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Billboard International Power Playersインタビュー vol.2 藤倉尚 ユニバーサルミュージック合同会社 社長兼CEO

インタビュー

 米Billboard誌が、アメリカ以外の国で音楽ビジネスの成功を牽引しているリーダーを称える【Billboard international power players】。各国から音楽業界を牽引するリーダーが選ばれた中、日本からはユニバーサルミュージックミュージック合同会社 藤倉尚 社長兼最高経営責任者(CEO)らが選出された。今回、藤倉社長へインタビュー。功績が称えられたストリーミングなどでの売上増加に対する施策や、アジアを含めた海外戦略、そして今後の展望などについて話を聞いた。

ストリーミングの収益を上げるために行ったこと

ーー今回、ストリーミングなどにおいて収益を増加させたことが評価され、2021年の【Billboard international power players】に選出されました。御社が昨年、特にストリーミングの収益増に対して行われたことをお伺いできますでしょうか。

藤倉尚:2020年度に大きく何かを変えたというより、これまで取り組んできたことが実を結んだのが2020年だったと思います。2014年の社長就任以来、アーティストごとにどのような形で作品を届けることがベストなのか、どういう方法で作品を楽しまれているのかを明確に意識しながら楽曲制作やマーケティングを行うようにしてきました。ストリーミングだけに注力するのではなく、フィジカルもデジタルも含めてアーティストの才能を最大化するために、スタッフには「2つの会社を経営しているつもりで行動するように」と意識づけをしていきました。

 最近は、社員とのミーティングで常に伝えているのは「Be ahead、Be Creative(先んじて考え、先んじて行動しよう)」です。昨年(2020年)はストリーミングをさらに強化するため、元Spotify Japanの玉木にデジタル分野の統括として加わってもらいました。結果的にプラットフォーム側の目線や考え方についての理解が進み、自分たちの取り組みの中で、少し先のヒットを意識できるようになりました。その結果Ado、ずっと真夜中でいいのに。、藤井風、ヨルシカ、といったヒットアーティスト達を生み出すことができました。

ーーストリーミングでの売上を伸ばすためには、日本以外のリスナーを獲得することも重要になってきます。ただ、アメリカのビルボード・チャートを見ても、K-POPアーティストはBTSを筆頭に数多くチャートインしていますが、坂本九さん以降、大きなヒットは出ていません。日本人もアメリカでのヒットを実現するための課題は、なんだと思われますか。

藤倉:彼らの活動を見ていて、日本のアーティストにまだまだできることがある、と感じるのはSNSの使い方です。BTSは、世界中で圧倒的な数のフォロワーを獲得しており、その上で楽曲やMVを発表しています。特に海外へ作品を届けるための土壌となるSNSの取り組みの面で日本は、まだまだ足りていないことは事実です。また、K-POPの楽曲には、グローバル・チャートに現れる音楽トレンドがうまく取り入れられていますよね。歌詞が韓国語でも、世界中のファンにとっても非常に耳なじみの良い音楽に仕上がっています。もう一つは、日本のマーケットが邦楽優勢であることです。日本での洋楽、邦楽の売上を比較すると、邦楽の方が圧倒的に多くなってきています。コロナ禍で、フェスやイベントの中止や海外アーティストが来日できなくなったことにより、さらにその状況に拍車がかかってしまいました。

 坂本九さんの「SUKIYAKI」、近年の初音ミクのように日本独自のカルチャーを体現した作品が世界で支持されることももちろん大切なことです。一方で様々な国の文化やトレンドを吸収したオリジナル作品を発信していく形が、今の環境では多様な文化圏で広く受け入れられやすいのではと思っています。実際にラテン語圏や韓国語圏の作品ではそれが実現できているので、日本のアーティストや作品でも可能なのではないでしょうか。

