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<『ラーヤと龍の王国』公開記念>ジェネイ・アイコが歌うエンドソング「リード・ザ・ウェイ」を含む、歴代ディズニー・ヒロインによるエンパワーメント・ソングを考察

Text:本家一成
※公開年は日本での公開年を記載しています

「信じ合う心で 道を切り開こう」
少女ラーヤの希望を表現したエンドソング「リード・ザ・ウェイ」

 2021年3月5日(金)に公開されるディズニー・アニメーション最新作『ラーヤと龍の王国』は、ディズニーの新たなヒロインであるラーヤが繰り広げるスペクタクル・ファンタジー。ラーヤの祖国である“龍の王国”クマンドラは、かつて人と龍が共存する平和な王国だったが、邪悪な魔物に襲われて龍たちは犠牲となり、人々も信じあう心を失って国は分断してしまう。バラバラになった5つの国を統一するため、龍の石の守護者一族の娘であるラーヤがたった1人で運命を背負い、困難に立ち向かうのだ。

 日本でも社会現象を起こした『アナと雪の女王』(2014年)や『モアナと伝説の海』(2017年)など、過去作のヒロインたちもそれぞれ孤独を抱えていたが、ラーヤの拠り所はお供のトゥクトゥクだけ。これまでのディズニー・ヒロインとはそういった意味でもまた違う、新たなキャラクター像といえるだろう。そんな彼女の心情や希望を表現したのが、ジェネイ・アイコが歌うエンドソング「リード・ザ・ウェイ」だ。



▲ ジェネイ・アイコ「リード・ザ・ウェイ」


 「リード・ザ・ウェイ」は、『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(2018年)、『スペース・ジャム』(1996年)、『シックス・センス』(1999年)といった大ヒット映画や、今夏公開予定の人気アトラクション『ジャングル・クルーズ』の実写版などを手掛けるジェームズ・ニュートン・ハワードによるオリジナル・スコアで、冒頭から「共に世界をつくるのか、壊すのか。争うのか、手を取り合うのか」というラーヤの葛藤が綴られている。

 ヴァースでは良い世界になるよう“愛の橋”をかけ、壮大なサビでは“心に秘めた魔法”で心をひとつに、光で闇を照らす。そして美しいハーモニーが重なるコーラスでは“信じあう心”で道を切り開くという、ストーリーの緊迫感や臨場感が伝わってくるような展開を繰り広げる。ハイライトの「信じ合う心で 道を切り開こう」というフレーズからは、物語の希望に溢れたエンディングが目に浮かぶようだ。

 ストーリーとリンクした歌詞はもちろん、舞台となった架空の国とラーヤの真っ直ぐな心がそのまま音になったようなメロディもすばらしく、オープニングから中華音階で進行するアジアン・ヒーリング的なサウンド・プロダクション、エスニックなバック・トラックなど、まさに「龍の王国」クマンドラの世界観を彷彿させる。

 街並みや行き交う住民、黒髪の異国情緒漂う雰囲気のラーヤのビジュアルも特徴的。東南アジアをモデルとした世界が舞台となったのは本作『ラーヤと龍の王国』がディズニー・アニメーション初で、クマンドラを描くリサーチのために、映画のプロダクション・デザイナーが訪れたというインドネシアやフィリピン、マレーシアなど各国の文化・歴史にインスパイアされた美しい映像がたのしめる。「リード・ザ・ウェイ」の歌詞にも「水がくれる力」というフレーズがあり、アジアの大地から湧き上がる水のエネルギーが“希望”になるべく示しがある。



▲ 『ラーヤと龍の王国』日本版本予告


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    ジェネイ・アイコとラーヤの共通点とは?
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多くの挫折を味わうも夢を見出してきた
ジェネイ・アイコとラーヤの共通点とは?

