くなったというか。YouTubeでも色んな分野のチュートリアルを見ることができるし、英語が読めれば世界中のすごい人たちの教材をインターネット上で読むことができる。なので、時代が(自分のような存在を)作ったという感じはします。
――海外の音楽業界とも関りがあるYAMOさんだからこそ、というのもあるんでしょうね。
YAMO:そうですね。例えばニューヨークで働くメジャー・レーベルの人って、アメリカの超大手の大学を出ている人ばかりだし。前にギリシャの人に「なんで日本の音楽業界で満足しているの?」と説教されたことがあって。そもそもギリシャ国内に大きなマーケットがないというのもあるけど、「No.1がアメリカなんだから、アメリカを目指さなくてどうするんだ」って。そうやって目線を海外のトップのレベルまで引き上げていったら、何かしら個性をめちゃくちゃ磨かないといけない、少なくとも海外の人たちに胸を張れるぐらい本気にならないといけないと思ったんです。
――7月7日にCDリリースされた1stフルアルバム『OVERTONES』ですが、8月7日からは配信もスタートします。ソロ専念以降の3年間で発表されたシングルも多数収録されていますが、いつ頃からアルバム制作モードに切り替えたのでしょうか?
竹渕:去年の春頃だったかな。この3年間、ファンの人たちと一緒に作ってきた曲がいっぱいあって。そうやって生まれた点をいったん繋いで、みんなの手元にひとつの形として届けたいという想いが大きかったです。そこからアルバムに向けて新曲も作り始めていきました。なので私たちの作品でもあり、ファンの皆さんの作品でもあるんです。
――だからこその“OVERTONES”というタイトルでもあるんですね。自分たちとしてはどんなアルバムに仕上がったか、俯瞰することってできますか?
竹渕:実は1曲目の「Trust You That You Trust Me」以外、時系列順で曲が収録されているんですけど、もともとコンセプトやテーマを決めて作ったアルバムではないのに、この曲順で並べるとまとまりというか、しっくりくる流れになったと感じました。このアルバムを通して過去を振り返ると、自分がこの3年間、どんな想いで歩んできたかが見えるんですよね。自分の中ではグループの脱退やコロナ禍のこともあって、停滞感とか色々な不安を抱えながら進んできた感覚もあったけど、このアルバムを聴いて「ちゃんと進んでこれたのかも」と思えたりして。
YAMO:このアルバムが他の作品と違う点ってクレジットなんですよね。エンジニアさんもA&Rさんもいない、僕たち二人と演奏者さんだけで作っている。そういう意味でも一貫性のあるアルバムになったと思います。それに、今後二度と作れないアルバムにもなったなって。作った当時の自分たちの気持ちが形になった曲が収められているから。“OVERTONES”って倍音という意味なんですけど、そもそも音って波長の組み合わせが無限にあるから、まったく同じ響きは二度と生まれないと思うんです。同じようにファンの皆さんとの繋がりとか、そういう人たちとの出会いにも、二度と戻らないからこそ宿る美しさがあるんだって、このアルバムを聴きながら感じたりしますね。
竹渕:マスタリングまでの全工程を二人だけでやるアルバムは、もしかしたら今回が最後かもしれない。登場人物もほとんどファンと私たちだけだし、そういう意味でもすごくインティメイトな、DIYなアルバムになったと思います。
ファンの言葉で「すごく勇気をもらった」
――その“ファンと一緒に作り上げる”という意識はどこから生まれてきたんだと思います?
竹渕:元を辿ればGoose houseの頃の話になるんですけど、あのグループってすごく面白くて、画面の向こうの人たちなんだけど、なんか仲間になれそう、友達になりたい、みたいな親近感を感じてもらっていた集団だったと思うんです。その時点からファンの方々との距離が近かったし、グループを出たときは正直、ついてきてくれる人がいないんじゃないかと思っていたから、ずっと応援し続けてくれた方々には頭が上がらないというか、感謝の気持ちがすごく溢れて。そこから「ついてきてくれたファンの方々ためにも、絶対にこの決断を後悔するような活動にしちゃいけない」と思ったんです。そういう気持ちはYAMOさんも分かってくれていて、色んな企画を一緒に考えてくれて。
YAMO:ファン参加型の企画って他にもありますけど、慶ちゃんとファンの方々の関係性を考えたら、まったく違う熱度になるだろうと思っていたんです。どこかで自分を投影している部分があるというか、アルバムもまるで自分のことのように喜んでくれたし、僕たちとしてもそうなって欲しくて頑張ってきましたからね。
――それぞれ楽曲についても聞かせてください。オープニングの「Trust You That You Trust Me」は時系列的には例外だそうですが、一番新しく作った作品なんですか?
