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<インタビュー>次世代のポップアイコンElle Teresa、メジャー進出する意味とこの先のビジョン

インタビュー

 ファッションやスタイル、そして発想など、現在のユースカルチャーを象徴するような存在として大きな注目を集めるラッパー:Elle Teresa。1997年に静岡県沼津市に生まれ、2016年4月に1stミックステープ『ignorant Tape』をリリース。ストリート・ファッション誌WOOFIN’の<2016’s Freshman>に選出されるなど注目を集め、続く2ndミックステープ収録曲の「Baby Tell Me Now」のMVは、USの老舗動画サイトWorld Star Hip Hopにピックアップされるなど、国内外で注目を集めはじめている。ミュージシャンとしての活動の他、NYLONやViViなど雑誌にも数多く取り上げられ、ポップアイコンとしても活躍するElle Teresaに、インタビューを敢行。ダンススタジオを手掛ける両親のもとに生まれ、子供の頃よりダンスに触れてきたという生い立ちや、7月7日の七夕にリリースするメジャー・デビューシングル『Bby girlll』について語ってもらった。

ダンサーである両親のもとに生まれ、音楽に囲まれた幼少期

 「お父さんもお母さんもダンサーで、スタジオでダンスを教えてたんですね。その中に混じって私も子供の頃からダンスを習っていて。スタジオにはDJブースやレコードもあって、ローリン・ヒルとかが流れてたのを覚えてますね。地元は沼津なんですけど、地元のクラブに親に肩車されながら行ったり(笑)。ダンサー仲間の友達の子供っていう感じで、周りも驚くこともなくて。ただ子供だったから「すごくうるさい場所」っていう感じだったし、ヒップホップにも興味はなくて……っていうか、ちっちゃい頃に「ヒップホップ最高!」とか思ってたら怖くないですか?(笑)。それよりもK-POPとかJ-POP、アニソンが好きでしたね。でも特定のジャンルが好きっていうよりは、「好きな曲」「苦手なタイプの音楽」みたいに、単純に好き嫌いで聴いてた感じですね。ヒップホップに興味を持ったのは中学校のとき。あんまり学校に行かなくなって、クラブで遊ぶようになってから、面白いなと思い始めたんですよね」

 ただ、その興味は「ジャンルとしてのヒップホップ」というよりも、前述のように「好きな曲/嫌いな曲」という、理屈よりもフィジカルな部分が強かったと話す。

 「ヒップホップって、サウンドだけでもBoombapもあればTRAPも、もっと違うタイプのトラックもあって、一言では括れないと思うんですよね。だからヒップホップっていうジャンル自体じゃなくて、音楽の中で自分の好きなタイプの曲が、ヒップホップに多かったぐらいの感じですね。単純に、自分がフィールするかしないか、好きか嫌いかでしか考えてないんで」

 そして同じ沼津出身のラッパーであり、Elle Teresaも所属する「West Carter Music Inc.」のCEOであり、ELLE TERESAのプロジェクトにエグゼクティブ・プロデューサーとして関わるYusuke Carterと出会い、ラップすることを勧められる。

 Yusuke Carter:「クラブで出会って、自分のMVにダンサーとしてオファーしたんですよね。それから仲良くなってよく遊ぶようになったときに、彼女はKOHHの曲とかを口ずさんでいたんで、軽い気持ちで「じゃあラップやってみたら?」って。それでDiplo X CL X RiFF RAFF X OG Maco「Doctor Pepper」のビートジャック「Coca-Cola」(2015年)を始めとした、ビートジャック作品を作ったんですね。そうしたら一ヶ月で10曲ぐらい作ってきたんで、これはヤバいなと思って、プロデュースとして関わるようになって」

 その勢いのままミックステープ『Ignorant Tape』(2016年)をリリースし、ストリート・ファッション誌『WOOFIN’』の<2016's Freshman>にも選出され、その注目度を高めていった。




 「当時はかなりビートジャックで曲を作ってましたね。でもビートジャックってマジで難しいんですよ。ただ流行ってるビートに合わせてラップすればいいって訳じゃなくて、すでに英語として完成された曲に対して、それを日本語でラップし直すから、語尾やイントネーションがそもそも合わないし、元の曲より良くなるはずがないっていう前提でやらなきゃいけないと思うんですね。でも、そういう作業を続けたから、それが自分のスキルになって、いまの自分のラップにも繋がってるのかなって」

