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<コラム>多様化するYouTubeの音楽番組チャンネルと、アーティストの“言葉”を届ける『blackboard』の魅力
コンセプチュアルなYouTube音楽チャンネルのムーブメント
YouTubeが音楽との出会いに大きな役割を果たすようになってきた昨今。ミュージック・ビデオだけでなく、一つのコンセプトをもとに運営される音楽チャンネルが大きな影響力を持つようになってきている。地上波の音楽番組やCSの音楽専門チャンネルと同じように、YouTubeチャンネル自体がメディアとしてブランド化し、気鋭のアーティストを発掘・紹介していく潮流が生まれている。
なかでも世界中の音楽ファンに愛されているのが、アメリカの公共ラジオ放送 NPR(National Public Radio)の『Tiny Desk Concerts』だろう。NPRの音楽部門のオフィスの一角で行われるパフォーマンスを収録した人気企画だ。シンプルな演奏と親密な雰囲気が人気を呼び、2008年から10年以上にわたって音楽界の重鎮から期待の若手まで数々のアーティストが出演してきた。
日本のアーティストではコーネリアス、CHAI、民謡クルセイダーズらが『Tiny Desk Concerts』に登場。
エッフェル塔やウユニ塩湖やモン・サン・ミシェルなど、世界各国の絶景スポットでDJがパフォーマンスを繰り広げる、2016年に始まったフランス発のチャンネル『Cercle』も人気だ。ドイツ・ベルリン発の音楽プラットフォーム『COLORS』が2016年にスタートした『A COLORS SHOW』も、R&Bやヒップホップを中心に新進気鋭のアーティストをいち早く紹介するチャンネルとして注目を集めている。日本でも、2019年にアーティストの一発撮りのパフォーマンスを切り取るYouTubeチャンネルとしてスタートした『THE FIRST TAKE』が大きく登録者数を伸ばしてきた。その背景には、こうしたコンセプチュアルなYouTube音楽チャンネルが支持を集めるようになってきた世界的な流れがあるとも言える。
FKJ live at Salar de Uyuni in Bolivia for Cercle
Billie Eilish - idontwannabeyouanymore | A COLORS SHOW
YOASOBI - 群青 / THE FIRST TAKE
そして今、こうしたムーブメントの中で頭角を現しつつあるYouTubeチャンネルが、2020年8月にスタートした『blackboard』だ。
『blackboard』は、大きな黒板を前にアーティストが“先生”となり、楽曲を“教科書”として「歌に込められたメッセージ」を視聴者に伝えるYouTubeチャンネル。
コンセプトは“教室”だ。チャンネルの概要には「もしもあのアーティストが自分の学校の先生だったら… もしもあのアーティストが自分の教室で歌を歌ってくれたら…」とある。
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歌に込められた“言葉の意味”を伝える『blackboard』
登場するアーティストも特徴的だ。特に目を引くのは、TikTokやストリーミング・サービスのバイラル・チャートで注目を集めたニュー・カマーがいち早くフィーチャーされていること。その代表が、昨年に大きな飛躍を果たした川崎鷹也の「魔法の絨毯 (blackboard version)」だろう。「魔法の絨毯」は、川崎が2018年にリリースした『I believe in you』の収録曲。2020年夏にTikTok内でカップル動画に使われたことがきっかけでバイラル・ヒットを起こし、TikTok のCMソングとして起用されたこともあり、同プラットフォーム内での使用動画数は27,000本以上に増加、並行して各ストリーミング・サービスのチャートでも上位を記録した。『blackboard』で披露されたのは昨年10月で、今年1月には『ミュージックステーション』でのパフォーマンスも果たすなど、着々とステップアップを重ねている。
川崎鷹也「魔法の絨毯 (blackboard version)」
他にも、もさを。、しまも、水野あつ、Broken kangarooなど、SNSを介して人気を広げたシンガー・ソングライターたちが教室を模した舞台でパフォーマンスを繰り広げる。
一方で『blackboard』には、PUFFYや渋谷すばるやソナーポケットなど、中堅やベテラン・ミュージシャンも幅広く登場している。バラエティ豊かなメンツの中でも注目すべき1曲は、タケヤマカルメラ「ヘイ・ユウ・ブルース ~許せ、友よ~ (blackboard version)」だろう。
タケヤマカルメラ「ヘイ・ユウ・ブルース ~許せ、友よ~ (blackboard version)」
タケヤマカルメラとは、カンニング竹山と大阪発のジャズ・バンド、Calmeraによるユニット。披露したのは、左とん平が歌った「とん平のヘイ・ユウ・ブルース」(1973年)に新たな歌詞をつけてアレンジしたカバー・バージョン「ヘイ・ユウ・ブルース ~許せ、友よ~」だ。歌詞には、コメンテーターとして情報番組に出演することも多くなった竹山の視線からのリアルな心情、生々しい叫びが綴られる。
こうした動画を見ていくと、『blackboard』の演出の最大の特徴が“言葉の見せ方”にあることがわかる。
黒板をモチーフにしていることで、必然的に歌詞の言葉がフィーチャーされる。そして、よくあるリリック・ビデオと比べると、その“言葉の見せ方”の違いも鮮明になる。カラフルな色彩と装飾的なフォントを用い、ビートに乗せてリズミカルに言葉の“響き”を伝えてくるのが、EDMやポップ・ミュージック全般に用いられる一般的なリリック・ビデオの作風だ。一方、『blackboard』では、アーティストの背後にある黒板の文字をカメラが切り取る映像で、いわば言葉の“意味”を伝える画面構成になっている。
“学校×音楽”というモチーフを用いることで、歌に込められたメッセージをクローズ・アップするのが、『blackboard』のコンセプトの軸だ。
YouTubeチャンネルの多様化と“音楽番組化”が進む2020年代。『blackboard』もその一角を担う存在になってきているようだ。