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<インタビュー>和楽器バンド×畠中祐 『MARS RED』の世界をいち早くお届け



MARS REDインタビュー

 藤沢文翁の人気音楽朗読劇をアニメ化した『MARS RED』が2021年4月5日に初回放送を迎える。大正時代の東京を舞台に、闇に紛れて生きてきたヴァンパイアを勧誘・捕縛するために設立された対ヴァンパイア機関“零機関”の戦いと葛藤を描くこの話題作には、畠中祐、諏訪部順一、山寺宏一、石田彰、鈴村健一など、実力・人気を備えた豪華キャストが集結。そしてオープニングとエンディングを和楽器バンドの「生命のアリア」とHYDEの「ON MY OWN」が彩るという、音楽ファンにとってもたまらない作品だ。注目が集まるアニメの放送を前に、和楽器バンドから鈴華ゆう子(Vo.)、作詞・作曲を担当した町屋(Gt. / Vo.)、主人公・栗栖秀太郎の声を担当した畠中祐のインタビューをお届けしよう。

――「生命のアリア」は1月4日に開催された【大新年会2021 日本武道館2days ~アマノイワト~】で初披露されました。初披露に向けて、前から準備されてきたと思うんですが、実際にオファーが来たのは、いつ頃だったんでしょうか?

町屋:一昨年ですね。2019年にお話をいただきました。これまでに何度かアニメのタイアップをやらせていただきましたが、(放送が先なのに)こんなに早い段階で締め切りを設定されることがなかったので、このプロジェクトに制作陣の皆さんがかなり気合いを入れているんだと感じました。(制作は)動き出すのが早かっただけで、特に忙しく作った感じはないです。

鈴華ゆう子:最初にオファーをいただいたとき、「そんな先の作品のために私たちに声をかけてくれた!」っていう感動と喜びがあって、時間があること自体に、皆さんがひとつになって動こうとしているのを感じましたし、そこに関われることが嬉しかったです。メンバーそれぞれが書いた曲の中からいい曲を選んで提出しました。選ばれた曲の内容を詰めたり、レコーディングしていったりしたんですが、その流れができたのは、時間があったからこそだと思います。

畠中祐:グループ内で曲を出しあって、一回、皆さんが選定したってことですか?

町屋:そうです。それぞれメンバーが曲を書いたんですけど、ほぼ同じテーマの曲が集まりました。

畠中:すごいですね、全部聴きたいです。全部『MARS RED』のために書いたってことですよね? もったいないな~! 「生命のアリア」はその選りすぐりの楽曲なんですね。

鈴華:そうです。まっちー(町屋)が書いた曲が採用されたので、私の曲は眠ってます(笑)。最後の2曲まで残ったんですけどね~。

――普段から町屋さんがバンドの曲を作っていることが多いので、てっきり今回もメインで作られたものだと思っていましたが、そんな背景があったんですね。もしかしたら山葵さん(Dr.)の曲が選ばれていた可能性も十分にあったと……。

町屋:たぶん彼は、3曲は書いていましたね。山葵はいつも10曲ぐらい書いてくるんですけど、作り方は人それぞれで、やり方はどっちもアリだと思うんですよ。いろんな側面から切り取って書いた曲がいっぱい出来上がるのも一つの方法だと思うし、僕は1曲にすべてを詰め込もうと決めていたので、1曲に集中しました。

鈴華:私が書いた曲は変化球のような曲で(町屋の)王道と変化球が残ったんです。メンバーで2曲に絞ったのですが、最後のジャッジはアニメの制作側の皆さんに委ねました。

畠中:その変化球の歌は一体どんな曲なのか聴いてみたいですね。いや、こんな物語があったなんて知らなかったので、びっくりです。

――畠中さんにはいつ頃このオファーが来たんでしょうか?

