Special
【特集】細野晴臣『Daisy Holiday!』 変化の2020年を総まとめ
2020年は未曾有の嵐であった。1月末に初めて耳にした“コロナウイルス”は、今となっては、これからの私達の生活を共にする存在へと姿を変え、世界中で様々な影響を及ぼした。夏の風物詩であった野外フェスやオリンピックなど、大きなイベントが相次いで延期・中止となり、以前のように人が密着して何かを共有する機会は今のところ実現が難しい。この状況を打破するため、“Withコロナ、Afterコロナ”のための策を各企業・業界が練りに練っているところだ。
テレビや音楽といったエンタメ業界も大きな影響を受けていることは、日々目にする報道や記事から分かることだろう。2019年に活動50周年を迎えた細野晴臣は、InterFMで毎週日曜25:00~25:30にレギュラーラジオ番組『Daisy Holiday!』を放送していたが、このコロナ自粛期間から、自身の手でレコーディングするなど、ワンマンで番組作りをしている(通称:手作りデイジー)。この番組で毎週紹介される細野チョイスの楽曲は、音楽通をうねらせるラインナップで話題を呼んでいるが、今回、細野が収録の準備のために用意したという放送原稿を入手。幼少期の思い出やコロナ禍で感じたこと・触れたものが分かるエピソードを、Spotifyで公開されているプレイリストと一緒に、いくつか紹介しよう。
テーマ「Stay Home」
新型コロナウイルスの感染急増を受けて、4月16日から全国で緊急事態宣言が発令。ソーシャルディスタンスの確保、マスク着用、不要不急の外出を控えることが要請された。4月7日から東京都や大阪府など7都府県で先に緊急事態措置が実施されたのだが、このテーマはまさにその時期に合わせたものだろう。ノーストレスで、どこか異次元へと誘ってくれそうなラインナップだ。
Love's Old Sweet Song (Just a Song at Twilight) - Heidi Talbot
子供の頃から聞いていたからか、強い郷愁を感じる歌。
Cutting Branches for a Temporary Shelter - Penguin Cafe Orchestra
サイモン・ジェフスは掛け替えのない才人。来日時に見て感動しました。
Attention Tokyo - Sketch Show
東京に注意! 2003年に何でこんな曲を作ったのか……記憶なし。港区で毎朝10時に流れる町内広報アナウンスは本当に聞き取りづらい。内容は外出自粛だろうけど。この曲でも女性が広報アナウンスをしてる。なぜかスウェーデン語だし、遠いし、何を言ってるかわからん。
Spoons - Stock, Hausen & Walkman
サンプリング・コラージュのセンスが抜群で、実験的なのにポップな陽気さが特徴。来日した時に青山CAYで一緒になったことがある。もう解散してるけど、今聞いてもすごい。
I'll Never Forget the Blues - Sidney Bechet & Mezz Mezzrow
録音年は不明だが、40年代に間違いはない。ウディ・アレンの映画『ミッドナイト・イン・パリ』で印象的な音楽もシドニー・ベシェだったが、その曲(「Si tu vois ma mère」)に通じる哀愁が好き。
番組情報
関連リンク
Text by Mariko Ikitake
テーマ「20th Anniversary of “Daisy Holiday!”」
5月には『Daisy Holiday!』のアニバーサリーを祝う記念回がオンエア。「今回は2002年4月から始まった『Daisy Holiday!』のタイトル音楽などを中心に選曲しました。20年続いたと発言しましたが、1998年の『Daisy World』開始から数えました。では、どこにも行けない休日を過ごす皆さんが「脳内ホリデー」を楽しめますように!」(細野)
Minute Merengue - Harry Breuer And His Quintet
初期の『Daisy Holiday!』でかなり長い間流れていたタイトル音楽。当時の仲間たちがワイワイ参加してます。東栄一、岡田崇、コシミハル、蓮実重臣、高遠彩子らの声が聞こえます。ハリー・ブリュアーと発音してますが、ブロイアーが正しいのかもしれません。長年ブリュアーと呼んでいた癖が出ました。
A Trumpeter's Lullaby - Ralph Marterie & His Orchestra
1998年から2002年までJ-WAVEで放送された『Daisy World』は『Daisy Holiday!』の原型です。当時は同じ名前のレーベルも始めていて、ポストテクノ的な新音楽に力を入れてました。でも番組ではこのテーマ音楽やザ・スリー・サンズなどの軽音楽も欠かせませんでした。今回のような「一人作り込み」も時々やってたのを思い出します。
