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<インタビュー>亀田誠治~無観客生配信での開催に決めた経緯、コロナ禍で感じたこと

インタビュー

 “フリーでボーダーレス、親子孫三世代誰もが楽しめる野外音楽フェスティバル”として、2019年にスタートした【日比谷音楽祭】。2021年は、有観客生配信ライブとして5月29日、30日の開催が予定されていたが、緊急事態宣言の延長を受け、5月12日に無観客生配信ライブへの変更が発表された。45組以上のアーティストが出演する中、無観客としての開催を決めた経緯や思い、そして2020年以降のコロナ禍が音楽シーンに与えた影響などを、本音楽祭の実行委員長を務める亀田誠治に話を聞いた。

Interview:高嶋直子

生配信のみの開催に決めた理由 「野音だけ有観客ライブを開催することもできた」

ーー5月7日に緊急事態宣言の延長が決定し、5月12日に生配信のみでの開催が発表されました。この短期間での決断には、どのようないきさつがあったのでしょうか。

亀田誠治:今回の緊急事態宣言では、ライブに関しては規制緩和もあり、お客様を収容率50%までであれば入れることができます。なので、実は日比谷野外音楽堂(以下、野音)は、開催しても良いんです。ですが、この音楽祭は野音以外にも公園や野外ステージなど様々な場所を使って企画していて、それらでの公演は一切してはいけないという要請があって。

ーーでは、野音だけでも開催するとか?

亀田:もちろん、そういう意見もありました。ですが、日比谷音楽祭は「親子孫3代で楽しめる、フリーでボーダーレスな音楽祭」というのがコンセプトです。それなのに野音だけ開催するとなると、根本的な理念である公平性や平等性というものが崩れてしまう…。なので、全てを無観客生配信で開催することに決めました。

 あと、野音は音漏れがとても気持ちの良いことで有名なので、もし野音のみ有観客で開催したら、それを聴きにいらっしゃるお客様がいるかもしれません。そうなると、いくら野音の中でしっかりと感染症対策を行っていても、公園全体を閉鎖することはできないので、想定外の人流が生まれてしまいます。それらをもとに、今回の判断をしました。

ーー苦渋の決断だったんですね。

亀田:収容率50%のお客様であれば開催しても良いという緊急事態宣言なので、僕らの仲間にもコンサートを続けている仲間たちはいっぱいいます。そんな仲間とは違った行動を取ることになるんだというのも、非常に苦しかったですね。ですが、この音楽祭は出演してくださるアーティストも多いですし、企業からの協賛や行政からの助成もいただいていて。一般の方からのクラウドファンディングにも支えられています。なので、どの立場の方を排除することもなく、安心して日比谷音楽祭を楽しめるのは、今回は無観客での生配信ライブなんじゃないかという判断になりました。

ーー様々な決断が行われた中で、DREAMS COME TRUEの出演辞退もありました。

亀田:そうですね。その連絡をいただいた時、僕はすごく気が付かされたことがありました。アーティストってライブができるようになったとしても、「やった!ライブができるぞ!」ってみんな、ただ喜んでいるわけじゃないんです。感染が完全に収まっているわけではない状況で、「自分の公演をきっかけに感染が拡大したらどうしよう。」「お客さんやスタッフを感染させてしまったら…」という、一人の人間としての葛藤がすごくあって。もちろん、僕自身にもありました。ですが、今回はしっかりと準備をして進むべきときなんだっていう思いで有観客と生配信でのハイブリットによる開催を目指してきましたが、トップ・アーティストの皆さんは、非常に敏感なアンテナを常に張ってらっしゃいます。そんな中で自分自身のライブ出演について、どう感じておられるのか、今回すごく考えさせられました。

ーーライブを開催することも、出演しないことも、どちらも正しいですもんね。

亀田:ええ。日比谷音楽祭としてはどちらも正しいということを受け入れつつ、自分たちもアクションを起こしていくことで、今回の緊急事態宣言を受け入れました。そして、多くのエンタテインメントが再開していく中、今回は無観客生配信で開催するということを決めました。そういういくつかの理由を総合しての判断です。ですのでオファーしていたアーティストの皆さんにも、今お話しした内容と、生の音楽が素晴らしいことは分かっているんだけど、これは次回以降に叶えていきたいと思っているということをお伝えしていきました。

