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<インタビュー>End of the Worldが2021年に挑むボーダレスな挑戦
SEKAI NO OWARI(セカイノオワリ)の世界展開を担うプロジェクトとして、2013年から始まったEnd of the World(エンド オブ ザ ワールド)。2020年11月にリリースされたデビューアルバム『Chameleon』を聴くと、彼らが7年もの歳月をかけ、試行錯誤しながらも着実にグローバル・シーンにリーチしていった過程がうかがえる。サウンドのトレンドや音楽制作のプロセス、産業構造自体に至るまで、現在の日本と海外のポップシーンは大きく乖離した状態だ。彼らがEnd of the WorldとSEKAI NO OWARIにバンドのペルソナを分けたのも、その乖離を乗り越えるための必然であり、彼ら自身のマインドセットをも変える必要があったからだ。
『Chameleon』のリリース時にはAmazon Musicとタッグを組み、NYタイムズスクエアでのビルボード展開や、Twitch liveでのリリース記念ライブ配信など、コロナ下においても様々なアプローチを試してきたEnd of the World。9月12日にはパンデミック後初となる待望のNYワンマン・ライブを控えている。世界展開がさらに本格化する今年、彼らのボーダレスな挑戦についてFukaseに訊いた。
End of the Worldという別のペルソナを必要とした理由
ーー世界進出に際して、SEKAI NO OWARIとして英語詞の曲を増やしていくのではなく、End of the Worldという別のペルソナを必要とした理由とは何だったんでしょう?
Fukase:第一に、ファンの困惑を避けるためでした。アルバムに英語曲が乱立しすぎるとよくないだろうと。日本語と英語では表現の仕方も全く変わってきますし。例えばSEKAI NO OWARIに“Mr. Heartache”というのがあるんですけど、僕的には「heartache」っていう言葉の解釈として、「心が痛い」のは恋愛だけじゃないと思って書いたんですね。でも、英語だとどうしても失恋のニュアンスに限定されてしまって。
ーー英語だと伝わりきらない感情があるわけですね。
Fukase:そうです。日本語には日本語でしか表現できないものがあるし、英語には英語でしか表現できないものがあるということに気づいて。なので母国語として伝えたい音楽と、英語で伝えてみたい音楽を分けるべきだと思いました。あと、もう一つの大きな理由は、関わるスタッフを分けたかったんです。今の時代、音楽はどこにいても作ることができるけれど、スタッフの場合は現地を経験している人じゃないと、どういうラジオ番組がすごくて、どういう音楽が求められているのかを肌で感じられないから。それがバンドを分けた2つの理由です。
ーーLANDというインディペンデントな会社を立ち上げたのも、そのためだったと。
Fukase:そう、LANDは「上陸(land)」という意味も含んでいるし、もうひとつには音楽だけじゃなく、アニメーションをやったり、ファッションをやったりっていう、様々なエンターテイメントを詰め込んだ「エンターテイメント・ランド」にしたいという意味合いもあって。
ーー確かに海外、特にアメリカのポップ・シーンは個々のアーティストがファッションも含む多面的なカルチャー表現体として機能しているという。
Fukase:そこが日本とはちょっと違うところですよね。アメリカだと、ファッションとかけ離れているミュージシャンってほぼいないんじゃないかな。
ーーそれも含めて、日本と海外ではポップ・ミュージックの産業構造が違うと感じますか?
