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<コラム>フロアを沸かすライブ・バンド、FOMAREの“泣けるバラード”がバイラル・ヒットしている理由



コラム

楽曲「長い髪」のバイラル・ヒット

 FOMAREの楽曲「長い髪」の勢いが止まらない。

 「長い髪」は、FOMAREが2020年7月にリリースしたEP『目を閉じれば』に収録されているバラードだ。ことの発端は2020年末。TikTokにて一般ユーザーが“失恋した女の子は絶対泣いちゃう曲”というコメントを添えて「長い髪」を紹介する動画を投稿。それが拡散されると、弾き語りカバー動画や、同曲をBGMにユーザーが自身の恋愛体験を語る動画、同曲をピックアップする失恋ソング系のプレイリスト動画などが次々投稿され、“泣ける失恋ソング”として認知を広げていった。

 「長い髪」はいわゆるリード曲ではなく、当初はMVも作成されていなかった曲だ。しかしTikTokを発端に注目を集めると、それに伴い、ストリーミングでの再生数も上昇。少しずつバズの兆候が現れ始めた。3月には別アレンジの「長い髪 -Strings ver.-」の配信がスタートし、バンド初のアニメーションMVが公開。4月には、TikTokで人気のチャレンジ企画「#春の歌うま」が始まったことで、弾き語りカバー動画がさらに増加。



FOMARE 『長い髪 -Strings ver.-』Official Music Video


 バンドが投稿したMV、およびユーザーが投稿した動画には、他ユーザーからの失恋エピソードや共感の声などが寄せられ、コメント欄は掲示板のような状態になっている。メンバーのカマタリョウガ(Gt/Cho)が分析する通り、「長い髪」という楽曲は、失恋した人が集まる“場”として機能しているようだ。

 失恋ソングと一口に言っても、世の中には様々なタイプの楽曲がある。例えば、泣き疲れるまで後悔を叫ぶもの。自分の落ち度を笑い飛ばすもの。相手の悪口を言ったり、「本当は好きじゃなかった」と裏返しの表現をしたりすることで、どうにか前を向こうとするもの。未練を歌うことで、落ちるところまでとことん落ちようとするもの。そんななか、「長い髪」には、あの恋は素敵なものだったと思わせてくれる温かさがある。アマダシンスケ(Vo/Ba)のやわらかな中低音ボイスを聴いていると、心が透き通る心地がするため、親友にも言えないことだって吐き出していいんじゃないかと思えてくる。ある人が吐露した本音が、また別の人を素直にさせ……という連なりによって、いつの間にか「長い髪」の元にたくさんの人が集まっていた。


フロアを沸騰させるライブ・バンド

 YOASOBIらの躍進を見ても分かる通り、リスナーの口コミを起点としたバイラル・ヒットがアーティストの本格ブレイクにつながるケースがあるということは、もはや音楽シーンにおける一つの常識だ。上記動向を受け、音楽メディア以外の媒体もFOMAREに注目しているのが今の状況。例えば、『スポニチ』(5月7日売り)は“「香水」(瑛人)、「猫」(DISH//)、「ドライフラワー」(優里)に続く、男が歌う別れ歌”として「長い髪」を紹介し、『めざましテレビ』(5月25日放送回)はFOMAREの特集をオンエアした。そんななか、6月25日にはYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』に満を持して出演。その映像は公開からわずか3日で100万回再生を突破。これを機に再びストリーミング・チャートでのランクが上昇している。そして本日7月16日より、『THE FIRST TAKE』で披露した生ピアノを加えたアコースティック編成の一発録りパフォーマンス音源も「長い髪 - From THE FIRST TAKE」として配信がスタート。また、女優・モデルの鈴木ゆうかが出演する「長い髪」リリックビデオも公開された。リリックビデオはYouTube、Instagram、TikTok、Twitterでの公開で、SNSごとに観られる映像が違う。一つの場面を四つの切り口で捉えた映像からは、「長い髪」という曲が有する余白、様々な人の様々な恋愛体験に寄り添える余地のようなものを改めて感じ取ることができる。



FOMARE - 長い髪 / THE FIRST TAKE



FOMARE 『長い髪』Official Lyric Video


 このように、旋風はまだまだ続きそうな予感だ。改めて説明すると、FOMAREとは群馬県高崎発の3ピース・バンドだ。結成は2014年で、オグラユウタ(Dr/Cho)が加入し、現体制となったのは2019年11月。2020年9月にソニー・ミュージックレーベルズ内の新レーベル<Threethums>よりメジャー・デビューした。「長い髪」も収録されている『目を閉じれば』は、インディーズ最後かつ現体制初の作品だ。現状、作詞はアマダ、作曲はアマダもしくはFOMARE名義となっている。群馬といえば、メロコア文化が盛ん。そして、アマダがバンドを始めたきっかけはMONGOL800とのことだ。明るいがどこか穏やかなサウンド、メロディックには珍しい日本語詞、3ピース・バンドであること、ベース・ボーカルであること……たしかに共通項はいくつか思い当たる。

 「長い髪」でFOMAREを知った人にとっては、“メロディック”と言われてもしっくりこないかもしれないので、その辺りについても付け加えておく。彼らの所属する<small indies table>は、yonigeやKOTORIも所属するマネジメント&レーベルで、この界隈のバンドはライブの本数が多いのが特徴的。(コロナ以前は)年間100本以上ライブを行うこともザラにあり、FOMAREの場合は2019年には47都道府県ツアーを完遂している。彼らがなぜそんなにライブをやるのかというと、“広く浅く”的な付き合いよりも、“現場”に来た観客と顔を突き合わせて、曲を直接届けることで、一人ひとりと固い絆を結ぶことを大切にしているから。実直な活動を評価された先にあったのが、音楽関係者へのアンケートを基にした『バズリズム02』内のランキング「今年コレがバズるぞ!BEST10」へのランクイン(2019年)だった。

