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<インタビュー>安田レイの新機軸、弱さをさらけ出す人間としての成長
1993年に米ノースカロライナ州で生まれた安田レイは、13歳のときに音と映像を融合させるハイブリッド・プロジェクト、元気ロケッツのヴォーカリストとしてキャリアをスタートさせた。そして、20歳の節目を迎えた2013年、アニメ『宇宙戦艦ヤマト2199』エンディング・テーマのシングル『Best of My Love』でソロデビュー。以降、多くのドラマやアニメ主題歌を務めながら、現在までに3枚のスタジオ・アルバムを発表している。
ソロ8年目となる2021年、15thシングル『Not the End』をリリース。表題曲は、“ゾンビサバイバル×ラブストーリー×ミステリー”という異色な組み合わせで描くドラマ『君と世界が終わる日に』の挿入歌に起用された。デビュー当初のブリリアントな歌とは打って変わり、静謐でシリアスな影を纏った歌詞は、ドラマの世界観はもちろん、コロナ禍の世相とも重なるものであり、同時に彼女の音楽表現における新機軸でもある。この曲に込められた儚くも切実な希望、そこから見えてくるアーティストとしての成長について紐解くべく、リモートで本人に話を訊いた。
いまの時代を生きているみんなのお話
――Billboard JAPANではソロデビュー以来のインタビューになります。せっかくなので、まずは安田さんの音楽ルーツを改めて掘っていきたいと思うのですが、もともと宇多田ヒカルさんの影響でシンガーを目指し始めたんですよね?
幼稚園から小学校ぐらいの頃、一番よく聴いていたのが宇多田さんでした。もともとはお母さんが好きで、家や車でCDをかけていたんです。それで当時、周りの子が「〇〇レンジャーになりたい」とか言っている中で、宇多田さんの音楽を聴いて「あ、私、歌手になりたいな」と思ったのがきっかけです。
――ほかによく聴いていたのは?
竹内まりやさん、LOVE PSYCHEDELICOさん、久保田利伸さんとか。どれもお母さんの影響なんですけど、J-POPの枠を飛び越えているというか、どこか洋楽のエッセンスが強いアーティストさんから影響を受けましたね。自分の中には日本人とアメリカ人の血が流れていて、小学校もアメリカン・スクールに通ったりしていたので、そういう部分が重なったんじゃないかなと思います。
――安田さんはお父さんがアメリカ人、お母さんが日本人なんですよね。だからこそ、ハイブリッドな音楽が馴染んだというか。
そうだと思います。宇多田さんも過去、色んな国の子が集まるインターナショナル・スクールにいて、どこにも属していないような場所で育ったと仰っていたんですけど、そういうところも自分に当てはまる気がしていて。私は日本人でもあるしアメリカ人でもあるし、だったら自分の戻る場所ってどこなんだろう、と考えていた時期があったんですよ、小学生ぐらいの頃に。その幼少期のデリケートな迷いみたいなものが、宇多田ヒカルさんのマインドと重なる瞬間があったんだろうなって、いま振り返ってみると思います。
――では、最新作『Not the End』についても聞かせてください。安田さん自身、今作にどんな手応えを感じていますか?
ドラマのために書き下ろした楽曲なんですけど、もともと私、けっこう怖がりで、ホラーとかゾンビ系の作品はあまり観たことがなかったんです。なので、最初はどうしようと思って(笑)。
【公式】「君と世界が終わる日に」第一話ダイジェスト動画
――“ゾンビサバイバル×ラブストーリー×ミステリー”というコンセプトだけ見ると、なかなかカオスですよね。
ただ、プロデューサーさんと監督さんと打ち合わせして、台本も読ませていただいたら、「他人事じゃないな」と思えて。というのも、いまのコロナ禍の時代と重なる部分がたくさんあるんです。なので楽曲では、ドラマの世界観と同じぐらい、いまを生きる私たちの気持ちもぶつけたい、この1年間を通して感じた孤独感や無力感を書きたいと思って、歌詞を考えていきました。
――作詞は順調でした?
