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<インタビュー>ポルノグラフィティ・岡野昭仁が語る、ソロプロジェクトの自由度と成長の手応え
ポルノグラフィティのフロントマンとして数々の名曲を歌い、世に送り出してきた岡野昭仁が、ソロプロジェクト第3弾となるシングル「その先の光へ」をリリースした。作編曲はソロ第1弾楽曲「光あれ」でもタッグを組んだ澤野弘之、作詞はスガ シカオが手掛けたナンバーで、7月2日から公開されている『劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち』の主題歌として起用されている。岡野自身が「これは絶対名曲になる!」と手応えを感じた最新シングルについて、そして“歌を抱えて、歩いていく”という、ボーカリストとしての強い覚悟ともとれるキャッチコピーを掲げているこのソロプロジェクトについて、本人に話を訊いた。
歌い続けることで生きていける
――岡野さんの中ではいつ頃からソロプロジェクトをやろうと考えていたんですか?
振り返ってみれば、ポルノグラフィティとして活動してきた20年のあいだにも何度かそういった話をすることはあったんですよ。自分にとってのひとつの経験として、ソロとして動いてみるのもいいんじゃないかなって。とはいえ、これまではなかなかいいタイミングがなかったんですよね。で、2019年の東京ドーム公演(【20th Anniversary Special LIVE“NIPPONロマンスポルノ’19~神vs神~”】)を終えたあと、ポルノとして充電期間を設けることになったので、ソロをやるならここじゃないかなという流れになったんです。
――その段階でやりたいこともいろいろ頭の中にはありました?
そうですね。スタッフを含めて話し合う中では、例えば新たにバンドを組んでみるとか、まだ無名のアーティストの曲をカバーしてみるとか、いろいろなアイデアはありました。ただ、最初の段階ではやりたいという気持ちよりも、やらなきゃいけないという義務感に駆られていたところもあって。結局、「俺って何がやりたいんだろう?」とよくわからなくなってしまったんですよ(笑)。で、シンプルに雑念や無駄なものを削ぎ落として突き詰めた結果、つたない表現になりますけど、僕は歌うことしかやりたいことがないんじゃないかってことに気づいたんですよね。
――今回のソロプロジェクトには“歌を抱えて、歩いていく”というコピーが掲げられています。そこにはボーカリストとしての大きな覚悟を感じますよね。
僕にとっての原動力は歌うことなんですよ。歌い続けることで生きていけるというか(笑)。自分の中で、歌に向き合うときというのは、禍々しい部分がひとつもない真っ白なものだとも思っているので、プロジェクトに対して強い覚悟があったというよりは、純粋に歌いたいという想いがにじみ出てきたような気はしますけどね。もちろん、ソロプロジェクトを通して歌い手として新たな表現を手に入れたいという気持ちはありましたけど。
――様々なアーティスト/クリエイターとコラボをしていくという方向性は、ボーカリストとして歌うことに徹するためのアプローチでもあるんですかね?
そうですね。ポルノグラフィティというホームではできないことをやってみようという想いもありましたし。ただ、そこもあまり難しく考えているわけではなくて。ちょっと気持ちを楽にして、一度「こうしなきゃ」みたいな自分の中の縛りをぶち壊して、思うがままにやっているところもあるんです。最初の「光あれ」では以前から気になっていたn-bunaくんに歌詞を頼んでみよう、2曲目の「Shaft of Light」ではずっとその音楽性に惹かれていた(辻村)有記に曲を書いてもらおう、といった感じで、自分の心に浮かんだものをそのまま実現していっている感覚なんです。ガチガチにコンセプトを立てると、たぶん自分のイメージを超えることができないと思ったので、あくまでもナチュラルにやっていこうと。お願いする相手に対しても、僕の声を素材として好きなように料理してくださいという、ある種、乱暴な振り方もしているので。
岡野昭仁『Shaft of Light』MUSIC VIDEO
気楽に離れを作っている感覚
――一連のソロ活動を見ていると、世代やジャンルの枠を越えて、他のアーティストの懐に岡野さんご自身から飛び込んでいる印象があるんですよね。先ほど名前が挙がったn-bunaさんや辻村さんはもちろん、配信ライブでは藤井風さんやKing Gnuの曲をカバーされていましたし。そこがすごくおもしろいなと思うんです。