Fukase:うん、そもそも求められている音楽も違うと感じますね。日本の場合は基本的に、年間チャートの1位の楽曲はカラオケのチャートとほぼ一致するんですよ。逆説的に言えばカラオケで歌える曲、歌いたいと思う曲が日本のヒットソングになる。日本で一番売れたCDがカラオケに入らないってことはまずないんです。これはかなり日本的な文化で。
ーーそうですよね。
Fukase:僕らの場合、ニッキー・ロメロとやった「Dragon Night」がEDMテイストで、あの曲はたまたま沢山の人に聴いてもらえましたけど、本来はあんなサビがインストなんて曲は日本で上手くいくはずがないんですよ(笑)
ーー(笑)。
▲「Dragon Night」
Fukase:でも海外では、特にビルボード・チャートに入る曲にカラオケを前提としたものはほとんどなくて……それよりもクラブでかかったり、ラジオでかかったりということを意識している。だから曲のテンポや長さも、歌いやすさよりもそういうシチュエーションでのかけやすさに重点を置いた作りになっていますよね。ただ、だからと言って洋楽が邦楽と比べてポップじゃないということではなくて……今たまたま、メロディアスでポップなものより、チル寄りの音楽が流行っているだけなのかなって。少し前のEDMがアゲアゲだったので、今の状況は割と反動なのかもしれないですよね。だからEnd of the Worldとしては、自分たちが持つキャッチーなメロディは生かしつつ、クラブやラジオでもかかりやすいようにリミックスを出したり、コラボレーションをしていったりという方向になっています。
公演情報
【End of the World - Chameleon tour final】
2021年9月12日(日)
OPEN 19:00 START 20:00
会場 Brooklyn Steel(319 Frost Street, Brooklyn, NY 11222)
チケット:VIP package : $200.00
前売り: $35.00 当日: $45.00
Live Streaming Ticket : $30.00
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日米で大きく異なる、ポップ・ソングの作り方
ーーポップ・ソングの作り方も日本と海外ではかなり違いますよね。海外は分業制、集合知で1曲を仕上げるフォーマットが主流になっていて。
Fukase:そう、最初はものすごい拒否反応がありました。日本では自分が作った曲、自分で書いた歌詞に絶大なプライドを持っている人が多くて、僕も例外じゃなかったので。自分たちの手で、自分たちの言葉でっていうのに最初はこだわっていて……でも、ある日から突然、End Of the Worldを「バンド」ではなく「プロジェクト」と自分たちで呼ぶようにしたんです。そこで、「ああ、プロジェクトか」と。「それなら共同作業だよね」って納得できるようになって。意図して意識変化したんですね。
ーー―グローバル市場に向けて音楽を作る上で、ご自身の中のローカルな感覚、日本人的な感覚とどう折り合いをつけていますか?
Fukase:僕はどちらかと言うと……日本人としてより、人間としての感覚を大事にしている。例えば僕は発達障害で閉鎖病棟にいたことは隠していないですけど、それは僕がある種のサンプルになれたらっていう思いがあるからなんです。僕と同じような病気に苦しんでいる子供たちに「俺もそうだったけど、今はちゃんと朝起きて、生放送の番組にも出ているし、ツアーで疲れることもあるけど、それでキャンセルしたこともないよ」って伝えたいし、その先には世界中に同じような悩みを抱えている人がいるはずなんです。同じ人間だから。だから僕は常に、人間として思うことを歌にしているんだと思います。
ーーちなみにEnd of the Worldを始められた2013年頃と今とでは、アメリカのポップシーンのトレンドもかなり違いますよね。今、求められているテイストやジャンルを意識しますか?
Fukase:僕は邦楽、洋楽問わずあんまり音楽を聴かないんですよ。人の音楽を聴いて「すげえカッコいい!」って思ってしまったら困るというか(笑)。ちなみに僕はダフト・パンクが死ぬほど好きなんですけど、彼らは1つのジャンルでくくれない音楽をやっているし、ダフト・パンク以前にダフト・パンクっぽいグループっていなかったですよね。彼らが誰かを目指していたら、ああはならなかったと思うし。
ーーダフト・パンクのような音楽をやるバンドになりたいのではなく、End of the Worldもまた、ダフト・パンクのようにオンリー・ワンの存在でありたいと。
Fukase:そうですね。僕たちはジャンルを決めてやっていくのが向いていないし、僕自身は自分で決めなくていいなと。
ーージャンルで分けないとすると、Fukaseさんの中でEnd of the WorldとSEKAI NO OWARIはどのように差別化されているんですか?英語と日本語という歌詞以外の部分で。
Fukase:SEKAI NO OWARIで重視しているのは、ポップスとして歌が立つアレンジであること。歌が主役としてあって、その周りにアレンジがあるという構造ですね。対するEnd of the Worldでは、歌が楽器の一部だと考えているんです。楽器と同等という感覚だから、僕も歌をベースやドラムのグルーヴと合わせる練習をめちゃくちゃしました。その差は大きいですよね。海外ではトラックだけ先にコラボするアーティストから送られてくるのも普通ですし、歌詞も、意味よりもライミングやリズムを優先する場合が多いんです。
ーーボーカリストとしてマインドセットが違うんですね。
Fukase:そうですね、レコーディングでは特に意識しています。自分の歌が周りと溶け合うように意識しているし。
公演情報
【End of the World - Chameleon tour final】
2021年9月12日(日)
OPEN 19:00 START 20:00
会場 Brooklyn Steel(319 Frost Street, Brooklyn, NY 11222)
チケット:VIP package : $200.00
前売り: $35.00 当日: $45.00
Live Streaming Ticket : $30.00
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アメリカ進出は、上京することと同じ感覚
ーーEnd of the Worldのデビュー・アルバム『Chameleon』は、まさに歌が周りと溶け合ったメロウなサウンドの曲も多くて、海外のポップ・シーンとのリンクを感じました。でも同時に、いわゆる洋楽とは一線を画す、アコースティックでリリカルな、どこか懐かしい感覚もあって。そうしたバランスは意識していますか?
