Billboard JAPAN


Special

<コラム>痛快なリリシズム、日本のアニメ愛、シンガーとしての実力――世界的TikTokスター=ベラ・ポーチが愛される理由を解説



コラム

TikTokフォロワー数世界3位、ベラ・ポーチを取り巻く熱狂

 2021年、アメリカではアジア系著名人の存在感が軒並み上昇している。非営利団体Gold Houseが発表した今年度『影響力あるアジア系、アジア・太平洋諸島系アメリカ人100』には、カマラ・ハリス副大統領や大坂なおみ選手、『ノマドランド』にてアカデミー賞を席巻したクロエ・ジャオ監督らが名を連ねている。音楽シーンにおいても、フィリピン系歌手のオリヴィア・ロゴリゴと韓国グループのBTSがBillboard HOT 100でチャート首位争いを繰り広げた。

 今や音楽業界に絶大な影響力を持つTikTokにおいても、アジア系スターが猛威を奮っている。1997年生まれのフィリピン系アメリカ人、ベラ・ポーチは2020年4月に同プラットフォームにユーザー登録した“新参者”であったが、その4か月後にアップしたMillie B「SophAspinSend」のリップシンク・ビデオが「もっともライクされたTikTok投稿」となり、今やフォロワー数世界3位の座に上り詰めた。快進撃はこれに留まらない。インフルエンサーとしてValentino等の有名ファッション、ビューティー・ブランドとパートナーシップを結んだうえ、ディズニーやマーベルもこぞってコラボレーションする人気ゲーム『フォートナイト』において初めてエモート採用されたフィリピン系の冠も獲得している。そして2021年5月には、シンガー・ソングライターとしてのデビュー・シングル「Build a Bitch」が瞬く間に話題を呼び、デビュー曲としてYoutube史上最大の再生数を達成。見事Billboard HOT 100にランクインしたばかりか、日本においても10日間でTikTok再生数が1億回を突破、Spotifyバイラルチャートで1位に到達するヒットを記録している。

@bellapoarch

To the ##fyp

? M to the B - Millie B


 プロのミュージシャンとなったTikTokスターの中でも怒涛の勢いを誇るベラ・ポーチだが、熱狂とともに都市伝説のようなものも生んでいる。特に歌手デビュー前、その素性は謎に包まれており、フィリピンに生まれてアメリカに移り、海軍として日本に駐在した経験もあるアニメ・ファン……といった程度の情報しか知られていなかった。そのため、インターネットで年齢や本名についての噂、なかば陰謀論が生まれていったわけだが、たしかにプラットフォーム登録からたった1年弱で様々な新記録を樹立するほどの成功を収めたTikTokスター歌手はかなり稀だ。スマッシュ・ヒット中の「Build a Bitch」の魅力を探りながら、この謎を解きほぐそう。


「語りたくなる」痛快な歌詞

<女の子はカスタムできない 好きなパーツは選べない お尻を変えて、胸は大きく(なんて無理)><私は欠点だらけで意見も言う 完璧を求めるなら、私は向いてない>

 凶悪性を孕んだキュートネスを紡ぐダーク・ポップ「Build a Bitch」の舞台は「女の子工場」だ。ボブという大工から「君は修理しなきゃ駄目」「もっと曲線美のあるボディで、清純さと能動的なセクシーさが無ければ」と意見された主人公は、マネキンのように工場レーンに乗せられている……ギョっとする世界観だが、男性たちが望む「パーフェクトな女の子」になるようプレッシャーをかけられる女性たちの状況を過激かつコミカルに表現した内容なのだ。



【和訳】Bella Poarch「Build a B*tch」【公式】


 特筆すべきは、制作にも参加したベラのリリシズムだろう。この話題作の個性は、女子たちに身勝手な幻想を課そうとする男たちの痛いところを突く痛快さにある。

<男の子はゴルフに夢中で バービー人形みたいな子を探してる (バービーのボーイフレンドの)ケンと似ても似つかないくせに><壊れそうな子しか相手にできない 自分が王子様を演じたいから>

 この切れ味抜群な歌詞がTikTok圏外の女性たちのあいだでも話題を呼び、歌詞とよく似た人生経験や、それにもとづく怒りを挙げていく会話を巻き起こしていった。“共感できる作品”であるのみならず、多くのリスナーが“自分の体験を熱く語りたくなる曲”と言えるだろう。