ここ数年、「昔、ポルノグラフィティをよく聴いていました」と言ってくださるアーティストとの出会いが多いので、「そっちが好きと言ってくれるなら、ちょっとこちらからも行かせてもらいますわ」くらいの感覚なんですけどね(笑)。そこも気の向くままに。新しい世代の曲をカバーすることに関しても、僕の通ってきた音楽人生の中で触れたことのなかった曲たちを純粋に歌ってみたいという気持ちが強かったりもするし。ただ、ひとつ言えるとしたら、King Gnuの井口(理)くんとの出会いは大きかったかもしれない。今の日本の音楽シーンの先頭に立って、時代を作っているアーティストが自分たちの音楽を通り、ラジオ番組では勝手に僕らの20周年をお祝いしてくれたりもしていたわけで(笑)。
――以降、親交も深まりましたからね。
なんかね、ポルノグラフィティに対してミュージシャンのフォロワーがいるとはまったく思っていなかったんですよ。そこはある種、僕のコンプレックスというか、卑屈なところでもあるんでしょうけど(笑)。
-岡野昭仁@オールナイトニッポン0(ZERO) 2-
――ロックフェスなどに出演するようになったのも最近ですしね。そして、いろんなアーティストが実はリスペクトをしてくれていることを実感する機会も増えて。
まさしくそうですね。初めて【ROCK IN JAPAN FESTIVAL】に出たときも、coldrainとかLAMP IN TERRENとかに「昔聴いてましたー!」とか言われたりとかして。勝手に自分の中で築いていた自分自身を閉じこめる壁みたいなものがどんどん取っ払われていった感覚があった。ハンコを押してもらって認証されたというかね。それによってこれまでやってきたことに対しての自信が生まれたからこそ、今、ソロとして自由にいろんなアーティストたちのところに飛び込んでいけるようになったのかなという想いもあります。
――今年1月からコンスタントに3曲を配信リリースされてきましたが、ここまでの感触はいかがですか?
ポルノという揺るぎない母屋があるうえで、気楽に離れを作っている感覚ですけど、こっちの住み心地もなかなかいいなという感じですね。とにかくもう楽しんでやってます(笑)。リリースした3曲はもちろん、4月の配信ライブ(【DISPATCHERS vol.1】)をやってみても感じましたけど、ここまでに新しい引き出しをたくさん手に入れている実感はあって。で、その引き出しのカギはポルノグラフィティのときにどんどん開けていこうと思うんですよね。ソロで培ったものはすべてポルノグラフィティで生かしていきたい。キレイごとではなく、そういう気持ちで今はソロでの音を楽しめている感じです。
本当に大きなものを授かった感覚があった
――先日配信がスタートした第3弾楽曲は『劇場版 七つの大罪 光に呪われし者たち」の主題歌になっている「その先の光へ」です。第1弾楽曲「光あれ」に引き続き、作曲とアレンジはアニメの劇伴も手掛けている澤野弘之さんによるものですね。
「光あれ」はTVアニメ『七つの大罪 憤怒の審判」のオープニング・テーマだったんですけど、今回また改めてアニメの最終章となる映画でも関わらせていただけたのは嬉しかったですね。お話をいただいたあと、すぐに澤野くんが曲を3パターンくらい送ってきてくれて。どれもよかったんですけど、最終的な仕上がりをイメージをしたときに「これは絶対名曲になる!」と思えた曲を選ばせていただきました。ここまでソロで動いてきた中で、仕上がりの輪郭を捉えるスピードは速くなったような気がしてるんですよ。デモの段階でメロを口ずさんでみると、「これはどう歌っても楽しくなるじゃん。絶対よくなるわ」と感じられるというか。「その先の光へ」は、そこでの興奮がすごく大きかったんですよね。
岡野昭仁 『光あれ』MUSIC VIDEO
――名曲になる確信をさらに強固なものとするために、今回は作詞をスガ シカオさんに頼んだわけですね。
そうそう。スガさんは僕のソロプロジェクトに関してもすごく応援してくれているし、普段からいろんな相談もさせてもらっているんですよ。ミュージシャンとしていろんな影響を与えてくれる人でもあるので、いつか一緒に何かやってみたいなという気持ちはずっとあったんです。でも、昔から敬慕するアーティストだからこそ、その機会はここぞという時にという想いがあって。で、今回がその時だと。ここに素晴らしい歌詞をのせられるのはスガさんしかないでしょっていう。
――ものすごく強い意志を感じさせてくれる歌詞になっていますよね。
そうですね。今の時代にもしっかりハマるメッセージが込められていますよね。コロナ禍で感じているであろう閉塞感を打破してくれるというか。本当に大きなものを授かった感覚があったので、レコーディングのときにはものすごく興奮しましたね。「昔からめっちゃ憧れてきたスガシカオが書いてくれた、できたてほやほやの歌詞を俺は今、歌っているんだな……」と感慨深くなる瞬間もありました(笑)。
――ボーカルに関してはどんな表現を目指しましたか?
