Special
<インタビュー>eillが語る自身のルーツと転機 “本当に息ができる場所”から生まれた新曲「ここで息をして」
K-POP、ブラックミュージックなどをルーツに、R&B、エレクトロ、ロックなど多彩な要素を取り入れた音楽性、そして、切なさ、儚さ、力強さを共存させたボーカルによって存在感を強めているシンガーソングライター・eillが、1stデジタルシングル「ここで息をして」でメジャーデビューを果たす。TVアニメ『東京リベンジャーズ』エンディング主題歌に起用されたこの曲は、ジャズのテイストを取り入れたアッパチューン。<君以外はもう何もいらないと/いつもここで息をして>というフレーズを響かせるこの曲からは、アーティスト・eillのポテンシャルの高さが伝わってくる。
Billboard JAPAN初登場となる今回のインタビューでは、彼女の音楽的なルーツ、これまでの活動、「ここで息をして」の制作などについて語ってもらった。
出発点は韓国ガールズ・グループへの憧れ
転機となったSKY-HI、m-floとのコラボ
――デジタルシングル『ここで息をして』でメジャーデビュー。まずはいまの心境を教えてもらえますか?
eill:音楽活動を始めた頃、メジャーデビューは憧れだったんです。最近、当時のことを思い出すことが増えてるんですけど、「憧れてた場所に立ってるんだな」と実感しますね。
――アーティスト、歌手を目指したのは何歳くらいだったんですか?
eill:歌手になりたいと思ったのは、13才、中学1年のときですね。もともとK-POPが大好きで、KARAや少女時代をよく聴いてたんです。小学校の学習発表会で踊ったこともあるんですけど(笑)、そのうち音楽やファッションだけではなくて、彼女たち生き方にも惹かれるようになって。「私もあんなふうに輝いている人になりたい」と思ったのがきっかけですね。
――韓国のガールズ・グループへの憧れが出発点だったんですね。
eill:はい。“ガールズ・クラッシュ”という言葉も韓国発ですからね。BLACK PINKもそうですけど、誰にも媚びてない姿もカッコいいなと。私は自分に自信がなくて、肯定できるものが何もなかったんですよ。それを変えるきっかけになったのが彼女たちだったんだと思います。あとはお母さんがモータウン好きなので、その影響もありますね。
――スティービー・ワンダーとかジャクソン5とか?
eill:そうですね。特にフォー・トップス、テンプテーションズなどのコーラスグループが好きでした。
――歌に関してはどうですか? 当時から「私は歌の才能がある」という実感もあったんでしょうか?
eill:いや、全然なかったです。超音痴で、カラオケに行ったときに友達に「歌わないほうがモテるよ」と言われたこともあって(笑)。ただ、「歌手になれる」と思ってたんですよね、なぜか。お母さんからも「そんなに簡単になれるものじゃないよ」と言われていたし……。そういえば、「1か月がんばって練習するから、そのときもう一度聴いてほしい」と言ったことがあるんですよ、お母さんに。1か月後に聴いてもらったら「こんなに上手くなるなんてすごい」って褒めてくれて。それからはすごく応援してくれてますね。
――中学生の頃からオーディションを受けてたんですよね。
eill:はい。韓国でデビューしたかったから、JYP、SMエンタ-テインメントのオーディションを受けたんですけど、全然ダメで。「これで最後にしよう」と思って受けたオーディションで、大失敗したんですよ。自分でラップを作ったんですけど、本番で全部忘れてしまって……。その後は日本のオーディションを受けたり、シンガーソングライターとしてライブ活動を始めて。それがメジャーデビューにつながったので、結果的にはこの道でよかったんだなと思ってます。
――SKY-HIさん、m-floの楽曲に参加したことも転機の一つだったのでは?