China Boy - Lenny Dee
2000年前後の時期に一時期使用していたテーマ音楽で、中古LPを手に入れて以来の愛聴曲です。
Powerhouse - The Beau Hunks Sextette
レイスコことレイモンド・スコットは『Daisy Holiday!』の中核になるほど大事な音楽で、レギュラーの岡田崇くんはレイスコのコンピレーションまで制作した第一人者です。
コント『ポンポン蒸気』
番組では『Daisy World』時代からコントをいっぱいやってたんです。このコントは東栄一くんがプロットを書いたもので、2008年に制作したアルバム『デイジー・ホリデー presented by 細野晴臣』に収録されました。最近は番組から離れていた東くんは残念ながら3月18日に逝去され、惜しい人材を失いました。ここに謹んで追悼させてください。
Gaia Message - James Lovelock
(2020年5月当時)現在100歳になられるラブロック博士は「ガイア仮説」を1960年代から提唱していました。1980年代にニュー・サイエンスのブームで脚光を浴び、「地球生命体」というアイディアが広く知られるようになったのです。その中で比喩として使われたのが『Daisy World』というシミュレーションでした。ヒナギク(デイジー)の花の色が多種多様なことが、地球に降り注ぐ太陽の光を調節し、地球の気温を安定させるという仮説。これに興味を持って番組とレーベルのタイトルにしたのです。2001年に来日した時、スタジオにお招きしてメッセージを残してくれました。とても謙虚で品のいい学者ですが、人類の行く末を割と悲観的に予測していて、温暖化防止に原子力発電を支持したり、最近(100歳!)では人類サイボーグ化という予測を発表したり、物議を醸すことも多い。このメッセージでは最後に「美しい地球よ、どうか人類を許し、存続させてください」という願いを真摯に述べてます。
Crazy Rhythm - The Three Suns
1928年のブロードウェイ・ミューカル用に書かれた曲。数多のジャズ・プレイヤーが演奏する人気曲で、日本でも「クレイジーキャッツ」がバンドのテーマ音楽として演奏していました。それで僕もこの曲を知ったわけです。スリー・サンズは番組で最も多くかける音楽かもしれません。
Three O'Clock In The Morning - Bert Kaempfelt & His Orchestra
1928年のブロードウェイ・ミューカル用に書かれた曲。数多のジャズ・僕の通った高校では放課後に「愛の誓い (Till) 」がかかり、毎日聴いていた音楽です。
番組情報
関連リンク
Text by Mariko Ikitake
テーマ「Tokyo Alert」
「制限が解除になった途端に人々が外に溢れ出して……と思ったらいきなり都知事が東京アラート宣言を発動し、そろそろ通常の番組に戻れそうだと思っていたところだったので慌ててます。何が起こるか分からない日々。」と、引き続き予断を許さない状況が続くなか、クロード・ソーンヒル楽団にフォーカスした回もオンエア。
ピアニストとしてグレン・ミラー楽団のファースト・レコーディングに参加するなど、早くから才能を認められていたソーンヒルは、ジェリー・マリガン、リー・コニッツ、ギル・エヴァンスが参加し、後のクールジャズの原型を構築した自身の楽団を設立。マイルス・デイヴィスに影響を与えたと言われている。「ソーンヒルのサウンドはフレンチホーンを中心に据え、エーテル・サウンドと言われる雲のようなアンサンブルが際立っていて、一般よりもプロのジャズメンに衝撃を与えました。なのでジャズの歴史の中ではいたって地味な存在です。でもその影響力は未だに続いていて、日本でもこうしてラジオで特集されるわけです。」
Snowfall - Claude Thornhill and his Orchestra
「Snowfall」はソーンヒル自身の作・編曲で、楽団のテーマ曲にもなるほど有名になりました。いくつかの異なるレコーディングがあり、僕が完コピ?した「Snowfall」と他の2曲も、現役では最後のアルバム『Dinner for Two』(1958)で再録音されたものです。
『Daisy World』Archives「紺屋の白袴(コウヤノシラバカマ)」
今回の『Daisy World』のアーカイブ、2001年9月21日に放送した東栄一とのエンディングでのシークエンス。遅い夏の休暇前の話です。このころのエンディングは僕がバスの最終便に乗って帰っていくというスタイルでした。ここで最後に僕が言った「紺屋の白袴」とは、紺屋(染物屋)の袴が白いのは、忙しくて自分のはかまを紺色に染める暇もない、という故事。
Loch Lomond - Maxine Sullivan