スガさんが歌っているデモを聴いているので、そのスガ節をマネしないことを意識するのが大変で(笑)。普通に歌っていると、ついスガさんに寄せてしまう自分がいるんですよね。そこの折り合いをつけることに集中しつつ、あとは曲自体が導いてくれるがままに歌った感じでしたね。細かいニュアンスを頭で考えるということもなく。そこは完成度の高い世界観を持った歌詞を書く新藤(晴一)の曲を歌うときと同じ感覚だったと思います。
岡野昭仁『その先の光へ』MUSIC VIDEO
――この曲のコーラスには『七つの大罪』に出演されている声優の梶裕貴さんと雨宮天さんが参加されているのも大きなトピックですね。
ね。もっとお二人の声のレベルを大きくしてもいいのかなっていうくらいですけど(笑)。『七つの大罪』ファンの方はたまらんと思いますよ。メリオダスとエリザベスの声が左右から聴こえてくるわけですから。YouTubeの感想を見ると、海外の方からの反応が多いのも嬉しいですね。ポルノグラフィティとしてもアニメの楽曲はこれまでやってきましたけど、「光あれ」とこの曲は澤野くんが入り口となり、アニメファンの方にも届いたのが本当にありがたいなと思います。
踏み入れてはいけない場所なんてない
――ソロプロジェクトはここからも展開していくんですか?
澤野くん、有記とはまた一緒にやりたいなと思っているし、他にも実際に制作を進めている楽曲があったりもするので、ここからまだまだ続けようとは思っています。ただね、母屋にそろそろ戻らないとなという思いもあるんですよ。別に変な意味で動きを止めていたわけではないけど、ソロを経たことで新しい引き出しを持って活動できると思うんですよね。お互いに母屋を離れてみたことで、すごく素直にいろんなことを話しながら、ポルノグラフィティの新しい章を始められるような気がしています。
――離れから眺めた母屋の佇まいはどんな印象でしたか?
いや、本当にガッチリしてるなと思いましたよ。「へぇ、ここの柱はこんな素材を使ってるんだ。そりゃグラグラせんわな」みたいなことも思いましたし(笑)。手前味噌ですけど、本当に唯一無二なホームだと思うので、そこに帰れる喜びはやっぱりありますね。ポルノでの動きを待っていてくれる方々は、こうやってソロをやっていることに関してもあたたかく見守ってくれているので、そういう方々に対してまたいい作品を届けたいなと純粋に思っているところです。
――ちなみに今のシーンにおけるポルノグラフィティの存在、立ち位置ってどんなものだと思います?
なんでしょうねぇ……。でも、自分たちはデビュー当初に「大多数の中に紛れるのではなく、オリジナリティを持った存在になりたい」とよく言っていたんですよ。「僕らにしか立てない場所に立ちたい」とか。それは今、実現できているんじゃないかなって気はしますよね。見方によってはちょっと変な(笑)、でも、ちゃんと個性のある場所に立てているのかもしれないです。
――ファンを公言するアーティストは多いですけど、似た音楽性を持った人たちは皆無ですもんね。本当に唯一無二の存在だと思います。
うん、そんな感じは自分たちの中にもありますね。ちょっと客観的に分析すると、時代の流れの中で自分たちの音楽性はいろいろ変化してきたとは思うんですよ。デビュー当初は広い音楽史の中の王道をギュッと凝縮したような音楽性を持って、ヒットを生み出すことにすごくフォーカスしていた。今もそこから大きく外れてはいないけど、でも、少しずつイメージを変えてきたところは確実にあるんですよね。上手いこと王道からズレてきたというか。言い換えれば王道をずっと突っ走れなかったということになるのかもしれないけど(笑)、でも、だからこそいろんな人たちにも受け入れてもらえる存在になることができたのかなって。
――20年続けることができたのも、そこに理由があるのかもしれないですよね。
そうですね。「ミュージック・アワー」のようにポップな曲もやれば、「Zombies are standing out」みたいなギターロックなものもやるしっていう。ある意味、その可変型とも言えるスタイルを僕らは楽しんできたところがあるんですよね。
ポルノグラフィティ『ミュージックアワー』(つま恋ロマンスポルノ'11~ポルノ丸)
ポルノグラフィティ『Zombies are standing out(Short Ver.) 』O
――その可変の幅、可動域がソロを経たことでさらに広がることに期待したいですね。
まさしくそうだと思います。有記と作った「Shaft of Light」は今までにまったくやったことのないタイプの曲でしたけど、自分的にはそこまでの違和感はなかったんですよ。だから、踏み入れてはいけない場所なんてないんだな、なんでも挑戦し続けていきたいなという気持ちは、ソロを経験したことで強くなったと思いますね。
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