eill:すごく大きかったと思います、それは。SKY-HIさんの楽曲(SKY-HI 「New Verse -Remix- feat. eill」)に参加できたのは公募がきっかけだったんですよ。SoundCloudにアップした音源で選んでもらえたので、すごく自信になりましたし、SKY-HIさんの言葉選び、曲の作り方にも刺激を受けましたね。m-floさんの“LOVES”(m-flo♡Sik-K & eill & 向井太一 「tell me tell me」)に呼んでもらえたのもいい経験になりました。m-floのみなさんは遊ぶように曲を作っていて、仕事って感じが全然なくて。それがすごくカッコいいと思ったし、いつも新しいことを続けられる理由はこれなんだなと。
▲SKY-HI「New Verse -Remix- feat. eill」
▲m-flo♡Sik-K & eill & 向井太一「tell me tell me」
――なるほど。さらに2019年に発表した楽曲「SPOTLIGHT」も大きな注目を集めました。
eill:「SPOTLIGHT」は今年になってからJBLポータブルスピーカーやコスメ(GENE TOKYOのアイブロウペンシル)のCMソングに起用していただいて。自分でもビックリしてます。この曲を書いたときは、暗闇のなかにいるような気持ちだったんですよ。デビュー作の(ミニアルバム)『MAKUAKE』は、“売れる・売れない”みたいなことを考えず、好きなように作らせてもらったので、ある意味ラクだったんです。その後、「自分に足りないものはなんだろう」と考え始めて。いろんな葛藤を味わいながら作ったのが、「SPOTLIGHT」だったんですよね。特に大変だったのは歌詞です。周りの人たちからも「歌詞がもっと良くなるといいね」と言われていたし、私もそのことはわかっていて。歌詞のことを考えすぎて、眠れない時期もあったし……。そういう環境だからこそ書けた歌詞なのかなと。
▲eill「SPOTLIGHT」
――「うまくいかない日も怖くないね/本当の私に出会えたから」もそうですが、力強い意思が感じられる歌詞ですよね。
eill:光がない場所にいて、どこに向かっているかもわからなかったからこそ、「自分に光を当てるのは自分だ」という曲にしたくて。ファンの人たちから「『SPOTLINGHT』が好き」と言ってもらえるのも嬉しいですね。
――eillさん自身のリアルな感情が、曲を通してしっかり伝わったんでしょうね。
eill:そうですね。そうかもしれないですね。最初の頃は「こういうことを伝えたい」「この気持ちを歌いたい」というものが全然なくて。スタッフのみなさんにも「え、ないの?」と言われたり(笑)。きっかけになったのは、20才のときに書いた「20」という曲ですね。「永遠の20」「なにも怖くはないよ」という歌詞があるんですけど、ライブのとき「20」を歌うときに思っていることを話したら、女の子のファンから「強い言葉を発するeillちゃんに勇気をもらった」「私もやりたいことをやろうと思います」という声をもらって。その経験が「SPOTLIGHT」とか「踊らせないで」などの歌詞につながったんじゃないかなと。
▲eill「20」
Interview:森朋之
Photo:Yuma Totsuka
「本当に息ができる場所ってどこだろう?」
――メジャーデビュー曲「ここで息をして」は、ジャズのテイストを取り入れたアッパーチューン。作曲は宮田“レフティ”リョウさん(CHEMISTRY、V6、sumikaなど、数多くのアーティストの楽曲に関わるクリエイター)との共作ですね。
eill:はい。ギターのフレーズを私が歌って、それをレフティさんが弾いてくれて。それをもとにしてトラックを作って、メロディを乗せて、ピアノのイントロを付けてという感じですね。あとは二人で作ったデモをバンドのメンバーに渡して、アップデートさせていきました。
▲eill「ここで息をして」
――バンドメンバーのセンスも反映されてるんですね。
eill:そうなんですよ。実際に音を出してアレンジするんですけど、途中でどんどん変化して、少しずつeillのサウンドに近づいて。誰かひとりでも欠けると、eillの音楽にならないんですよね。それは自分でも不思議だし、おもしろいなと思います。
――「ここで息をして」は、TVアニメ『東京リベンジャーズ』のエンディングテーマですが、歌詞はどんなテーマで書かれたんですか?
eill:まず原作のマンガを読んで、ヒロインの橘日向ちゃんに向けた歌詞にしようと思ったんです。日向ちゃんは死んでしまう運命なんですけど、いつも太陽みたいに明るくて、相手にパワーを与える存在で。笑顔がすごく魅力的なんですが、「この笑顔の裏には何があるんだろう?」と想像しながら歌詞を書きました。日向ちゃんのことだけではなく、私自身の思いも込めてますね。コロナの影響もあったし、去年は息苦しさを感じることが多くて。「本当に息ができる場所ってどこだろう?」と考えることもあったんですけど、そのなかで、バンドメンバーやスタッフのみなさんとの絆の強さを感じて。そういう気持ちも混ざってるんですよね、「ここで息をして」には。
▲『東京リベンジャーズ』の映像を使った「ここで息をして」ティザー
――3月21日に行われたワンマンライブで初めて披露されましたが、手ごたえはどうでした?
eill:「ここで息をして」というタイトルだったんですけど、息(ブレス)する場所がぜんぜんないんですよ(笑)。リハのときも大変だったし、本番では足を踏ん張って歌ってましたね。ファンの皆さんにも楽しんでもらえたと思うし、ラジオで初オンエアしてもらったときも、「カッコいい」という声をもらえて嬉しかったです。
――メジャーシーンに進出したことで、活動のフェーズも変わってくると思います。この先、どんなことをやっていきたいですか?
eill:やってみたいことは尽きないんですよ。もともとは色々と考えちゃうタイプで、「片っぽ」という曲をリリースしたときも、初めてのバラード曲だったので「どんな反応が来るのかな」と不安だったんですけど、みんながすごく受け入れてくれて。今は何も怖くないし、やりたいことをやっていくぞ!という感じです。トラック系のトラックでラップをやったり、ゴスペルを取り入れた曲も作ってみたいですね。
――ライブに関してはどうですか?
eill:もともと「この会場でやりたい」という目標はなかったんですけど、Official髭男dismの武道館ライブを観させてもらったときに、「バンドメンバーと一緒にここに来たい」と思って。支えてくれてるみなさんと一緒に、あの光景を見てみたいですね。
Interview:森朋之
Photo:Yuma Totsuka
関連商品