竹渕:そうです。アルバムにも収録されている「Torch」が最近の自分の代表曲みたいな存在になっていたんですけど、それを超える曲を作りたいと思っていて。それをYAMOさんにも伝えて、曲調のイメージや世界観をお互いに擦り合わせていく中で、デモとしてあがってきたのが「Trust You That You Trust Me」でした。サビの<Trust you that you trust me/Trust me that I trust you>というフレーズもその時点からあった歌詞なんですけど、ちょうど私が一番伝えたいことでもあったし、曲調的にも一番ノれるというか、気分が上がる曲になっていたので、リード曲はこれだなって。
YAMO:慶ちゃんとファンの方々の関係性もそうですけど、人との繋がりって結局、最小単位は個人と個人の関係性でしかなくて、仕事でも恋愛でもその先に相手となる個人がいる。だからこそ、生きていく中で変化を起こしたり、何かに挑戦しようとすることは、相手が自分を信じてくれていることを信じることにブレイクダウンできるかもしれないと思ったんです。
――サウンド面はいかがでしょうか? 何かリファレンスがあったり?
YAMO:サウンド感的には新しい竹渕慶にしたいと思っていました。ただ、僕はこういう曲調にしたいなと思って曲を作るやり方はあまりしないというか、できないんですよね。好きな音楽やそのときに聴いている音楽が集合体として表れる感じかもしれないです。マデオンとかポーター・ロビンソンとかのポストEDMも好きだし、ポップど真ん中のアリアナ・グランデとか、The 1975みたいなバンドも好きだし。好きな音楽からの影響を凝縮して、竹渕慶の歌声に合わせて塊にしたらこうなったという感じですね。
――続く「In This Blanket」は、収録曲の中で一番古い曲になるということですよね。
竹渕:作ったのは2018年の秋頃ですね。この頃はすごく不安を感じていた時期でした。なので、聴いてくれる人を励ましたり、寄り添えたらいいなと思って書いた曲ではあるんですけど、どこか自分に言い聞かせている部分もあって。グループを脱退してから初めて書いた曲でもあるし、当時はまだソロ活動が動き出す前だったので、自分がどこに向かっているのかも分からなくて。それが幼少期に漠然と感じる不安と似ていると思ったんです。
【ASMR】1人7役 Close to You/In This Blanket【MASHUP】
――そこから“In This Blanket”というテーマに繋がったんですね。例えば今、活動に対して不安を覚えることがあったとしても、それは進み続ける中での逡巡や葛藤だと思うんですけど、このときの不安って真っ暗闇のトンネルの入り口で感じるような、先の見えない恐怖感ですよね。そういう意味でも、竹渕さんの始まりを象徴するような楽曲になっている。
竹渕:そうですね。自分の決断が果たして正しかったのかとか、何も分かっていない時期でした。
YAMO:制作費0円。
竹渕:0円。
――そうなんですか?
YAMO:最初はスタジオでレコーディングして、エンジニアさんにミックスしてもらって、最後にマスタリングに出して完成させる感じだと思っていたら、二人だけのやり取りで「これでいいよね」と思える形になって、慶ちゃんも「だよね」みたいな感じで。僕は僕なりに不安を感じながらも、ずっと新しい音楽の形を探していたから、こういう作り方でもいいんだと思わせてくれた、背中を押してもらえた曲になりました。
竹渕:まだレコーディングも何もしていないときに、まず自分のYouTubeチャンネルを開設したんですけど、何かコンテンツをアップしないといけないと思って、その場にあった「In This Blanket」の1コーラス分のトラックに歌詞をつけて、歌を録って、それっぽい映像をつけて公開してみたんです。そしたら想像以上の反響があって。コメント欄も嬉しい言葉で溢れていて、すごく勇気をもらったんですよね。
素直に感じたこと、思っていることを歌詞に
――先ほど「Trust You That You Trust Me」は「Torch」を超える曲にしたいと仰っていましたが、その「Torch」に対してはどんな思い入れがありますか?
