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<コラム>ONE OK ROCKと『るろうに剣心』が紡いだ物語、その“終わり”と“始まり“を描いた二つの主題歌を紐解く



コラム

ネクスト・ステージを感じさせるロック・ナンバー「Renegades」

 ONE OK ROCKの新曲「Renegades」と「Broken Heart of Gold」はまさに今、バンドの中でひとつの物語の完結と新たな物語の始まりが交差していることを想起させる、彼らの重要なターニング・ポイントとなるべきシングルだ。それと同時に、映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』の主題歌としてのこの2曲は、同作品の終わり(『The Final』)と始まり(『The Beginning』)をそれぞれ象徴するナンバーでもある。ONE OK ROCKの成長と劇場版『るろうに剣心』シリーズの進化が常に「リンクしていると感じる」と語ったのはTakaだったが、こうして両者の終わりと始まりを見事にリンクさせた「Renegades」と「Broken Heart of Gold」は、10年にわたるONE OK ROCKと『るろうに剣心』の黄金のコラボレーションのゴールを飾るに相応しい傑作だと言える。

 『るろうに剣心 最終章 The Final』の主題歌として先にリリースされた「Renegades」を聴いて、ONE OK ROCKの明確なロック回帰モードに快哉をあげたファンも多かったはず。分厚いノイズを纏ってザクザクとメタリックに刻まれるギターといい、急カーブをドリフトしながら深く抉るようにうねるリズムといい、彼らはここでロック・サウンドのもたらすプリミティブな興奮を全力で掴み取ろうとしている。「Renegades」はかのエド・シーランとの共作曲で、レコーディングもイギリスにある彼のスタジオで行われている。



ONE OK ROCK - Making of Renegades #1


 エド・シーランの楽曲としても、ここまでストレートにロックをやっているナンバーは本当に久しぶりだ。ONE OK ROCKはエドの【DIVIDE WORLD TOUR 2019】のオープニング・アクトとしてアジアを共に回るなど兼ねてから交流があったわけだが、「Renegades」を聴くと、今回のコラボが互いへの理解とリスペクトをより深めるきっかけになったことが分かる。また、同曲のプロデュースを担当したのがロブ・カヴァロであるのも注目すべき点だろう。ロブはマイ・ケミカル・ロマンスの『The Black Parade』やグリーン・デイの『American Idiot』など、ONE OK ROCKも多大な影響を受けた2000年代USロックの歴史的名盤を手がけた伝説的なプロデューサーだ。

 直近のオリジナル・アルバム『Eye of the Storm』は、彼らが意図的にロック以外のアプローチを選択した作品であり、それはロックの構造的不振が続いている広大なUSシーンで勝てるバンドになるための不可避なチャレンジだったと言っていい。『Eye of the Storm』は世界進出を果たした彼らにとって、最初の到達点と呼ぶべきアルバムだったと思う。到達点の次に迎えるべきは、もちろん新たなチャレンジだ。そこでONE OK ROCKはエド・シーラン&ロブ・カヴァロという最強チームと共に、ロック不振の構造自体をひっくり返すべく、果敢な勝負に打って出た。それが「Renegades」だ。“反逆者(renegades)”というタイトルにも彼らの我が道を行く覚悟、ロック・バンドとしてのネクスト・ステージが垣間見えるはずだ。



ONE OK ROCK - Renegades Japanese Version [OFFICIAL MUSIC VIDEO]


物語の“始まり”を告げる「Broken Heart of Gold」

 そんな「Renegades」と対照的に、ミッドテンポの美しいバラッドとして聴く者を魅了するのが「Broken Heart of Gold」だ。端正なピアノ、重厚なオーケストレーション、計算され尽くしたリヴァーヴのアレンジ、そして白熱すればするほど透明度を高めていくTakaのボーカルが織りなす緻密な構成は、凝縮型の「Renegades」に対して拡散型とでも言うべきか。数々のスタジアム、アリーナを制してきたONE OK ROCKの破格のスケールが存分に発揮されたナンバーであり、これだけの要素を詰め込みつつも、いまだにたっぷりとした余白を感じさせるサウンド・スケープが圧巻だ。それはこれから新たな物語が語られる余地、と言い換えてもいいかもしれない。



ONE OK ROCK - Making of Broken Heart of Gold #1


 『るろうに剣心』の第1作から全ての主題歌を担当してきたONE OK ROCKだが、彼らは単なる主題歌の担い手ではない。作品を作り上げてきたチームの一員として、全身全霊で剣心を演じてきた佐藤健の盟友として、常に『るろうに剣心』と共に歩んできた運命共同体だった。そんな彼らにとっても、シリーズの最終作『るろうに剣心 最終章 The Beginning』は特に思い入れのある一作となったようだ。Takaも「圧倒的に一番好き」な作品だと断言している。

 そんな『るろうに剣心 最終章 The Beginning』のエンドロールで「Broken Heart of Gold」が流れるとき、シリーズ完結の余韻と共に込み上げてくるものがあるとしたら、それはここから再び物語は始まるのだという高揚に他ならない。<時々ただやめたくなる、人生に終わりを告げたくなるんだ(Sometimes I just wanna quit / Tell my life I'm done with it)>と歌う「Broken Heart of Gold」は、まさに主人公・緋村剣心の苦悩や葛藤そのものを描写したナンバーだ。しかし、最愛の人を殺めてしまった絶望の淵で、それでも剣心は己の宿命を受け入れる。そう、文字通り物語はそこから“始まる”のだ。そして、悲壮感の中にも温もりを宿した「Broken Heart of Gold」のシンフォニーは、そんな剣心の生き様と見事に重なり合っていく。同時にそれは、幕末を生き抜いた剣心から未来を託された現代の私たち、その代表としてのONE OK ROCKの決意表明のようにも響くものだ。



ONE OK ROCK - Broken Heart of Gold [Japanese Version LYRIC VIDEO]


 ONE OK ROCKが15周年の節目を迎えた2020年は、新型コロナウィルスの感染拡大によって世界そのものが大きな岐路に立たされた年でもあった。エンタテイメント産業も深刻な打撃を被り、世界中の劇場や映画館が閉鎖される中で映画『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』も公開延期を余儀なくされた。ライブ・ツアーの中止や延期も相次ぎ、ONE OK ROCKもまた無観客のスタジアムで初めてのオンライン・ライブに挑むことになった。もちろん、今なお人類とパンデミックの格闘は続いている。それでも私たちは無数のトライ&エラーを繰り返しながら少しずつ日常を、以前とは少し違うそれを諦めずに取り戻そうとしている。そんな2021年、ONE OK ROCKが「Renegades」と「Broken Heart of Gold」で鳴らした終わりと始まりは、間違いなく明日の世界へと繋がっていくはずだ。

Text by 粉川しの

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