ーーストリーミングやYouTube、ダウンロードといった洋楽を聴くための手段は増えているのに、聴く人の割合は減少しているんですね。

藤倉:ボタン一つで、様々な国の音楽が聴ける時代になったのに、かえって洋楽との距離ができてしまったことはとても残念です。30~40年くらい前は、邦楽が7割、洋楽が3割という比率でしたが、現状は残念ながら1割行くか行かないかとう状況です。世界中の作品に触れていただけるということは、自社のビジネス上の目標ということに限らず、アーティストや音楽ファンの方々にとっても刺激や新しいアイディアが生まれることにもつながり、最終的に日本のアーティストが世界でも通用することへと繋がるのではないかと思っています。

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アジアでの戦略と、チャートとの向き合い方

ーーアジアでの戦略については、どのようにお考えでしょうか。

藤倉:全世界の音楽リスナーに、自社の音楽を届けるためにはアジアは重要な市場であることは事実です。これまで音楽ビジネスを上手くマネタイズできていなかった中国や、南アジア、中東など人口が増えている国で、現在ストリーミングによる収益が非常に伸びています。これまでCDの海賊版が流通していたりCDプレイヤー自体が浸透していなかった国が、CDを飛び越してスマートフォンで音楽を聴き始めているんです。それに少子高齢化の日本とは違って、東南アジアは平均年齢も非常に若いため、そういった点でも可能性に溢れていますね。

 多くの人に音楽を届けるという意義を達成する意味では非常に重要ですし、今後アジアがヒット曲の発信基地になる可能性もあると思っています。グラミー賞や、ビルボード・ミュージック・アワードは世界中から注目が集まりますよね。私自身もグラミー賞授賞式には、何度か参加しましたが会場の前列のエリアにノミネートされていないアーティストも大勢参加していて、みんなが仲間である他のアーティストの作品やパフォーマンスを称賛していて。そういう景色をアジアでも作れたら、素晴らしいなと思っています。

ーーヒットチャートとは、どのように向き合われていますか。

藤倉:少し前までヒットチャートは種目別で数が多く、何を見れば良いのか分からない時代がありました。あるチャートでは若いリスナーの支持が反映されていたり、あるチャートではコアファンの動向が反映されていたりと、チャートによって傾向が大きく違っていました。ですが、御社がアメリカのメソッドを取り入れた日本版のビルボード・チャートを発表されてからは、リスナー目線でのヒットを腑に落ちる形で可視化できるようになりました。

 ビルボードが発表しているコンバインチャートは、今では総合的でスタンダードなヒットを表す指標として、日本でも浸透していますよね。弊社では毎週、私が主催となりA&R(Artist & Repertoire :レーベルの制作担当)やプロモーションのトップを集めて、自社のアーティストの状況や、他社アーティスト様の特筆すべき動きなどをチェックするミーティングを行っています。自社アーティストの場合、担当スタッフ以外も含めて、作品がどの程度世の中に届いているかを客観的なデータとあわせて確認する場でもありますね。自社の作品であれば、具体的な売上や施策も把握しているので、他レーベルの成功例を共有することで、スタッフ間の刺激にもなっています。もちろん、チャートを細かく分析しているのは弊社に限らないと思いますが、当社はグローバルで利用しているツールもあり、全社的にチャートやデータに対してのこだわりは高いと自負しています。

 チャートの結果は、アーティストやスタッフにとってのやりがいにも繋がりますが、最近はチャートを通じて、ファンの皆さんが応援されているパワーをより感じるようになりました。これはネットを通じて、ファンコミュニティの声が直接見られるようになったということだと思いますが、我々もファンの皆さんと並走する気持ちを、より強く持つようになりました。

 また日本は、他の国のユニバーサルミュージックグループの中でも先駆けて、ユニバーサル・ミュージック・ストアが成長しています。自社の製品をダイレクトに顧客に届けられるだけでなく、ファンの皆さんが、各アーティストに対してどのようなニーズがあるのかをより理解することができるようになりました。

ーー【Billboard international power players】の選出理由に、ストリーミングの収益増に加えて、マーチャンダイズやライブでの売り上げ増も挙げられていました。