 「リード・ザ・ウェイ」を歌うジェネイ・アイコは、米カリフォルニア州ロサンゼルス出身の女性R&Bシンガー。2013年にリリースしたデビューEP『Sail Out』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で8位、R&Bアルバム・チャートでは1位に輝き、翌2014年に発表したデビュー・アルバム『Souled Out』はその記録を上回るBillboard 200で3位、R&Bアルバム・チャートでは2作連続の首位を獲得した。昨年春にリリースした3rdアルバム『Chilombo』は自己最高位の2位を記録し、R&Bチャートでは5作連続のNo.1をマークしている。

 ラップを絡めた「ザ・ワースト」(2014年)や、R&Bソング・チャート5位を記録したH.E.R.とのコラボレーション「B.S.」(2020年)など、トラップやドリーミーなR&Bを得意とするジェネイ・アイコがディズニーのエンドソングを歌うと聞いて驚いた方も少なくないだろうが、自身の楽曲とはしっかり線引きし、『ラーヤと龍の王国』の世界観を崩さないよう丁寧に、透き通ったウィスパー・ヴォイスで歌い上げる。



▲ ジェネイ・アイコ「ザ・ワースト」


▲ ジェネイ・アイコ「B.S. ft. H.E.R.」


 ジェネイ・アイコは、アフリカ系アメリカ人の父親と、日本とドミニカのハーフである母親をもつ、アジア(日本)の血を引くミックス。クールな雰囲気やエキゾチックなビジュアル、強さと優しさの両面を使い分けるボーカルなど、ラーヤとの共通点も多い。

 また、彼女は12歳の時にメジャー契約し、2000年にソロ・デビューする予定だったが、その夢が破れて若くして挫折を味わった苦い経験がある。幼少期には両親の離婚があったり、兄を病死で亡くすなど、これまでの人生そのものが波瀾万丈。迷いや葛藤を抱えながらも困難に立ち向かい、夢(希望)を見出すという点においても、本作のエンドソングを歌うに相応しいシンガーといえよう。

 意外と知られていないが、ジェネイ・アイコは自身がバック・コーラスを担当していたB2Kのメンバー=オマリオンの弟オライアンとの間に出来た娘をもつ、ひとりの母親でもある。母親としての強さや威厳、包容力においても「リード・ザ・ウェイ」を歌うべく説得力があるのだ。

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    ディズニー・ヒロインたち
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いつでも前に進む勇気と希望を与えてくれた
ディズニー・ヒロインたち

 龍の王国を背負って戦い続けるラーヤ。その姿と物語を映し出す「リード・ザ・ウェイ」。全世界で高い人気を誇るこれまでのディズニー・ヒロインたちと、作品に登場したエンパワーメント・ソングも、多くの人たちに前に進む勇気と希望を与えてくれた。

CD

「スピーチレス〜心の声」
『アラジン』(2019年)

 2019年に公開された『アラジン』の実写版でジャスミン役のナオミ・スコットが歌う「スピーチレス〜心の声」は、アラジンが氷の国に追放され、ジャファーに結婚を強制されるという絶望的なシーンで「私は黙っていない」、「今こそ自由の扉を開いて羽ばたくの」とパワフルなボーカルで圧倒させ、立ち上がる。彼女の聡明さや芯の強さは同性からの支持も厚く、ディズニー・ヒロインの中では唯一主役でないものの、主人公アラジンにも負けない人気と存在感を放っている。

『アラジン』(UWCD-1028)© Disney


▲ ナオミ・スコット「スピーチレス〜心の声」


CD

「リフレクション」
『ムーラン』(2020年)

 昨年実写版としてリメイクされた『ムーラン』(1998年)は、アジアを舞台にした初のディズニー作品であり、アジア人初のディズニー・プリンセスが活躍する物語。父親のために男性を装い、国を守るため立ち向かうエピソード含め『ラーヤと龍の王国』にも通ずるものがある。本作の主題歌である「リフレクション」は、翌年大ブレイクするデビュー前のクリスティーナ・アギレラが歌った美しいバラードで、「私が見ているのは誰?私を映す姿はどうして知らない誰かなの?」という迷いから「必ず映る、いつの日か」と希望に移行する展開が聴きどころ。

『ムーラン オリジナル・サウンドトラック』(UWCD-1093)© Disney


▲ クリスティーナ・アギレラ「リフレクション (2020)」


CD

「夢まであとすこし」
『プリンセスと魔法のキス』(2010年)