ソーンヒルは地方で歌を歌っていた少女をプロデュースし、それが1938年当時ヒットしました。それがマキシン・サリヴァンです。ヒットしたのはスコットランド民謡の「Loch Lomond」という歌で、民謡をスウィングにしたことも世間の話題に。ともかくマキシン・サリヴァンの歌声がこよなく好きで、何十年と聴いてても飽きません。この録音はソーンヒルのオリジナルとは異なり、演奏と編曲はNew Friends of Rhythmという、アメリカの軽音楽史の中でとても重要な、しかし全く知られていないメンバーで構成されてるようです(岡田崇調査員)。ドイツの稀有な作曲家であるヒンデミット (Paul Hindemith) に師事したという話は聞き捨てならないし、かなり冒険的な弦の編曲は、時折ヴァン・ダイク・パークスにも通じるキッチュさを感じます。それにしてもマキシン・サリヴァンはそんな前衛性にも関わらず、自分のスタイルで淡々と歌っているのがすごい。
Moments Like This - Maxine Sullivan
随分前に自分のライブでこれを歌ったことがあるんですが、あまりにも難しいので1回限りでした。それでもこよなく好きな歌なので聴き続けてます。ところでマキシン・サリヴァンの歌を色々聴いていくと、時々美空ひばりが出てくるんです。歌のうまさに共通点があるのかもしれません。
番組情報
関連リンク
Text by Mariko Ikitake
テーマ「STAY CALM」
「こうしてる間に2020年も半年が過ぎました。最近は惑星直列が話題で、インドの占星術では7月4日から2週間ほどは注意が必要だと……。去年の忙しさから急転直下、仕事はほとんどしてないのに休んでいる気がしない。こういう社会の先行きが気になってます。」(細野)
Nice Work If You Can Get It - Maxine Sullivan
1930年代、世界で大恐慌が吹き荒れる中、イギリスからアメリカに渡った流行語がこの“Nice Work If You Can Get It”で、「いい仕事にあやかりたいもんだ」というのが労働者の口癖になったらしい。それをヒントに作詞をしたのがアイラ・ガーシュインで、作曲は弟のジョージ・ガーシュイン。フレッド・アステア主演の映画『踊る騎士』(A Damsel in Distress, 1937)の挿入歌だった。この時、ジョージは既に脳腫瘍が悪化し、1937年7月11日に38歳の若さで夭逝してしまった。恐慌時代の歌は "depression song"と呼ばれ、この歌も「世の中、お金じゃない」というメッセージが込められてます。今のコロナ禍の時期、そういう歌が出てくるほどのリアルさがないのが奇妙です。
I Met You Then, I Know You Now - Una Mae Carlisle
マキシン・サリヴァンのセッションでベースを弾いていたのがジョン・カービーでした。そもそもクロード・ソーンヒルに「ロック・ローモンド」というスコットランド民謡を紹介したのもカービーだったらしい。カービーがマキシンと結婚したのは1938年から41年までで、その後にこのウナ・メイ・カーライルのレコーディングに携わった時には、ジョン・カービー・セクステットという安定したバンドが大成功していました。通称「ウナメイ」さんは少女時代にストライド・ピアノの名手、ファッツ・ウォーラーに見出され、ピアノ奏法にも影響が見られます。ウナをユナと発音して欲しいとは本人の声だったような記憶あり。歌手のレナ・ホーンに並ぶ美女で、ソングライターとしても評価されてます。ここら辺の話は長くなるので、カーライルのことなどもそのうち紹介していきます。
In My Room - Jacob Collier
ジェイコブ・コリアーは若干26歳。今、末恐ろしい才能を発揮している最中です。ロンドン生まれで、アメリカのMITで音響機器を研究したりする秀才。デビュー・アルバムがこの『イン・マイ・ルーム』で、2016年にいきなり【グラミー賞】を獲得。ジャンルは多岐に広がってますが、芯はしっかりオルタナだ。「イン・マイ・ルーム」はザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンが幼少時に父から受けた虐待のトラウマの歌。自分の部屋はあらゆる厄災から守ってくれる場ですね。
Good Vibrations - Wilson Phillips
ブライアン・ウィルソンの娘さん(ウェンディとカーニー・ウィルソン)、そしてママス&パパスのミシェル&ジョン・フィリップスの娘さん(チャイナ・フィリップス)のユニットが作った2012年のアルバム『Dedicated』に収録された「Good Vibrations」はとても話題になりました。全編アカペラの多重録音はとても完成度が高いものです。
If I Loved You - Jeff Lynne
