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ウルフギャング・ヴァン・ヘイレンのソロ・プロジェクト=Mammoth WVH 偉大なる父との関係から現在に至るまで
ウルフギャング・ヴァン・ヘイレンのソロ・プロジェクト=Mammoth WVH(マンモス・ダブリュー・ブイ・エイチ)のデビュー・アルバム『Mammoth WVH』が遂に完成した。日本での知名度が如何なものかといわれれば「今はまだ」といったところだが、その名前から想像がつくように、ヴァン・ヘイレンのギタリストでソングライター/プロデューサー=エディ・ヴァン・ヘイレンの息子といえば説明も不要だろう。そのヴァン・ヘイレンには、ベーシストとしても参加していたウルフギャング 。偉大なる父との関係からMammoth WVHとしてのはじまりまで、まずは彼の生い立ちを振り返る。
Text:本家 一成
偉大なる父をもつウルフギャング・ヴァン・ヘイレンの生い立ち
ウルフギャング・ヴァン・ヘイレンは、1991年3月16日生まれの現30歳。名前は、偉大なるオーストリアの音楽家=ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトにちなんで付けられたそうで、クラシック界稀有の天才を引用するあたり、クラシック音楽家だった祖父のヤン・ヴァン・ヘイレンの影響が、うかがえる。エディは、自身が設立したEVHブランドのギターにも「Wolfgang」というネーミングを起用。米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard200”で1位を獲得したヴァン・ヘイレンの9thアルバム『F@U#C%K』(1991年)収録のギターによるインストゥルメンタル「316」は彼の誕生日に由来する曲で、2004年のツアーではサプライズ・ゲストとして登場し、この曲を父エディと共演したことも話題となった。
母親は女優のヴァレリー・バーティネリ。彼女が妊娠中、エディはお腹にいるウルフギャングにギターを弾いて聴かせていたそう。赤ちゃんへの胎教がどれだけの効果をもたらすのか科学的には証明されていないが、それもミュージシャンを志すキッカケとなったひとつ…かもしれない。ヴァン・ヘイレンのドラマーで叔父にあたるアレックス・ヴァン・ヘイレンの影響もあり、若干9歳からAC/DCの曲を参考にドラムの練習を独学でスタートさせ、10歳のバースデーに父エディからドラム・セットをプレゼントされたことを期に“ドラマー”を目指しはじめた。なお、父親がミュージシャンだということは、ヴァン・ヘイレンのCDを手に取るまで知らなかったという。
そしてドラムからギターへ移行し、15歳になった2006年には父の助言でベースを習得し始める。ヴァン・ヘイレンの7thアルバム『5150』でも有名な自宅裏にある同名レコーディング・スタジオでは、叔⽗のアレックスを含むセッションも行われたそう。ベースをマスターするのはギターよりも苦戦を強いられたそうだが、その実力が認められ、同年にヴァン・ヘイレンを脱退したマイケル・アンソニーと代わり、後任としてバンドのベーシストに加入。翌07年には正式メンバーとしてツアーにも参加した。⾼校生時代にあのヴァン・ヘイレンとして世界中を回ったというのは、何とも夢のある凄いハナシだ。ヴァン・ヘイレンは、同年ロックンロールの殿堂入りも果たしている。
それから3年後の2010年夏には、ヴァン・ヘイレンの最年少メンバーとして唯一参加したアルバム『ア・ディファレント・カインド・オブ・トゥルース』の制作がはじまる。2年後の2012年にリリースされた本作は、米Billboard200で2位、ロック・アルバム・チャートでは1位を獲得した他、イギリス(6位)やカナダ(3位)、オーストラリア(4位)などの主要国でもTOP10入りを果たしている。ヴァン・ヘイレンの活動と並行して、「Higher」や「My Sacrifice」などのヒットで知られるクリードのメンバー、マーク・トレモンティ率いるロック・バンド=トレモンティのベーシストとしても『コーターライズ』 (2015年)~『ダスト』 (2016年) の2作にクレジットされ、ツアーにも同行。2019年には、セヴンダストのギタリスト=クリント・ロワリーのソロ・デビュー・アルバム『God Bless The Renegades』にもドラマーとベーシストとして参加し、ミュージシャンとしてのキャリアを着実に積み重ねていった。
2020年10月6日、父(本名エドワード・ロードウィック・ヴァン・ヘイレン)が65歳という若さで死去し、当時の音楽シーンに大きな影響を与えた。その訃報を受け、ウルフギャングは「最高の父親であり、アーティストだった父の死を受け、悲しみと喪失感から完全に立ち直ることはできないと思います」というコメントを発表している。そんな心境を振り切るべく、翌11月にMammoth WVHとしてのデビュー曲「DISTANCE」を早々に発表。同曲は「あなたなしの⼈⽣なんて」~「今も涙が⽌まらない」~「どんなに遠くても共にいるよ」というフレーズが続く亡き⽗に捧げた追悼曲で、話題性のみならず楽曲も高く評価され、米ロック&オルタナティブ・ソング・チャートで9位、メインストリーム・ロック・チャートでは1位を獲得した。亡くなる前に聴いた父エディも、その内容に涙したという。
▲ Mammoth WVH「DISTANCE」
リリース情報
『Mammoth WVH』
- 2021/6/11 RELEASE
<日本盤CD>AQCD-77492 / 2,420円(tax incl.)