畠中:最初のオーディションが確か2019年4月で、そのあと何回かオーディションがありました。藤沢文翁さんが演出をしながら各キャラクターがスタジオでオーディションを受けていって、それが夏ぐらいだった気がします。収録は2019年の年末ぐらいから始まりまして、コロナになる前だったので、みんなで途中まで録ることができました。まさか2021年に放送される作品と思ってなかったので、放送日を聞いたときは衝撃的でしたね。「2020年の4月じゃないんですね?」って何回も確認した記憶があります。

――普通は放送日の直前にレコーディングされるんでしょうか?

畠中:作品によるんですけど、だいたい放送開始の3~4か月前です。最近はちょっと早い傾向があるんですけど、前まではそれくらいのスケジュールだった気がします。で、毎回、最終話が近づくと「ヤバい、あと3週間後で放送だ」みたいになり……完成していない絵を見ながら収録するんですが、その絵から結構な切迫感を受けまして……(笑)。でも、その衝動に掻き立てられながら頑張る、みたいなところがあったので、ここまで時間をたっぷりかけて丁寧に録っていくのは、すごく新鮮でした。現場でもこの『MARS RED』に対する思いや気合いが感じられました。


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音楽そして物語の全部が合わさって
『MARS RED』を語っている感じがします

――藤沢先生には音楽朗読劇の第一人者として多くのファンがいらっしゃいますが、その音楽朗読劇を初めてアニメ化した作品ということで、放送を楽しみにしている方も多いと思います。まるで映画のような壮大なストーリーで、そんな期待の作品に関わることになり、今までとは違う取り組みやプレッシャーはありましたか?

町屋:今おっしゃったように、映画みたいで、文章を読んだだけでその景色がイメージしやすかったので、音楽を作る側としては作りやすかったです。僕らの役割はあくまで作品を補完してあげることなので、こういうシリアスもので、時代背景から作品の内容がしっかり伝わってくる作品は、すごくやりやすかったです。

畠中:キャストの多くが文翁さんの朗読に参加されている座組の方々で、信じられないくらい豪華なんです。僕らの大先輩のさらに先輩のような方々が出られていて、飲み会で諏訪部(順一)さんがお酒を注ぎに行ったり、注文されたりしていて……俺からしたら「あの諏訪部さんが!」っていう状況でして。山寺(宏一)さんや家中(宏)さんが諏訪部さんの先輩にあたるので、そんな現場ですごく緊張したんですけど(笑)、町屋さんがおっしゃる通り、文翁さんが作った『MARS RED』は、何を伝えたいのかが明確にある作品なんです。文翁さんから「主人公の栗栖秀太郎は素直で、すべてのものに驚き、すべてのものに素直に反応していく人間だから、そのままでやってください」と言われて、すごくスッキリしました。大正時代の軍人なのでいろんなことを考えなきゃいけないと思っていたんですけど、シンプルにストレートに演じさせてくれたので、やりすかったですし、現場もすごく楽しかったです。

鈴華:朗読って耳から得る情報で自分の中で世界が膨らんでいくじゃないですか? 文翁さんから「世界観を広げるための単なるBGMじゃなく、それに対等なものとして、一つの世界を広げてほしい」と聞いて安心しました。

畠中:ミュージックビデオもアニメで描かれている街並みで、歌詞もすごくヴァンパイアに寄り添ってくれていて……。ヴァンパイアだけど、人間の心を失いたくない――そういう切ない気持ちを描いている作品なので、歌詞一つ取っても、歌声一つ取っても、そこから切なさがひしひしと感じられました。統一感があるというか、音楽そして物語の全部が合わさって『MARS RED』を語っている感じがしますね。


――『MARS RED』の収録が終わった今、改めてこの作品が伝えたいテーマってどんなことだと思いますか?