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自らの圧倒的な肯定が貫かれたリリック

 彼女のリリックは、自らに対する圧倒的な肯定に貫かれている。有り体にいえば「私はイケてる」というテーマを、ルックスやファッション、日常に織り交ぜて描写することが、Elle Teresaのリリックの一つのモットーとなっている。ヒップホップにおいて、例えば過酷な境遇や、ハードな人生をいかにストラグルし、勝ち上がることで自己を肯定するに至ったというテーマは王道だが、そういった過程を抜きにして「私はイケてる」という全面肯定を全面に押し出したElle Teresaのスタイルは、非常に新鮮に写った。

 「そういう性格なのかも知れないですね。エルは結構チヤホヤされて生きてきたんで(笑)。でも「Ignorant Tape」や「PINK TRAP」をリリースした時は、めっちゃディスられましたよ。 SNSとかネット民ってめちゃくちゃ心ないこと言うじゃないですか。そういうコメントがバンバンSNSやYouTubeにもきて。確かに、当時の私は、いまよりは可愛くないと思うんですね。でもそんな可愛くない子が「私は可愛い」ってことをラップすることに、エルは意味があると思ってて。例えばアイドルみたいな、誰が見ても可愛い子が「私は可愛い」って言っても、それはそうでしょ、ってなると思うんですけど(笑)、普通の子が「めっちゃ私は可愛いし!」っていうのが大事だと思うし、その気持ちが可愛いと思うんです。そういうラップをすることで、今までに味わったことが無いぐらいディスされたのはショックだったけど、それでも諦めないでそのスタンスを貫いたし、諦めなかったから、いまのエルがあると思うんですね」

 以降も「KAWAII BUBBLY LOVELY」といったソロ作に加えて、Elle Teresa & Sophiee「Kunoichi Money」などのコラボ作などもリリース。客演作品の数も増えていき、その中でも2020年にリリースしたDJ CHARI & DJ TATSUKI「GOKU VIBES feat. Tohji, Elle Teresa, UNEDUCATED KID & Futuristic Swaver」は大きな反響を呼んだ。




 「「GOKU VIBES」のヒットで、改めて注目されたのは嬉しかったですね。それまでは結構「Elle Teresaどうなの?」みたいな空気はあったと思うんですね。ラップを始めて2年ぐらいは、まあヘンチクリンな作品を作ってたと思うんで(笑)。でもそれ以降はめっちゃいい曲をエルは作ってるって、自分でも自信があったから、曲として普通にめっちゃいいのに、なんでみんな分かってくれないの!って」

 「dirty」の中でも「全然わかってない」というリリックがあるように、明朗闊達なスタイルではあるが、同時に評価に対してはフラストレーションを感じていた部分もあったようだ。

 「でも、「GOKU VIBES」を通してやっとみんなが気づいてくれたり、新しくエルのことを知ってくれた人がファンになってくれたり。周りの意見はあまり関係ないし、気にもしてないけど、でも聴いてくれる人、好きになってくれる人がいないとアーティストとしては続けてはいけないから、「GOKU VIBES」でそういう人が増えたのはラッキーだったと思いますね」

 自身の興味を追求し、ある意味では「自分の半径5メートル」とも言えるリリックを書くことが多かったElle Teresaだが、「Fuji」の中では「静岡のトップ」や「ニューベーシック」といった、勝ち上がる欲望や自身をロールモデルとする意思を提示。そこにもアーティストとしての変化が感じられる。




 「なにか深い意図があったというより、単純にそう思ったからですね。自分のやってることには自信があるし、同時にアーティストとして注目されるようになったから、そういうリリックを書いてもいいタイミングなのかなって。「みんなに分からせたから」書いたし、これからも分からせていかないといけないなって。……でもリスナーに対しても思うんですけど、みんな難しく考えすぎなんですよ(笑)。そう思ったから書いただけなんで。ヒップホップって、軽く聴いただけじゃミーハーとか、あれもこれも知らなきゃいけない、分析しなきゃいけないみたいな感じが、特にネットだとありますけど、エルはそんな音楽じゃないんで。YouTubeのコメントとかでも、このビートがあーでこーで、リリックがどーこーみたいなのはあるんですけど、そんなんじゃないから、私の曲は。サラッと聴いて良かったら聴いて欲しいし、興味なかったらスルーで大丈夫(笑)。自分の曲に全てがあるわけじゃないし、人それぞれ感性も感覚も違うんだから、適当に聴いてよ、って思う、本当に」

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「Bby girlll」でメジャー進出する意味

 そして7月7日に、シングル「Bby girlll」のリリースをもってメジャー進出するElle Teresa。

 Yusuke Carter「エルはアメリカのDowntown Music Publishingと契約してるんですが、その会社がエイベックスと繋げてくれて」

 自主配信やYouTubeなどを通してリリースを展開するアーティストが増え、特に若いアーティストはいかに注目されていたとしても、メジャーレーベルと契約せずに活動することも少なくない。

