Billboard JAPAN


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クリエーターと共に挑むAdoの新しいBillboardチャートへの挑戦

Text:松島功

 2020年末Billboardのチャートの指標に関して、日米ともに大きなポリシーの変更があり音楽業界に衝撃が走った。それは動画再生回数の指標において、一般ユーザーやファンによって投稿される二次創作的なユーザー作成コンテンツ(UGC)で音が使われていても、その分の再生回数を除外するという決定だ。

 2020年12月以降、Billboardの総合チャートであるJAPAN HOT 100合算集計対象はアーティストによるオフィシャル動画のみとなり、UGCはHOT 100からは切り離されTop User Generated Songsチャート(以下UGCチャート)で発表されていくこととなったのだ。

 2020年の音楽ヒットはUGCと共に歩んだ1年だった。クリエーター(ファン)が自分の熱量で作り上げたUGC動画が、YouTubeやTikTokに公開されることで認知が広がり、再生数が伸び、チャートインしていった。そのため、この変更はUGCだけの独自チャートが生まれ、可視化できるようになる新たな指標が生まれた瞬間であり、HOT 100上位に食い込むための戦い方が変わった瞬間でもあった。

 チャートポリシーの変更に伴い「夜に駆ける」や「廻廻奇譚」のようなUGCでの強さを持つ曲のランクは、大きな影響を受けた。そして12月初週から生まれたUGCチャートで連続堂々1位に君臨したのはKanariaの「KING」だった。 ただ、この曲はそれ以降、毎週UGCチャートで1位を獲得しつつも、JAPAN HOT 100では苦戦を強いられ、筆者は「UGCが多いからといってBillboardでは勝てないのか」と諦めかけていた。 しかし後続から破竹の勢いで、この新しいポリシーに打ち勝つパワーのある一曲が登場した。それがAdoの「うっせぇわ」だ。



▲ Ado「うっせぇわ」


 本楽曲は、2020年12月頭のチャートポリシー変更を経て、ついに1月18日付にてUGCチャート1位、そして1月25日付にてJAPAN HOT 100でも10位となった。

 奇しくもポリシー変更のタイミングがリリース後とかぶりつつも、UGCの強さをJAPAN HOT 100にまで活かせたのは何だったのか。ここに今後のJAPAN HOT 100攻略の秘密が見え隠れしているかもしれない。順を追って、見てみよう。

 本作は、2020年10月23日(Adoが18歳になる誕生日前日)にストリーミングでの配信がスタートし、MVも公開に。彼女の夢の1つでもあったオリジナル曲のリリースが実現した。本人が、YouTubeストーリー機能、コミュニティ機能、ツイキャスでの生配信にてその喜びを最大限に伝えながら配信を開始。YouTubeをファン・エンゲージメントの要とし、ファンを誘引していった。顔出ししないが故のキャラクター画によるYouTubeのストーリー投稿は、非常に印象的で惹きつけられた視聴者も多かっただろう。

 そして、独特の歌声や、syudouの作詞、作曲の影響もあり約1ヶ月後の11月29日にはYouTubeの再生回数が1,000万回を突破。MV指標の強さとストリーミング指標の補完でJAPAN HOT 100も60位圏内に。さらにファンによるUGC動画が、TikTokとYouTube上に徐々に作られていくようになる。

 そしてBillboardのチャートポリシー変更のタイミングと時を同じくして、2つの大きなUGCコンテンツがアップロードされる。



▲ 12/3 ボーカルトレーナーしらスタによる、歌い方動画
【Ado - うっせぇわ】圧倒的中毒性。17歳現役女子高生の歌声が天才的!【リアクション動画】



▲ 12/6 まふまふによる歌ってみた動画
うっせぇわ/まふまふ【歌ってみた】


 この2つの影響で、さらに「歌ってみた動画」が激増。すとぷりメンバーでもある、莉犬、ななもり。、さとみ、るぅと、ころん、をはじめとする様々なクリエーター・ファンによる「歌ってみた」、「弾いてみた動画」が激増していった。時を同じくしてストリーミングではSpotifyバイラルチャート首位を継続、LINE MUSICでもリアルタイムランキングに常時滞在。最大のヒット・ポイントとなる、UGC激増に呼応する形でストリーミング数が、リリース一か月後にして倍増していった。