Fukase:うん、意識はしてますね。多分……どこかでJ-POPで育った成分を入れたくなったのかもしれない(笑)。プロデューサーや現地のエンジニアさんに確認しました。悪い意味でJ-POP成分を感じるとしなら言ってくれ、いい意味でスパイスとして作用しているなら使って欲しいと。ただあの、『Chameleon』って長い歳月をかけすぎたアルバムでもあって(笑)
ーー(笑)。
Fukase:紆余曲折がありすぎて、最初に作った曲と最後に作った曲では全く違うサウンドになっていたりする。だからこそ「カメレオン」なんですけどね。自分の色がわからなくなったり、でもやっぱり自分の色はこうなんだって主張みたり、その苦悩を恥ずかしげもなく出したのが『Chameleon』だから。これから出る曲を聴くと、全然違うじゃん!ってなると思いますけどね。あの頃のEnd of the Worldはもういなくなってますから(笑)
ーーそんなに違いますか。
Fukase:完全に違うバンドになってます。何だろう……ほんと今って、自分が日本にいる実感もなくなってきているんですよ。コロナで人との出会いもすごく減ったし、そうするとある種……動物っぽくなっていったというか。人間って「人」と「人」の間にいるから人間であって、人と接しないと「ヒト」となるんだなって。その時期に録っていたEnd of the Worldの曲は、「人間臭くて泥臭かった俺はどこにいってしまったんだ」って感じで(笑)
ーー(笑)。
Fukase:歌い方も相当違うので、誰だかわからないかもしれない(笑)
ーーちなみにEnd of the Worldとしての世界進出で、特にアメリカ市場を意識していたんですか?
Fukase:アメリカで成功したい気持ちがすごく強かったわけじゃないんです。ただ、日本の音楽シーンの中心が東京であるように、世界の中心があるとしたらアメリカかなって。バンドマンって絶対上京するじゃないですか(笑)
ーー(笑)アメリカ進出は、世界規模での上京のようなものだと。
Fukase:そう。今の時代、たまたまその場所がアメリカなだけかもしれないですけどね。それに、場所自体がもはや必要なくなるかもしれないし……サブスクの時代になって、どこに住むとか、重要じゃなくなってきていますよね。僕も海外に住まなくていいなら住みたくない。時差ボケがけっこうしんどいタイプなんで(笑)
ーー(笑)。最後にEnd of the Worldとしての短期的な目標と、長期的な野望を教えてください。
Fukase:短期的な目標は、もうそろそろEPくらい出したいかな。長期的な目標は……続けることですかね。燃え尽きないで続けること。僕は登っていくのは得意なんですけど、防衛戦は苦手なんです。自分のモチベーションが保てなくなってしまうんですよね。
ーー達成感は枷にもなってしまう?
Fukase:そうですね。だから僕にとって続けるってことは、自分たちが作ってきたレシピを捨て続ける作業でもあるんです。そして、End of the Worldが終わるときは、SEKAI NO OWARIと一緒に終わりたい。僕は一生現役でいるつもりだし、メンバーが好きだからずっと一緒にいたい。だから終わりも一緒がいいなって。
公演情報
【End of the World - Chameleon tour final】
2021年9月12日(日)
OPEN 19:00 START 20:00
会場 Brooklyn Steel(319 Frost Street, Brooklyn, NY 11222)
チケット:VIP package : $200.00
前売り: $35.00 当日: $45.00
Live Streaming Ticket : $30.00
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