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<コラム>変態紳士クラブが時代に愛されるのは必然? これまでのチャート変遷&音楽性に迫る



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 変態紳士クラブが2月26日に新曲「Sorry」を配信リリースした。変態紳士クラブは、ラッパーWILYWNKA(ウィリーウォンカ)と、レゲエ・ディージェイVIGORMAN(ヴィガーマン)の2人が、プロデューサー/トラックメーカーのGeG(ジージ)を介して2017年に結成された3人組ジャンルレス・ユニットだ。2021年1月発売の「日経エンタテインメント! (2月号)」の新年恒例企画、『2021年の新主役100人』“音楽編”にてピックアップされるなど、今まさに注目のアーティストであるが、それは今に始まったことではなく、少し前からすでに注目を集めていたこともまた事実だ。

 そこで本コラムでは、変態紳士クラブの音楽性に迫るのももちろんだが、その前に、これまでの変態紳士クラブの楽曲から2曲選び、それらのBillboardのチャート変遷を見ていくことで、彼らがどのように注目されていったのかを見ていくことにしよう。

変態紳士クラブのこれまでをチャートで振り返る

 本題に入る前に、Billboardのチャートについて少し説明しておこう。Billboardは「JAPAN HOT 100」という総合ソング・チャートを毎週水曜日に発表している。この総合ソング・チャートは、CDセールス/ダウンロード/ストリーミング/ラジオエアプレイ/ルックアップ(PCへのCD読み取り数)/Twitterでの投稿数/動画再生/カラオケといった8指標のポイントを合算して生成されているものだ。CDセールスやダウンロードといった楽曲の購入(所有)に関する指標だけでなく、ストリーミングやラジオ、動画再生などといった楽曲への接触に関する指標も取り入れることで、何が売れているのかではなく、何がヒットしているのかが分かるチャートとなっている。

 本コラムでは、その8指標の内の1つであるストリーミング指標に絞って話を進めていくことにする。ストリーミング・サービスは利用者がここ数年増加しており、今後大きくヒットする可能性のあるアーティストを見つけるには、8指標の中では特に適した指標だ。以下では、ストリーミング指標のポイント変遷を表したグラフが2つ出てくるが、ポイント数は公表していないため、数値は伏せていることをご了承いただきたい。また、各週のストリーミング指標は上位300位で足切りとなっている。

 では、ストリーミング指標の変遷を見ていこう。変態紳士クラブがまず注目を集めるきっかけとなった楽曲に、2017年11月にリリースされた1st EP『ZIP ROCK STAR』に収録された「すきにやる」が挙げられるだろう。そのストリーミング指標のポイント変遷をグラフ1で示してみた。(※2021年3月8日付チャートにおいてポイントの計算方法が変更されたためストリーミング・ポイントが下降している。)

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グラフ1:「すきにやる」のストリーミング・ポイント変遷

 グラフを見たところ、「すきにやる」がチャート上で初めて継続的にポイントを獲得したのは2019年8月と、1stEPリリースからおよそ1年9か月後となっているのは注目ポイントだ。8月はメンバーのGeGがプレイリスト・アルバム『Mellow Mellow~GeG's PLAYLIST~』を、VIGORMANが1st アルバム『SOLIPSISM』をそれぞれリリースした月でもあるが、1stEPのリリース以降、着実にファン層を増やしていた結果が「すきにやる」のストリーミング・ポイント獲得につながったと言えるだろう。

 また、一度ストリーミングのポイントを失った期間があったものの、2ndシングル『DOWN』をリリースした2020年2月から再びポイントを獲得し始める。4月30日に約2年半振りとなる2nd EP『HERO』をリリースしているが、5月下旬に「HERO」や「YOKAZE」のミュージックビデオが公開されたタイミングでポイントを急伸させている。新曲のリリースによって過去の楽曲にも注目が集まったことが考えられ、変態紳士クラブそのものへのファンがさらに増えたことが見て取れるだろう。


▲変態紳士クラブ「すきにやる」

 このように、「すきにやる」のストリーミング・ポイントの変遷を見てきたが、今、変態紳士クラブの楽曲で最もヒットしていると言えるのが「YOKAZE」である。2020年12月より正式公開された、”これからブレイクしそうな楽曲”をランキング化した新チャート「JAPAN Heatseekers Songsチャート」では12週連続でトップ20入りを果たしたなど、まさに今注目の楽曲と言えるだろう。そのストリーミング指標のポイント変遷をグラフ2で示してみた。

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グラフ2:「YOKAZE」のストリーミング・ポイント変遷

 ストリーミング・ポイントでは6月に初めてポイントを獲得しており、そのまま7月まで急伸していることがグラフ2から分かる。また、8月以降もポイントが多少増減することはありつつも維持していることが見て取れるだろう。ちなみに「YOKAZE」は7月以降、ストリーミング・ソング・チャートでは90位前後をキープする形で推移しており、ロング・ヒットを体現したようなチャート変遷となっている。補足だが、90位前後をキープすることは、日本に楽曲が数多く存在し、毎週数多くの新曲がリリースされている中でなされたことであり、それは容易なことではないことを付け加えておきたいところだ。