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2020年以降のコロナ禍を振り返って 「大きく前進できた1年だったと思う」

ーー日比谷音楽祭以外にも、2020年以降 ライブやイベントが中止、延期になるなど音楽業界にとって本当に大変な状況が続いています。この1年を振り返っていかがでしょうか。

亀田:2020年は、進んだと思ったら戻らないといけないということを繰り返した1年でしたね。ですが、エンタテインメント業界が一丸となったおかげで、大きく前進できた一年だったとも思います。

 当初ライブは不要不急だと言われて去年の今頃は、「どうしてよいか分からない」というような状態でした。ですが、この1年をかけて様々な感染症対策を行い、クラスターが発生しないというエビデンスを積み上げることができました。なので今回の緊急事態宣言では、ライブは観客を減らせば開催しても良いという規制緩和がされ、コンサートは安全な場所だというお墨付きをもらえたんじゃないかなと思います。

ーーおっしゃった通り、当初は「ライブは不要不急だ」という表現もあり、音楽に携わる人たちにとって、試練の多い1年でした。

亀田:コロナの影響で、不寛容な気持ちになってしまったり、世の中が不確かな空気になってしまいましたよね。1~2mっていう、物理的なソーシャルディスタンスじゃなくて、心の距離がコロナ禍で浮き彫りになってしまったなと感じていました。でも、そういう心の距離を埋めることができるのが、エンタテインメントの力なんじゃないかなということを再認識した1年でもありました。なので、ライブやレコーディングができなくても、リモートを駆使して、音楽を作り続けていました。

 日比谷音楽祭としては、2020年は残念ながら開催中止となりましたが、本来お仕事をお願いする予定だったスタッフの皆さんへの支援金を募るクラウドファンディングにも挑戦し、約300名のスタッフに総額1,000万円をお渡しさせていただきました。それは、他にもたくさんの公演やイベントが中止となり、エンタメ業界が大きな岐路に立たされている状況に対して、音楽文化をつなげるためにできないかと考えたからなのですが、そういう活動を通じて、エンタテインメントというのは、不要不急ではなく、人々の離れた心を繋いだり、行き詰っている毎日に希望を与えるんだっていうことを伝えたかったですし、手応えもすごく感じることができました。サザンオールスターズさんも、2020年6月に、ファンの皆さんに加えて、普段支えてくれているライブスタッフ、医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカーのみなさんへの感謝の気持ちを込めた配信ライブを開催してらっしゃいましたが、エンタテインメントは華やかなだけではなくて、ステージを支える多くの多くのプロフェッショナルのスタッフの技術によって成り立っています。そういうことを伝えることができたきっかけにもなったと思います。

ーーたしかに、2020年は様々なライブが中止になった一方で、新しい取り組みも数多く生まれた1年でした。印象的だった取り組みはありますか。

亀田:例えば星野源さんの「うちで踊ろう」は僕も動画を投稿させていただきましたが、アーティストが行動を起こしていく手段が、すごく広がった1年でしたよね。コロナ禍の前は、TwitterやInstagram、あとはYouTubeで音楽を聴くということの拡がりについて、「スマートフォンで見れるから」とか「無料だから」っていう、そういうテクニカルな部分ばかりが注目されていました。




 でも、やっぱり一番大事なのはアーティストが届ける思いや作品のパワーなんだっていうことが、去年の春から夏にかけて、明確になった気がします。WHOとGlobal Citizen、そしてレディー・ガガが4月に【One World:Together At Home】を開催して、世界中で話題となりましたが、あれを見て30年以上前の【ライブエイド】みたいだなって思いましたね。