芯の強いメッセージ性

 マネキンのように工場に並べられてきた女子たちが反逆して終わる「Build a Bitch」は、抑圧されて生きる人々に向けたエンパワーメント・ソングだ。「デビュー曲は、たくさんの人に自信を与える、意義あるものにしたかった」。そう語るベラの信念が込められた作品だが、こうした強き意思は、彼女が瞬く間にスターダムを駆けあがった理由でもある。たとえば、パフューム部門初のTikTokキャンペーンにてベラとコラボレーションしたValentinoは、起用理由に「意義深い発信をするインフルエンサー」であることを挙げている。フィリピン系移民としてアメリカに育ったベラは、うつ経験や家庭問題などのメンタルヘルス・イシューについて丹念に語ってきた。「Build a Bitch」にしても、アメリカの学校で人種差別的イジメを受けた経験がベースにあるという。謎に包まれた存在として脚光を浴びていったと同時に、つらい過去を明かしながら問題提起やエンパワーメントをする人物として信頼を獲得してきたのだ。その思想をシンガー・ソングライターとしてダイナミックかつ個性的に表現してみせたからこそ、鮮烈な記録級デビューを飾れたのではないだろうか。


アニメ愛ビジュアル

 ベラ・ポーチをキャンペーンに起用したスキンケア企業、EosのCMOが「フレッシュでユニークなスタイル」を起用理由に挙げたように、インフルエンサー、そしてポップ・アーティストとして目を引くベラ・ポーチの魅力には「Kawaii」カルチャーと近しいビジュアルがある。そんなベラのインスピレーション源のほとんどはビデオ・ゲーム、そして日本アニメ。米軍として日本に2年間駐在していた彼女は生粋のアニメ・ファンであり、その愛を活かすかたちでTikTokスターとしての個性を醸成したのだ。特段のフェイバリット作品は岸本斉史原作の『NARUTO -ナルト-』で、キャラクターのコスプレを披露したり、同作モチーフの服を日常的に着用したりしているばかりか「ナルト走り(作中のキャラクターが行う前傾姿勢で両腕をうしろへ伸ばす走行法)」によって登場するビデオも定番になっている。『鬼滅の刃』や『のんのんびより』、『化物語』や『ダーリン・イン・ザ・フランキス』といった人気アニメ作品の音楽やセリフが目立つ一方、きゃりーぱみゅぱみゅやももいろクローバーZもピックアップしているため、多種多様なTikTokスター界隈においても個性は抜群だ。

@bellapoarch

The song is a vibe??

? Bella used my sound wtf - ??



 「Build a Bitch」にしても、カバー・アートを手がけたのは、The Kid Laroiとのコラボレーションでも知られるアニメ・スタイルのイラストレイター、YaLocalOffgod。ベラが最大のインスピレーションと語る初音ミクを思わせるキュートでダークな仕上がりだが、今後の楽曲ではさらに彼女らしいアニメ・ワールドが展開されていくかもしれない。

「大会荒らし」なシンガー・ソングライター経験

 短期間でグローバル人気を築いたため謎の存在と謳われたベラ・ポーチだが、実は幼い頃よりシンガー・ソングライターを目指し、音楽コンクールを次々と制覇し、30個以上のメダルを集めた“大会荒らし”級の出自を持つ。得意のウクレレ演奏はTikTokでも披露されていたが、独学による楽曲制作も相当数行っていたという。さらに、基本的かつ重要なこととして、ベラは歌が上手い。「Build a Bitch」のような曲調では見逃しがちだが、過去に投稿されたアリアナ・グランデの「Raindrops」をアカペラ歌唱する動画を見れば、そのスキルと魅力がよく分かるはずだ。

@bellapoarch

Hi, I was really nervous filming this because not a lot of people know I love to sing????

? original sound - Bella Poarch


 TikTokスターとして脚光を浴びたベラ・ポーチがミュージシャンとして異例の成功を収めた理由は、結局のところ、シンガー・ソングライターとしての魅力と能力、長きにわたる経験あってこそと言えるだろう。加えて、ポップ・スターに要されるビジュアル構築力、個性的センスも備えているのだから、「謎」とまで言われる快進撃はまだまだ止まる気配がない。

Text by 辰巳JUNK

関連キーワード

TAG

ACCESS RANKING

アクセスランキング

  1. 1

    <インタビュー>YUTA(NCT) ミニアルバム『Depth』に込めたソロアーティストとしての挑戦――「たくさんの経験があったから今がある」

  2. 2

    櫻坂46、躍進した2024年の集大成を魅せたグループ4周年ライブでZOZOマリン史上最大となる72,000人を動員

  3. 3

    和楽器バンド、活休前最後のツアーが開幕 10年分の感謝をこめた渾身のステージ

  4. 4

    JO1、ワールドツアー開催を発表「ここから世界に羽ばたいていきます」

  5. 5

    <インタビュー>米津玄師 新曲「Azalea」で向き合った、恋愛における“距離”――「愛情」の源にある“剥き身の生”とは

HOT IMAGES

注目の画像