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<インタビュー>Homecomingsがメジャーデビューアルバム『Moving Days』に至るまで



 Homecomingsが、5月12日にニューアルバム『Moving Days』をリリースした。

 2012年、京都精華大学のフォークソング部で結成されたHomecomings。結成から約9年、満を持してのメジャーデビューアルバムとなる本作には、サイトウ “JxJx” ジュン(YOUR SONG IS GOOD)、加藤修平(NOT WONK)、古川麦、池田若菜ら、気鋭のミュージシャンがゲストとして参加。これまでのHomecomingsらしさも残しつつ、より色彩豊かなアルバムに仕上がった。

 今回Billboard JAPANでは、メジャーデビューを決意するまでの経緯や、コロナ禍の中で製作されたアルバムについて、詳しく話を訊いた。

もしもメジャーデビューするなら、
Homecomingsというものを打ち立ててからにした方がいい

▲左から石田成美(Dr./Cho.)、福富優樹(Gt.)、畳野彩加(Vo./Gt.)、福田穂那美(Ba./Cho.)

――みなさんは元々大学のフォークソング部の先輩後輩同士だったんですよね。

福富優樹:僕と彩加さんが後輩側なんですけど、先輩2人(福田、石田)からは特別可愛がってもらっていた覚えがあります。

福田穂那美、石田成美:(首を傾げる)

福富優樹:実際どう思っていたんですか?

福田穂那美:いや、特に何も……(笑)。

福富優樹:取材で嘘つくのはよくないと思うよ?

石田成美:本当に、全然(笑)。

畳野彩加:(笑)。でも、まさか9年も(バンドが)続くとは思わなかったです。

福富優樹:9年かあ。そんな感じしないね。

――Homecomings史上最大のピンチといえば?

福富優樹:2017年の年末ですね。小っちゃい部室から始まったバンドが、外でライブをするようになって、CDを出して、フジロック(【FUJI ROCK FESTIVAL】)にも出ることができて……。いろいろな出来事があったなかでも、僕らのマインドはあんまり変わらず、「プロとして仕事を全うする」というよりは「嬉しいことがあるから続けていく」みたいな感覚で活動していたんですよ。だけど、2017年ぐらいからどんどん忙しくなっていって。平日は他の仕事をして、週末に東京にライブしに行って、日帰りで帰ってくるのが当たり前という日々が2~3年続き……。それまでは楽しさと勢いでずっと走れていたんですけど、ちょっと疲れてきちゃったんですよね。

――その感覚は分かる気がします。「楽しいから頑張れる」というのは若者の特権というか。20代半ばに差し掛かった途端、ガス欠になってしまう現象はバンド活動以外にも当てはまるかと思います。

福富優樹:僕らは当時26~27歳だったんですけど、バンドが明らかに消耗しているのに、ずっとこのノリで続けていていいのか?と。そこで「じゃあここで終わりにしようか」という話にまでなったんです。

――だけどそこで解散しなかったから今があるわけで。

福富優樹:ライブや制作が上手くいかなくても、4人でごはん食べたり移動したりしている時間は楽しかったので。多分、音楽以外の時間もしんどかったら続いていなかったんでしょうね。あと、2018年以降に忙しさの質が変わったんです。

――2018年といえば、チャットモンチーのトリビュートアルバムに参加し、映画『リズと青い鳥』の主題歌として「Songbirds」を書き下ろすなど、Homecomingsの音楽がより広い層にリーチするきっかけとなった年ですね。

福富優樹:チャットモンチーさんとも京都アニメーション(『リズと青い鳥』の制作会社)とも元々関係性があったわけではないんですよ。だからこそお仕事をいただいたことで「今までやってきたことはちゃんと伝わっていたんだ」「無駄じゃなかったんだ」と実感できて。それに、依頼を受けて曲を作る仕事はほとんど初めてだったから、お話をいただいたこと自体がめちゃくちゃ嬉しかったんです。とにかく喜びが大きくて、曲を作ることによって、自分たちが救われる感覚もありました。

▲「Songbirds」

――今話していただいたピンチは内的要因によるものですし、Homecomingsはいい意味でマイペースな印象があります。「他のバンドと自分たちを比較して思い悩む」というふうに、外的要因によって考え込んでしまう経験とはやはり無縁でしたか?