藤倉:評価していただけて嬉しいですね。20年にはファンクラブ運営や商品企画に特化したDRC合同会社も立ち上げました。所属アーティスト以外に、他社様のアーティストも請け負っており、現在成長を遂げています。

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社長就任以降、社員に伝え続けていること

ーー今後、御社として取り組まれたいことは何でしょうか。

藤倉:社長就任以降、常に社員に伝え続けているのは、「世界中のアーティストが、世界中で聴かれる世の中になってほしい」ということです。日本のアーティストが他の国で聴かれるようになり、他の国のチャートで1位を獲得するのはもちろんですが、他の国でも同様なことがもっと起こるようになればなと。就任した2014年の時点では夢に近い目標でしたが、グローバルの音楽フィールドを走り続けるBTSの姿やラテン語圏のアーティストの世界的な成功を見るとそれが実現できる世の中になったと思えるようになりました。

 あとは、先ほども申し上げたファンの皆さんとの繋がりです。今は事務所やレコード会社がなくても、アーティスト自身ができることというのが非常に増えています。その中でも、我々がアーティストから選ばれるパートナーでいるためには、基本的なことのように聞こえるかもしれませんが、より高度な形でファンの皆さんとの繋がりの場や機会を提供していく必要があると考えています。

ーーアーティスト自身でできる範囲が広がったことによって、アーティストとの契約内容も変化してきているのでしょうか。

藤倉:むしろ、全く同じ契約内容のアーティストはいないと思います。そのおかげで、法務部門は非常に大変になっていますが(笑)、昔のようにオーディションをやってから、数年間育成して…という時代ではありません。なので、個々のアーティストに合わせた契約内容になっています。

 海外ではCDなどのパッケージ商品が売れなくなったことの代わりとして、ストリーミングが広がり売上を伸ばしてきました。ですが日本のアーティストが素晴らしいのは、今もCDの売上を保ちつつストリーミングも伸ばすという発展の仕方をしている点です。

ーー2020年は、コロナ禍で日本も多くのCDショップが休業を強いられました。その結果、パッケージの売り上げは減少しましたが、それでも前年比86%程度にとどまっています。その点でも、日本のパッケージ売上の強さを感じます。(https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/96777/2)

藤倉:韓国も、一時はパッケージの市場が壊滅的に減少したことがありました。ですが、再びミリオンセラーを達成するアーティストが生まれてきています。打つ手は一つではないと感じますし、日本から海外へ進出するにも、方法論はいくらでもあるのだと思います。これまでは、世界でヒットするためには、まずはアジアからアメリカを目指す…というスタイルが日本では一般的だったと思います。ですが、今後は今までには考えていなかった枠組みから世界発信の糸口が見つかるかもしれません。私自身、勉強を続けないといけないと感じていますが、今ある答えではないところに、答えがあるのだろうなと思っています。

ーー日本のストリーミング市場は、今後も拡大していくと思われますか。

藤倉:どこまで伸びるかは分かりませんが、まだ頭打ちではないと思います。ストリーミング先進国と比較しても、日本はまだ成熟値に至っていませんが、しばらくは上昇傾向が続くのではないでしょうか。

ーー当社では、3年後くらいにはパッケージの売上と、デジタルの売上の割合が逆転するのではと予想しています。

藤倉:当社は、コロナ禍においても2020年はフィジカルもデジタルも好調でした。市場全体の割合まで予測することは難しいですが、当社の売上比率という意味では、今後数年間で逆転することはあり得るかもしれません。それもパッケージの売上を落とすことなく、ストリーミングでのヒットアーティストを数多く輩出することで実現したいと思っています。

ーー今後3年は、日本の音楽業界にとって激動の3年間になりそうですね。

藤倉:そうですね。最初からネガティブな予測やコンサバな目標を立てるつもりはありません。当社はそれぞれの売上を伸ばすべく、これからも手を打っていくつもりです。

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