 この10年ほどで、ストリーミングやYouTubeなど、音楽の発信方法が大きく変わりましたが、コロナ禍によって、それらが一つの形として結実したのではないでしょうか。多くの方が感染によって苦しんだり亡くなられたりしていて、今も深刻な状況は続いています。ですが、音楽の届け方という面では、曇っていたものが、少しずつ視界が開けてくるようなそんな手応えも感じはじめています。

ーー2020年はヒットチャートも大きく変化した1年でした。ライブやフェスが中止となり、映画やドラマの公開も一時は延期されたことによって、タイアップによって売れるというこれまでのヒットのサイクルも止まりました。一方でTikTokなど新しいメディアを通じて、数多くのヒットアーティストが誕生しました。こういったヒットの生まれ方の変化については、どう感じてらっしゃいますか。

亀田:YOASOBIさん、瑛人さん、Adoさんや優里さん…。本当に新しいアーティストが一気に誕生して、すごくカラフルな1年でしたよね。音楽を売るための出口が、これまでは1~2本しかなかったとすると、たくさんの出口が生まれて、各アーティストが自分にとって一番居心地の良い選択をできるようになったと思います。これまでもラジオが生まれて、レコードからCDになって…。様々な発信方法が誕生してきましたが、今は、すごく健全なアクションになってきているんじゃないかなと思っています。

ーー2020年は、これまで名前も知らなかったアーティストが、どんどんHOT100に登場するという、面白い1年でした。

亀田:僕のような仕事をしていると、どうしても「なぜヒットしたのか」を分析したくなっちゃうじゃないですか。YOASOBIのAyase君とは、以前に対談をしたことがあるんですが、リップサービスかもしれないですけど、「亀田さんの作る音楽や、いきものがかりさんの音楽を聴いてきて、そこを目指しています」みたいなことを言ってくれたんですよね。もう、鼻高々で(笑)。

ーー亀田さんでも、鼻高々になられるんですね(笑)。

亀田:自分たちがやってきたことが、彼らにバトンとして渡されていってるんだなって思うと、本当にやってきてよかったなって思いました。音楽の循環みたいなものを感じて。彼らって、スタッフの方も含めてDIY精神が強くて、すごく自然体なんですよね。大人の事情や力みたいなものを全然感じなくって。そういうアーティスト自身のありのままの姿が、今の時代に受け入れられて、多くの人に支持されているんだろうなと思います。

 あと、2020年に印象的だったのはNiziUですね。プレデビュー曲の「Make you happy」は、これまででミュージックビデオが2億5000万回以上も再生されていますが、この動画が公開されたのって6月30日なんですよね。コロナが広がり続けて、僕たちがこれからどうしていったら良いか分からなかった時に、彼女たちはこのMVでこんなに多くの人たちに夢と希望を与えたんだなって思うと。こんなこと言うと笑われそうですけど、MVの公開日を知った時に僕は思わず泣いちゃったんですよ(笑)。なんか、自分の中で堰き止めれていたような気持ちが溢れて。

ーー確かに暗い話が多い中、NiziUや『鬼滅の刃』などヒット作品も生まれました。コロナが亀田さん自身の音楽に与えた影響はありましたか。

亀田:音楽プロデューサーとして30年近く活動させていただいていますが、初心に戻ったような1年でした。これまで音楽を作る時は生音をすごく大切にしていて、ミュージシャンを集めてスタジオで生の楽器でレコーディングするというのが僕のやり方でした。そして、そうやって生まれた音楽を、亀田サウンドとして多くの方に聴いていただいてきました。でもコロナ禍で、一時期ミュージシャン同士が1つのスタジオに集まることができなくなり、僕もリモートでのレコーディングにチャレンジすることになって。今、オンラインで取材を受けているこの部屋で、コツコツと作曲やアレンジをしたり、データを交換しながら、音楽を作っていると、アマチュア時代に家で、一人でギターを重ねたり、ピアノを弾いたりしながら、宅録していたことを思い出したんですよね。

