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<コラム>SixTONESデビュー・アルバム『1ST』が切り開く広大な地平線、 “先入観”を覆すポテンシャルの開花
多彩な音色を収めた1stアルバム
SixTONESの待望のデビュー・アルバム『1ST』がついにリリースされた。2020年1月のデビュー以来、「非・王道のジャニーズ」や「アイドルの枠を超えた」などと評されてきた彼らは今、その計り知れないポテンシャルの全てを『1ST』に詰め込み、見事に開花させている。
彼らのジャニーズ、アイドルとしての規格外ぶりは、これまでにリリースした3枚のシングルの時点でも明らかだった。CD初週売上が77万枚を記録したデビュー曲「Imitation Rain」は、YOSHIKIが手がけた壮麗なピアノ・ロック・バラードだった一方、2ndシングルの「NAVIGATOR」はストリングスとインダストリアルなブレイク・ビーツが絡み合うカオティックなダンス・チューンとなり、一転して3rdシングルの「NEW ERA」はミクスチャー・ロックになった。SixTONESとしてのイメージを定着させることよりも、イメージに縛られずにやれること、やりたいことを拡大していったのがデビュー1年目の彼らだったと言っていい。そして『1ST』は、まさにSixTONESのその貪欲なチャレンジ精神の産物となった。
SixTONES - Imitation Rain (Music Video) [YouTube Ver.]
SixTONES - NAVIGATOR (Music Video) [YouTube Ver.]
『1ST』という素っ気ないほどシンプルなタイトルにも、先入観や固定概念から自由になって、真新しいサウンドのキャンバスに向き合おうとするSixTONESの意気込みが窺える。「完璧だなんて間違っても思うな」、「泣いても笑っても憂いても未来は 強い光の方だ」、「そこに向かって行くんだ」と歌うオープニングの「ST」は、そんな彼らの決意表明のようにも聞こえるナンバーだ。
『1ST』のベースとなる各盤共通の10曲を聴くと、同じことは二度とやらないと言わんばかりのサウンド・バラエティに本当に驚かされる。ポップ、ロック、ヒップホップ、EDMやトロピカル・ハウスといったエレクトロ・サウンド、チルなR&B、そして美しいファルセットが映えるバラードまで、1曲ごとに彼らの表情はくるくると変わる。今からコンサートでブチ上がる光景が目に浮かぶシンセ・ベースのうねるビートとグルーヴ主体のナンバーもあれば、ファンの大合唱必至のメロディ・オリエンテッドなナンバーもある。
例えば、ボーカルが打楽器のようにアレンジされたトランシーな「Special Order」と、オペラを思わせるドラマティックな歌唱がフィナーレの余韻を深める「Lifetime」のギャップは凄まじいことになっているし、金曜の夜の浮き立つ気持ちにぴったりの「Dance All Night」と、気だるい土曜の午後を思わせる「Coffee & Cream」のコントラストも含め、サウンドも想起させられるシチュエーションもまるでジェットコースターのようにアップ・ダウンを繰り返していく。音楽的リミットを設けず、彼らがやりたいことを全部詰め込んだ結果として、本作のワクワクするようなカオスは生まれたのだ。
SixTONES - ST (Music Video) [YouTube Ver.] (from Album “1ST”)
もちろん「やりたい」と「やれる」は全く別の話だ。ロックとヒップホップに求められるスキルが全く異なるように、いくらやりたくてもやりきる実力が伴わないことには単なるアマチュアの実験になってしまうし、ポップ・ミュージックとしては成立しない。SixTONESの幸福は、まさに彼らの貪欲さを裏付ける才能が集まったグループであることだ。メイン・ボーカルを務める京本大我とジェシーは、ジャニーズでも指折りの歌唱力を持つ逸材。ミュージカルでも活躍する京本の艶やかで迫力のあるファルセットと、ネイティブの英語力を生かしたジェシーのスムースな歌声のコンビネーションは、どんな曲調にもピタリとフィットする。また、近年の成長が目覚ましい田中樹が繰り出す硬派なラップは、SixTONESに欠かせないヒップホップ・パートの屋台骨を担っている。
“アイドルらしさ”ゆえの“非・王道”
また、6人が二人ずつ組んだユニット曲を聴くと、全く異なる個性を持つ彼らが時に互いを補完し、時に高め合っていることに気づくはずだ。ジェシーと田中の「EXTRA VIP」は、まさに技と技のぶつかり合いのバトルだ。一方、京本と松村北斗の「ってあなた」は、それぞれの持ち味である高音と低音が溶け合ったセンシュアルな1曲。そして最年長でリーダーの高地優吾と最年少の森本慎太郎の「My Hometown」は、地元が同じという二人がまるで肩を並べて歩いている姿が思い浮かぶようなナンバーだ。『1ST』の“初回盤A:原石盤”には、SixTONESがジャニーズJr.のいちユニットだった時代のオリジナル曲も収録されている。中には「この星のHIKARI」のように、まさにジャニーズの王道をいくアイドル・ソングとしての名曲もあって、彼らの前史を知ることができる。
SixTONESの結成は2015年。ただし6人の6人としての歩みは2012年のドラマ『私立バカレア高校』で共演した時点から始まっているので、彼らの下積みと呼ぶべき歴史は長い。SixTONESがジャニーズ、アイドルの枠からはみ出した現在の独自路線を確立するまでに相応の時間を要したのは間違いないし、多くのJr.ユニットと競いながらデビューを目指す道程で、彼らは試行錯誤を重ねながら「ジャニーズの非・王道」としての独自路線を切り拓いていったのだ。
SixTONES - うやむや (Music Video) [YouTube Ver.] (from Album “1ST”)
ちなみにSixTONESは、ジャニーズの非・王道的なグループであると同時に、最先端をいくグループでもあった。彼らはジャニーズのWeb解禁の流れの先陣として動画配信に取り組み、2018年には「YouTube アーティストプロモ」キャンペーンにも抜擢されている。YouTubeというワールド・ワイドな空間で否応無く世界のポップ・ミュージックのリアルに直面したことで、彼らは最先端の音楽トレンドに敏感になり、積極的にそこにチャレンジしていくことになった。『1ST』はJ-POPよりもむしろ、R&Bとヒップホップが席巻している海外のポップ・ミュージックとの親和性が高いアルバムだが、それもSixTONESのこれまでの歩みを思えば必然的結果だったのかもしれない。
SixTONES : ジャニーズをデジタルに放つ新世代。
このコラムでも何度も記しているように、SixTONESの音楽やグループのキャラクターを語る際、「ジャニーズの非・王道」、「アイドルらしくない」といった形容は避けて通れないものだ。しかし、SixTONESがブレイクした理由や『1ST』がこれほど面白いアルバムになった理由は、彼らがアイドルではなくアーティストだから……ではない。歌い、踊り、ドラマや舞台で演じ、バラエティで思いっきり弾け、満員のオーディエンスを熱狂させる、そんなマルチタスクに常に100%で臨むSixTONESはプロフェッショナルなアイドルであり、『1ST』がかくもジャンルレス、リミットレスなポップ・アルバムとなったのもまた、SixTONESがバンドやシンガー・ソングライターのように固有の音楽性に縛られることがないアイドルだったからだろう。そう、SixTONESの音楽はアイドル「なのに」ではなく、アイドル「だから」かくも自由で冒険的なのだ。そして今、かつて原石だった彼らは、『1ST』と共に四方八方に光を放つ六面体のダイヤモンドになろうとしている。
SixTONES "1ST" digeST movie
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