 正式なディズニー・プリンセスが登場する作品としては前述の『ムーラン』以来11年ぶりとなる『プリンセスと魔法のキス』。こちらは初のアフリカ系ディズニー・プリンセス=ティアナが活躍する作品で、亡き父を継ぎ“レストランをもつ”という夢を叶えるため奮励する姿が描かれている。ティアナ役のアニカ・ノニ・ローズが歌う「夢まであとすこし」では、父の口癖であった「夢は努力しないと夢のまま。だから一生懸命働いてやりぬくわ」と前向きなメッセージを届けてくれる。亡き父に纏わるエピソード、試練や困難を乗り越え、自分の力で立ち上がっていく様はラーヤとも重なる。

『プリンセスと魔法のキス』(UWCD-8050)© Disney


▲ アニカ・ノニ・ローズ「夢まであとすこし」


CD

「自由への扉」
『塔の上のラプンツェル』(2011年)

 長い髪の毛を纏ったおてんばなプリンセス=ラプンツェルが活躍する『塔の上のラプンツェル』。ここに登場する「自由への扉」は、これまでの曲とはまた違ったタイプのカントリー・ポップで、「いつ私の人生が始まるのって思い続けてる。光輝く外の世界はどんな感じなのかしら?」とワクワク感を醸しつつも、閉鎖的な毎日を嘆く様子が歌われた。マンディ・ムーアのライトなボーカルと、ラプンツェルの軽快なステップから、塔から脱出しようという意気込みと、外の世界への憧れが伝わってくる。ヒロインの心情を描いたという点では、ハイライトの「輝く未来」にも勝る。

『塔の上のラプンツェル オリジナル・サウンドトラック』(UWCD-8051)© Disney


▲ マンディ・ムーア「自由への扉」


CD

「みせて、あなたを」
『アナと雪の女王2』(2019年)

 言わずと知れた名作『アナと雪の女王』も、エルサが自身の置かれた立場に悩みつつも前進する姿勢や、強いパワーを持ち合わせているキャラクター性、バトルシーンなどが『ラーヤと龍の王国』を彷彿させる。日本では松たか子の歌唱で大ブレイクしたイディナ・メンゼルの「レット・イット・ゴー」では「自分を受け入れて歩き出そう」と、続編で歌われた「みせて、あなたを」では「扉を開いて新しい自分になる」と、いずれもヒロイン(エルサ)の前を向いて歩こうとする強い意志がサビに起用された。王国の女王でありつつも、愛情深い性格は、ラーヤにも似ているところがある。

『アナと雪の女王2 オリジナル・サウンドトラック』(UWCD-1054)© Disney


▲ イディナ・メンゼル「レット・イット・ゴー」


▲ イディナ・メンゼル, エヴァン・レイチェル・ウッド「みせて、あなたを」


CD

「How Far I'll Go」
『モアナと伝説の海』(2017年)

 『モアナと伝説の海』は、海に選ばれた16歳の少女モアナが、試練やモンスターに立ち向かいながら、悩んだり傷ついたりしながら世界を救うため冒険に挑む物語。生まれ故郷のため闘う村長の娘という設定は、国の平和を再復するべく困難に立ち向かうラーヤに直結する。アレッシア・カーラが美声を披露したエンドソング「How Far I'll Go」も、同時期にブレイクしたジェネイ・アイコと重なるものがあり、「あの空と海が出会う線が私を呼んでるわ。どれだけ遠くても歩に追い風を受ければいつか分かる」と歌う壮大なサビも、希望に向けたメッセージがリンクする。

『モアナと伝説の海 ザ・ソングス』(UWCD-8063)© Disney


▲ アレッシア・カーラ「How Far I'll Go」


 モアナやエルサ、ラプンツェル、ムーラン…。どのディズニー・ヒロインの中にもラーヤがいて、どの作品にも、そしてどの歌にも本作に受け継がれている要素がある。共通しているのは「希望や勇気を持ち続ければ運命は変えられる」ということ。エンドソングの「リード・ザ・ウェイ」にも、そういったメッセージが込められた。孤独から希望を見出していくことは、昨今の世の中にも重なるものがあり、物理的な距離だけではなく「心の距離」を縮めるための“何か”を、ストーリーや歌を通じて教えてもらえるはず。

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