竹渕:これは初めてYAMOさんが作曲、私が作詞を担う形で作った曲なんですけど、そのスタイルの手応えを確信した曲でもあって。それまでは「もしYAMOさんが書いてきた曲が全然好きになれなかったらどうしよう、やっていけないかもしれない」という気持ちがあったんですけど(笑)、この「Torch」が送られてきてめちゃくちゃ衝撃を受けました。なんだこのサビのメロディって(笑)。あとは、ツアーを回りながら歌詞を書いたり、海外も含めた5,000人のお客さんの手拍子やコーラスを入れてもらいながら作った曲なので、ファンの皆さんにとっても“みんなのテーマソング”みたいな印象が強いんだと思います。
――サビのメロディ、すごいですよね。
竹渕:意味分からないですよね。
YAMO:アーティストって普通、作詞も作曲も自分でやりたいと思うのが自然なエゴだと思うんですよ。その大事なピースを任せてもらう以上、ちゃんと意味のあるメロディというか、自分が求める新しいものであると同時に、たくさんの人に刺さる普遍的なものを探し出さなきゃいけない、そういう責任みたいなものがあると思っていて。そんなに多作なタイプではないんですけど、慶ちゃんには「これだ!」と胸を張れるものだけをお渡ししたいなと思ってますね。
Torch / 竹渕慶 | Kei Takebuchi (Music Video)
――歌録りも大変だったのでは。
竹渕:最初はメロディが覚えられなくて。でも、ライブで披露していく中で徐々に歌い慣れていきました。人間やり続ければできるようになるんだなと思いました。
YAMO:そういうところがスモール・チームの良いところだよね。自分たちの責任でアイディアを形にできる。スリリングですけどね。
――「Love」はマレーシアを訪れた際の経験から生まれた曲とのことですが、どんなインスピレーションを受けたのですか?
竹渕:2019年にマレーシアのイベントに出させてもらったとき、行きの飛行機の中で「滞在中に曲を作らない?」って話になったんです。たしか滞在期間が3日間だったんですけど、そのあいだに映像まで撮ってこようって。マレーシアって色んな宗教や人種、言語が入り混じっている国で、ライブでも日本語が分からないはずなのに一緒に歌ってくれたりして、やっぱり音楽って言語の壁を超えるんだなという実感を肌で直接感じたんです。言葉にすると薄っぺらく感じちゃうけど、その経験をマレーシアの方だけでなく、日本の皆さんにも伝える曲にしたいと思って書きました。
YAMO:そういうメッセージ性を薄っぺらく感じさせないよう、「ちゃんと自分たちが経験したことなんだよ」ということが伝わるような説得力や信憑性を持たせるために、現地でフィールド・レコーディングした音を入れたりしています。
Love / 竹渕慶 | Kei Takebuchi (Music Video)
――こういったグローバリズムって、声を大にして唱えるのにすごく勇気が要りますよね。スケールが大きいテーマなので、お二人も仰ったように薄っぺらいメッセージにも捉えられかねない。だからこそ、竹渕さんの発信者としてのスタンスが浮き彫りになる曲でもあるのかなと思います。
竹渕:そうかもしれないです。例えば<両手繋ぎ合えば誰も武器は持てないだろう>という歌詞があるんですけど、そんなことは今の世界ではたぶん無理だということも分かってはいるんです。でも、どこかでそういう願いが存在していないと、いつか消えていってしまうとも思っていて。わざわざ音楽にするようなことじゃない、歌っても意味がないと思う人もいるだろうし、私自身も葛藤しましたけど、ストレートに勝負しようと思って、素直に感じたこと、思っていることを歌詞にしました。リリースしたのは2020年3月なんですけど、コロナ禍で世界中がロックダウンされるような状況になったとき、「今こそ出すべきだ」と思って急きょレコーディングして配信しました。その瞬間に出す意味のある曲になったという感覚があって。
――そんなコロナ禍だからこそ生まれたのが「24 Hours」と「Lofi」の2曲ですよね。「24 Hours」は、オンライン上で視聴者から募ったコーラスも入っていて。
竹渕:24時間生配信をする企画があって、その中でリアルタイムでファンの皆さんと一緒に曲を作ろうというアイデアが出てきたんです。深夜の3時くらいから始めたんですけど、その時点でもう1,500人ぐらいの視聴者さんがいて、「今からスプレッドシートのリンクを載せるから、みんな入ってきて」って。その書き込みの中に“24 Hours”という言葉があって、「タイトルはこれしかない」とビビッときたんです。
YAMO:ミュージック・ビデオもファンの皆さんと一緒に作りました。コロナ禍になって孤独な時間が増えた人も多いと思うんです。なのでみんな、絆とか繋がりとか、自分の存在価値みたいなものを探し求めていると思って。そういうことを表現できてたらいいなと思ったんです。
24 Hours / 竹渕慶 | Kei Takebuchi (Music Video)
孤独だけど孤独じゃない
――対する「lofi」は、ローファイ・ヒップホップを中心に音楽を永続的に流し続けるYouTubeチャンネル『ChilledCow』(現在は『Lofi Girl』というチャンネル名)をオマージュした楽曲ですね。
竹渕:『ChilledCow』はYAMOさんが大好きなチャンネルで。自粛中に「次はどんな動画を作ろうか」みたいな話をしたときに、『ChilledCow』をコピーしてみるという案が出てきたんです。このときは世界中の人が一人で勉強していたり、部屋に閉じこもって作業していた時期だったと思うんですけど、そんな人たちがあのチャンネルに集まって、同じ音楽を聴いているという状況に、自分たちが目指す世界とすごく近しいものを感じたんです。
――曲名もずばり「lofi」となっていますが、この言葉を音楽として表現するにあたって、どんな解釈をして楽曲に昇華させたのでしょう?