 12月週は毎週ストリーミング指標のポイントを上げ続け、さらにカラオケ指標も倍増。

 年が明け、HeatSeekersチャートでは2週連続で1位を獲得。カラオケはJOYSOUND4位、DAM6位(1/20 現在)に到達、またBillboard JAPANでのカラオケの指標ポイントはじわりじわりと伸び続け、9位まで成長したのだ。

 そして、2021年1月18日付でUGCチャート首位、1月25日にはUGCチャート2週連続首位、JAPAN HOT 100では10位に到達することとなる。

 一連の流れからは、何が学べるのだろうか。

 一言でいうと「やっぱりそれでもUGC!」なのだ。

 つまり、UGCがJAPAN HOT 100の指標から外れたとしても、UGCのパワーはJAPAN HOT 100の順位を押し上げているということ。

 音源を使ったファン(クリエーター)によるUGCコンテンツが、潜在的なファンに知ってもらう認知活動となり、その二次創作を使った三次創作までもが生まれ、跳ね返りとしてTwitterもストリーミング数も、カラオケ、そしてMVの再生数もがあがり、全てに影響して、結果JAPAN HOT 100を押し上げたのだ。特にストリーミングとMVへの影響は顕著だったと言えるだろう。

 UGCチャート1位とJAPAN HOT 100へのチャートインを両立することは可能であり、UGCがAdoを押し上げている。様々な動画を作り出すクリエーターとファンみんなの力で、彼女を支えているのだ。

 そして支えていることがみんなで可視化できる=Billboard JAPAN HOT 100だと言えるのではないだろうか。

 もう1点、この新しい広がり方には特徴がある。それはYouTubeやTikTokを日々見ている人の中では、年齢はおろかコミュニティやカルチャーゾーンを超えて音楽が広がっていくという流れ。UGCを作り出すクリエーターは年齢もコミュニティもバラバラで、様々な多様性を持って広がっていくため、それに呼応して反応する人々も多様性にあふれている。

 実際にこの曲が公開された際、YouTubeプレミア公開を見ていた人は女性が65%で18歳~24歳が圧倒的に多かった。しかし現在は35歳以上も倍増し、男女比は同等に。若年層に強い属性は維持しつつも、全年代的に愛される存在になっているのだ。

 どんなファン・コミュニティを持っているクリエーターがどんなUGCを作るかで、アーティストのファン・コミュニティにも影響する。これが現在のUGCの持つ最大の特徴かもしれない。

 最後に今回、特別にAdo本人にいまの状況をどう捉えているかを聞くことができた。

 筆者:「Adoさんご本人としては今の状況をどうとらえていらっしゃいます?」

 Ado:「正直実感がありません......目まぐるしい日々を過ごしています......ですが、こうなれたのも応援してくださった皆様のおかげです。」

 筆者:「応援してくれる皆さんに伝えたいことなどありますか?」

 Ado:「 皆さんがAdoのオリジナル曲で創作したものを拝見しているのですが、見る度に嬉しい気持ちでいっぱいになりますし、衝撃を受けたり、面白かったものはTwitterで呟いてしまいます......これからも歌ってみたやイラストはもちろん、オリジナル演奏でのカバーや替え歌等も自由に投稿していただけると嬉しいです......私の歌が皆様の支えになっているのであれば、これ以上に嬉しいことはありません。いつもAdoを応援していただき本当にありがとうございます。これからも頑張れます......」

 この返信をもらって、理解することができた。

 Adoだけのクリエィティブ、Adoだけの魅力、Adoならではの余白。

 アーティストが作り出す唯一無二な音楽と、クリエーターから作り出される自由なUGCが呼応しあい、みんなで1つのストーリーを奏でていく。

 Billboard JAPAN HOT 100の攻略方法はもちろん、これからのアーティスト・ファン・コミュニティの未来を見たような気がした。

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