 そういった背景があるため、ロック・バンドのファンからすると、「長い髪」ヒット以前のFOMAREは“熱量の高いアッパー・チューンでフロアを沸騰させる、若きライブ・バンド”という印象が強かった。『THE FIRST TAKE』の「長い髪」に「まさかFOMAREがバラードで有名になるとは」という趣旨のコメントが見受けられるのは、おそらくそのためだろう。一方、過去のインタビューでは「疾走感のある曲もたくさんある中で、バラードも常に大事にしているんです」と語っているほか、1stフルアルバム収録の「赤と青」(2019年6月リリース)ではピアノを取り入れるなど、“勢いよく鳴らす”のみに拘泥しない柔軟性を早いうちから持っていたバンドだった。そう考えれば、『THE FIRST TAKE』における、カマタがアコースティック・ギターを弾き、オグラがブラシで叩くアコースティック編成も、バンドの幅広い音楽性の表れと言える。そして、一発撮りでも物怖じしない(少なくともこちらからはそう見える)様子には、ライブ・バンドとしての経験から来る胆力が表れていた。


『THE FIRST TAKE』で注目された二つ目の名曲

 さて、「長い髪」のUGCでピックアップされることが多いのはラスサビの前半。<この長い話が終わる頃あなたが居ないのも/分かっているのに諦めがつかなくて/あなたの温もりにつられ眠る夜は/もう何処にも無いのでしょう>という箇所だ。「長い髪」で計3回登場するサビはコード進行が毎回同じだが、唯一ラスサビではボーカルのメロディ・ラインが大きく変化している。ボーカルにもバンド・サウンドにも感情が乗るポイントであるほか、<諦めがつかなくて>と直接的に未練を言い表す言葉も含まれているため、楽曲の一部を切り取ったときに最もキャッチーに感じられるのは、たしかにここなのかもしれない。

 しかし、1番・2番があってこそのあのラスサビなのだと思えるほど、ラスサビへ行き着く過程が秀逸であることも強調しておきたい。例えば、1番・2番サビの歌詞では日常風景が描写されているが、髪がなかなか乾かない様子=恋心がなかなか消えないことの比喩とも解釈できるし、<素直になれない癖は今日も私を傷付ける>、<素直になれない癖が今日もあなたにしがみつく>というラインは癖っ毛に掛けているのだろうし、それがあるからこそ、ラスサビ後半に登場する<身体の一部からゆっくりとあなたを手離すの>の意味がより明確になる。また、6分かけて唄ってきた複雑な心境を、平易な言葉でずばりとまとめるラスト、<ゆっくりとさようなら>もさりげなくすごい。情景描写に潜む比喩、その積み重ねを経て、気持ちの輪郭が明確になっていった先にあるのが、あのラスサビだと思うのだ。

 そして、「長い髪」の翌々週に『THE FIRST TAKE』でピックアップされた「タバコ」にも注目したい。「タバコ」は、結成初期からライブで演奏されている、バンドの生のエネルギー溢れる代表曲。初出は2017年リリースのシングル『stay with me』で、「長い髪」同様、表題曲ではないものの、ライブで人気の名曲として光が当てられたパターンだ。『THE FIRST TAKE』の公開と同日、7月7日には今の3人で新録したバージョンを配信リリース。おそらくここから各種ストリーミング配信サービスでの再生数も増えていくことだろう。



FOMARE - タバコ / THE FIRST TAKE


 「タバコ」は、斉藤和義「歌うたいのバラッド」を彷彿とさせるような、歌う人目線の愛の歌だ。数年前に書いた曲だからか、楽曲の構成も歌詞表現もやや青く感じられるが、それはそれで味わい深い。例えば、<僕のこの息が止まった頃 この歌は誰が歌うかな/誰が愛してくれるかな あなたは歌ってくれるかな>という歌い出しは、世界に見つかる前のバンドマンの剥き出しの願いそのものであり、これは若い頃だからこそ書けた歌詞だろう。ガラガラのライブハウスで歌うのと観客で満杯のドームで歌うのでは明らかに響き方が変わるフレーズであり、言葉の繊細さ、言葉の可能性が詰まっている。

 FOMAREの例が示すように、リリースやプロモーション等の時期を越えたところで、ものすごい速度で拡散が起こり、楽曲が認知されてしまうことがバイラル・ヒットの面白さだ。一方、彼らは一音入魂の精神でライブにこだわってきたからこそ、「なんとなく感じたのは、TikTokを見ている人とライヴに来る人って、違うのかなということです」とも語り、そのうえで「でも『長い髪』で僕達のことを知ってもらえるだけでもむちゃくちゃ嬉しいですし、さらにその先にあるライヴハウスに来ていただけたら、こんなに嬉しいことはないです」と伝える。画面の向こう側、大事な想いを打ち明けてくれたあなたと対面できる日を望んでいる。

Text by 蜂須賀ちなみ

FOMARE「目を閉じれば」

目を閉じれば

2020/07/01 RELEASE
SIT-1025 ¥ 3,080(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.目を閉じれば
  2. 02.アルバ
  3. 03.銀河
  4. 04.長い髪
  5. 05.REMEMBER
  6. 06.humanism

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