竹渕:“lofi”は“粗い”という意味ですけど、そういう状態が自分たちにも重なったというか。完璧を目指しているわけではない、粗削りかもしれないけど、でも熱意はそこにある、洗練されて磨き上げられたものじゃなくても、スクラッチで粗々しいものだったとしても、そこに想いはあるんだということを表現したかったんです。
YAMO:この曲だけ制作時間めちゃくちゃ短いです。3分クッキングみたいな感じで、Lofiな音をバーッと混ぜたりして。その感じもこういう音楽の味だと思ったんですよね。
――『ChilledCow』のコピーということで、竹渕さんが本気で“Lofi Girl”になりきる動画も面白かったです。
竹渕:最初は「この動画、誰が見るんだろう」と思いましたけど(笑)。部屋まで改造しちゃって。結果的には面白がってもらえてよかったです。
【lofi hip hop】なってみた、作ってみた、歌ってみた【新曲】
――最後の2曲「Invisible」と「Tokyo」は新録曲で、特に「Tokyo」は2021年現在の社会状況ともリンクする世界が描かれていますね。
竹渕:実はこの曲、2019年に開催したツアーのファイナル、東京公演で披露したのが一番最初なんです。ただ、そのときは会場に来てくださった方々のためだけに書いたので、すごくクローズドな歌詞でした。それからほぼ全部の歌詞を変えたので、2年半ぐらいかけて完成させた曲でもあるんですよね。
――どのように生まれ変わったと感じていますか?
竹渕:最初は「In This Blanket」と近い感じで、ソロとして走り出したばかりの不安だった時期に作ったから、ライブに足を運んでくれるファンの皆さんに対して、とにかく「ありがとう」を伝える歌詞を書いたんです。それが今は視点が広がって、もっと広い世界が対象になっていて。私自身、ソロ活動とは言ってますけど、同時に自分は一人じゃないということもすごく感じるんです。ただ、それでも自分が傷ついたりしたとき、その痛みを本当に感じることができるのは自分だけで。そういう意味では、やっぱり人っていつまでも孤独なんですよね。一方で、そういう人を救うことができるのも、やっぱり自分以外の人だったりする。そういうことをコロナ禍ですごく考えるようになって、この「Tokyo」という曲に込めました。
――その孤独感と共生感の同居する感じが“東京”という街のイメージと重なる?
竹渕:そうですね。でも、それって東京に住んでいない人でも同じだと思っていて。なので、“Tokyo”というのはある種の概念として、この曲のモチーフになっている感じです。聴いてくれる人には皆さんの中の“Tokyo”、概念としての“Tokyo”を思い浮かべて欲しいと思っています。
竹渕慶 - Tokyo (Lyric Video)
――編曲においてはどんな音像を思い浮かべましたか?
YAMO:難しかったです。孤独なんだけど孤独じゃないという、相反する二つの性質を描かないといけない。具体的なポイントを挙げると、ラスサビの前に無音になる瞬間があって。そこは聴く人がそのときにいる環境、例えば地下鉄で聴いていたとしたら電車が走る音が音楽になるというか。言葉で説明するのは難しいんですけど、それが孤独だけど孤独じゃないという世界を表現していると思っていて。全体的には壮大な力強いサウンドなんだけど、どこか寂しさを感じさせるような音像を目指しました。こういう矛盾した性質を描けるのもアートのメリットですよね。
――お二人とも「今後二度と作れないだろう」と感じるアルバムになったとのことですが、現時点で次に作りたい音楽、描きたい世界のヴィジョンはありますか?
YAMO:今はもう燃え尽きちゃって。CDは発売されているけどデジタル・リリースはまだ控えているし、まだ完全に次のモードには切り替えられていないです。慶ちゃんはどう?
竹渕:アウトプットの期間に他の音楽に触れたりすると悪い意味で引っ張られちゃうので、このあいだのライブまでは他のアーティストさんの曲を聴かないようにしていたんですけど、ライブが終わってようやくインプットができるようになってからは、少しずつ創作意欲も湧いてきています。それがどんな形になるかはまだ分からないけど、曲を書きたいモードにはなっていますね。
Photo by 辰巳隆二
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