福富優樹:あ~……。それもあった気がします。ネバヤン(never young beach)やヨギー(Yogee New Waves)のような、歳が近くてよく対バンをしていた人たちがどんどんメジャーに行くタイミングがあったんですよ。

――2017~2018年ですね。

畳野彩加:その頃はフェスで同世代のバンドのライブを観て、自分たちとの差を感じることもありました。フェスに出ても、思い通りのライブにならないことが多いと感じていた時期でもあったので。

――自分たちもメジャーデビューしたいとは?

福富優樹:うーん……。可能性としては都度都度考えていたんですけど、冷静に見ていた部分もあって。ちょっとシビアな話になるんですけど、例えば、シティポップという言葉が流行った時期があったじゃないですか。Suchmos以降の流れのなかで、僕たちも注目されていると感じた瞬間はあったし、その辺りの時期に一度メジャーデビューのお話もいただきました。だけど、「シティポップのバンド」としてひとまとまりにされるのはよくないと思っていたので、「今じゃないんやろうなあ」という感じでしたね。だから「早くメジャーに行きたい」みたいな感じではなかったですよね?

畳野彩加、福田穂那美、石田成美:(頷く)

――「今流行りのバンドです」とカテゴライズされて、ブームとして消費されることに対する危機感があったんですかね。

福富優樹:そうですね。僕、京都のタワーレコードで働いていたんですよ。CD屋さんは半ば自分たちでブームを作っている側なので、そういうことに敏感になるというか。流行っているバンドを一つの棚に集めるけど、売れればそのコーナーはずっと残るし、売れなければその棚は違うコーナーに変わる。だから、もしもメジャーデビューするなら、ブームに乗っかるのではなく、Homecomingsというものをちゃんと打ち立ててからにした方がいいんやろうなあとは感じていましたね。

――逆に言うと、打ち立てられた実感があるからこそ、今ならメジャーデビューできるということですよね。

福富優樹:そうですね。前回のアルバム『WHALE LIVING』で初めて日本語詞に挑戦し、手応えを得られたことが大きかったです。

▲『WHALE LIVING』より「Blue Hour」

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多くの人に聴かれる可能性があるからこそ、
自分たちの大事に思っていることをちゃんと落とし込みたい

――アルバムを制作するうえで、メジャーデビュー作品であることは意識しましたか?

畳野彩加:作曲面では、むしろ意識しすぎないように気をつけていました。「Moving Day Pt. 2」をJxJxさん(サイトウ "JxJx" ジュン)にプロデュースしていただいたり、古川麦さんにトランペットを演奏していただいたり、(Homecomingsの所属事務所となる)カクバリズムの人たちに分かりやすく参加してもらってますけど、メジャー感を出しすぎるのは私たちらしくないと思って。

福富優樹:逆に、歌詞やテーマは、メジャーデビューアルバムであることを意識して考えました。多くの人に聴かれる可能性があるからこそ、自分たちの大事に思っていることをちゃんと落とし込みたいなと思ったんです。

――アルバム全体のテーマは前作『Cakes』から引き継がれているものですよね。

福富優樹:そうですね。前作の表題曲「Cakes」は「僕」や「私」という言葉を全く使わずに書いたラブソングでした。男性同士の恋愛もあるし、女性同士の恋愛もあるし、もちろん男性と女性の恋愛もある。いろいろな恋愛に関われるような曲にしたいという想いを込めて作ったのが前作だったんですけど、それをどうやったらアルバムに落とし込めるのか、この2年間ずっと考えていたんです。そういう意味で今回の1曲目の「Here」は自分としても胸を張れる感じがあるというか。多様性にリーチするラブソングを作りたいという気持ちで書いたのが「Cakes」で、「Here」はそれをもうちょっと具体的にした感じ。それで〈同じ形を持ち寄って〉という歌詞を書いたんですけど。