4回ぐらい書き直しました。これは自分一人のパーソナルなテーマではなく、いまの時代を生きているみんなのお話だから、世の中に出すからにはちゃんと納得したものじゃないといけないなと思って。やっとの思いでたどり着いた歌詞です。
――壊れていく世界の中、それでも変わらないものがあるという希望。たしかにドラマの内容とも繋がるし、コロナ以降の世界の状況にも置き換えられます。
日常が奪われていくこの世界を見て、何もできないというネガティブな気持ちもあるけど、でもやっぱりみんなにリンクするのは、これを乗り越えて日常に戻りたいという想いだと思うんですよね。なので、その二つの気持ちを爆発させたいと思ったんです。SNSをチェックすると「ドラマに合っている」とか「コロナ禍で共感できる」という声が届いていて、作詞した身としては嬉しい反響です。
安田レイ 『Not the End』Music Video
――2月22日付のBillboard JAPANダウンロード・ソング・チャート“Download Songs”では8位をマーク、音楽認識アプリ『Shazam』のチャートでは3位に入ったり、楽曲の社会的な広がりも感じられます。
今までのリリースのタイミングと比べて、明らかにTwitterの動き方が違っているなと自分でも分かるぐらい、色んな方々からの反応が届いていて。もちろん数字ばかり意識していると、思うように音楽が作れなくなってしまうと思うんですけど、それでもやっぱりチャートに入るのは嬉しいですし、歌を続けていてよかったなと感じる瞬間でもありますね。
ダークサイドもそれはそれで人間らしい
――コロナ禍で作られた楽曲としては、この「Not the End」が最初の作品ということになるんでしょうか?
前作の「through the dark」はレコーディングがコロナ禍以前だったので、「Not the End」が最初になります。
――多くのアーティストがそうだったように、安田さんもコロナ禍としての2020年を描かずにはいられないという、ある種の創作意欲みたいなものはずっとあったのでしょうか?
そうですね。色んなアーティストさんが曲を作って、音楽の力で世界と繋がって、お互いに励まし合うという動きは、とてもいいことだと思うので。その中でもたぶん、色んなタイプの繋がり方があると思っていて、例えば「頑張っていこう!!」と伝えるパワフルな応援歌がある一方で、この「Not the End」では失われていくものの儚さとか、静かな悲しみみたいな感情も描いていて。人間って24時間ずっとポジティブではいられないし、どこかで弱気になったり、なかなか上を見られない瞬間ってあると思うんです。それでもいま、みんな生きようとしていて、前に進もうとしている。だからこそ、痛みはそのまま痛みとして、それでも生きていきたいという強い想いを歌詞として書いたし、歌のニュアンスとしても表現しました。
――前作の「through the dark」にしろ今作の「Not the End」にしろ、最近の安田さんの音楽を聴いていて感じるのは、まさしくそういった陰陽の対比なんですよね。光だけでなく影もしっかり描くことで、そのコントラストから重要なテーマが浮き彫りにされていくような。何か転機やきっかけがあったのでしょうか?
一番大きく変化したのは25歳ぐらいを過ぎてからですかね。それまでは20代前半ならではの力みというか、フルパワーでなんでも頑張れてしまう勢いがあって。それもすごく素晴らしいものだとは思うんですけど、でも引き算とか、何かを手放す勇気も必要なんだなって、そういう心境の変化があったんです。
安田レイ 「through the dark」- home session ver. -
――肩の力を抜くような?
はい。このままフルパワーで30、40と年を重ねていくのは難しいなと思ったんです。今まではダメなところを全部隠しながら生きようとしていたんですけど、普段の生活の中でも「まぁいいか」と思う部分があってもいいのかなって。歌詞を書いていくうえでも、今までなら内に隠していたダークサイドも、それはそれで人間らしいからあえて出していこうと思えるようになって。それはかなり大きい変化かなと思います。
――でも、それって勇気がいることじゃないですか?