畠中:今まで描かれてきたヴァンパイアってクールな部分が目立っていたように思うんです。ちょっとヒロイック(勇ましい)なイメージもあって、彼らの葛藤はあまり描かれてこなかったと思うんですよ。日の光に当たると燃えてしまうという弱点はありましたが、ヴァンパイアであることの意味、世の中から認められない存在になってしまうことの意味にフォーカスしています。ある意味、死を宣告されているようなものなんですよね。結婚してたり、恋人がいたりしたら、「彼は死にました」って告げられるわけだし、世の中から「気持ちの悪い生き物」って差別される対象になる。そういう負の感情を抱えた存在になりながらも、「僕の心はまだ死んでない、人間なんだよ」っていう叫びを届けたくても届かない。歴史的な背景によって消されてしまう人たちの嘆きがこの物語にある気がします。そんな状況でも懸命に生きる人たち、人として真っすぐ生きようとする人たちの物語なので、彼らの姿に少し背中を押してもらえる瞬間があると、僕は思います。

――「好きでヴァンパイアになったわけではない」という葛藤がありそうですね。諏訪部さんがイベントで「社会的マイノリティであるヴァンパイアがどう生きていくかに注目」とおっしゃっていましたが、今の畠中さんの言葉にもあったように、人間から差別されてしまうヴァンパイアの苦しみに似た部分は、歌詞にも描かれていますね。

町屋:制作に関わった全員の見ている方向が一緒だからこそ、それぞれの視点に相違がないんでしょうね。大まかなベクトルが一緒なので、きっと作品の説得力というものに繋がっていくと思います。僕は最初の<揺れる鬼灯、淡き夢に~萌えては枯れる>までのくだりに全てを込めていて、後は全部補足なんです。ここ、『MARS RED』のヴァンパイアっぽくないですか?

一同:ハハハハ(笑)!

鈴華:彼(町屋)はこの作品のヴァンパイアにリンクするなって見ていて思います。役者さんや声優さんもそうだと思うんですけど、一回その世界に入り込んで、自分の中に落とし込む――もちろん作品を客観的に見て曲を書いていますが、彼の中に出てきやすいものがあったんだと私は傍で見ていて感じました。死や儚さと近いところにあって、なんとなく合ってる感じがします。

町屋:たぶん、メンバーの中で最もロック・ミュージシャンっぽいミュージシャンなんですよ。名前が残っている歴代ロック・ミュージシャンって早くに亡くなっている方が多いじゃないですか? 命は突然儚く、みたいなところに入り込みやすいんです。この作品のヴァンパイアとそこに類似性があったので、そういうところが歌詞にも表れているんでしょうね。

鈴華:社会的なマイノリティーと聞いて、「そっちの世界の人だよな」とも思いました(笑)。(腕のタトゥーを差して)最初は怖くて、話せなかったですもん。

畠中:それ、タトゥーだったんですね! 自然だったので、まったく気づかなかったです(笑)。よく銭湯に貼ってある「タトゥー禁止」の絵って大体怖そうに描かれているので、タトゥーって聞くと少し距離感があったんですけど、こうやって近くで見てみると芸術ですね。

町屋:人の第一印象って長く続きますし、やっぱりタトゥーで判断されることもあります。無理な人は全然寄ってこないし、見た目で判断しない人もいますし、なにも触れてこない人もいます。タトゥーを入れてから、人間観察が楽しくなりました。僕は大体(タトゥーを入れた)後のことを考えていて、自分の体はキャンバスのように自分を表現する一つのツールだと思っているんです。自分はこういう人間だって周りに発信するために、僕にとってタトゥーは割と自然な方法でした。公演で世界各地を回ったときに、空き時間で彫っていたら、いつのまにかこんなに体中に入っていて、不思議に思ったこともあります。

鈴華:(笑)。このバンドにまっちーを誘ったのが私なんですけど、私はそれまでクラシック音楽とか舞、詩吟をやっていて、タトゥーが入った人と話したことがなかったんです。初めて会ったときに「この人怖そうだけど、怖いって思わないように振る舞おう」と、たくさん話しかけたら、めっちゃ話してくれて、印象が変わりました。それまでの音楽も見た目も全然違うけど、同じ感覚を持っていると感じたし、やっぱり似ているところもあって、面白いですよね。

畠中:そういう感じは『MARS RED』の登場人物たちにもあります。信念じゃないですけど、絶対に守りたいもの、負けたくないものをみんな持っていて、そういう沸々と湧き出る静かな熱量みたいなものは、確かに共通点だと思います。

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カッコよく決めるだけじゃ
済まされない気がしたんです

――タイトルの「生命のアリア」はどういう意味なんでしょうか?