ボーナス・トラック1曲収録 全15曲
初回封入特典:
ジャケット・ステッカー(日本盤CD限定)
<デジタルアルバム>
全14曲収録
https://avex.lnk.to/MammothWVH-0611
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外部ライターを起用せず、自分の実力を試したソロ・デビュー・アルバム
Mammoth WVHは、「DISTANCE」をリリースする5年前の2015年からプロジェクトをスタートさせていた。ヴァン・ヘイレン・フォロワーには説明不要だが、「Mammoth」は父エディと叔父のアレックスがヴァン・ヘイレン以前に結成していたバンド名で、その⽗がリード・シンガーを務めていたという理由からも「特別なもの」だったという。偉大なる父と叔父との関係性をあえて主張するというクールなネーミング・センスについては、亡くなる以前のエディも「すばらしい」と絶賛していたそうで、使用についても承諾を得たと公表している。「WVH」は言わずとも自身のウルフギャング(W)・ヴァン(V)・ヘイレン(H)の頭文字。
「DISTANCE」含め、デビュー・アルバム『Mammoth WVH』に収録された全14曲の制作、ボーカル、ギター、ベース、ドラムの演奏全てをウルフギャングが単独で務め、プロデュースは前述のトレモンティやセヴンダストのアルバムを手掛けてた、マイケル“エルヴィス”バスケットが担当した。これまでの活動は演奏が主だったが、本作で最もフィーチャーされたのが“ボーカル”で、歌手としての自信と方向性は、プロデューサーのエルヴィスが見出してくれたと話している。ボーカル・ワークのインスピレーションは、父はもちろん、フー・ファイターズやナイン・インチ・ネイルズ、ジミー・イート・ワールドなど、自分世代のロック・バンドからも受けたとしている。
ポップやメタルなどの要素を取り入れた「ロック」が核のサウンド・プロダクションも父親譲りで、甲高いエレキのイントロではじまる「MR. ED」、終盤でハイトーンを炸裂させる重圧感のあるハード・ロック「HORRIBLY RIGHT」、体格を活かしたヘヴィ級のドラム・プレイが光るミディアム・テンポの「EPIPHANY」と、冒頭3曲からテンプレートに則った良質アメリカン・ロックが続く。
4曲目の「DONʼT BACK DOWN」は、3rdシングルとしてリリースされたイントロのギター・リフ&ドラム・プレイがクールなファイト・ソング。雄たけびのようなコーラスも、ウルフギャング独特のマイルドな声質が聴き心地を和らげる。ボーカル、ギター、ベーシスト、ドラマー、プロデューサー、エンジニアの6役を務めたミュージック・ビデオは、全ての楽器を熟す彼のスタイルと、他者との密を防ぐコロナ禍にも直結した。「DONʼT BACK DOWN」と同時にリリースした「THINK IT OVER」は、ポジティブな力強さのあるキャッチーなロック・ポップで、前者とはまた違った一面をみせる。
▲ Mammoth WVH「Don't Back Down」
本作全体の雰囲気が表れたという最新シングル「MAMMOTH」は、高揚感あるハイテンションなロック・チューンで、ライヴを体感しているような興奮が巡ってくる。VHS当時のモノクロ映像を使用したMVも、曲のイメージにフィットしたすばらしい出来だった。シングル曲では、勢いを持って聞かせる00年代ハード・ロック風味の「YOUʼRE TO BLAME」も、良い緊張感が張り詰めた傑作。
荒削りな迫力ある演奏で躍動感を醸し出す「RESOLVE」、圧倒的なパワーで一気呵成に畳み掛けるハード・ロック「YOUʼLL BE THE ONE」、インテリジェンスを備えたクールなオルタナティブ・ロック「CIRCLES」、ソリッドなギター・プレイと高低差を活かしたボーカルが印象的な「THE BIG PICTURE」、リズム・セクションを重視した疾走感ある「FEEL」、ドラムがもたらす生々しい音の感触がたまらない「STONE」まで、アルバム曲も歌と演奏テクニックに幅をもたせた秀作揃い。⽇本盤CDに収録される「Talk & Walk」も、ボーナストラック以上の出来高だ。
ヴァン・ヘイレンの作品では、 初期の陰影あるブリティッシュ・メタルより、ポップを絡めた80年代のキャッチーなハードロック・アルバムに近いテイストで、ディスコやニューウェイブ、テクノなど80年代カルチャーが再燃している昨今の流行においても、リリースするタイミングは最適だったといえる。最新のテクノロジーを投入せず、ボーカル、ギター、ベース、ドラムで引っ張っていく古典的なスタイルは、良い意味で目新しさがなく、ノイジーなサウンドも気にならないほどすんなり受け入れられるキャッチーな曲が多い。カリスマである父を恥じることなく継承したことも証明した。
ヴァン・ヘイレンの熱狂的なファンからは、その宣伝文句だけで反感や顰蹙を買う可能性もあるだろうし、ソロ・デビューともなれば当然偉大なる父と比較されるだろう。しかし、そんなプレッシャーを感じさせるどころか、このプロジェクトについては「ただ楽しんでいる」とインタビューに答えている。それは、父親や叔父の存在が「超えられるかどうか」という次元ではなく、世紀に一度現れるか否かの才能の持ち主だったと認めているからだろう。外部ライターを起用せず、自分の実力を試したという意味でも評価に値する作品といえる。若かりし頃のエディが「80になっても音楽活動をつづけているだろう」と話していたが、その理想像を息子である ウルフギャング・ヴァン・ヘイレンが叶えてくれることだろう。
リリース情報
『Mammoth WVH』
- 2021/6/11 RELEASE
<日本盤CD>AQCD-77492 / 2,420円(tax incl.)
ボーナス・トラック1曲収録 全15曲
初回封入特典:
ジャケット・ステッカー(日本盤CD限定)
<デジタルアルバム>
全14曲収録
https://avex.lnk.to/MammothWVH-0611
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