 また、2021年の年始にもポイントが大きく上昇しているが、これは大晦日に生放送されたTBS『CDTV ライブ!ライブ!年越しスペシャル 2020→2021』での初パフォーマンスがきっかけになったと考えられるだろう。2020年以降、TikTok等のSNSでヒットした楽曲が数多く出現するようになったが、そこでしっかりと地盤を固めたうえでテレビに出演し、新たなファン層を獲得するというのも重要な動きである。グラフ2の2021年年始での上昇もまさに新たなファン層を獲得したということであり、獲得するに値するパフォーマンスであったということがチャートから分かるだろう。


▲変態紳士クラブ「YOKAZE」

 ここまで、「すきにやる」と「YOKAZE」の2曲に絞ってストリーミング・ポイントの変遷を見ることで、変態紳士クラブが現在までの間にどのような形でヒットしてきたのかを見てきた。そこまでメディア露出の多くないアーティストではあるものの、新曲をリリースすることで過去の楽曲にも注目が集まり、ファン層を確実に増やしていったことがチャートから読み取れただろう。だからこそテレビへの出演もまた効果的になったのだ。

 そして、変態紳士クラブは2月26日に新曲「Sorry」を配信リリースした。この楽曲が今後どのようなチャート変遷をたどっていくのかはまだまだ分からないが、次ページでは変態紳士クラブの音楽性について見ていくことにする。

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変態紳士クラブが時代に愛される必然性とは

 変態紳士クラブは「ジャンルレス」を自称し、インタビューなどでも公言している通り「J-POP」のカテゴリーの中で勝負している。勝負している、と書くと大仰に聞こえるかもしれないが、彼らが実行している勝負には痛快なエンターテインメント性がある。

 大阪在住の変態紳士クラブはヒップホップやレゲエ、クラブミュージックでありストリートカルチャーを出自に持ち、各自のソロ活動と音源ではそのリアリズムを追求している。そしてその気概を持ったままメンバーが“三位一体”となって自由なアートフォームとしての大衆音楽を作り上げ体現しようとする姿勢には、真のエンターテイナーとしての資質を感じる。

 変態紳士クラブが提示するJ-POPの背後(背中)と正面(真髄)にはヒップホップやレゲエ、クラブミュージックでありストリートカルチャーへといざなう入口があり、その間口を自分たちだけの手つきと遊び方でいかに大きく広げられるかというトライアルが楽曲ごとに実行されているように思う。


▲変態紳士クラブ「WAVY Prod.GeG」

 音の鳴り、音像においても説得力に富んだGeGがメイクするビート(トラック)。前進と更新することを止めず、また突発的に誰かに“仕掛けられても”即座に対応できるWILYWNKAのラップスキル。フロアのオーディエンスが一体となる画がまざまざと見えているVIGORMANが綴るメロディの求心力と推進力。変態紳士クラブは、強靭な“三本の矢”を持っている。

 そのスタイルは、2000年代のRIP SLYMEやKICK THE CAN CREW、あるいはその2組にとってクルー(FUNKY GRAMMAR)の偉大な先輩であるRHYMESTERにも通じるマインドを感じさせる。2000年代は、ラップシーンとポピュラーミュージックのフィールドが今よりもはるかに断絶していたこともあり、RIP SLYMEやKICK THE CAN CREWがアンダーグラウンドで生きている同業者やうるさ型のヒップホップヘッズからリアルタイムで正当な評価を受けるのはなかなか難儀な状況があった。

 しかし、2021年の今、たとえば現行のラップシーンを盛り上げているラッパーたちが最初に聴いたヒップホップとしてRIP SLYMEやKICK THE CAN CREW、あるいはKREVAのソロ作品を挙げ、その音楽的なクオリティの高さをあらためて語ることも少なくない。そして、ラップという歌唱表現やフリースタイルの刺激と享楽性、トラップのビートなども普遍的な市民権を得ている現在にあって、ラップシーンとポピュラーミュージックシーンの間にかつてあった高く厚い垣根は、低くも薄くもなった。変態紳士クラブのポジティビティをまとった楽曲と陽性の存在感は、そういった時代性にとてもよくフィットしているし、時代に愛される必然性を湛えているとも思う。彼らは、本当にチャーミングなユニットだ。


▲変態紳士クラブ「オレンジ Prod.GeG」

 変態紳士クラブの最新デジタルシングル「Sorry」は、前述した“三位一体”と“三本の矢”の様相を如実に味わえる楽曲になっている。この曲で描かれているのは、いわば“果たせなかったラブソング”。ストリングスをはじめとする上モノのフレーズやリフを効果的に配置しながら低域もしっかり響かせるビートは浮遊感と躍動感を両立させ、どこまでも生々しい温度で恋愛にまつわる後悔を独白するラップは巧妙なライミングによって構築されており、ブリッジにあたるメロディとリリックでは2004年にリリースされた韓国のFree Styleというヒップホップユニットによる「Y(Please Tell Me Why)」という楽曲のフックを引用する遊び心も見せている。粗製乱造される紋切り型の切ないラブソングなどではなく、切実な熱量を帯びたラブストーリーに変態紳士クラブならではのポップネスを注ぎ込んだ1曲になっている。そのあり方が、すごくいい。


▲変態紳士クラブ「Sorry」



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