 あと、Little Glee Monsterとペンタトニックスと一緒に「Dear My Friend feat.Pentatonix」を半年かけて作ったんですが、これができたのはリモートでのレコーディングにチャレンジしたおかげかなと思います。コロナ禍以前の常識ではきっと、LAと日本を行き来して作ることになりますが、コロナ禍ではそれが出来ない。しかしリモートレコーディングを駆使する事によって、離れていても作品の熱量を変えずに、時間と予算のコントロールをしながら作品づくりができるということがわかりました。

ーーリモートだからこそ、できたコラボレーションだったんですね。

亀田:コロナ禍の前までは、毎年アメリカにコライトという楽曲の共作をしに行っていたんですが、メジャーなアーティストに取り上げてもらうには、すごくハードルが高くて。でも、この企画のおかげでペンタトニックスと一緒に曲を作ることができて、とても良い経験ができました。

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ポスト・コロナに必要なこと 「見えない空気に振り回されない」

ーー昨年と今年と、コロナの影響で日比谷音楽祭は様々な紆余曲折やご決断があったと思います。それらを経て、ポスト・コロナの時代に重要だと気付かされたことはありましたか。

亀田:未知の感染症が広がった時は、「何もしない」というのが一番安全かもしれません。でも何もしないでいると、次に何かが起こった時にも、結局何もできません。どうすれば実現できるかということを考えて、エビデンスを残していく。そうすると協力してくれる人がたくさん現れてきますから。そして、その出会いがあれば、次になにか災害が起こった時の経験として活きてきます。なので、最大限の対策を取って、今ある状況を受け入れながら進んでいくことが大切ですし、そのための準備が非常に大切だということを再認識しました。

 今回、もともと有観客の生配信ライブを企画していた時から、オンラインの配信についても入念に準備してきました。もし無観客で、生配信ライブをやることになったとしても、絶対に楽しんでいただけるコンテンツにするんだということを目標にしてきました。なので、やっぱり準備をしておくこと、これに尽きるんじゃないかなと思います。

 あと、エンタテインメント業界だけでなく、コロナ禍で大変な思いをされているさまざまな業界の方に問いかけたいのは、見えない空気に振り回されないようにすることです。自分たちが、「この方向にいくんだ」って、勇気と優しさを持って進んでいくということを、しっかりと決めておくことが大切だと感じました。

ーー最後に、この音楽祭を今後どのようにしていきたいですか。

亀田:今年も生田絵梨花さんや、MIYAVI君、津軽三味線の上妻宏光さんなど、数多くのボーダーレスなアーティストの皆さんに出演いただく予定です。これは、僕がこの1年間に出会った全てを投入しているんです。【日比谷音楽祭】は、全亀田なんですよ(笑)。

 なので、お母さんが子供たちと一緒にGLAYを聴いて、「お母さんが好きなアーティストって、こんなにかっこいいんだ」ってことを知ってもらったり、子供が好きなwacciをお父さんと一緒に聴いてもらえるような、様々な世代の方に楽しんでもらえるような音楽祭として、アップデートし続けていきたいですね。そして、音楽のある生活の素晴らしさを、多くの世代の人に感じていただけるような、そんな音楽祭を作っていきたいと思っています。

 最後に、今回の生配信では音漏れをしないために、野音で収録する際も客席に通常の音響装置は設置しません。これは技術的には非常に難しくて、音響スタッフにとって音を出さずに作っていくというのは、とても大変な作業です。ですが人の流れを止めるために協力していただきました。なので、ぜひご自宅で日比谷音楽祭を楽しんでください。

ーーそこまで対策を考えられているんですね。

亀田:すごく難しい決断でしたけどね…。こういうことを発信することによって、誰かを排除することにもなりかねませんから。関係者との打ち合わせでは、もう少しバランスを取ったやり方もあるんじゃないかという意見もありましたが、今年の日比谷音楽祭はこういう考えなんだということで進めさせていただくことにしました。

 「生じゃないと、つまんないよね」っていうような内容には、絶対にならないよう、今 出演いただくアーティスト皆で、セットリストを磨き上げています。パソコンやイヤフォンなどを通じてでも、みんな最高って思ってくれる音楽祭に必ずなりますので、楽しみにしていてください。

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