町屋:意味というよりは、この作品のヴァンパイアを例えるなら、という感じですね。何か一つ言葉を授けるなら、僕の中のキャッチコピーは<瞬く生命のアリア>なんです。

――ヴァンパイアって自分から死なない限り、死ぬことはない半永久不滅みたいなところがあって、枯れることのない枯れた命の切なさが、アニメのオープニングとして視聴者に伝わると思います。

町屋:この作品は思いっきりシリアスなので、カッコよく決めるだけじゃ済まされない気がしたんです。この作品を曲で表現するために、言葉一つ一つの意味も考えたし、はめ方にも注意しました。

畠中:ほんとにシリアスなところはシリアスに描いているので、だからこそ、歌詞に出てくるストレートな言葉が重みを増して胸に響いてくるというか、ほんとに『MARS RED』だなって感じました。

――鈴華さんはボーカリストとして、個人的に響いたワードやこだわった歌唱ポイントはありますか?

鈴華:冒頭ですね。そこの歌い方をどうするかで曲の世界観が全て決まると思ったので、いろんな声で何パターンか歌ってみたんです。逆にシリアスになりすぎると合わないなと思ったんですよ。パンっと印象的に、ちょっと強く、少し私らしさも出したほうがいいなと、こだわりました。あと、ミュージックビデオでは表情もすごく意識しました。特に目ですね。目だけでどう表現しようか、すごく考えました。シリアスな感じなんですけど、暗くなりすぎないバランスや美しさがあるほうが和楽器バンドらしいと思ったので、ボーカリストとしてどういった表情で表現しようかと、今回はいつも以上にこだわった気がします。

――エンディングにはHYDEさんの「ON MY OWN」が使われます。この曲もかなりロックに仕上がっていて、英語が多用されていて、和の雰囲気が漂うオープニング曲とは違う二面性を感じました。

町屋:めちゃめちゃ新鮮でした。ティザー映像で初めて聴いたんですけど、同じ作品でも、こういう切り取り方もあるんだって思いました。カッコイイなって。

鈴華:2019年にHYDEさんとニューヨークでツーマンのライブをしたことがあるんです。HYDEさんのイベントに呼んでくださったり。またこうしてご一緒できるのは喜びでした。HYDEさんは私たちがミュージシャンになる前からの憧れですから。


――「ON MY OWN」もヴァンパイアに寄り添って書かれたようです。

町屋:HYDEさんもヴァンパイアみたいなものですから(笑)。なにかご縁を感じますね。

――確かに、尖った歯とか、まるで噛んだ後のような真っ赤な口元の印象がありますね(笑)。音楽ファンも注目であることは間違いないのですが、最後にアニメを楽しみにされている方々へメッセージをお願いします。

町屋:すごくシリアスな話ですし、見た後はきっとどっと疲れると思います。でも、この「生命のアリア」を聴きながら『MARS RED』のことを考える時間は至福の時間になると思うぐらい、ほんとに余韻も楽しめるアニメだと僕は心から思うので、是非「生命のアリア」そして『MARS RED』のどちらもたっぷり見て、たっぷり聴いて、深く深く浸っていただけたらと思います。

鈴華:二年くらいかけて、同じ感覚を持ったプロたちが大事に温めてきた作品がやっと世に出ます。チームで一つになって作り上げたこの作品を是非見ていただけたら嬉しいです。

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