 「でもエルとしては、色々自分の活動を広めてくれるんならやって貰ったほうが良くない?って思うんですよね。自分のことを評価して、売ってくれるって動いてくれる人、しかもプロがいるんなら、そこにお願いするのはめっちゃいいじゃん、って。「メジャーにいってウンタラカンタラ……」みたいな話をする人もヒップホップ界隈にはいるけど、なんだそりゃって感じです(笑)。自分の活動にはインディとかメジャーとかそこまで関係ないし、関係ないからこそ、大手メジャーと契約出来るなら、そっちの方が上手く回るんじゃないかなって」

 「Bby girlll」は、これまでの作品と同じようにElle Teresa自身のことを描く部分が強い作品だが、同時にその内容は、思春期ならば多くの人間が感じたり、起こり得るような作品構成が印象的だ。先程述べたような「自分の半径5メートル」でありながら、同時に「誰かの半径5メートル」でもあるその到達範囲の広い物語性は、まさしく「ポップ」であると言えるだろう。

 「この曲は2年ぐらい前に書いた曲なんですけど、自分のことでもあり、もっと物語でもあるっていう、J-POPを作ろうと思って。エルにはその二面性があると思うんですよね。TRAPやUSの最新の音楽も好きだけど、J-POPやアニソンも好きっていう。だからメジャーに行くからJ-POPタイプの曲を作ったんじゃないし、単純にこういう曲も好きだから作ったんですよね。それにエルってジャンルで言ったらヒップホップじゃなくて、ポップだと思うし、J-POPだと思ってて。だからこの曲みたいにめちゃくちゃシンプルにド定番の曲も作るし、それがエルなのかなって」



▲ 「Bby girlll」


 Elle Teresaの作品の魅力の一つには、「自身の肯定=女性性の肯定」が挙げられるだろう。「自分は可愛くてイケてる」というテーマ性であったり、「ハイトーンでガーリーなスタイル」は、「女性であること」を肯定する表現とも感じられる。

 その意味でも、女性ラッパーを評するときに「男勝り」という表現はよく使われてきた。それは男性社会であり、男性のラップが基準になっていたラップシーンにおいて、その支配性と伍するために、男勝りであったり、男性基準のラップに近づく必要があった。しかしラップ自体がメインストリーム・カルチャーとなり、ラップのあり方自体が拡散拡大していく中で、その男性がメインである土俵に乗ること自体が表現として必要なのか、という観点も当然生まれ、ラップ表現は更に多様性を増していった。その流れにElle Teresaのラップもあるだろう。

 「戦う必要ってないと思うんですよね。確かに、私も昔のインタビューで「男に負けたくない」って発言もしてたんですけど、もうエルはその次元じゃないっていうか。性別とか勝ち負けとかどうでもいいんですよ。だってエルはエルだから。私はエルっていうジャンルだし。あと、これは社会全体にいえることだと思うんですけど、男優位だとか、いや女性がって言ってる時点で、もうそこ(の観念)に取り込まれていると思うんですね。だけど、全員が性別や年齢みたいな枠組みじゃなくて「自分だから」って思えればいいと思うんですよね。同じレーベルの1LI ILIが「アジアンヘイトも、黒人や女性が差別されたのもみたし、みんなが差別されてる」って言ってて、本当にそれだと思うんですよね。誰しもがなんかしらの形で差別されてしまうキッカケなんてたくさんあるし、「みんなの問題」だから、みんなでちゃんと考えないといけないし、みんなの問題だったら、そこで罵り合ってもなにも始まらない。だから単純だけどみんな仲良くしようよ、って(笑)。でもそれが本質だと思います」

 ではElle Teresaはメジャー進出の先にはどのようなビジョンを描いているのだろうか。

 「あんまり「その先のこと」は考えてないんですよね。「その時のこと」しか考えないから、常に毎日考えは違うし、いますごく刺激的なことであっても、2ヶ月後には完全に飽きてるかも知れない。でもいま興味ないことでも、2ヶ月後にはすごく夢中かも知れない。そういうふうに、週替りや日替わりで気持ちが変わるから、正直どうなるかは分からないです。でもなりたいものがあるとしたら、ニューアイコンになりたい。日本だと年齢で区切られることがあるじゃないですか。「若くなかったらもう若者のアイコンにはなれない」みたいな。でも、海外だったら年齢関係なくアイコンになれるし、全世代のアイコンになったりも出来る。そういう存在になりたいですね。歳をとってもずっと可愛い、年相応に格好いいみたいな。あとNIGOさんのようにカルチャーを作る人になりたいですね。常に注目されて、ニュースタンダードとスタンダードを同時に作るような存在になれたら嬉しいですね」

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