私もいまだに変なところで完璧主義というか、自分のダメなところがすごく嫌いで、「私はそんなダメな人間じゃない!」って、できないこともできるフリをしたくなってしまうときもあるんです。でも、そういう自分のダメな部分こそ人に知ってもらって、受け入れてもらえると、すごく呼吸が楽になるし安心するんです。弱さをさらけ出すという経験が自分を強くしてくれていると思いますね。
――精神衛生的にも大事な考え方ですね。
20代前半のときの私に伝えたい(笑)。例えばライブをやる前とか、「絶対にミスしちゃいけない!」と自分にプレッシャーをかけてしまうのが私の悪い癖だったんです。でも、ライブに来てくださる方々は、常に完璧な安田レイを見たいわけじゃなくて、その日のそのときの安田レイの歌を聴きに来てくれているんですよね。それは昔から周りの人にも言われていたんですけど、年を重ねて自分で理解できるようになってからは緊張も少なくなりました。
――そういう変化が作詞する際にも表れていると。
はい、アーティストさんによってはストーリーを作って歌う場合もありますけど、私は普段の生活やそのときの気持ちが全部、良くも悪くも歌詞に表れてしまうタイプなので(笑)。そういう意味でも「自分のダメなところをさらけ出していいんだ、受け入れてもらえるんだ」と思えるようになったのは大きいです。
安田レイ- Brand New Day feat. H ZETTRIO / THE FIRST TAKE
――では、ヴォーカリストとしての成長についてはどのように客観視できますか?
自分の昔の歌を聴いていると、フルパワーすぎて「もうちょっと力まずに歌えないのか!」と思ってしまうくらい、勢いがあったというか。それは良く言えば、溢れる若さみたいな部分だったのかなと思うんですけど、そもそも人間ってアップ&ダウンしながら生きるのが普通だし、曲の中でも強弱を作ったほうが想いって伝わるから、最近は引き算することも大事にして、歌に色んなニュアンスをつけるようにしています。
――それは「Not the End」を聴いていても感じます。
いきなり英詞のサビから始めているので、歌の入りは強めですけど、Aメロに入ったら少し落としてみたり、そうやって色んな声を使い分けて歌っています。事前に自分の中で組み立ててからレコーディングに臨みました。普段からプロデューサーさんは私がやりたいようにやらせてくれていて、今回もまず私が思い描いていた歌をうたわせていただいたんですけど、そこでもう「いいじゃん」と言ってくれたので、今回はすごくスムーズにレコーディングできました。
――声の引き出しもどんどん増えていっている感覚はありますか?
そうですね。自分のイメージしている世界観をどうやったら表現できるかなって、けっこう色々とトライしています。家でピアノを弾きながら声色を試したり。あとは常にアンテナを張って、色んなアーティストさんの楽曲をいっぱい聴くようにして、そこからインスピレーションをもらったり。そういう研究の成果が出たんじゃないかなと思います。
――最近、特にインスパイされたアーティストは?
H.E.R.はすごく影響を受けましたね。あと、サブリナ・クラウディオとか。私は歌の中で息や語尾をすごく大事にしていて、色気と儚さを感じさせるような、そうい歌い方を自分でも意識してはいるんですけど、H.E.R.とサブリナ・クラウディオはそれを持っているヴォーカリストだなと思います。
「レイちゃん、あなたはビヨンセだよ」
――プロデューサーの玉井さんは基本、安田さんの意思をできる限り尊重してくれるとのことでしたが、印象に残っているレコーディング時のディレクションはありますか?