1980年代、イギリスのエレクトリック・ライト・オーケストラ(ELO)のリーダーだったジェフ・リンは僕と同い年と知り驚きました。「If I Loved You」を収録したアルバムは、2012年に発表された 『Long Wave』で、全編カバーです。YMOとELO、その後のソロ活動など、同世代として共通点が多いのかもしれません。「If I Loved You」は 1945年のミュージカル『カルーセル』の中の、Rodgers and Hammersteinによる挿入歌で、その後ビング・クロスビー、ペリー・コモやフランク・シナトラなどが歌い、スタンダードになりました。
番組情報
関連リンク
Text by Mariko Ikitake
テーマ「Folklore」
伝承(言い伝えや伝説)という意味を持つこの言葉をテーマに、音楽界の歴代の伝説ミュージシャンの楽曲や、時や国境を越えて伝わる音楽の不思議な力が細野の言葉から感じられる。
Limehouse Blues - The Gene Krupa Trio
1945年頃のジャズ・ミュージシャンはアドレナリンが溢れ、ライブも盛んでした。ベニー・グッドマンのスモール・コンボもライブで秀逸な録音を残してますが、スタードラマーのジーン・クルーパも自分のトリオやバンドで凄まじいライブ演奏の日々を過ごしてました。このトリオはベース・レスで、テディ・ナポレオン(Piano)、チャーリー・ヴェンチュラ(Saxophone)という名人たちと鬼のような演奏を聴かせてくれます。
Bogi Bogi Bogi - Lata Mangeshkar
突飛にインド歌謡ですが、ブギウギが珍しいので入れちゃいました。これは1951年のインド映画『Hum Log』というドラマで唐突に出てくるダンス・シーンの音楽で、YouTubeにアップされてます。1970年頃にインドへ行った時、街中は流行歌が流れていて、どこで聞いてもどの歌も同じ声なのが不思議でしたが、あとでその声が全部ラタ・マンゲシュカルだったと知ったのです。映画の挿入歌だけではなく古典も含め、ラタの持ち歌は1,000曲以上で、多分世界一です。YMOの頃は良く聞いていて、インド歌謡はテクノ心をやけに刺激しました。往年の大歌手かと思いきや、先日8月22日に97歳で亡くなった1922年生まれの内海佳子師匠より年下で、1929年生まれの現在91歳!
The Lemon of Pink - The Books
1999年にNYCでスタートした2人組みのユニットで、音響派の潮流の核にいました。メンバーの一人、ポール・デ・ヨングはザ・ブックスの音楽を「新しいフォーク・ミュージック」と言ってます。2003年にアルバム『The Lemon of Pink』を発表。その中には「Tokyo」という曲もあります。東京によく来ているようで、環境音をコラージュしていますが、この曲では「石焼き芋」が聞こえてくるのが面白い。
Disappeared - Swing Slow
コシミハルとやったSwing Slowは1996年に1枚作ったきりでしたが、今もよく聴かれているようで嬉しいことです。先日YouTubeにアルバムがアップされているのを発見し、多くの興味深いコメントが寄せられているのをチェックしました。それも全て外国人で、日本人がいなかった。それにしても閲覧回数が147万回というのは驚きでした。「何でだ?」という困惑です。
Sambolero - Luiz Bonfá
かなり昔見た夢にルイス・ボンファの名前が出てきて以来、尊敬している音楽家です。ボンファは1922年生まれなので、自分の母親に近い世代だったとは驚きです。なにしろ音楽が若いからですが、ボサノヴァ以前の最も活き活きとしたブラジル音楽に貢献した大事な存在です。2008年、ブラジルと日本、カナダの共同制作の映画『ブラインドネス』が話題になりました。「シティー・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレスが監督し、ジュリアン・ムーア主演の、失明してしまう感染症の映画でしたが、東京のシーンから始まり、伊勢谷友介、木村佳乃らが最初の感染者として出ています。内容はシリアスでジワジワ迫ってくるような、哲学的な映画でした。その中に隔離された避難所で感染者の一人が皆の慰めにラジカセで音楽を聴かせるシーンがあります。そこから流れてきたハミングとギターだけの音楽に魅了されたのです。それがこの「Sambolero」でした。ボンファはそれ以前の2001年にこの世を去っています。
The Song Is Ended - Hosono Haruomi
2012年の初頭にレコーディングした自分のソロ・アルバム『Heavenly Music』に収録しましたが、前年3月に東日本大震災が勃発し、放射線漏洩の影響が残る中リリースされたことは忘れられません。自分にとってはこの震災の時期と、そして現在のコロナ状況が重なり、それ以前と以後で大きい変化を2度も体験することになるとは……。
テーマ「Gospel」