――なるほど、同性同士の恋愛を表しているんですね。

福富優樹:1週間前に「性風俗業は本質的に不健全だから、国の給付金は対象外です」というニュースを見たんですよ。だけどそれはやさしさが足りないし、よくないことだと僕は思います。そうやって社会からこぼれ落ちてしまう人にとって救いになる曲を書きたいという気持ちが強くて。「Here」の歌詞には自分の想いが一番こもっているなあと感じますし、僕はこの曲がすごく好きですね。

▲「Here」

――この流れで、特に思い入れが強い曲をそれぞれ挙げていただけますか?

石田成美:一つに決め難いんですけど、私は「Herge」という曲が好きです。ギターでNOT WONKの加藤くん(加藤修平)が入ってくれたんですよ。それはレコーディングの日に福富くんがたまたま手を怪我していて、ギターを弾けなかったからなんですけど。

福富優樹:NOT WONKは北海道のバンドなんですけど、ちょうどレコーディングで東京に来ていたみたいで。

石田成美:メンバー以外の人にギターを弾いてもらうのはHomecomingsにとって新しいことだったんですけど、元々交流があったからか、彼のギターのプレイが「Herge」という曲にすごくマッチして。この曲がよりポップになったのは加藤くんのギターのおかげですし、アルバムを象徴するような曲になったと思いますね。

▲「Herge」

福田穂那美:レコーディングが印象的だった曲といえば、「Moving Day Pt. 2」もそうでした。この曲はJxJxさんにプロデュースしていただいたんですけど、プリプロからレコーディング当日、録ったあとのミックスまで、すごく丁寧に関わってくださったんですよ。本当に細かいところまで見てくださって。最初にBPMを決めるときも、1の違いをみんなで聴き比べるんですよ。そういうレコーディングは新鮮でしたし、いい経験をさせていただきました。

畳野彩加:私は「Tiny Kitchen」や「Blanket Town Blues」によってこれからの可能性が広がったと思っています。宅録っぽい曲は今までやってこなかったんですけど、打ち込みでもここまでできるんだなという発見があったのはすごく大きかったなあと思います。自分たちが今すごくやりたいこと、今まで挑戦したかったことが詰まっているけど、Homecomings感もちゃんとある。自分の作曲においては、この2曲が結構キーになっているような気がします。去年はスタジオになかなか入れない時期もあったんですけど、細かくデモのやりとりをしながら曲を作る方法が私たちには結構合っていて。

福富優樹:スタジオで曲を作ると、4人だけの音で成立させがちになっちゃうからね。今はある意味何の制限もなくなったというか。「生で演奏するのは絶対に無理」というフレーズも入っているし、ギターの重ね方にもそれが表れている気がしますね。だから、ライブではまた違う感じになりそうです。

――ライブバージョンも楽しみにしています。最後に、メジャーレーベルの所属になったことを活かして、今後やってみたいことがあれば教えていただけますか?

福富優樹:インディーズだからこそ自由にできていたこともありますけど、それをメジャーでもできたら……いろいろな方の助けを借りて規模を大きくさせられたらいいなあと思います。僕たち「New Neighbors」というイベントをやっているんですよ。そのイベントでは映画を1本上映したあとにライブをするんですけど、それでツアーを回れたら面白いんじゃないかと。音楽や映画、小説など、自分たちが好きなカルチャーを繋ぐ存在でいたいです。

Homecomings「MOVING DAYS」

MOVING DAYS

2021/05/12 RELEASE
PCCA-6041 ¥ 2,970(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Here
  2. 02.Cakes (Album Version)
  3. 03.Pedal
  4. 04.Good Word For The Weekend
  5. 05.Moving Day Pt.2
  6. 06.Continue
  7. 07.Summer Reading
  8. 08.Tiny Kitchen
  9. 09.Pet Milk
  10. 10.Blanket Town Blues
  11. 11.Herge

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