うーん、本当に大きな修正とかはなく、自由にやらせてもらえました。昔はもっと言われていましたけど、それでも例えば「そこ、もうちょっと跳ねたほうがいいよ」みたいな一言ぐらいで。歌詞に関しては色々とアドバイスをいただきました。この曲を象徴する強い言葉が入っていたほうがいい、そのほうが聴いている人も画が浮かびやすいし、共感できるからと言われて。それで最後のサビの<この世界 変わったとしても/変わらないものがあると>というフレーズを入れたんです。
――たしかに、そこはこの曲のパンチラインだと思います。それにしても、玉井さんとは元気ロケッツ時代からのバディで、本当に長い付き合いになりますよね。
ランドセルを背負っていた時期からですよ。なので、プロデューサーさんであることをたまに忘れちゃいます(笑)。ずっと娘のように見てくれているので。15年間ずっと同じ人と一緒に音楽を作るなんて、なかなか経験できることじゃないし、さっき話したような変化とか、きっと一番よく分かっているのは玉井さんだと思います。よく言われるのは「もう27歳になったの? まだ小学生じゃないの?」って(笑)。昔は私、レコーディングのときにご飯を食べると、すぐに寝ちゃっていたんです。それで周りの人が「レイちゃーん、歌うよー」と起こしてくれて(笑)。そういうのをいまだにイジられます(笑)。
――まさしく親戚のような(笑)。プロデューサーとアーティストという関係性で言うと、これまでを振り返って何か思うことはありますか?
元気ロケッツの頃は1フレーズごとに何テイクも撮って、その中で一番良かったやつを採用するというやり方をしていましたけど、さっきも話した通り、いまは基本的に任せてもらえるし、それは本当に嬉しくて。これは本当に感覚なんですけど、玉井さんに認めてもらえているな、信頼してもらえているなって、そういう言葉じゃない何かは感じます。それこそ家族って、あーだこーだ言わなくても通じ合えるものじゃないですか。そういう感じに近いかもしれないです。
安田レイ - Not the End / THE FIRST TAKE
――何か印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
私がすごく覚えているのは、歌っているとき、自信のなさが声や歌い方に出ちゃっていたみたいで、そしたら玉井さんが「レイちゃん、あなたはビヨンセだよ。だから胸を張って歌いなさい」って(笑)。
――(笑)。それっていつ頃?
20代前半の頃です。そのときは歌に自信がなくて、「これが正解なのかな……?」と迷っている感じのままレコーディングしていたんですけど、すぐにバレまして。歌って基本的にメンタルなので、そういうのはどうしても表れちゃうんです。ビヨンセはすごくパワフルレディなので、彼女のパフォーマンスの映像を頭の中で流して、私は強いんだと思いこみながら歌ったら、良いテイクが録れました。やっぱり玉井さんは引き出すための方法を知っているなと思いました。
――歌との向き合い方を教えてもらったんですね。では最後に、これからの活動で楽しみにしていること、チャレンジしたいことがあれば教えてください。
やっぱりまずはライブがしたいと思っています。延期にしているライブもスケジュールを発表できていない状況なので。まだ人前で「Not the End」を歌っていないんです。TVの収録とかではあるんですけど。いつもだったらプロモーションで全国各地に行って、ライブをして、サイン会をしていたのに。そういう寂しさが重なった「Not the End」もまた違う「Not the End」になると思いますし、何よりファンの皆さんに早く会いたいです。あとは、前作の「through the dark」からの「Not the End」に続く3曲目を作りたいと思っているので、それもぜひ楽しみにしていただきたいですね。
――やはりその2曲は延長戦上で繋がっている感覚があるんですね。
そうですね。最近はダークな部分を少しずつ見せられるようになっているので、その流れで新しい曲を作りたいとも思っていますし、ただただ単純にかっこいい曲を作りたいという気持ちが自分の中でメラメラと燃えているので。
Not the End
2021/02/24 RELEASE
SECL-2585 ¥ 1,320(税込)
Disc01
- 01.Not the End
- 02.amber
- 03.Not the End -piano ver.-
- 04.Not the End -Instrumental-
- 05.amber -Instrumental-
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