ゴスペルと聞くと、教会で大勢で歌う聖歌が思いつくが、苦境や困難に陥ったときにそれを乗り越えるのを手伝ってくれる救済の役割も持っている。まさにこのコロナ禍でゴスペルに励まされ、前を向く人達が世界中に大勢いることだろう。ここでは単にゴスペルというジャンルの楽曲だけでなく、細野に気づきを与えたナンバーが並んでいる。
Le Voyage en ballon - Les Riff
落ちそうな飛行機パニックに続き、のんびり空を飛んでいく気球の音楽です。『素晴らしい風船旅行(Le Voyage en ballon)』は1960年に作られた仏映画で、『白い馬』(1953)や『赤い風船』(1956)という心に残る短編映画を作ったアルベール・ラモリスの初の長編です。幼稚園の授業で見た『赤い風船』は映像が目に焼きつき、小学生の時に見たこの『素晴らしい風船旅行』は音楽が耳に残りました。作曲のジャン・プロドロミデスはギリシャ系フランス人で、アカデミックな音楽家です。他にロジェ・ヴァディムのホラー映画『血とバラ』(1960)の音楽もプロドロミデスですが、その音楽はYouTubeで聴くことができます。コーラス版はLes Riffという、おそらくレコーディング・グループだと思いますが、そのシングル盤が当時ラジオでよく流れていて、子供の頃から気になっていましたが最近やっと見つけることができました。ネットで何でも探せるのは嬉しいことです。
I Done Made Up My Mind - Aaron Neville
このゴスペルは1947年にザ・スワン・シルヴァートーンズが録音しました。スワン・シルヴァートーンズは「ジュビリー・カルテット」とも呼ばれるゴスペル・グループですが、その後のDoo-WopやR&Bに影響を残す存在として輝かしいキャリアを持ってます。ポール・サイモンが「明日に架ける橋(Bridge Over Troubled Water)」を作る時のヒントを与えたり、サム・クックやアル・グリーンの歌唱法にも影響を与えています。死ぬまで神に仕えると決意したという歌詞。マリア・マルダーもカバーしていますが、ヴェルヴェット・ヴォイスと言われるアーロン・ネヴィルのカバーは最高の出来です。
____45_____ - Bon Iver
ボン・イヴェールこと、ジャスティン・ヴァーノンを聴き始めたのはコロナが蔓延する4月で、いつかエアプレイしたいと思ってました。後で知りましたが、2007年のデビュー・アルバムは批評家に絶賛されて火がつき、その後累計130万枚のセールスをあげていて、ポップスター並みの活動歴があるのです。そして2016年にリリースされた『22、ア・ミリオン』はとても実験的な要素が強いアルバムでした。それを聴いたのが初めてだったので、謎の新人かと思ってしまいました。なにしろ傲慢にも同時代の音楽に失望していて、リサーチすることをしなくなっていたし、今年の1月に来日していたことも知らないわけですが、逆にそれが新鮮な驚きをもたらしたとも言えます。コロナ時代になって自分の目が覚めたわけで、この手作りデイジーを始めたことも大きな変化でした。否応無く去年までやっていたことを見直す時期になり、世界同時パンデミックというこの時期こそ、何が変化していくのか見極めたいと思い始めたわけです。後半の3曲はそんな気持ちで選曲しました。同様の変化に晒されている日本の音楽もかけていくつもりです。
(意訳)
そうだ、僕は火に刻まれていた / ある日の夜 僕は座り込んでいた
真実がわからないままに / 火に捕らえられていた
Skin - Jamie Woon
イギリスのエレクトロソウルのパイオニアと言われるジェイミー・ウーンもデビューはかなり前の2011年ですが、ボン・イヴェールと同じように4月頃に聴き始めました。2015年にリリースされたこの『メイキング・タイム』というアルバムはやけに静謐です。いったい彼らに何が起こっているのでしょうか。
(意訳)=不思議な歌詞です。アンドロイドのことかな?
独自の再発明による肌 / 空気のために上に上がる
成長が遅すぎて説明できない / きみの心ときみの頭の熱
Regent’s Park - Bruno Major
3曲の中でこのブルーノ・メジャーのアルバム『To Let A Good Thing Die』は今年にリリースされたものです。チェット・ベイカーを彷彿とさせる歌声や、ランディー・ニューマンをカバーするなど親近感が湧きますが、「エコーが嫌い」という発言には我が意を得たりという思いがしました。20世紀的なメロディのコラージュを聴いているような、ともかくメロディが耳に残る音楽は最近珍しいこと。ちなみにタイトルの「リージェンツ・パーク」はロンドンのアビー・ロードに近い所にある大きな公園で、シャーロック・ホームズ博物館があります。歌詞は、可愛い悪女に失恋して落ち込んでる、リージェンツ公園での春の日の話。
番組情報
関連リンク
Text by Mariko Ikitake
関連商品